表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[時代]三鏡草紙よろづ奇聞  作者: 地底乃人M


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/33

十四番

第二章/第4話



 三鏡(みかがみ)には、連れがいた。人々の信仰対象として神棚(かみだな)に祀られていた現人神(あらひとがみ)が、自ら神の()を降りて、白骨化した姿で朽ちようとしているとき、地方の集落をめぐる天比古(あまひこ)は、偶然見つけ、しゃべる骸骨(がいこつ)に手を差しのべている。


 それ(、、)は、冷たい土の上で骨になっても、意識だけは鮮明にありつづけた。秋風が立ちはじめたころ、天比古は旅先で骨男(ほねおとこ)を発見し、十四番と名付けた。


 

 暗闇(そこ)からでてこいよ

 もう孤独で泣く必要はない

 僕が、きみを鎮守しよう


 ……うるさい、目障りだ


 無用の産物となって

 消えゆくのか


 ……勘違いするな、若造(わかぞう)

 我は凋落(ちょうらく)などしておらぬ


 すなわち、人間の願いは

 聞き入れないと云うことか 


 ……忌詞(いみことば)次第だ



 それ(、、)は、全身をふるい立たせ、ガシャッと起きあがる。十数年と長い時間をかけて骨格のみが残存(ざんぞん)する現人神は、白い骨の指で、天比古の胸もとを示した。



 人間の願いは聞き飽きた

 我に感情論は通用しない



 若き天比古は、「ふうん」と息を吐くと、しばらく沈黙した。いくら捨て置かれたとはいえ、骨男(ほねおとこ)は神格者である。()き伏せるには、相応の知識と高い験能力(げんのうりょく)が必要だった。三鏡家は神道の一族につき、祝詞(のりと)(たぐい)は身に備わっている。……天比古と十四番の出逢いは、果たして偶然だったのか。今となっては遠い日の記憶につき、どちらも深く考えなかった。



 さて、朝から出版社へやってきた三鏡は、帝都あやし編集室の扉を軽く叩き、ひとり残された日和見(ひよりみ)と、投身事件について語り合った。


「ちょうど、桜木くんから取材時の紙片(メモ)をあずかったところでね。そうか、天比古くんも蔵持(くらもち)へ赴いていたのかい」


「通りがかっただけです。蔵持の旅籠(はたご)近くに溜池(ためいけ)があって、四年ごとに心中騒ぎが続いているそうですね。客商売に悪影響だといって、溜池を埋め立てるよう町役場に嘆願書(たんがんしょ)が届き、いざ男衆が集まったとき、晴れていた空が突如(とつじょ)として激しい雷雨に変わり、結局、溜池を埋め立てたら神罰が(くだ)るという流言(うわさ)が広まって、今となっては誰も近寄らない場所らしいですよ」


「急な天候不良に見舞われるとは、自然を信仰する田舎(いなか)の人々にとっては、さぞや一大事(いちだいじ)であったことだろう。……ふむ、ここに書いてある桜木くんの取材内容を読むかぎり、男と女の関係が複雑だったというよりは、遺恨(いこん)があったように思えるがね。……弱者が成り上がるには、(すさ)まじい努力が必要だったはず。ようやく手に入れた幸福(しあわせ)な人生を、なぜ、自ら終わらせたのか。どうにも()せないんだよなぁ」


(ごう)において、悟りを与えられた人間が、なにをもって善行となすか、実に興味深い分野ですが、見出しは、蔵持心中事件の謎で決定でしょう。日和見さん(、、、、、)


 背もたれに自重をあずける室長は、ほんの少し眉をひそめ、三鏡の後方へ視線を向けた。古びた書棚が見える。日和見に十四番の姿を目視することはできないが、三鏡と書棚のあいだに、なにかの気配を感じた。


「天比古くん、旅をするさいは落とし物に気をつけるんだよ」


 日和見の忠告には、裏に意図がある。だが、三鏡は小さく笑みを浮かべ、編集室を退出した。すると、室内の空気がふわりと軽くなったような気がした。



〘つづく〙

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