エピソードⅠ【アホのナカダテ】(4)
季節は、寒さの谷を下りきったあと春へと向かっていた。三月に入り、泉が森支店でも今期の営業成績の仕上げに必死だ。
地方銀行にとっての最大の営業目標は貸出金の増強だ。貸出金の期中平残の目標達成だ。貸出金による利息収入が銀行の収益の大半を占める。平残とは平均残高の略で、期中平残とは、日々の貸出金残高の半年間の平均値だ。
支店は、四月から九月までの上期と、十月から翌年三月までの下期の二つに一年を分けて、半年間ごとの営業成績を競わされる。規模や営業環境が類似する十か店ほどのグループに分けられ、グループ内で順位付けされる。評価項目は、営業成績のほか事務管理や人事管理、本部検査など多岐にわたるが、貸出金関連を中心とした営業項目のウエイトが高い。
グループ内の順位は支店長の評価にも直結する。成績不振店の支店長には厳しい。最下位が二期連続している支店長などは、自分が人事異動のサイクルに当たろうものならドキドキである。信賞必罰の信賞のほうはともかく、必罰のほうは厳格に実施される。中盤以上の順位をキープできていれば、「人事を尽くして天命を待つ」とのんびり構えていられるほどに余裕だ。泉が森支店は、ここ数年間は、中盤付近の順位をふらふらしていた。可もなく不可もなくといったところだ。
さて、貸出金平残であるが、期末近くになっては当然に数字の持ち上がりは重くなる。翌期も最重要項目なのは変わらない。
だから、期初にあっては〝スタートダッシュを図る〟、期央にあっては〝今期の大勢を決する〟、期末にあっては〝来期の発射台を高める〟さまざまな言い方をもって行員の意識を喚起する。要は尻を引っ叩き続けるのだ。
尻を引っ叩かれるのはアホのナカダテとて例外ではない。本人がどれほど痛みを感じているかはともかく、期末の特別の雰囲気はアホのナカダテにも伝わってくる。
営業目標は貸出金平残項目に限定されない。獲得すれば即実績化される獲得項目の個人目標もある。期末最後の一日まで窒息しそうなプレッシャーだ。
そういう気ぜわしい時期に限って余計な仕事が回ってくる。青年会議所の会議などだ。青年会議所の会員のほとんどが、中小企業や商店のせがれたちだから、期末に尻を引っ叩かれたりしない。年中時間を持て余している連中だ。三月某日の午後一時から四時までの会議であってもなんら支障はない。
アホのナカダテがかり出された青年会議所の会議は、ゴールデンウィークに実施される歩行者天国の運営が議題だった。「なに好んで、こんなクソ忙しい時期に?」会長としては、例年になく趣向を凝らしたものにしたいらしい。
会長の熱弁が続いていた。三時間の予定時間も超過しそうな勢いだ。ナカダテも辟易し始めていた。隣には、珍しく第二地銀のD銀行の高井も出席していた。同年代で、ナカダテも比較的気軽に会話できる人物だった。高井には、D銀行の取引企業の社長でもある青年会議所会長じきじきに出席要請があったらしい。出席しないわけにはいかなかった。
自分たちの営業に直結しない会議を片耳で聞き流しながら、ふたりは自分たちの目下の課題について小声で話し始めた。
高井がぼやく。
「貸出金増強だなんていったって、借りてくれる先なんてありませんよ。これだけ金利が低いったって、運転資金でさえつき合いで借りてくれませんよ。ね、中館さん。まあ、中館さんの銀行はうちとはちがうでしょうけどね。優良企業の取引先が多いですから」
いつもながらに第二地銀としての嫌みをつけ加えるのを忘れない。
「なに言っているんですか、高井さん。今や、優良企業とは、簡単には借り入れをしない企業を指すんですよ。お金があるから優良なんですよ。手元流動性が厚いわけですからね。簡単に借りてくれる先なんてありませんよ。事情はそちらとまったく変わりません」
