10話 後悔
喪服姿でブルブルと震えるアデルの華奢な身体を抱きしめながら、オレは深く後悔した。
(こんなことになるなら、あの時……旦那様の提案をオレが受け入れれば良かった!)
グッと拳を握り締め。オレはアデルの祖父バスティアン・ガーメロウが、数年前に初めて心臓の病で倒れた時のことを思い出していた。
『なぁ、クロヴィス……あの娘を妻にしてはどうだ?』
寝室のベッドに横たわりアデルの祖父バスティアンが医師に処方された薬を飲むと。唐突にそんな提案をした。
『妻……? アデルお嬢様をオレの妻にですか⁉』
『そうだ。アデルもお前を好いているようだし、お前になら安心してあの娘を託せるからな』
『旦那様……今、アデルの結婚相手を決めるのは時期尚早過ぎませんか?』
『だが、クロヴィス。私はこのまま、のんびりとしてはいられないとお前にも分かるだろう?』
心臓が弱っていることが分かり、あと数年の命だとバスティアンは医師に告知されたばかりだった。普段の主人からは考えられないほど……弱気になっていた。
『待って下さい、旦那様。……いくら何でもオレが相手ではアデルお嬢様がかわいそうですよ!』
(オレはアデルよりも八歳も年上だし。そのうえ爵位もなければ財産もない。オレでは何から何まで不つりあいだ)
旦那さまの不安も理解できるが。アデルの幸せを考えると、オレにはこの提案を断る以外の選択肢が無いように思えた。
一応、オレも上級貴族の出身だが。同僚とケンカをして近衛騎士団をクビになった時に、家の恥だと父上に絶縁され、貴族社会から爪弾きにされている。
『旦那様には家族や友人にまで見捨てられたオレを拾ってくれた恩があるし。……何よりオレの能力を正しく評価し、大切な孫娘の護衛まで任せてくれた』
感謝してもしきれない。
『出来るだけオレも旦那様の望みを叶えてやりたいが……結婚となると、アデルの一生まで左右することになるだろう?』
『あの子を何度も守りきったお前なら、アデルを託すのにじゅうぶん信頼できる。なぁクロヴィス……引き受けてはくれないか?』
『旦那様の評価はありがたい。……だが、アデルお嬢様はオレにとって妹のような娘だし。オレはこれからもお嬢様を守るつもりです。将来、彼女が誰かと結婚してもアデルお嬢様に望まれればオレは守り続ける』
結婚でアデルをオレに縛り付けても、縛り付けなくても、オレのやることは同じだ。
(わざわざオレのような、はみ出し者の男を選ばなくても。きちんと社交デビューさせれば、アデルならきっと良い結婚相手を見つけられるはずだ。焦る必要なんて無いさ)
アデルは裕福な女相続人だし。そのへんの令嬢に比べてもはるかに聡明。負けず嫌いだから性格にキツイところもあるけど。それだってオレには利発で可愛く見える。
容姿だってずば抜けて良いというわけではないが、性格の良さが顔や雰囲気に滲み出ていて……周囲をパッと笑顔にするような魅力があって良い。
オレが結婚の話を断ってからしばらくすると。バスティアンは結婚相手の候補者の中から一番条件が良い、バーンウッド伯爵家の後継者ピエールとアデルの見合いを進めた。
バスティアンは自分の寿命が短いことを知り、孫娘アデルの将来を心配して焦っていたのだ。
「……っ」
(家族に絶縁されたオレにとって、アデルと旦那様は家族同然だった。アデルは必ず、オレが守ってみせる!)




