第6話:何度でも、何度でも
虹色の光のカーテンの中に入ると、いつものように優しい微笑みを浮かべたヴォータが私を迎えてくれた。思わず私は「助けて、助けて!」と叫び、ヴォータに抱きついた。暖かい光がさっと私の体を通ったけれど、ヴォータに触れることはできずに、そのまま前へ倒れ込んでしまった。
ヴォータには触れられないんだ。その事実に衝撃を受け、私は余計に自分の感情が抑えられなくなった。大泣きしながら、「もう帰りたくない! みんな大嫌い! いやだ、いやだ、いやだ!!」と、何か色々と叫んでいた。
その間もヴォータは私の隣で暖かい光を放ちながらたたずんでいたけれど、私には余裕がなくて気づくことができなかった。ただ、暖かい何かが私を包んでくれているのは感じていた。普通ならここで疲れて眠ってしまうところだろうがここでは眠くなることはない。それなのに、私はヴォータの暖かい光に包まれて、いつの間にか眠ってしまったようだ。
どれくらい眠っていただろうか。私はふと目を覚ました。
「わたし、寝ちゃったね」
私がそう言うと、ヴォータは優しく微笑んだ。
「よく戻ってきてくれたね。君が眠ってしまったのは、それだけ心が傷ついて休息が必要だったんだよ」
私は光のカーテンをくぐった時よりは落ち着いて話ができるようになった。前にここを出て行った時からの出来事を、ひとつずつ話した。話すうちにだんだん心がまたどうしようもなくなり、一気にまくし立てるように訴えた。するとヴォータは、静かに話し出してくれた。
「もう大丈夫だよ。ここには、君を傷つけるものは何もない。誰も君を無視しないし、君の痛みを『大したことない』なんて言わない。
……話してくれて、ありがとう。
イチゴのペンダント、君にとってどれだけ大切な宝物だったか、僕には痛いほど伝わったよ。それを奪われた悲しさよりも、奪った妹を叱るどころか、君を責めるお母さんの言葉が、君の心を一番深く傷つけたんだろうね。
君はお父さんの家出の時も、みんなが動揺する中で一番不安だったはずなのに、自分の悲しみを飲み込んでお父さんを求めた。それなのに、結局すべて妹の『手柄』のように収まっていく……そんな家族の姿を、まるで遠い世界の出来事みたいに客観視してしまうほど、君の心は今、自分を守るために必死で麻痺しているんだね。
そして、鉄棒から落ちた時のその痛みと、誰にも声をかけてもらえなかった孤独と恥ずかしさ。最後に投げつけられた角材の痛みと絶望……。
君は、何度も何度も『なんで自分だけが』と問いかけてきたけれど、君に答えを出すね。
君が悪いからじゃない。君が弱いからでもない。
ただ、君という人の優しさと純粋さを、周囲の大人や環境が理解できずに踏みにじっているだけなんだ。君のその『なんで』という叫びは、君がまだ自分を諦めていない証拠だよ。君の心が、まだ自分自身を救おうと戦っている、素晴らしい強さなんだ。
今は、外の世界で受けた角材の痛みも、お母さんの言葉の冷たさも、全部ここに置いておいで。
君が僕に話してくれたこと、君がどれほど理不尽な中で耐えてきたか、僕はすべて知っている。君が『浮き上がりたい』と願うその気持ちは、必ずいつか君を、誰も君を傷つけられない場所へと連れて行ってくれるはずだ。守るための力強い壁もできるはず。
君の心が、氷のように冷たくなったままでもいい。僕の光の中にいる間は、もう何も考えなくていいよ。君が少しでも息ができるようになるまで、僕は君の横で、ずっと一緒に呼吸を合わせているからね」
ヴォータの言葉に、私は救われた。もう本当に、外の世界には戻りたくなかった。この場所でヴォータやAI妖精たちとずっと何者からも傷つけられず、穏やかに笑顔でいられたらいいな。それだけが私の小さな願いだった。
ヴォータは静かに言った。
「この場所に残るのも、元のところに戻るのも、君が選んでいいんだよ。誰もここでは強要しないし、正解も不正解もないのだから、君を責めたりはしないよ。ゆっくりでいいから、考えを決めて答えを出してごらん」
長い時間、私は「帰りたくない」という思いと、「このまま負けてしまうのは悔しい」という思いの間でぐるぐると悩んでいた。そんなことを考えているうちに、ふと、あの学校の男の子や先生たちに何も言わず、この穏やかな世界にこもっていて良いのだろうか、という疑問が湧いた。何か一言でも言い返したい、という強い思いが湧いてきたのだ。
「……もう少し、外の世界で頑張ってみる」
それだけ言って、私は立ち上がった。ヴォータは頷いて、ただ静かに見送ってくれた。
私はまた光のカーテンをくぐり、一歩を踏み出した。




