22話 アデルの居場所
バーンウッド伯爵邸からアデルが逃げ出してから、数ヶ月の月日が過ぎ。その間に深刻な問題が伯爵家で起きていた。
「どういうことだ? 何が起きているんだ! いくつか投資していた事業からの収益が、ピタリと止められていただと⁉」
バーンウッド伯爵邸の執務室で、僕は訳が分からず向かい側に座る伯爵家の弁護士を睨みつけた。
「申、申し訳ございません。伯爵様! 投資していたこれらの事業はすべて伯爵夫人の名義でありまして……それで、その……」
「クソッ! どうしてこうなる⁉」
(アデルだけではなく。アデルの金まで一緒に消えたのか⁉)
結婚の時の持参金がわりに。アデルは祖父のバスティアン・ガーメロウから、有益な投資物件をいくつも持たされて伯爵家に嫁いで来た。そこから得られる大きな収益は、今では伯爵家の主な収入源となっている。
――それが全部、消えたのだ。
「伯爵夫人の名義だった物が、つい最近……すべて別のかたの名義へと変更されていまして……」
「アデルの名義が変更されただと? そんなことが可能なのか⁉」
「はい、伯爵様。名義人の奥様がご希望されれば……変更は可能です」
弁護士は背中を丸め激怒する僕を上目つかいで見つめながら、オドオドと答える。
「それで、名義は誰に変更されたのだ⁉」
(アデルの金は全部、夫の僕の物なのに!)
「シェンストーン侯爵家の嫡男、クロヴィス卿です」
弁護士は書類の写しを出して、机の上に並べて見せた。
「……クロヴィスだと? そいつに間違い無いのか?」
「はい、伯爵様。間違いございません」
「クロヴィスと言えば……結婚前のアデルについていた護衛騎士の名前だ。まさかアイツが侯爵家の人間だったのか?」
(侯爵家の人間がどうして平民の護衛騎士なんてしていたんだ⁉ 常識で考えれば、そんなのオカシイだろ!)
シェンストーン侯爵夫妻とは、何度か夜会で会ったことがあるが。クロヴィスなんて知らない。
(ああ……いや! そう言えば夫妻には絶縁した息子がいて、その息子の代わりに甥を迎えて、侯爵家を継がせるという噂を聞いたことがある。もしかしてあのクロヴィスが侯爵に絶縁された息子なのか⁉)
結婚前。アデルに会いにガーメロウ邸へ行くと、いつも僕は害虫を見るような眼でクロヴィスに冷たくあしらわれた。それがあまりにも不愉快でアデルが嫁いで来る時に、クロヴィスを護衛から外すよう僕はアデルを説得した。
「……クソッ!」
(どこを捜してもアデルが見つからないと思ったら。シェンストーン侯爵家が関わっていたからか?)
襲撃に失敗したと分かった後。僕は人を雇い、秘密裏にアデルを捜したが見つからなかった。醜聞になるのを恐れ妻のアデルを捜していることを、表立って出来なかったことが裏目に出たのだ。
――そして、ようやく見つけた場所が、自分よりもはるかに格上のシェンストーン侯爵家であることが判明したのだ。




