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第2章:新しい名前

僕は狩猟ナイフを、チュニックを締める革のベルトに鞘ごと差し込んだ。拳銃は運よく深めに作られていたズボンのポケットに隠したが、その重みのせいで歩くたびに少し違和感がある。用済みの段ボール箱は解体して折りたたみ、茂みの奥に隠しておいた。後で何かの役に立つかもしれないからだ。


太陽はすでに完全に沈みかけていた。樹冠の上の空は深い紫に染まり、森に落ちる影は長く伸びて、木の幹の陰から形のない魔物たちがこちらを窺っているかのような錯覚を引き起こした。鳥のさえずりは鳴り潜め、代わりに虫のが辺りを支配し始めている。


僕は川岸に沿って歩き出した。基本的な論理に従えば、集落というものは水源の近くに作られるものだ。この川を辿っていけば、遅かれ早かれ文明の痕跡に辿り着くはずだ。それが美しいエルフの村であろうと、人間の薄汚い小屋であろうと構わない。重要なのは屋根があることと、あわよくば情報を得ることだ。


泥だらけの地面の上では、この小さな足の歩みはどうしても重くなる。乾いた枝を踏み折るたびに、張り詰めた耳にはそれが爆発音のように響いた。僕は常に警戒を怠らず、視線を巡らせ、ポケットの中の拳銃のグリップから決して手を離さなかった。


一時間ほど歩き続けると、足が痛み始めた。この子供の体は本当に体力がない。息は上がり、息を吐き出すたびに口から白い息が漏れる。夜の冷気が骨身に染み始めていた。


その時、ふと何かの匂いを感じ取った。


煙の匂いだ。山火事のような焦げ臭さではなく、焚き火特有の匂い。意図的に火を燃やしている匂いだ。


心臓が早鐘を打つ。


『人間か? それともエルフか?』


僕は歩みを緩め、より慎重に動いた。苔むした太い木の幹の裏に身を潜め、前方を窺う。


百メートルほど先、遠くの暗闇の中にチラチラと揺らめくオレンジ色の光が見えた。焚き火だ。


僕は目を細め、そこに誰がいるのか確かめようとした。


火を囲んで座っている、三つの影があった。粗末で薄汚れた革の鎧を着ている。その傍らには、錆びた鉄の穂先を持つ木の槍や、刃こぼれした短剣といった原始的な武器が転がっていた。


その姿は……おぞましいものだった。くすんだ緑色の肌、鉤鼻のように曲がった長い鼻、尖っているがボロボロに欠けた耳。背丈は大人の腰の高さほどしかないのに、その筋肉は硬く引き締まっているのがわかる。


『ゴブリンだ』


まさしくゴブリン。あらゆるRPGでお馴染みの、レベル1の古典的な魔物だ。だが、実際にこの目で見るのは……まったく別次元の体験だった。酸い汗と、乾いた血と、排泄物が混ざったような悪臭が風に乗って漂ってきて、胃の腑がひっくり返りそうになる。奴らは耳障りな甲高い声で下品に笑い合いながら、火の上で何かを串刺しにして焼いていた。


奴らが何を焼いているのかに気づき、嫌悪感をこらえるために唾を飲み込んだ。それは……ウサギの足だ。少なくとも、ウサギであってほしいと願った。


「くそっ」と小さく呟く。「最初の壁ってわけか」


迂回して奴らをやり過ごすことは可能だ。この森は広い。だが、胃袋が再び、今度はさらに大きく鳴り、耐え難い空腹を訴えてきた。カバン(段ボールの切れ端で作った即席のバッグだ)の中にあるカップ麺は確かに魅力的だが、食べるにはお湯がいる。そしてあのゴブリンたちは火を持っている。おまけに、システムに売れるような価値ある品を持っているかもしれない。


『賭けだな』と僕は思った。


『ゴブリン三匹に対し、拳銃を持った子供一人。簡単なはずだ、そうだろ?』


ポケットからグロック17を引き抜いた。金属の冷たい感触が、少しだけ勇気を与えてくれる。スライドを引き、薬室に弾が装填されていることを確認した。サプレッサーもきっちりと固定されている。


『FPSゲームでの練習を思い出せ。頭を狙うんだ。落ち着け。深呼吸しろ』


茂みを遮蔽物代わりにしながら、忍び足で近づく。距離は五十メートルまで縮まった。拳銃の射程としては十分な距離だ。


一番近くに座っているゴブリンに狙いを定めた。そいつは肉をむさぼり食うのに夢中で、僕に背を向けている。完璧な標的だ。


手が少し震えた。これはゲームじゃない。この引き金を引けば、生き物を殺すことになる。現実の命を、だ。


『だけど、やらなきゃ、奴らに見つかって殺されるかもしれない。それとも……ああっ、くそ、そんなことは考えるな。こいつらは魔物だ。害獣なんだ』


息を止め、照準を安定させる。銃口のフロントサイトが、ゴブリンの禿げ上がった後頭部にピタリと重なった。


カチッ。


引き金を引く。


――プスッ!