アホのナカダテも、外ではまともな口をきいている。
高井のぼやきが続く。
「それにしても、貸せ! 貸せ! ってしか言わない本部の無策にも困ったもんです。貸せ、貸せって言うんだったら、その貸し方を示せっていうんですよ。相も変わらず、なんとかキャンペーンと称した期間限定の低金利商品だとか、支店長裁量扱いでOKだとか、そんなのばっかですよ。商品の名称を変えただけ。支店長裁量でOKっていうのは、信用リスクは無視してもいいっていう話ですよね」
ふふっ、と笑ってナカダテが高井に合わせる。
「どこの銀行も事情は同じってわけですね。たしかに、有効な施策があれば他行もすぐマネをするでしょうから、マネするものもなくなってきているということなんでしょうね。借りてください! キャンペーン期間中です! 金太郎飴のようなとおりいっぺんの営業の時代はもう終わったっていうわけですね」
会長の熱弁がまだ続いていた。チビで前頭が少し禿げだしている。来年で青年会議所の年齢制限に引っかかるから三十九歳のはずだ。タオル地のハンカチで額の汗をぬぐいながら、しきりに何かを訴えている。逮捕された犯人が必死に抗弁している、そんなシーンがふとナカダテの頭に浮かんだ。
ナカダテが会長を指さして言う。
「高井さん、あの会長の会社に借りてもらえばいいんじゃないですか。ヤマト物産さん。大手コンビニの北関東圏の惣菜や弁当関連をまとめて引き受けたって聞きましたよ。資金需要旺盛なんじゃないですか。高井さんのところがメインですよね」
A銀行はサブメインだ。ナカダテが担当だった。会社の内情はある程度理解している。
高井が答えた。
「まあ、あの会社は売上高も伸ばしていますし、うちでは数少ない貸出推進先ですけど。今期もかなり貸し出していますからね。売上高が増加しているといっても、クレジットラインの問題もありますから」
「まだまだ貸し出し余力はあるんじゃないですか?」
ナカダテは貸出金残高表をぼんやり頭に浮かべながら言う。貸出金残高表には、全金融機関の貸出金残高が記載されている。通称残表だ。
「ん?」
高井は一瞬けげんそうな表情をした。高井が反撃するようにナカダテに言う。
「中館さんのほうこそ、サブメインとしてのシェア相当分は負担してくださいよね。最近シェア落ちてません。うちだけが突っ走るには企業規模が大きすぎますから。こういう企業には、メイン、サブメインが協調していかないと」
「ん?」
今度はナカダテがけげんな表情になった。うちはシェア相応の支援を継続しているはずだが。少なくとも自分が担当になってからは、ヤマト物産からの支援要請には満額で応えている。
高井が続けた。
「メガMZの動きも怪しいんだよな。シェアダウンを目論んでいるかのようですよね」
ナカダテも同感だった。メガは逃げ足が早い。ヤマト物産との取引など、メガにとってはあってないようなものだろう。仮になくなっても困りはしない。地銀の十億円がメガにとっては一億円だ。
ふたたび会長が話しだしている。「ホップ、ステップ、ジャンプ」とか、「一の矢、二の矢、三の矢」とか、「三段ロケット」とか、三をことさら強調している。従来の五月四日の一日だけでなく、五月三日から五日までの三日間を「泉が森スプリングフェス」という新たな祭りとしてスタートさせたい意向のようだ。「弁当や惣菜類の手配はヤマト物産が一手に引き受けます」自社の販路拡大。どうやらその辺が魂胆のようだ。
ようやく会議が終わったのは午後五時直前だった。日も暮れかかっていた。支店へ戻る道すがら、ナカダテの頭の中で渦を巻くような感覚があった。
一、二、三の数字が音楽とともに頭の中でくり返された。♪「一、二、三」、♪「一、二、三」地元スーパーのコマーシャルだ。一、二、三の市。何かがど真ん中という歌詞も出てくる。何がど真ん中なのかはわからないが、ストライクだ。
