19話 変化2
今さらだが。考えれば考えるほど自分の言動が恥ずかしくなり、私の顔が急激に熱くなる。
シェンストーン侯爵家から与えられた自分の部屋へ戻り、使用人の手を借りて漆黒のドレスを脱ぐと、すぐにベッドへ入り顔を隠した。
「ううっ……!」
(思い返してみると……私ったらっ! もう! クロヴィスに甘え過ぎだわ)
昔からクロヴィスはとても頼りになるし。それに私が何をしても忙しいお祖父様の代わりに、厳しく(意地悪だけど)注意をするだけだった。
だから絶対に私を嫌いになって見捨てないと知っていたから、やりたい放題甘えていた。
自分がクロヴィスに対して行った、数々の甘えた行為が脳裏に浮かび、私の顔はリンゴのようにまっ赤に染まる。
『結婚して少しは大人になったように見えたが。やっぱりお前はまだ子供だな』
執務室で弁護士のジャコブ卿が帰ったあとの会話は……単純に揶揄われただけだと思っていた。
「あの後、私は子供っぽくカッとして癇癪を起こしてしまったけれど。でもクロヴィスは困った顔をしていた気がするわ…?」
『アデル……立派なレディは夫でも恋人でもない男に、こんなにピッタリくっ付いて甘えたりしないぞ?』
「ううっ……私……クロヴィスも男性だということを、すっかり忘れていたわ。……いえ。彼の顔を見ればすごく逞しい男性だと分かるけれど。でも、でもっ……」
(本当にクロヴィスの言う通りだわ! 立派なレディはあんなことしない)
彼の前だとついつい気が緩んで、いつも子供に戻ってしまう。彼以外の男性の前では、あんなに甘えたことは無いのに。結婚していたピエールにだってしたことない。
(伯爵邸ではいつも礼儀正しく、伯爵夫人らしい淑女だったわよね? 私……本当に立派なレディだったから。クロヴィスにも見せてあげたかったわ)
誘拐されかけた経験がある私は防犯上の理由から、学園には通わず自宅で家庭教師たちから教養を学んだ。そのため若い異性との関りが極端に少なく、クロヴィスとピエール以外はほぼ無かった。
「いやあぁぁ~っ! ……違うのよぉ、クロヴィス! ああ、ダメダメェ、私ったらぁぁ~っ! ひやぁぁぁ~なんてことを⁉」
カァッと熱くなった顔を両手で隠し。私はベッドの上でコロコロと転げまわり、意味不明な奇声を何度も発した。
「そ……そうよ、ここは実家のガーメロウ邸ではなくて、高位貴族のシェンストーン侯爵家なのよ⁉ それも昨夜、初めてお会いしたクロヴィスのご両親のお屋敷! 私は立派なレディでなければいけないのに……」
だが……不意に朝食室で侯爵夫妻が見ている前で、自分がクロヴィスにやらかしたことを思い出す。
『もっとゆっくり休めば良かったのに』
指で頬に触れられ、私はクロヴィスの手を取りキスをした。
「ああああ~……すでに遅いかもしれない。でも……あれはクロヴィスが先に、私の頬に触れたからいけないのよ。そうよ、クロヴィスも私を甘やかすからいけないわ」
(それでも侯爵夫妻はきっと、私を立派なレディとは思わないでしょうね。ああああ~……なんてことを!)
その極めつけは――
『こんなことなら、最初からあなたと結婚しておけば良かったわ!』
『アデル、ピエールと離婚出来たらいつでもオレの嫁にしてやるよ』
『そ、その言葉……忘れないでよね! クロヴィス、絶対だから!』
「……私、もしかしてしちゃった?」
(怒りにまかせてクロヴィスに求婚したのではないかしら? クロヴィスは冗談で受け入れていたけれど。ああ、最悪だわ! 恥ずかしい!! 恥ずかしくて死にそうだわ!)
「いやあぁぁぁ――――っ!!!」
ピエールの浮気が判明して、自分が夫に騙され裏切られたと知った時よりも。シェンストーン侯爵家に逃げ込んでから、クロヴィスに対してやらかした数々の失敗を、自覚した時の方がはるかに衝撃を受けた。
自分の人生がいきなり半分、引っくり返ってしまったような。それぐらい激しく動揺している。




