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【reverse 81 20人のサンタクロースと、原付カードと、花の決意】

【reverse 81 20人のサンタクロースと、原付カードと、花の決意】


 十二月二十三日。

プレオープン当日。


 西之門の路地に、原付が続々と吸い込まれていった。


 カフェのガレージには、すでに十台近くが並んでいる。

 外の駐車場にも、十台。


 全員が、明日の渥美半島ツーリングのために来た人たちだ。


 受付の本田と花が、到着するライダーを出迎えていた。


   *


「あ、また来たよ!」


「うん! でも、あれって原付なの?」


 ガレージに入ってきたのは、HONDA マグナ50だった。

 乗っているのは女性だ。


「すいません! 渥美半島ツーリングは原付限定なんです……」


「あら? このマグナはそこに停まってるモトラと同じエンジンなのよ?」


 女性が、さわやかに笑った。


「え? こんなに大きなバイクが?」


 花が、モトラとマグナを見比べた。


 女性が、宿帳とエントリーシートに記入した。

 モト子が、二階へ案内した。


   *


 昼を過ぎた頃、Vタックが水分補給ゼリーを持ってきた。


 プラッシー、オレンジ味だ。


「これだけ原付が集まるのはキャノンボール以来だねぇ〜」


「そうですね。なんか明日の渥美半島ツーリングが楽しみですよ!」


「私もこんなに沢山の人と走るのは初めてなんで、凄く楽しみです!」


「マスツーリングは一度やったらやみつきになるよねぇ〜。花さんも明日は運営だということを忘れて楽しんでね」


 本田と花が、プラッシーをチューチュー吸いながら最後の参加者を待った。


 やがて、路地の奥にヘッドライトが見えた。


 本田の顔が変わった。


「花さん、鈴菌さんを呼んできてください!」


 花が、階段を駆け上がった。


   *


 ガレージに入ってきたのは、SUZUKI LETS4だった。


 ヘルメットが脱がれた。


「お久しぶりです! ボンビーさん!」


「本当に久しぶり! やっとここまで来られたよ!」


 ボンビーが、LETS4のシートを撫でた。


 階段から鈴菌が降りてきた。


「本当にLETSを買ったんだな! ようやくここまで来れたんだな!」


 鈴菌が、LETSのタイヤを確認した。


「本田くん達の知り合い?」


「うん! この人もキャノンボール参加者なんだ! 初日でリタイアしたけどね!」


「……あぁ、あのある意味で伝説の人ですね!」


 花が、思わず呟いた。


「あの頃はズブの素人だったからね。でも、今はコイツで結構走ってるよ。今日も大阪南港からここまで走って来たからね!」


 ボンビーが、照れくさそうにLETS4のシートを撫でながら笑った。


 宿帳とエントリーシートを記入して、モト子と再会の挨拶をして、二階へ上がった。


 これで全員だった。


 ガレージに二十台の原付が並んだ。


   *


 夜は、花の作ったご馳走で前夜祭になった。


 二十人のライダーが、カフェのホールに集まった。

 笑い声が、西之門の路地に漏れていた。


   *


 十二月二十四日。


 朝八時半。


 路地に、二十人のサンタクロースが並んだ。


 赤いヘルメット。

 赤い上着。

 様々な原付。


