第3章:豪雨
冷たい一滴が瞼に落ち、俺は飛び起きた。
「ひゃっ……」
手の甲で顔を拭う。不快な濡れた感触。何度も瞬きをして、深い闇に目を慣らす。周囲の森はもう静寂に包まれていない。頭上の葉を叩く数千の雨粒が、低い轟音となって森全体を震わせていた。
寒い。
最初に強く意識したのはそれだ。エアコンの効いた快適な涼しさじゃない。肌を刺すような、芯まで凍える寒さだ。汗で湿り、今は雨水を含んだ薄いチュニックを通り抜けてくる。俺は自分の体を抱きしめ、細い腕を擦って少しでも暖をとろうとしたが、無駄だった。湿った夜気が骨まで染み込んでくる。
「雨ってのは……こんなに冷たいもんだったかよ、畜生」
寝起きと寒さで掠れた声で悪態をつく。歯の根が合わず、勝手にガチガチと鳴る。
「やっぱり、夕方のうちにキャンプ用テントを買っておくべきだった」
自分のケチで愚かな判断を悔やむ。木の上で寝るのは地上の捕食者からは安全だが、自然の猛威に対しては無防備すぎた。
頭上の葉陰から手を伸ばしてみる。冷たく絶え間ない雨粒が掌を打つ。
「助かった」手を引っ込め、同じように濡れた服で拭きながら呟く。「小雨だ。まだ土砂降りじゃない」
長く息を吐く。白い息の塊が冷たい空気の中に漂い、すぐに闇に飲まれて消えた。
「だがな……もし下でテントを張って寝ていたら、リスクが高すぎる」
夜行性の獣、他のゴブリン、あるいは未知の魔物……薄いテント一枚で、奴らの牙や爪から身を守れるはずがない。
粗く湿った木の幹に背中を預ける。背中がべっとりと張り付いて不快だ。雨は単調なリズムで降り続け、森の他の音をすべて掻き消していく。コオロギの声も、鳥の声もない。ただ水の音だけが絶え間なく続く。
「ここについて、何も知らないんだよな」と呟く。「そもそも、俺が入り込んだこの体の持ち主が誰なのかさえ分からない。あいつは何者だ? なぜエルフの子供が、こんな森の真ん中に一人でいたんだ? 捨てられたのか? 迷子か? それとも逃げてきたのか?」
疑問が頭を駆け巡るが、突き刺すような寒さが思考を遮断する。
「これじゃダメだ」
今や激しく震えている。「着替えないと。少なくとも何かしなきゃ。この気温でずぶ濡れのままじゃ、低体温症になる。中世レベルの文明で病気にかかるなんて、自殺行為だ」
かじかんで震える指で、体を幹に縛り付けていた荷造り紐を解きにかかる。結び目が水で滑り、なかなか解けない。しばらく格闘して、ようやく縛めが外れた。
狭く滑りやすい枝の上で、慎重に動く。一歩間違えれば、下の暗闇へ真っ逆さまだ。ゆっくりと、ずぶ濡れの服を脱ぎ始める。粗末なチュニックは鉛のように重く、青白い肌にへばりついてなかなか脱げない。ズボンも同様だ。
貴重品――ハンティングナイフ、まだ調理していないカップ麺の残り、グロック17、弾薬箱――が、太い枝の分かれ目に安全に収まっていることを確認する。幹のおかげで少し雨除けになっている場所だ。
俺は今、雨の中の木の上で丸裸だ。夜風が濡れた肌を撫で、衝撃的な冷たさが走り抜け、押し殺したうめき声が出る。
「寒すぎるだろ、クソッ……!」唇が紫色になり、体の震えが止まらない。
解決策が必要だ。
「システム」
震える声で呼ぶ。
青いホログラム画面が目の前に現れ、柔らかな光が青白い俺の顔を照らす。思考操作ができるインターフェースで助かった。指はもう動かせる状態じゃない。
キーワードを思い浮かべる。『レインコート』。
