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【reverse 73 目指すのはGS】

皆様のおかげで100話を達成致しました。

本当にここまでお付き合い頂きましてありがとうございます。

4人が杉浦助右衛門の指令を完了して名古屋から浜松へ帰ってきた。


 タツが、工房の扉を開けて飛び込んできた。


「仙人様! 今日からオイラは平七の子供だよ!」


「それは良かったな」


「今日からはオイラにも鈴木って苗字になったよ! 鈴木おタツだってさ!」


 四人が、同時に何かを思い出しかけた。


「鈴木おタツ……つまり………」


 本田と花とアプリの声が重なった。


 鈴菌も、何かを思い出しかけて考え込んだ。


「って事は平七の姓も鈴木なのか………鈴木平七ねぇ……鈴木平七………」


 四人が、あと一歩のところで何かに手が届きかけた。


 その瞬間、タツがアプリに飛びついた。


「仙人様! 名古屋のお土産は!?」


 四人が何かを思い出しかけていたことを、スッカリ忘れた。


   *


 土産を渡し、土産話をした。


 タツが、土産を両手に抱えたまま困っていた。

 一人では抱えきれなかった。


「久しぶりにカブを動かしたいな」


 本田が、まだガソリンに少し余裕があるプレスカブを引き出した。


「タツ、乗れ。送って行くよ」


 タツが大喜びでリアキャリアに乗った。


 二人で、平七の家までの五分の道を走った。


 エンジン音が、浜松の路地に響いた。


 タツを降ろした後、本田はすぐに戻らなかった。


 久しぶりの風が、懐かしかった。

 少しだけ遠回りをしたくなった。


   *


 曲がり角を曲がった瞬間だった。


 ハンドルに下がっている道楽守が、淡く光っていた。


 本田が、カブを止めた。


(……これは)


