21話 執着
過去に守れなかったスザンヌのように。父上に『また同情してアデルと結婚するつもりか?』と問われ……オレはふと考えた。
(確かに家族を亡くしたばかりのアデルが、信じていた夫のピエールに裏切られたことに、怒りを感じて同情しているが……)
――それとは違う。
「いいえ、父上。同情ではありません」
「では何だと言うのだ、クロヴィス」
父上はオレの心を見透かしそうな、鋭い視線でジッとオレの顔を見つめる。
突き刺さるような視線を向けられても、オレは目をそらさず受けとめて答えた。
「もう二度とアデルを、オレの目が届かない場所へ行かせたくないからです」
スザンヌを守れなかったオレは、自分の無力さに泣き自信をなくしていた。そんな時にバスティアン・ガーメロウと出会い。オレは孫のアデルを任され、アデルの幸せを守ると誓った。
「同情ではないのなら……お前は騎士の誠実さだとか、使命とでもいうのか?」
父上は眉間に深いシワを寄せ、オレを見極めようとしていた。
「……誠実さ? 使命? そんなものとは違います」
(そんな真面目で綺麗な感情ではないさ)
「まさか、アデル嬢を… 愛しているのか?」
「アデルを愛しているか? 愛していないか? ……とたずねられたら。オレは『愛している』と即答出来ますよ父上。ずっとオレはアデルの幸せを願いながら、兄のように守ってきましたから」
(アデルを守ることで、オレはこの上ない満足感を得ていた)
――だがバーンウッド伯爵家にアデルが嫁ぐ日が来て。オレは夫のピエールに追い払われた。
オレは腹を立てて嫉妬もしたが。アデルの幸せを一番に考えると。……夫から見て
妻が信頼する他人の男を側に置いてるのは目障りだろうと。不和の原因にならないよう、オレは黙って身を引いた。
「クロヴィス……それは愛というよりも、執着と言うのではないか?」
侯爵は顔を顰める。
「そうかもしれませんね。……でも、アデルの幸せを他の誰かに任せたくありませんから。そういう失敗や後悔は、一度すればじゅうぶんです」
(オレとアデルはこれまで護衛対象と雇われ者の関係だったが。バスティアン・ガーメロウ(旦那様)が亡くなった今は……ただの男と女だ)
今までは兄妹のような距離感で接していたが。オレが頬に触れると、顔をまっ赤にしてアデルは恥じら姿をオレに見せた。あれなら恋人の距離感も悪くないだろう。
ピエールと離婚が正立したら、オレはアデルを口説くつもりでいる。
「これからはアデルの幸せを願うのではなく。オレ自身が彼女を幸せにするつもりです。父上の疑問は晴れましたか?」
「お前がアデル嬢に夢中なのは分かった」
父上は苦笑し、やれやれと首を横に振る。
「……」
(夢中? 確かにオレの頭はアデルのことでいっぱいだが)
オレはニヤリと笑うと、その場に父上を残して厩舎へ入った。