長い検索結果が表示される。素早く目で追い、何百ポイントもする高価なアウトドアブランドのコートは無視する。スタイルなんてどうでもいい、必要なのは機能と安さだ。
検索条件を追加する。『価格の安い順』。
リストが絞り込まれる。一番上に、求めていたものを見つけた。
[ポンチョ型レインコート - ブランド:Hofu]
説明:軽量ながら防水性の高いPVC素材のシンプルなポンチョ。調整可能なフード付き。色は黒、背中に安全用の銀色の反射テープあり。バックパックごと体を覆えるゆったりサイズ。
価格:7ポイント
「7ポイント……安いな」安堵の息を漏らす。「これにする」
迷わず [支払う] ボタンを押す。
『ブウン……』
聞き慣れてきた低い駆動音が響く。青い光の粒子が膝の上に集まり、小さな段ボール箱へと凝縮する。時間は惜しい。震える手で箱を引き裂き、丁寧さなど構わずに開ける。
中のビニール袋を引っ張り出し、破り捨て、黒く滑らかな布地を取り出す。
すぐに被った。
裸の肌に触れる感触は冷たいが、少なくとも乾いていて風を通さない。ポンチョは大きく、俺の小さな体全体を足元まで覆ってくれた。フードを頭に被り、紐を引いて耳までしっかりと覆う。
今は着替えを買わないことにした。無駄だ。この雨と湿気の中では、新しい服を出した瞬間に湿ってしまう。雨が止むまでポンチョの下で裸のまま不快感に耐える方が、濡れるだけの服にポイントを使うよりマシだ。
枝の隙間からグロックを掴む。金属の塊は氷のように冷たい。ポンチョの下に入れ、胸に抱き寄せる。親指で側面を撫で、セーフティレバーが掛かっていることを確認する。
「震えた拍子に暴発して死ぬなんて、笑い話にもならないからな」皮肉っぽく思う。
この銃だけが、見知らぬ森の暗闇の中で俺に安心感をくれる。冷たい鉄塊が、俺の命綱だ。
再び、粗い樹皮に背中を預ける。ポンチョの効果は絶大だ。滑らかな表面を雨水が流れ落ち、もう肌には染みてこない。フードを叩く雨音は、ポップコーンが弾けるような大きな音だが、不思議と心が落ち着く。
もう眠れそうにない。こんな状況で誰が寝られる? 寒さに震え、警戒し、異世界でたった一人。
時間はナメクジのように遅々として進む。俺はただ座り込み、明けないような夜明けを待ちながら、見通せない闇を見つめ続けた。目が覚めてから数時間は経っているはずだ。
雨足が強まってきた。先ほどの小雨が、森を容赦なく打ちつける豪雨へと変わる。空から滝のように水が落ち、耳をつんざくような雨音のカーテンを作り出す。
「ここまで降るとは思わなかった」不安がよぎる。「熱帯雨林にでも迷い込んだのか? それとも単なる嵐か?」
分からない。この世界の地理に関する知識はゼロだ。
『ガラガラッ!』
白い閃光が空を引き裂き、続いて雷鳴が轟き、俺は飛び上がった。心臓が早鐘を打つ。幸い、俺がいる枝はそこまで高くなく、周囲の巨木の枝葉に守られているため、強風に吹き飛ばされる心配はなさそうだ。
もう一度、持ち物を確認する。濡れた古着とゴブリンの鍋は、荷造り紐の残りで枝にしっかりと縛り付けてある。風に飛ばされたり下に落ちたりすることはないはずだ。
唯一失ったのは、段ボールで作った即席バッグだ。寝ている間に風に飛ばされたか、雨でふやけて崩壊したのだろう。だが幸い、中身はすべて出しておいた。
ポンチョの中で膝を抱え、小さなボールのように丸くなる。雨のカーテンを透かして前方を見つめ、この長く湿った夜を終わらせる最初の日差しを待ち続ける。




