第二話 人間観察
時は遡り、4月7日。
わたしは天望学園へ入学した。同じことを繰り返す校長の話を聞き流しながら、集会があるたびにこの話を聞かなくてはならない事実に戦慄する。
校長が話し終わると同時に入学式が終わり、各教室へ向かい、ホームルームへと移った。
「月岡ユイ。」
担任となった先生が1人ずつ点呼する。わたしができるだけハッキリ返事を返すと、よくできましたと言わんばかりの笑顔が返ってきた。
ふと隣に視線を向けると、そこにはthe.イケメンがいた。纏っている空気から美しく、漆黒の艶髪に整ったパーツたち。まるで神が創ったような…創った?
やばいやばいやばい。油断していた。わたしはこの男から逃げる必要がある。
─学園生活は平凡な学生として、面倒事から限りなく遠い生活をすると誓ったのにいぃぃぃ!
生まれてから15年目わたしが知っているのは、この世界には「作者」すなわち「神」が存在し、恋物語を創っているということ、「作者」は登場人物や場面などを好きなように創れるということ、ただ性格は創れても感情は制御できないらしい。
そして、わたしがその物語のヒロインだということ。
だがしかし、わたしは作者の思惑通りに動くつもりは全くない。使いやすい性格でヒロインを創らなかった作者のミスだ。
今までずっと作者に人生を左右されてきた。幾度となく反抗してきたが一度も勝てたことはない。自由な人生を送るには、何事にも用心しなくては。
─で、この男。絶対物語に深く関わってくるでしょ。
しかも席となりだし。はぁ。
そう考えていると、また先生の声があがった。
「漣優星」
「はい。」
─さざなみゆうせい、か。なんだその僕優しいですみたいな声。作ってんのか?
優星が呼ばれた瞬間、クラスが少し騒々しくなる。もちろん女子達によって。
─コイツのどこが良いんだ?少し顔が良くて声が良いだけじゃん。
わたしがまじまじと優星を見つめていると、彼はこちらへ視線を向けた。
「ユイちゃん、だっけ?隣の席だしこれから仲良く出来たらいいな。よろしく。」
にこっと効果音が付いてきそうな笑顔に心のうちで毒づきながら、笑顔でよろしくねとだけ言う。
「はい。じゃあ点呼も終わったことだし、グループになって自己紹介やらなんやらしてみましょうか。」
先生がそう言うとみんなが机をくっつけ始めた。わたしも前と隣4人で机を合わせる。
─まぁ、2人きりじゃないから大丈夫。優星に話しかけられても「うんそうだね。」「すごいね」「へー!」この3つでやり過ごそう。
三種の神器を携えたわたしが密かに決意すると、自己紹介が始まった。と同時に、わたしは最悪の気分になる。
「じゃ俺から〜!高橋湊、血液型はクワガタ!好きな食べ物は肉!!よろしくな!」
茶色っけのあるふわふわとした髪に色素の薄い瞳で、タレ目がどこかかわいい雰囲気を与えている。これもまた、顔が整っていた。
「高橋くんAB型でしょ。」
そう応えた彼女は白く透き通った肌を持っていて、若干の赤が混じったような綺麗な長い髪を高いところで結んで揺らしている。
「え!?なんで分かるの!?エスパー!?」
「クワガタって言う人はだいたいAB型らしいよ。」
そうなんだと少し驚きながらわたしは彼女に目を向ける。
「花宮桜。よろしくねーっ。好きなことは友達とお喋りすることかな。」
「よろしく。俺は漣優星。趣味はサッカー、部活もサッカー部に入るつもり。」
「へー!」
「え!まじ?俺も〜!仲良くしよーな優星!!」
とりあえず相槌を打っておく。つまりサッカー部は危険区域ということか。絶対近寄らないようにしよう。
最後はわたしの番だ。徹夜して考えた、どこにも魅力を感じない文章を考えた成果をみんなにぶつけることにする。
「月岡ユイ。えっと、好きなことは人間観察、です。」
─完璧でしょ!人間観察が趣味でもじもじしている女の子に興味を持つことは絶対にない。作者?見てるかー?フッ、この勝負、わたしの勝ちだ。
「人間観察!?すごい!どんなところ見てるの?仕草とか??」
「探偵なれそうだな!これから事件起きたら月岡さん頼ることにするわー」
「もしかしてさっき俺のこと見てたの、人間観察してたってこと?あははっ」
桜に褒められ、湊に頼られ、優星が楽しげに笑う。
おかしい。こんなはずではなかったのに。
入学して1日目。恋物語のスタートに一歩近づいてしまったのだった。
─早く席替えがしたい。