 マグナ50、LETS4、DT50、プレスカブ、モトラ、RS50、ハスラー50、ビート。

 全部で二十台。

 全員がサンタクロースだ。


 通りを歩いていたご近所さんが、立ち止まった。

 二十人のサンタクロースを見て、目を丸くしていた。


 笠寺駅に向かう女子高生が、スマホを向けた。

 撮影して、すぐにSNSに上げた。


 先頭のモト子が、手を上げた。


「行くよ!」


 二十台のエンジン音が重なった。


 ゆっくりと、走り出した。


   *


 最後尾では、Vタックとアプリと鈴菌が子供たちに囲まれていた。


 ステッカーと原付カードを配っている。


 ステッカーには、カフェのロゴが入っている。

 『Rider's★I have a low exhaust』の文字が、カッコよくデザインされていた。


 原付カードは、本物のカードゲームができる仕様だ。


   *


 一枚のカードが、子供の手に渡った。


 カード名:【鉄カブの守護神】スーパーカブ50


 タイプ:4ストローク / ビジネス / 燃費最強

 HP(耐久力):200 エンジンが止まらないタフさ

 BPバトルポイント:50 スピードよりも安定感

 コスト:1枚 誰でも、どこでも召喚可能


 技1:ボトムレス・フューエル(無尽蔵の燃料)

 消費エネルギー:無し

 効果:自分の山札からエネルギーカードを1枚選び、このカードにつける。ガソリンの代わりに天ぷら油でも走るという都市伝説を彷彿とさせる、圧倒的リソース確保術。


 技2:ロータリー・シフト・アタック

 ダメージ:30+

 効果:コインを1回投げ、表なら30ダメージを追加。さらに相手を「混乱」状態にする。独特の「ガチャン!」というシフト衝撃で相手を翻弄する。


 特殊能力:そば屋の出前

 このカードがバトル場にいる限り、自分のベンチにいる「ライダー」カードは、相手からの状態異常を受けない。どんなに道が険しくても、料理と仲間を崩さずに届けるカブの使命。


 フレーバーテキスト:「世界で最も作られ、世界で最も愛されたビジネスバイク。たとえ文明が滅んでも、こいつのキック一発で朝が来る。」


   *


 別の子供の手に、別のカードが渡った。


 カード名:【12インチの狂犬】SUZUKI ZZジーツー


 タイプ:2ストローク / スポーツ

 HP(耐久力):80 パワーの代償として熱ダレしやすい

 BPバトルポイント:180 原付一種最強クラスの7.2馬力

 コスト:2枚 維持にはそれなりの愛とオイルが必要


 技1:チャンバー・ハウリング(排気音の咆哮)

 消費エネルギー:雷(2ストエネルギー)×1

 効果:次の自分の番、このカードが受けるダメージを「-30」する。さらに相手のバトル原付を「マヒ」状態にする。甲高い2ストサウンドと白煙で相手の視界と戦意を奪う。


 技2:7.2ps・フルスロットル

 ダメージ:120

 効果:この技を使った後、このカードに30ダメージを与える。最強の馬力を絞り出すが、エンジンへの負担も凄まじい。まさに命を削る加速。


 特殊能力:リアキャリア装着不可

 このカードは、どうぐ(積載アイテム)をつけることができない。その代わり、このカードのBPは常に「+50」される。


 フレーバーテキスト:「SUZUKIが放った最後の2スト・スポーツ。大径12インチホイールと高剛性フレームは、もはや原付の枠を超えている。整備性の悪さはライダーへの愛でカバーしろ。」


