13話 執務室で
シェンストーン侯爵家の執事に、亡くなった祖父バスティアンの弁護士を内密に呼ぶよう指示を出し。私とクロヴィスはこれからのことを話し合うために、侯爵家の執務室を借りることにした。
「アデル、今日は父上の執務室を借りたが。しばらくこの屋敷で暮らすのなら、お前用の執務室を用意した方が良くないか?」
弁護士が到着次第、遺産相続に関する問題で私は忙しくなる予定である。
「え? でも……それでは私がとても図々しい娘だと、侯爵様に悪く思われないかしら? ……だって侯爵家で私を連れて来たクロヴィスの立場が悪くなるのは嫌だもの」
(クロヴィスと侯爵様はあまり親子仲が良くないから。少しでも私の印象を良くしておかないといけないと思うから)
侯爵家の歴史を感じさせる執務机の小さな傷を、私はモジモジと指先で撫でながらクロヴィスを上目づかいで見た。
クロヴィスは笑ってアデルの肩をポンッ と叩く。
「はははっ……何だ、そんな心配をしていたのか? 気にするな、アデル。父上は息子のオレには特別厳しいが、意外と他の人間には寛容なんだ」
「そうなの?」
「そうだよ」
面倒そうにクロヴィスは自分の顎を人差し指でポリポリとかく。
「クロヴィスにだけ厳しい? ああ、侯爵様は1人息子のクロヴィスに期待しているから厳しいのね」
「まぁ……そういうことだ」
(クロヴィスの複雑な気持ちは私にも良く分かるわ)
お祖父様は普段、私にとても甘かったけれど。でも事業に関係することを私に教える時は違ったから。
『アデル、この法律は完璧に記憶しろと教えたのに、お前の頭は飾り物なのか?』
……と悪魔のように厳しかった。きっと侯爵様もお祖父様と同しなのだ。
腕組みをするクロヴィスの逞しい肩に掴まり。長身のクロヴィスの頭に届くよう、背伸びをして頭をヨシヨシと撫でた。
「アデル……お前はオレに何をやっているんだ?」
クロヴィスは頭を撫でられ困惑の表情を浮かべる
「あなたの気持ちが理解できるから、あなたを慰めているの。……だって、あなたにこんなことが出来るのは私ぐらいでしょう?」
(口が悪いあなたは周囲から怖がられているから。意地悪だけど、本当はぜんぜん怖くないのにね)
「……」
ニコニコとほほ笑み頭を撫でる私に、クロヴィスは口を半分開き……何とも言えない微妙な表情をする。
唐突にガチャッ! と背後で執務室の扉が開いた。
「あっ!」
「……おっと!」
背伸びをしたまま振り返ろうとして、私はよろけてしまう。咄嗟にクロヴィスが両腕で抱きしめ、私の身体を支えてくれた。
「……っ!」
扉を開けた侯爵様が抱きあう私たちを見て、何も言わずにパタンッと扉を閉めた。
「あら、誰が来たの?」
よろけて背後を見れなかった私はクロヴィスにたずねると。クロヴィスは渋い顔で答えた。
「たぶん、父上は誤解したと思う」
「侯爵様が何……?」
私が首を傾げると、再びガチャッ! と扉が開く。
「まだ、孕ませるなよ」
侯爵がクロヴィスにボソッ……と注意を促すと、素早く扉を閉めて立ち去った。
「なっ……!」
「え? なに⁉ 侯爵様は何と言ったの?」
上手く聞き取れなかった私はクロヴィスにたずねると。クロヴィスの顔はみるみる真っ赤に染まって行く。
「/////////っ…」
「ねぇクロヴィス、どうしたの……?」




