9話 襲撃2
馬車の扉を開けようとしていた男ごと、思いっきり蹴り抜き外に飛び出ると。オレが見える範囲にいる襲撃犯は全部で四人いた。
一人は御者台にいた護衛騎士のドニが剣で応戦している。二人目はオレが蹴った扉で、頭をぶつけて気絶して馬車の前に転がっている。
「うおおおお…っ!」
三人めの襲撃犯が剣を抜いて、斬りかかって来た。
「クズ野郎!」
咄嗟にオレは右手に持った短銃を、襲撃犯に向けて引き金を引く。
ドンッ!! 大きな銃声を辺りに響かせて、弾が三人めの肩に命中した。
「ギャアァァ――ッ!!」
三人目は地面で転げ回り、動きを止めることに成功する。
四人目の襲撃犯が馬車に近づいたのに気づき、クロヴィスは左手の銃で狙いを定めたが。馬車の中からアデルが撃ち、四人目もその場で崩れ落ちた。
「良いぞ、アデル!」
思わずニヤリと笑い。オレは護衛騎士ドニと剣で切り合っている襲撃犯を見る。
「銃を持っているなんて……聞いてないぞ!」
仲間が次々と倒されてゆくのを見て、残った襲撃犯は戦意を喪失したようだ。ドニと斬り合うのをやめた。
慌ててその場から逃げ出そうと自分の馬の手綱を掴んだ。
「……逃がすかよ!」
左手に持っていた短銃を右手に持ちかえ、狙いを定めて馬に乗ろうと無防備になった襲撃犯を撃つ。脇腹に命中した。
だが――
ドンッ!! と銃声が響いた瞬間。襲撃犯が乗った馬が轟音に驚き、狂ったように走り出した。……結局、ケガを負わせたが、襲撃犯の一人に逃げられてしまった。
「……クソッ!!」
この襲撃は誘拐が目的ではなかった。間違いなくアデルに強い殺意を向けていた。
襲撃犯を乗せた馬が逃げ出した暗い夜道を睨みつけ。オレは考えを巡らせる。
「アデルお嬢様! お怪我はありませんか⁉」
護衛騎士のドニが馬車の扉をつかみ、アデルに声をかけた。
「だ……大丈夫よ。クロヴィスは……? 御者は? ドニ……みんな怪我は無い⁉」
「はい、大丈夫です。お嬢様、みんな怪我はありません!」
アデルは構えを解いて長い銃身の銃を片手に抱えたまま、恐る恐るドニの手を借りて馬車から降りた。
「そう……良かったわ。本当に良かった!」
涙声で無事を喜ぶと。アデルは腕に抱えていた銃をドニに渡した。
オレを見つけた喪服姿のアデルが泣きながら駆け寄って来て、オレに抱きついた。
「クロヴィス! ああ、良かったわ! あなたも……みんな無事で!」
「旦那様が揃えてくれた最新式の銃は、どれも命中率が高いからな。大丈夫さ、お前も何ヶ月も練習していなかったのに、上手く当てただろう?」
オレにしがみつくアデルを抱きしめてやる。
(かわいそうに。さっきは冷静に見えたが、やはり怯え切っている。家族を亡くしたばかりで殺されかけるなんて……これではあまりにも苛酷すぎる)
アデルの心情を慮ると胸が痛んだ。
「もう……あなたまで失ったら、どうしようかと……怖くて……」
「アデル……こんな時に言いたくないが。知らずにいれば、お前自身が危険になるからハッキリ言うが……」
ブルブルと震える華奢な背中を、ソロソロと撫でて慰めながら。アデルがオレの話を聞く準備が出来るのを待った。
「……何? クロヴィス……怖いわ……」
馬車に掛けたランプの灯りで、照らし出されたアデルの顔が恐怖で強張っているのが分かり、話すのを躊躇したが。それでも正直に話した。
「バーンウッド伯爵邸を出てすぐに襲撃を受けたということは……最初からアデルが伯爵邸を出て、実家のガーメロウ邸へ帰るよう。ピエールはわざとお前を冷酷に扱い、そう誘導したのではないだろうか?」
「ピエールが……私を? 彼は小さな小屋に私を押し込んで、飼い殺しにするつもりだと。……でも本当は伯爵邸から追い出そうとしたの?」
追い出すというよりも。
「夫のピエールが亡くなったバスティアン・ガーメロウ氏の遺産を、お前の代わりに自分が相続する計画を立てたとしたら?」
つまりアデルの殺害計画だ。
バーンウッド伯爵邸でアデルを殺すのはあまりにも都合が悪い。だから実家へ帰る途中で、襲撃してアデルの命を奪おうとした。
「ああ……! お祖父様の遺産は私の許可がないと、夫のピエールは自由に使えないから。……だから邪魔になった私を?」
「恐らくだが……」
この襲撃に偶然はありえない。間違いなく計画的にアデルの命が狙われた。
オレの言葉で厳しい状況を悟ったアデルは、大きな目を剥いて呆然とした




