2話 夫の本性2
成人してすぐに結婚した私は経験が浅く。そのうえ裕福な資産家のお祖父様に大切に育てられたおかげで、同じ年頃の令嬢たちと比べてもはるかに世間知らずだった。
当然のことだがピエールの本性を見抜けるほどの、男性経験も無い。そんな私は今まで夫の愛情を疑うことなど一度も無かった。
「ピエール! 早くそんな冗談はやめて。少しも面白くないわ!」
(どうしても信じられない!)
お祖父様を亡くしたばかりだから、これ以上悪いことが起きて欲しく無かった。
――だからピエールの言葉を、信じられないと言うよりも。……信じたくないと言った方が、正しいのかも知れない。
「冗談だって? 僕がまだ君に冗談を言っているように見えるのか? 君はどこまで頭が鈍い女なんだ!」
ピエールは今まで見たことのない、意地の悪そうな嘲笑を浮かべて、私を侮辱した。
「あ、あなたこそ正気なの⁉ こんなこと……絶対に許されないわ!」
(なんて冷酷な人なの⁉ たった一人の家族を亡くしたばかりの妻に……こんなことをするなんて!)
幼い頃、流行り病で亡くした両親の代わりに私を育ててくれた。たった一人の家族で裕福な商人だった祖父、バスティアン・ガーメロウにすすめられ。私は一五歳の時にピエールとお見合いをした。
礼儀正しくてハンサムな容姿で。当時はバーンウッド伯爵の後継者だったピエールに、私は会ってすぐに恋に落ち。喜んで婚約を決めた。
『貴族なのにピエール様はいつも親切で優しくて……あなたは完璧な王子様だわ!』
当時……四歳年上のピエールは、一五歳の私の目には成熟した大人の男性に見えた。日に日に憧れの気持ちが増し、現実ではあり得ない幼い少女が夢見る理想をピエールに重ねた。
私の家、ガーメロウ家はあまりにも裕福過ぎて。防犯上の理由で私は学園には通えなかった。代わりに何人もの有能な家庭教師をお祖父様が雇い、必要な知識と教養は自宅で学んだ。
そんな私には年の近い友人と呼べる者がおらず。私に一番年が近かったのが婚約者のピエールで、私にとって初めての友人でもあった。
『僕が王子様だって? ……そんなふうに可愛いアデルに褒められると、僕は勘違いをして傲慢な男になってしまいそうだよ』
いつもピエールは甘い言葉で私の気持ちを擽り、未熟な恋心を巧みに刺激した。
『ふふふっ……いつも優しいピエール様が傲慢になるなんて、私には想像できないわ!』
恋に恋する未熟な少女が喜びそうな、ピエールの甘い言葉に騙され。私は年上の婚約者ピエールに夢中になった。
結婚後も経験不足で世間知らずの私は。……愚かにもピエールの甘い言葉を信じ続け、自分は愛されているのだと思い込んでいた。