銃声は非常に小さく、まるで鋭い風切りのような音しか鳴らなかった。


ゴブリンの頭が前方にガクンと跳ねた。赤い血が噴き出し、焚き火に降りかかる。その体は崩れ落ちるように火の中に倒れ込み、燃えさかる炭の一部を消し飛ばした。


残りの二匹が驚いて飛び上がった。仲間が突然死んだのを見て、唸り声か鼻を鳴らすような独自の言語でギャーギャーと叫び始めた。武器を抜き放ち、血走った黄色い目でパニックに陥りながら周囲を見回す。


『一匹』と僕は心の中で数えた。アドレナリンが全身を駆け巡り、手の震えがピタリと止まる。感覚が研ぎ澄まされていく。


槍を構え、混乱して立ち尽くしている二匹目のゴブリンに銃口を向けた。


――プスッ!


弾丸が首を貫いた。ゴブリンは喉を掻きむしり、口からゴボゴボと不気味な血の泡を立てながら膝をつき、そのまま地面に突っ伏した。


三匹目――体が少し大きく、骨の首飾りをつけていることからリーダー格らしき個体が、ついに僕の姿を捉えた。そいつは怒り狂ったように叫び、短い剣の切っ先をこちらへ向けると、猛然と突進してきた。


「キェェェェッ!」


そのスピードに驚愕した。僕の予想より遥かに速い。五十メートルの距離があっという間に縮まっていく。


「くそっ!」


再び狙いを定めたが、奴は野生の勘を働かせたのか、ジグザグに動き回った。一発目は外れ、足元の地面を抉った。二発目は肩に命中し、よろめかせはしたが、その動きを止めるには至らなかった。


もう目の前だ。十メートル。鋭い黄色い牙から滴り落ちる涎まで見える。凄まじい悪臭が鼻を突いた。


五メートル。奴が飛び上がり、短剣を高く振りかざした。


完全にパニックに陥った。もう照準など関係ない。ただ空中に躍り出た緑色の塊に向けて銃口を突き出し、限界の速さで引き金を引いた。


――プスッ! プスッ! プスッ!


三連射。


二発が胸に叩き込まれ、もう一発が額のど真ん中を撃ち抜いた。


空中でゴブリンの体がビクンと跳ね、まるで目に見えない壁に激突したかのように突進の勢いが完全に死んだ。奴は僕のわずか一メートル前に落下し、手からすっぽ抜けた短剣が僕の足元に転がった。


静寂。


荒々しい自分の呼吸音だけが耳に響いている。心臓は痛いほど激しく脈打っていた。


僕はその場に立ち尽くし、目の前のゴブリンの死体を見下ろした。頭の周りに赤い血の池ができ、土へと染み込んでいく。


「僕が……殺したんだ」


吐き気はない。想像していたような深い罪悪感もなかった。相手が魔物だからだろうか。それとも、まだアドレナリンが効きすぎているせいか。あるのは、途方もない安堵感だけだった。僕は生きている。


僕は拳銃を再びポケットに収め、焚き火へと歩み寄った。火の上に倒れ込んでいる一匹目の死体を足で軽く蹴り退け、火種が完全に消えてしまわないようにした。


「『システム』」と呼びかける。


青いホログラムスクリーンが再び現れた。僕は『売却』のメニューへと操作を進める。


リーダー格のゴブリンが持っていた短剣を拾い上げた。刃は粗末でギザギザに刃こぼれし、少し錆びついているが、柄は粗削りな骨でできている。


『低品質なゴブリンの短剣』


『説明:ゴブリンが作った粗末な武器。品質は劣悪だが、原始的な芸術的価値がある』


『売却価格:5ポイント』


「5ポイント? 渋すぎるだろ」と僕はぼやいた。だが、ゼロよりは5ポイントのほうがマシだ。売却を実行する。短剣は青い光の閃きと共に消滅し、残高が増加した。


残り二匹のゴブリンの死体も漁る。錆びた槍(3ポイント)、肉切り包丁(2ポイント)、そして骨の首飾り(1ポイント)。合計で11ポイント。消費した弾丸のコストを補うには到底足りない。