 急いで工房に戻った。

 納屋に飛び込んで、他の三台を見た。


 モトラの道楽守も光っている。

 ハスラー50の道楽守も光っている。

 RS50の道楽守も光っている。


「皆さん! 来てください!」


   *


「これって確かバイク神社で買った御守りですよね……」


「あぁ、大歳神社だな。そういえばあの時に俺は変な声が聴こえたんだよ」


「あ、それ、僕も聴こえた!」


「私も!」


「俺もだ……」


「もしかして、今回のタイムスリップはお遍路の逆打ちは関係なかったんじゃないですか?」


「あの大歳神社の声が黒幕か?」


 四人が、顔を見合わせた。


   *


 翌朝七時。

 浜松宿を出た。


 馬込川を渡り、東海道を離れ、農道に入った。


 水田が、どこまでも広がっていた。

 植えられたばかりの苗が、初夏の風に揺れている。

 カエルの声が、田んぼから響いていた。

 用水路の水音が、絶えない。


 湿った土の匂い。

 若い草の香り。

 どこかの家から、薪の煙の匂い。


 八時半。

 木々の間から、朝の光が差し込んできた。


 大歳神社だった。


   *


 四人が、鳥居の前で立ち尽くした。


 現代の社殿はない。

 駐車場もない。

 幟も、舗装路も、何もない。


 あるのは、銀灰色に変色した巨大な木造鳥居と、茅葺きの重厚な拝殿だけだ。

 樹齢数百年の杉と楠が、天を突くように枝を広げている。

 風が吹くたびに、数万枚の葉が擦れ合う音が境内に響いた。


「……ここが、あの聖地かよ」


 鈴菌が、呟いた。


 百六十年後の未来では、数千台のバイクが排気音を轟かせる場所だ。

 今は、蝉の声と、遠くで農民が鍬を振るう音しか聞こえない。


「本田。見てみろよ。……ガソリンの匂い一つしない。でも、この森の匂い……。こいつは、間違いなく『本物』だぜ」


 鈴菌が、ポケットから小さなボルトを取り出した。

 苔むした手水舎の影に、そっと置いた。


 未来のエンジニアから、この土地を百六十年間守り続ける神様への、一番早い予約票だった。


   *


 その時、境内の影から人影が現れた。


 虚無僧だった。


「また奴か……」


 アプリが、眉を寄せた。


 本田と花が、アプリと鈴菌の後ろに素早く隠れた。


 虚無僧が、重い口を開いた。


「遅かったな……。我は建速須佐之男命。よくぞ成し遂げた」


「た、た、たけはや?すさのお?なんです?」


「貴様は誰だ」


「建速須佐之男命」


「はい?それは日本語ですか?」


「誰だ?貴様は」


「建速須佐之男命だ!」


「さっきより一文字増えましたよ?」


「建速須佐之男命だけだ」


「また文字数が増えましたけど……」


 本田が、アプリに耳打ちした。


「あの……どこまでが苗字でどこからが名前なんですか?」


「神様に苗字はない」


「じゃあ、全部名前ですか?」


「そうだ」


「全部覚えないといけないんですか?」


「……」


「もうめんどくさいから武田さんで良いですか?」


「………まあ、それで良い」


 虚無僧が、観念したように頷いた。


「どうだ。色んな景色が見たいと望んだだろ? 望みは叶えられたか?」


 四人が顔を見合わせた。


「あ! そういえば! 本田ものづくり伝承館でそんな事を考えてたんですよ! だから、あの時に願っちゃったかも……」


「もう十分見たようだな。元いた場所へ戻してやろう」


 虚無僧が、何やら咒を唱え始めた。


「待った!」


 鈴菌が、手を上げた。


「爺さんと婆さんに別れを言ってこないとな」


「それにプレスカブも置き去りにできません!」


「それでは我はここで待とう」


   *


 亜留斗の工房に駆け込んだ。


 突然の別れに、亜留斗も佳那も、酷く落ち込んでいた。

 でも、鈴菌が元の世界に帰れることを、二人とも喜んでくれた。


 佳那が、震える手で餞別を用意しようとした。

 鈴菌が「いらない」と言って、亜留斗の肩を一度だけ叩いた。


 亜留斗が、鈴菌の顔を見た。

 自分の顔と、同じ顔だ。


「……良い旅を」


「あぁ。爺さんも、良い仕事をしろ」


   *


 平七の家に寄った。


 タツが、号泣した。


 平七の奥さんが、タツの背中を優しく撫でていた。


 アプリが、それを見て静かに息を吐いた。


   *


 その時、納屋の中に木製の機織り機が見えた。


 鈴菌が、足を止めた。


「平七さん! この機織り機はどうした?」


「こりゃあ、鈴菌さんに教えてもらったスズキ・イズムの結晶だに! スズキの考え方に沿って、骨組みの構造から何から、全部自分で考えてこしらえた機織り機だで! これさえありゃあ、家で採れた綿をよ、よその手を借りずにウチだけで繊維にできちゃうだ。まっこと、たまげた技術だに!」


 鈴菌の顔が、みるみる青くなった。


「鈴菌さん大丈夫?」


「こ、こ、この方は……! 鈴木平七! つまり、鈴木道雄の父親か!」


「「「えっ!?」」」


「鈴木道雄って、あの鈴木ミュージアムで教わったあの鈴木道雄!? SUZUKIの創始者の!?」


 平七が、首を傾げながら朗らかに言った。


「ウチにゃあ、あいにく男の衆はおらんがよ。だけん、『道雄』っちゅう名前は、まっこと良い名前だに! ほう、気に入ったぜ。もしもよ、これから先、ウチに男の赤ん坊が産まれるようなことがありゃあ、迷わず『道雄』と名付けるもんで、覚えといてくりょ!」