   *


「このカードもっと欲しい!」


「スーパーカブのカードと交換して!」


 子供たちが、カードを見比べて騒ぎ始めた。


「このカードがもっと欲しい子供達は笠寺のカフェまで来てねぇ〜!」


 Vタックが、笑いながら叫んだ。


 アプリと鈴菌も、子供たちに囲まれながら必死にカードを配り続けた。


   *


 九時。

 久屋大通公園に到着した。


 中部電力 MIRAI TOWERが、朝日の中に立っていた。

 クリスマスの装飾が、公園中に広がっていた。


 そのタワーをバックに、二十台の原付が並んだ。

 二十人のサンタクロースが乗っている。


 通りがかった子供たちが、一斉に駆けてきた。


「サンタさんだ!」


「原付乗ったサンタさん!」


 モト子が睨んだ通りだった。


 二十人のサンタクロースは、次々とステッカーと原付カードを配り始めた。

 子供たちの列が、どんどん長くなっていく。


 花が、カードを受け取った男の子に屈んで話しかけた。


「サンタさんは原付で来るんだよ。トナカイより速いからね」


 男の子が、目を輝かせた。


 集まってくれた子供達への配布が終わった。


 二十台のサンタクロースが、久屋大通公園を走り去った。


   *


 国道247号線を南下した。


 海沿いの道だ。

 冬の海が、左手に広がっていた。


 まるは食堂の駐車場に、二十台が並んだ。


 巨大なエビフライが二十人分、テーブルに並んだ。


「でかっ!」


「エビがはみ出てる!」


 食事が終わっても、SNSを見たという親子が次々と来た。


「サンタさん! 写真を撮っていいですか!」


 二十人のサンタクロースが、親子と写真を撮り続けた。


 残ったカードを全部配り終えてから、まるは食堂を後にした。


   *


 国道42号線。

 表浜街道だ。


 太平洋が、左手に開けた。


 冬の海は、青くて静かだった。

 波が、砂浜に白く打ち寄せていた。


 二十人のサンタクロースが、海沿いのロングストレートを走った。


 誰も喋らなかった。

 エンジン音だけが、海風に流れた。


 花が、ハンドルを握りながら、海を見た。


 何かを、考えていた。


   *


 十六時半。

 仁崎キャンプ場に着いた。


 松林の中に、二十台を並べた。


 三河湾が、目の前に広がっていた。

 対岸の常滑の灯りが、海面に揺れている。

 夕日が、西の海に落ちていった。


 テントを張った。

 冬の松林の中で、二十人が動き回った。


 本田が、自分のテントを張り終えて、海を見た。


「幕末の人たちはキャンプ道具なんて持ってなかったんですよね……」


「その代わり、野宿は上手かったぞ」


 アプリが、隣のテントのペグを打ちながら言った。


   *


 夜。

 居酒屋げんき村に、二十人のサンタクロースが入っていった。


 座敷に並んだ。

 乾杯した。


「「「「かんぱーい!」」」」


 声が、天井まで届いた。


 今日の出来事が、次々と語られた。

 久屋大通公園で子供に泣かれた話。

 まるは食堂でエビフライを二本食べた話。

 表浜街道で赤信号に全員引っかかった話。


 ボンビーが、LETS4を褒められて嬉しそうにしていた。


「チョイノリから乗り換えたんですよね」


「そう! 鈴菌さんがLETSって言ったから、すぐ買いました」


「俺はLETS’2って言ったんだが……まあいい」


 鈴菌が、複雑な顔で酒を飲んだ。


   *


 宴の中で、花は笑い続けていた。


 一切の迷いがなかった。


 何かが、決まっていた。


 本田が、花の顔を見た。


(花さん、何かあった?)


 花が、本田に気づいて、笑った。


「楽しいね」


「……うん」


 本田には、それ以上は聞けなかった。


 でも、花の顔は確かに、昨日とは違っていた。


   *


 閉店間際まで、笑い声が続いた。


 二十人のサンタクロースが、冬の田原の夜に紛れていった。


 松林に戻ると、三河湾の向こうに星が出ていた。


 テントのファスナーを閉めながら、花は空を見上げた。


 決まった。


 それだけだった。







HONDAマグナ50


型式 BA-AC13

最高出力 3.9ps / 8,000rpm




SUZUKI LETS'4


車体型式 BA-CA41A

最高出力5.0ps / 8,000rpm



【水分補給ゼリー プラッシーの謎】


「プラッシー」と聞いて、米屋の店先に並んでいた瓶の姿を思い出すのは、もはや昭和の生存確認のようなもの。令和の今、それはゼリーとなって進化を遂げていました。

かつてはお米と一緒に運ばれたビタミンCが、今は熱中症対策の水分補給として喉を潤す。あの懐かしい、どこか「お出かけの味」がするオレンジ感は健在です。


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