8話 襲撃
バーンウッド伯爵邸を出てガーメロウ邸への帰り道で、目的地に着く前に突如、馬車が止まった。
「……お前たちは誰だ! いますぐこの馬車から離れろ――!」
「クソッ! そいつを先に片付けろ!」
止まった馬車の外で男たちの怒鳴り声が聞こえ、その中には御者台にいたもう一人の護衛騎士、ドニの声が混ざっていることにクロヴィスが気づいた。
「ドニが外で引き留めてるうちに、コッチの準備を整えるぞアデル!」
「はい!」
ただならぬ気配の中で、クロヴィスは自分が座っていた座席の座面を上げて、物入れに隠してある銃を取りだし。押し殺した声で私に指示を出す。
過去にもこういう場面に遭遇したことがあり。冷静に対処するクロヴィスの落ち着いた態度のおかげで、私自身も動揺してはいたけど、激しく乱心して大騒ぎをするまでには至らなかった。
「おい! 早く馬車の中の女を殺せ――!!」
「……っ⁉」
馬車の外から聞こえる不穏な怒鳴り声に、私はハッと息を呑んで青ざめた。
ガンッ! ガンッ!と金属が激しくぶつかり、擦れ合う冷たい音が馬車の外で響く。護衛騎士が襲撃犯たちと剣で戦っているのだ。バタバタと荒々しい足音が複数聞こえるから、襲撃犯は間違いなく一人ではない。
「……っそんな」
(私を殺せですって? この襲撃は私を殺すのが目的なの⁉)
馬車で移動中に何度か襲われたことはあるけれど。毎回、身代金が目的の誘拐だったから。誘拐さえ阻止出来れば、私の命が危険にさらされることは無かった。でも今回は、そうも言っていられない状況のようだ。
「弾は込めてある。使い方はわかるだろう?」
「……っ」
(もちろん、知っているわ。……だって厳しい勉強の合間に気晴らしで月に一度、別邸へ行きクロヴィスと銃の腕を競い合っていたから)
緊迫した空気の中で、いたって冷静にクロヴィスは銃身の長い銃を二丁、私に手渡した。私はクロヴィスに頷きながら、ずっしりと重い銃を受け取る。
クロヴィス自身は短い銃を一丁ずつ両手に持つ。銃は連続で発射できない単発式だから。一度打つごとに弾を込め直さなければならない。この緊急時に弾を詰め直す時間など無いため、二丁の銃を交換して使うのだ。
「……」
久しぶりに手にした、ずっしりと重い銃の冷たい感触に、私はゴクリと唾を飲み込んだ
最初はただの好奇心から銃の練習を始めたけれど。クロヴィスに挑発されて、負けず嫌いに火が付き。射撃の反動を受ける肩に痣が出来るほど、私はかなりの時間を銃の練習に費やした。
(……でも、結婚してからは伯爵夫人に相応しくない荒っぽい趣味を持っていると、ピエールに知られたくなくて、私は一度も銃に触れていないわ)
それに当然人を撃った経験など無い。私は怯み銃を持つ手が強張ってブルブルと震えていた。
「躊躇なく打てよ!」
動揺する私にクロヴィスは指示を出す。
私が返事をする前に……ガチッ! と誰かが外から馬車の扉に手をかけた。
――その瞬間、クロヴィスは馬車の内側からガガンッ!! と扉を蹴り抜く。
「うあっ!!」
扉に手をかけていた襲撃犯の一人に、ゴツッ! と鈍い音を立てて扉がぶつかる。クロヴィスは馬車の外に飛び出る。
クロヴィスが外に飛びだしてすぐに、ドンッ! と大きな銃声が辺りに鳴り響く。ギャアァァ――ッ!! と叫ぶ男の声が、銃声から一拍遅れて聞こえた。
私はビクッ! と馬車の中で飛び跳ねた。
「……クロヴィス!」
(ダ、ダメよ! ここで私がグズグズしていたら、クロヴィスが殺されてしまう!)
慌てて馬車の床に膝をつき、私は身体が安定する体勢を整える。長い銃身を開いた扉の外に向け、銃床をしっかりと肩に当てて。目標を必ず打ち抜くために射撃の反動に備えた。
扉の前に黒布で顔を半分隠した男が現われた。私はクロヴィスの指示通り、躊躇なく銃の引き金を引く。




