1話 夫の本性
たった一人の肉親。私のお祖父様、バスティアン・ガーメロウが亡くなった。
私はお祖父様の葬儀の間、目を真っ赤にして嘆き悲しみ。……夫のバーンウッド伯爵ピエールと共に、たった今葬儀から帰って来たばかりだった。
黒い喪服姿で伯爵家の玄関ホールに、足を踏み入れてすぐのところで。夫はそれまでエスコートしていた私の手を、パシッ! と音を立てて振り払った。
「あっ! ピエール、急に何をするの⁉」
「この屋敷は僕と、僕の愛する妻シャルロットの家だ! アデル、君は今すぐ荷物をまとめて、伯爵夫人の部屋から出て行ってくれ!」
私の夫ピエールは晴々とした表情で、バーンウッド伯爵家の屋敷中に聞こえそうな大声で、高らかに宣言した。
「何ですって? ピエール……あなた、本当に何を言っているの? 悪い冗談はやめて!」
(今……ピエールは何と言ったの? 僕の愛する妻? ……シャルロットとは誰のことなの⁉ 妻は私でしょう?)
お祖父様の死で悲しみのどん底にいた私は、夫ピエールの口から耳を疑うような信じられない言葉を聞き。思考はピタリと止まり、うまく頭が回らなかった。
「だがアデル、安心すると良い。僕は無慈悲な人間ではないから、伯爵家の敷地内にある離れのメイプルハウスで、君が暮らすことを特別に許可してやるよ」
「メイプルハウス⁉ ……あなたは妻の私をこの屋敷から追い出す気なの?」
メイプルハウスとは――
頑固で人嫌いだったピエールの大叔父様が、誰にも干渉されずに一人で暮らせるよう、先代伯爵が納屋を改築して作らせた小屋である。……確か大叔父様が亡くなって以来、何年も使われずに放置されていたはずだ。
(いったい……それのどこが慈悲深いと言えるの?)
私は突然、豹変した夫の理不尽な仕打ちに歯を食いしばって耐えた。
ピエールはそんな私を眺めながら、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。
「離れは小さいが雨漏りはしてないから。君が一人で住むならアレぐらいの方がちょうど良いだろう? それに平民の君には、メイプルハウスのような質素な家が相応しいからな!」
「ピエール、冗談はやめて。お祖父様を亡くしたばかりで……今日の私はそんな気分ではないの!」
「いいや、アデル。僕は冗談なんて言っていないよ。真面目に言っているんだ」
「いい加減にして、ピエール!」
(確かに私は完璧な妻ではないわ)
結婚して半年の月日が経ったが、夫のピエールは若い私が伯爵夫人の地位に慣れるまでは、初夜は待つと言ってくれた。だからまだ、私たちが本当の夫婦とは言えないのは認める。
でもそれはお祖父様の体調が急激に悪くなり、初夜どころではなくなっていたからで。私も今まで夫の優しさに甘えていたのは、悪いと思っている。
「私は疲れているの。だからピエール、こんな悪ふざけはやめて!」
「ふざけてなどいない。僕の妻は君と婚約する前から、シャルロットと決まっていたんだ! アデル、君ではない!」
「結婚する前からですって?」
(……だからシャルロットとは誰なの⁉)
ピエールは私をバカにするように、フンッ! と鼻で笑った。
このお話を開いて下さりありがとうございます。
中編の長さのお話です。
良い暇つぶしになれば幸いです(^^)/