高井との会話での違和感が、腹の中から逆流してくるようだ。気持ち悪い。メイン行、サブメイン行、メガMZの上位三行の支援体制の微妙なアンバランス感。つかめそうでつかめない違和感の尻尾。とりあえず、♪「一、二、三」を口ずさみながら支店へ戻った。
ナカダテがヤマト物産の試算表を手元に置いて眺めていた。昨年十二月末時点の試算表だ。試算表には財務状況のあらましが示されている。当社からは四半期ごとに試算表を徴求していた。
貸出額は、メインのD銀行が十八億円、A銀行が十七億円、メガMZが八億円だ。メインのD銀行とうちの貸出額が接近している。これでは並行メインだ。なぜだ。メガMZの残高も少なすぎる。やはり撤退しているのか。
その時、アホのナカダテの眼光がシャキンと鋭くなった。シャッキンではない。シャキンだ。
シェア割が崩れたのはいつだ。昨年六月末の試算表にはすでに変化が表れていた。ヤマト物産が大手コンビニの広域取引を一手に引き受けた直後だ。
真相の核までには到達できていないナカダテだったが、不審点をそのまま不審点として放置しておけない。アホのナカダテなりの潔癖さがあった。♪「一、二、三」、♪「一、二、三」口ずさみながら向かったのは、融資主任の大杉の席だった。
大杉は無頼だ。愛想がまったくない。いわゆるわが道を行くタイプだ。上席者、たとえ支店長に対してであれへつらわない。仕事への自信の裏返しだ。
銀行の融資業務には、貸出審査といういわば入口の仕事と、管理回収といういわば出口の仕事がある。貸出は誰でもできるが、回収は誰でもできるわけではない。社会の闇がチラチラと顔をのぞかせてくる局面だ。借りる際の顧客のえびす顔が、回収の段階では鬼の形相に一変したりする。反社会的勢力が絡んでくる場合もある。法律を鎧のようにまとって戦わなければならない。銀行業務のなかでも、経験と適性が必要とされる分野だ。大杉はその道のプロだった。
「大杉さん、ちょっと見てもらいたいものがあるんですけど。いいっすかね」
アホのナカダテは相も変わらない軽さだ。
大杉に気安く接する行員などいない。支店長の村上でも気を遣っているほどだ。副支店長の森山に至っては天敵のような存在になっている。森山は融資の、とくに回収方面の経験が乏しい。
「あん?」
大杉がおもむろに視線を上げてくる。アホのナカダテに気おくれする様子はない。
「この残表おかしくないっすかね?」
ナカダテが差し出したのは、昨年三月決算時の貸借対照表と昨年六月末および十二月末の残表だった。
D銀行の高井とのやりとりを簡単に説明した。大杉は机上に置いた資料に視線を落としたままナカダテの話を聞いていた。
大杉は両腕を組んだまま視線をナカダテに戻して、うなるように言ってきた。
「中館、これはあれじゃねえか?」
大杉だけは、ナカダテをアホ呼ばわりしない。ナカダテは大杉の次の言葉を待った。
「おまえ、D銀行の高井に今から電話で訊いてみろ。D銀行の昨年十二月末の実際の貸出残だ」
「今からですか?」
「ああ、今からだ。夜間電話に切り換わっているだろうから、高井というやつの携帯に電話をしろ。携帯番号がわからなければ、D銀行の支店の代表電話番号の末尾に一を足せ。それが夜間直通番号であるケースが多い」
時刻は午後六時を回っていた。ナカダテは末尾に一を足すという大杉の推論にやや感心しながら、そのとおりにダイヤルしてみた。電話がつながった。偶然にも、電話に出たのは高井だった。
〈今日はどうも、中館さん。こんな時間にどうしました?〉
淡々とした高井の受け答えだ。
「早速なんですが、今日高井さんとお話ししたヤマト物産さん。どうも気になりましてね。もしやとは思うんですけど、当行でもらっている残表と御行の実際の貸出残がちがうんじゃないかと思いまして。高井さん、昨年十二月末の御行の貸出残を教えていただけませんか?」
