番外編:【日向の計算】
私にはお兄ちゃんとお姉ちゃんがいる。
お兄ちゃんは私と歳が離れすぎているから、全然相手にされないというか、最初から見向きもされていない気がする。お母さんは、私が末っ子だからと「かわいい、かわいい」といつまでも小さい子扱いして、はっきり言ってうざい。
でも、うまく小さい子のふりしておだてて、「ママ、ママ」と言って抱きつくと、私の思い通りに何でもしてくれるし、好きなものも買ってもらえる。お姉ちゃんに何かしても、お母さんは私ではなくお姉ちゃんを怒るから、私は楽で仕方なかった。
お父さんもそうだ。もっともらしい口を叩くくせに、人に厳しく自分に甘いタイプで、自分のおかしなところすら気づいていない。
ある日、お父さんが家出をした。このままいなくなっちゃえばいいのにと私は内心思っていた。
でも、お姉ちゃんが取った電話の相手がお父さんらしかったから、私はすかさず受話器を奪い、お父さんに会いたいと猫なで声で訴えた。
そしたら、お父さんはすぐに帰ってきた。お姉ちゃんを押しのけてお父さんに抱きついたら、お父さんはすごく嬉しそうだった。
本当なら、お父さんがいなくなったピンチをみんなで乗り切って、お姉ちゃんがみんなを励ましたり慰めたりしていたから褒められるはずだったのに、私がお姉ちゃんの功績を横取りした形になった。モタモタしているお姉ちゃんが悪いんだよ。奪われたくないなら、最初からしっかりしなよって感じ。
私はお姉ちゃんが大嫌いだ。
いつも自分の世界に入り込んで、自分だけの何かを持っているようで、なんだか落ち着かない。極めつけは、その「情けなさ」だ。クラス中からいじめられても、じっと黙っている。言い返しもしない。
周りの友達から「お前んちのお姉ちゃん、いじめられてんだって? あんなんだからいじめられるのも当たり前だよな」なんて陰口を叩かれているのを聞くたび、こっちまで恥ずかしくなった。そんな奴、私なら絶対に黙っていないし、とっくにギャフンと言わせておとなしくさせるのに。
お姉ちゃんは夜になると、こっそり布団の中で声を殺して泣いていた。本当に聞いていてイライラする。そんな風にメソメソ泣いている暇があるなら、もっと戦えばいいのに。好きなことを言って、好きなように行動すればいい。相手を黙らせればいいんだよ。
ある日、お姉ちゃんが少し変わった。ただ泣くだけじゃなくて、何かであらがおうとしている気配がした。友達もいないくせに、お姉ちゃんがどうして変わったのかと興味が湧いて、何度かその後をつけたことがあったけど、いつも上手に巻かれてしまってそれが調べられなくて余計にイライラした。
ある日、家に帰ると、お母さんがお茶飲み友達のおばさんの前でお姉ちゃんの愚痴をネチネチと言っていた。
お母さんに「ほら、こっちにいらっしゃい」とニコニコと呼ばれた私は、お姉ちゃんとのすれ違い様に、ちらっと目を合わせてドヤ顔をしてやった。
『あんたの居場所はこの家にはないの。いくらあらがったって、無駄なんだから』――そう心の中で笑ってやった。お姉ちゃんはまた、負け犬みたいにドアの外へ逃げ出していった。
大人になってから、お姉ちゃんはさっさと家を出て行った。
一人暮らしができるようになったらアルバイトをしてでもこの家から出て行きたかったらしく、学校に通いながら働き、奨学金を取って完全に自立した。一度家を出てからは、就職してからも一切帰ってこない。連絡先も分からないし、これでせいせいしたと思っていた。
……だけど。
お兄ちゃんはとうの昔に出て行っているし、お姉ちゃんの連絡先も分からない。その結果、今度はターゲットを失ったお母さんが私に執着し始めた。
……今度は、私がこの家で身動きが取れなくなってしまった。
本当にお母さんはうざい。あの時、お姉ちゃんをバカにして見下していたけれど、結局、一番重い荷物を背負い込まされたのは私じゃない。
お姉ちゃんは上手に逃げ切って、今頃どこかで自由に生きているくせに。
――ねぇ、お姉ちゃん。私をこんな泥沼に置いていって、今どんな気分? このうざい親をどうしてくれようか、今はそればかり考えている私の気持ち、少しはわかる?
《※今後、別の家族視点も書く予定なので、あえて完結状態のままにしておきます/不定期で追加します》




