23話 アデルの居場所2
クロヴィスへと名義変更された、投資信託の書類の写しを弁護士に見せられ。僕はその翌日に早速シェンストーン侯爵家に、アデルを連れ戻しにやって来た。
侯爵邸の執務室で、最初に僕の対応をしたのはアデルではなく、当主のシェンストーン侯爵だった。
「それでバーンウッド伯爵。君の用件は何だね?」
恐らくアデルから聞いて、すべての事情を知っているのだろう。侯爵は息子のクロヴィスにも劣らない、害虫を見るような目で僕にたずねた。
血筋以外に何の取柄も無く、威厳の欠片も持ち合わせていない若造だと。侯爵の目には僕への侮蔑が浮んでいて。思わず僕は背中を丸め身体を小さく縮ませた。
「シェ……シェンストーン侯爵、僕の妻を保護して下さりありがとうございます!」
(ううっ……クソッ! アデルの奴、何でこんなところに逃げ込んだんだ! シェンストーン侯爵と言えば気難しくて有名なのに)
シェンストーン侯爵家の当主は代々忠誠心が厚く、国王の側近を何人も輩出した家系だ。王国議会での影響力は、バーンウッド伯爵家とは比べ物にならないほど大きい。
――つまり、爵位の差以上に家格も侯爵個人の品格までも、僕とは大きく違うのだ。
僕がシェンストーン侯爵に礼儀正しく頭を下げると。侯爵は無表情で答える。
「君の『愛する妻』とやらは……確かバーンウッド伯爵家で暮らしていると、アデル嬢に聞いているが?」
「ア……アデルにですか⁉ ……ああ! アデルは誤解しているのです、シェンストーン侯爵!」
(伯爵夫人ではなくて、アデル嬢だって⁉ 侯爵はいったいどういうつもりなんだ?)
「誤解だと?」
侯爵は冷ややかに片方の眉だけをピクンッ! と跳ね上げる。僕の心の中まで見透かしそうな鋭い視線で『今さら白々しい嘘を吐くな、お前の悪行は知っているぞ』と……言われた気がした。
それでも僕はどれだけ白々しくても、嘘を重ねる以外に術が無く――
「私の友人、ストナル子爵の妹シャルロット嬢が、伯爵邸に滞在しておりまして……妻はシャルロット嬢に、可愛いい嫉妬をしているだけなのです!」
「ほぉ……伯爵夫人の部屋に滞在していると聞いたが? その友人の妹とは、ずいぶんと恥知らずなようだな。未婚の若い娘が妻の不在を狙って入り込んだのだろう?」
「そ、それは……っ!」
侯爵の鋭い視線に耐えられなくなり、僕は下を向く。
「くだらん言い訳は止めてもらおうか。私には君の愛人のことなどどうでも良いことだ。早く君の用件を言いたまえ」
クロヴィスよりも少し身長は低いが。侯爵はクロヴィスと同じ長い足を、ピエールの前で高圧的に組み、自分の太ももをイライラと指で叩く。
「はい。侯、侯爵! そ……その、私の妻を返して欲しいのです」
「……」
侯爵は無言でピエールを見つめた。
ピエールは気力を振り絞り顔を上げた。無言で自分を見つめる侯爵を見て言った。
「どうかシェンストーン侯爵、私の妻をお返し下さい。私はアデルの夫です、私には妻を連れ帰る権利がありますから……」
「……」
「……」
何も答えようとしない、侯爵の鋭い視線を避けるように、ピエールはまたうつむくと……ガチャッと執務室の扉が開く。
「お待たせしました、お義父様」
アデルがクロヴィスのエスコートで執務室へ現れた。
「……っ!」
(お義父様だって⁉ 今、アデルは侯爵にお義父様と言ったのか?)
僕はギョッ! と目を剥いた。