高井の逡巡するような間があった。
〈……わかりました。ちょっとお待ちください〉
資料を取りにいくために席を立ったような音が受話器越しに聞こえた。しばらくして高井が受話器を取り上げた。
〈お待たせしました。えーと、当行の十二月末の残高は、二十五億円です〉
送話口を手で押えて、ナカダテが大杉にささやく。
「二十五億円ですって」
大杉の表情が一段と険しくなった。
受話口から高井の声が聞こえてきた。
〈ちなみに御行の残高はいくらですか? そちらの残表では、当行の残高はいくらになっていますか?〉
「当行の残高は十七億円です。御行の十二月末残は、こちらの残表では十八億円になっています」
電話の向こうで、高井が二度絶句するように息をのむのがわかった。
〈これは……?〉
「残表操作です。他行の残高を実際の額より減らして残表を作成する。残表を配布する先の貸出額は真正ですが、ほかの銀行の貸出額は減額しています。取引銀行ごとに別々の残表を作成するのです。実際の借入額との差額が簿外債務です。それを簿外のまま損失の穴埋めに回す。決算書上には赤字の痕跡は残らない。粉飾決算です」
また連絡を入れます、とナカダテは電話を切った。
大杉が大きくうなずいた。おまえの言うとおりだ。
ナカダテと大杉がそろって村上の席へと歩み寄った。
大杉が報告した。ドスのきいた低い声だ。
「支店長、大変です! ヤマト物産が粉飾しています」
「なに!」
とっさに反応したのは、副支店長の森山だった。跳ねるように立ち上がると、自分の席の横の支店長の机に両手をついて大杉を見上げた。
「まちがいない」
黒目の視線だけを森山に向けて大杉が答えた。
村上に視線を戻し、大杉は村上に対して確信を持ったうなずきを見せた。
「残表操作による負債の圧縮です」
「大杉主任、君が発見したのか?」村上が訊く。
「いえ、中館です」
村上は、大杉へ向けていた視線をナカダテへ移した。アホのナカダテに反応はない。
「そっか」
村上が鼻の脇を指の先でかいた。
村上の指示が飛んだ。
「D銀行の藤田支店長には俺から携帯に連絡を入れる。明日の朝一番で藤田支店長を訪問する。ナカダテ、おまえも同行しろ。資料は、今大杉主任が持っているものだけでよい。大杉主任は本部に一報を入れてくれ。営業本部南部駐在の平川上席推進役でいいだろう。あとは彼が本部内を仕切ってくれるはずだ」
翌日、ふたりの支店長とふたりの担当者がD銀行の応接室で顔をつき合わせていた。両行がヤマト物産からそれぞれ徴求している昨年十二月末の借入金残表がテーブルに並べられていた。
「まちがいないですね」
藤田がダメ押しするように言う。
D銀行の実際の貸出額は二十五億円だ。D銀行が徴求している残表にはその金額が記載されていた。A銀行が徴求している残表では十八億円になっている。七億円少ない。A銀行については、実際の貸出額十七億円がD銀行の残表では十二億円だ。五億円少ない。二行で十二億円の乖離が発生している。ふたつの残表の合計額は一致していた。それ以外の銀行の借入残で調整されていた。
残表操作は古典的な粉飾決算の手法だ。取引行ごとに異なる残表があるのだから簡単に発覚しそうだが、他行の借入残高や借入総額の真偽をいちいち確かめたりはしない。意外と盲点なのだ。
だが、取引行どうしがお互いの貸出残を会話のなかででも触れようものなら、手法が簡単なゆえに一気に露呈する可能性は高い。会話での違和感を違和感として見逃さなければの話だが。
その日の昼前には、ヤマト物産の韮山社長をD銀行に呼びつけ問いただした。青年会議所会長の韮山社長だ。
それほど抵抗せずに事実と認めた。粉飾総額は十八億円だった。長年の番頭役である専務の景山が画策したが、自分も了解していたと素直に認めた。粉飾をしていた事実は、相当な精神的重荷になっていたようだ。