 機織り機が、ガタンゴトンと音を立てていた。


 アプリが、静かに呟いた。


「現代のSUZUKIが変態的なマシンを作り続けている理由が全てわかった。SUZUKIイズムと言うよりも鈴菌イズムの結晶だったんだな……」


 本田と花が、笑い転げた。


 チョイノリも、刀も、ガンマも、ストリートマジックも、ジェンマも、SW-1も、ジムニーも、セルボも。

 全部、目の前の男のせいだった。


 鈴菌だけは、腰を抜かしたまま、機織り機のガタンゴトンというリズムを、黙って聞いていた。


   *


 杉浦助右衛門の元へ最後の挨拶をした。


 花が、才谷屋の春猪に宛てた最後の手紙を渡した。


 助右衛門が、深々と頭を下げた。


 四人は、バイクを押しながら、住み慣れた浜松の道を歩いた。


 夜だった。


   *


 大歳神社の境内に戻ると、虚無僧がまだそこに立っていた。


「……遅かったな」


「待たせたな、武田さん」


 虚無僧が、咒を唱え始めた。


 森の葉が、揺れた。

 道楽守が、四つ同時に強く光った。


 光が、広がった。


   *


 目の前に、アスファルトがあった。


 電柱があった。

 自動販売機の光があった。

 遠くでトラックのエンジン音がした。


4人は現代の大歳神社の前に立っていた。


「おい! ここに戻してどうすんだよ! お遍路の途中だぞ? フェリー代返せ!」


「アハハ! 確か次は41番札所の龍光寺からでしたっけ?」


 花が、スマホを取り出した。


「今日は202〇年11月だよ! タイムスリップ前に戻ってる!」


 全員がスマホを確認した。


 本田がLINEを開くと、くま子への最後のメッセージが既読になったばかりだった。

 返信は、まだ来ていなかった。


「完全にあの日に戻ってます」


「夢じゃないんだよね?」


「夢なら俺たちは桂浜にいるはずだろ?」


 四人が、スマホの中を確認した。


 幕末の画像が、鮮明に残っていた。


 宍喰峠の焚き火。

 神領村の蒼い炎。

 龍馬がリンカーンのマスクを掲げて歌っている動画。

 タツが三回転半したあの瞬間。

 椿泊の月。


 全部、確かにそこにあった。


 四人が、しばらく黙って画面を見つめていた。


   *


 最初に口を開いたのは、アプリだった。


「まずはガソリンスタンドだな」


 四人が、バイクを押し始めた。


 月が出ていた。


 白く、丸い月だ。


 四台のバイクが、月夜の道を進んでいく。

 ハスラー50。

 プレスカブ。

 モトラ。

 RS50。


 エンジンは、まだかかっていない。

 でも、四人の足は止まらなかった。


 ガソリンスタンドの灯りが、遠くに見えた。


 龍馬はどうなったのか。

 春猪は。

 タツは。

 亜留斗と佳那は。


 全部、聞ける人間が、もうどこにもいない。


 でも、今は。


 まずはガソリンスタンドだ。


 四人が、月夜の道を、笑いながら歩いた。


           

―― 幕末編 完 ――












建速須佐之男命たけはやすさのおのみこと★★★★★★

「時空のピットクルー兼、放浪の虚無僧」

HP:∞(無限)

攻撃力:999

素早さ:測定不能 (時空の隙間を移動するスピード。現代の11月から幕末へ、瞬きする間にワープさせる)

知力:1000


特殊スキル:【リバース・エンジニアリング(歴史回帰)】 道楽守を触媒に、因縁のある場所(大歳神社)へ強制帰還させる。お遍路の順序もフェリー代も無視する、神による強硬手段。

特殊スキル:【神の折衷案(あだ名の許容)】 「建速須佐之男命」というフルネームを覚えるのを面倒くさがられても、「武田さん」で妥協してやる神としての器の広さ。

装備品:【時空を超えた道楽守】 本田たちが買ったお守りを光らせ、帰還のチェックランプとして機能させたアイテム。


鈴木すずき 平七へいちち★★★★

「変態の遺伝子・始祖オリジネーター

HP:1000

攻撃力:220

素早さ:450

知力:940


特殊スキル:【SUZUKIイズムの受粉】 鈴菌が持ち込んだ「狂気」を、「道雄」という次世代へ繋ぐための揺りかごにするスキル。

特殊スキル:【遠州弁の咆哮だら・に・だで】 自分の作品への愛を遠州弁でまくしたて、聞いた者を「スズキ教」に入信させる。

弱点:【男の子がいない(現時点)】 鈴菌に「道雄」という名前を提案されるまで、後継者の名前に悩んでいた。


鈴木 おタツ(すずき おたつ)★★

「未来を背負う三回転半の養子」

HP:600

攻撃力:100

素早さ:750

知力:400


特殊スキル:【名字の誇り(鈴木ブランド)】 「鈴木おタツ」と名乗ることで、幕末において最強の「技術者の家系」というステータスを得る。

特殊スキル:【花王への適応】 花王製品を愛し、明治以降も花王を使い続ける淑女となる。

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