「赤字だな」ため息をつきながら呟く。「あんなに無駄撃ちするんじゃなかった」


焚き火のそばに座り込むと、冷え切った体に心地よい暖かさが広がっていくのを感じた。段ボールの即席カバンからカップ麺を取り出す。


「さて、問題は……お湯だ」


周囲を見回す。焚き火のそばに、ゴブリンたちが使っていた凹んだ金属の鍋があった。中身は……なんだろう、怪しげな肉片が浮いたドロドロの茶色いスープだ。僕は一切の躊躇なく、それを地面にぶちまけた。匂いを嗅ぐだけでも気が狂いそうになる。


川へ向かい、川砂と水を使ってその鍋をできる限り綺麗に洗った。手の感覚が寒さで麻痺するまでゴシゴシと磨き上げる。十分に綺麗になった(少なくとも毒はないだろう)と確信したところで、澄んだ川の水をなみなみと注ぎ、火の元へと持ち帰った。


湯が沸くのを待つ間、僕は新しいナイフを取り出し、木の枝を削って即席の箸を作り始めた。


夜が更けていく。周囲の森は完全な闇に包まれ、漆黒の壁となってこの小さな焚き火の光を閉じ込めているようだ。夜行性の獣たちの鳴き声が聞こえ始める――遠くで響く狼の遠吠えや、フクロウの鳴き声。


だが、今は安全だ。武器もある。火もある。そしてもう少しで、カップ麺にありつける。


湯が沸騰し始めた。僕はそれをカップに注ぎ込み、温まった平たい石でしっかりとフタをした。馴染みのあるチキンオニオン風味のスパイスの香りが漂い始め、森の匂いやゴブリンの血の臭いを上書きしていく。それはまさに天国の香り。故郷の香りだった。


三分後、フタを開けた。熱い湯気が顔に立ち上る。最初の一口を啜り込んだ。


味はごく普通だ。化学調味料と塩と小麦粉の味。だが今の僕にとって、見知らぬ危険な異世界の森の真ん中で食べるこの一杯は、これまでの人生で味わったどんな料理よりも美味しかった。


「いただきます」


目頭に少しだけ涙が滲んだ。


スープの一滴まで残さず飲み干した。体が芯から温まる。すると、抗いがたい重い眠気が襲ってきた。


ここで眠るわけにはいかない。無防備すぎる。それに、このゴブリンの死体が他の捕食者を引き寄せるだろう。


残った川の水をぶちまけて火を消し、炭火が一切残っていないことを確認する。そして、荷物をまとめ上げた。


ゴブリンの野営地から離れ、低くて頑丈な枝を持つ大木を探して歩く。二百メートルほど離れた場所で、それを見つけた。枝が複雑に絡み合った、巨大なオークの木だ。


苦労しながらよじ登る。この小さな体は思いのほか身軽だった。太い二本の枝の間に心地よい隙間を見つける。狼を避けるには十分な高さがあり、同時に葉っぱで上手く身を隠せる場所だ。


寝ている間に落ちないよう、段ボールを縛っていたビニール紐の残りで自分の体を木の幹に括り付けた。


ザラザラとした幹に背中を預け、膝を抱え込む。膝の上にはグロックを置き、そのグリップを両手でしっかりと握りしめた。


頭上の葉の隙間から、夜空が見えた。


僕の知っている空ではない。


星の並びが違う。見知らぬ星座。そして、月が二つある。一つは青白い銀色をした大きな月、もう一つも同じく銀色をした小さな月で、東の地平線近くに低くぶら下がっていた。


「月が二つ」小さく呟く。「本当に異世界なんだな」


僕はその二つの銀の月を見つめた。


「僕の名前は……」


ふと、新しい自分に対する名前をまだ考えていなかったことに気がついた。前の名前は……なぜだかもう、しっくりこない。それに、この世界で元の名前を名乗るのも違和感がある。


新しい名前が必要だ。


お気に入りのゲームのニックネームを思い出した。


「リアム・アシュフォード」


「今から、僕の名前はリアム・アシュフォードだ」


瞼が重くなる。見知らぬ森の音と、頭上に輝く二つの月の光に包まれながら、僕はついに深い眠りに落ちた。

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