翌日、A銀行では、ヤマト物産の所管が、泉が森支店から融資部内の企業再建室に移された。
速やかに再建策が示された。ヤマト物産の取引先である大手コンビニによる支援だった。コンビニの関連会社からの資金支援では連結決算に組み込まざるをえない。資本関係のないコンビニの大口仕入先であるS商事が資金注入する方法を取った。
資金注入額は粉飾額とほぼ同額の二十億円だ。ヤマト物産の資本勘定に計上するとともに、同額をD銀行およびA銀行からの借入金の一部返済に充当する。その後、両行が同額をS商事に融資するという枠組みだ。
両行のヤマト物産への貸出金のほぼ半分が、S商事という超優良先に振り替わる。S商事への貸出金でヤマト物産の借入金をその分返済させるわけだ。メガMZのヤマト物産への貸出金は、全額がそのまま保留された。塩漬けだ。
D銀行の応接室で、村上と藤田とですり合わせた筋書どおりだった。
会長にかなりの個人資産があるのは確実なうえ、社内マネジメントの改革による収益確保、それにともなう配当金収入によって、投資効果は十二分に見込めると容易に判断できた。
S商事の判断も即決に近かった。村上と藤田、地銀と第二地銀の支店長がふたりそろってS商事の財務担当役員を訪問したのもプラスに作用した。
一週間ののちには、ヤマト物産の粉飾決算事件も山場を越え、落着へと向かっていた。
D銀行の藤田支店長から泉が森支店へ電話が入った。女子行員が村上に取り次ぐ。
〈Dの藤田です。先般は大変お世話になりました〉
「いえ、いえ、こちらこそ」
〈いちおうご報告と思いまして。S商事への貸出金は、なんとか今期中に実行できそうです。三月末実行で本部決裁を取りました。多少今期の銀行決算にもプラスに作用しますし、何より今期の新規貸出の実績にハネますから。当行でも新規貸出の評価ウエイトは高いものですから。金額も金額ですしね。これで、点数も相当積み上げできました〉
点数というのは、支店業績考課の点数だ。
「では、当行も三月末の実行で足並みをそろえましょう」
〈ええ、ぜひお願いします。それにしても、粉飾が五年に及んでいたとはね。ちょっとした驚きですね。まあ、粉飾額が拡大したのは、二年前にヤマト物産に産地偽装の疑惑がかかったのが原因ですが。いずれにしても、前社長である会長の傲慢経営が、徐々に会社を侵食していたということですね。これでようやく、会長も経営への口出しは控えるでしょう。昨年に急きょ社長になった長男には可哀想ですが、彼には必死になって汗をかいてもらうしかありませんね。まだまだ若いですしね〉
皮肉まじりの笑い声をもらした藤田が、間髪を入れずにつけ加えてきた。
〈それにしても、やはりA銀行さんには優秀な行員がいらっしゃいますね〉
「ナカダテのことですか?」
〈ええ。粉飾を見抜いたことといい、その後の対応といい、とにかく動じない。実に立派なものです〉
「そうですかね。ナカダテはうちの支店ではアホですよ」
〈また、また、ご冗談を。彼がアホなら、ほかの行員さんはどれだけ優秀かっていうことですよね。やはり、A銀行さんは懐が深い。けんかはできませんね。これからも、お手やわらかにお願いいたします〉
「こちらこそ」
ではまた、と言って藤田が電話を切った。
藤田の最後の言葉には、それでも負けませんよという第二地銀の気骨を感じなくはなかったが、それよりも、アホのナカダテが優秀か。まあ、他行の支店長から名指しで部下を褒められれば、村上としても悪い気はしない。ナカダテが優秀ね。くり返し心の中で呟いてから、村上は含み笑いを浮かべた。簡単には否定しがたいかもしれない。
「しばらくぶりに、雅寿司にでも寄っていくか」
なぜか飲みたい気分になった。




