第4章:旅の再開
森の樹冠をすり抜けた青白い朝の陽光が、空中に舞う細かな雨粒を照らし出し、細い光の筋を何本も作り出していた。
僕はこの木の枝の上で、もう二時間近くもじっと座っていた――少なくとも、僕の体感ではそれくらいだ。時計がないと、時間などというものは抽象的でひどく苦痛な概念でしかない。筋肉は硬直して痛み、冷たくて硬い木肌に押し付けられていた尾てい骨はすっかり感覚がなくなっていた。
「やっとか……」
ゆっくりと体を伸ばすと、関節から小さくポキポキと音がした。
昨夜、僕をこの場所に閉じ込めていた豪雨はすでに上がり、今は細かな霧雨が気怠げに降っているだけだった。葉の傘から手を伸ばしてみる。手のひらに落ちる水滴は軽く、昨夜のような刺すような冷たさはない。だが、空気の冷え込みは相変わらずだった。
「クソッ、めちゃくちゃ寒い」腕を擦りながら悪態をつく。
この黒いポンチョのおかげで雨に濡れるのは防げているが、その下にある裸の体は震え続けている。今必要なのは、本物の暖かさだ。
「『システム』」と呼びかける。
青いホログラムスクリーンが再び起動し、薄暗い森の朝に柔らかな光を放った。すぐに検索バーに打ち込む。『防寒着』。
検索結果は数千件に及んだ。多すぎる。もっと条件を絞らなければ。雪山用の分厚いダウンジャケットなんかじゃない、そんなものを着たらこの熱帯のような森では暑すぎて動けなくなる。実用的なものが必要だ。
検索ワードを打ち直す。『防水防寒アウトドアウェア』。
選択肢が絞られた。僕の視線は、実用的でそれほど目立たないデザインの一着の服に釘付けになった。
『タクティカル・アウトドアウェア(上下セット)』
『説明:防風・防水性に優れたソフトシェルジャケット(裏地には薄手のフリースを使用)。アークテリクス製「ベータ AR ジャケット(メンズ)」のライトグレー。背面にはフードを備え、両サイドにポケット付き。パンツは耐久性が高く履き心地の良いリーバイス製の黒いジーンズ。軽量で速乾性に優れ、湿気の多い環境下でも体温を安定して保つ』
『価格:12ポイント』
「12ポイントか……結構高いな」僕は呟いた。だが、健康はお金で買うべき投資だ。カートに追加する。
さらに、手と足の保護も必要だ。この森には棘のある植物や鋭い岩、そして泥が溢れている。この子が履いていたボロボロの革靴は、もう使い物にならない。
『トレッキングシューズ(サロモン製)』
『説明:サロモン製「アウトライン ワイド ゴアテックス」。白のアッパーに黒のソール。軽量な合成素材と防水透湿性に優れたゴアテックスメンブレンを採用し、湿地や雨天でも足をドライで快適に保つ。ラバーソールは泥地や岩場、滑りやすい路面でも強力なグリップ力を発揮。ミッドソールはクッション性に優れ、長時間の歩行による衝撃と疲労を軽減。ワイドフィット設計で足元にゆとりがあり、長時間の着用でも快適さを維持する』
『価格:10ポイント』
『ハーフフィンガー・タクティカルグローブ』
『価格:3ポイント』
そして、最も重要な二つのアイテム。時間を確認するものと、荷物を入れるものだ。
『防水デジタル腕時計』
『機能:50m防水、ストップウォッチ、アラーム、バックライト』
『価格:5ポイント』
『登山用デイパック 30L(黒)』
『説明:軽量なバックパック。多数のコンパートメントを備え、レインカバーを内蔵』
『価格:12ポイント』
『ニットビーニー(白)』
『価格:2ポイント』
合計金額:44ポイント。
「カップ麺約五十個分か」合計金額を見てため息をついた。
「でも、これは長期的な投資だ」
僕は『支払い』ボタンを押した。
ブゥゥン……。
青い光が明滅し、大きな段ボール箱が膝の上に現れた。素早く箱を開ける。新品の靴のゴムの匂いと、化学繊維の匂いが漂ってきた。
僕は木の枝の上で、急いで服を着た。履き心地の良い黒のジーンズに脚を通し、温かいソフトシェルジャケットを羽織り、新しいトレッキングシューズの紐をしっかりと結んだ。最後に、左手首にデジタル腕時計を装着する。
時刻を06:00に設定した。
「今が朝の六時で、この世界が一日二十四時間で回っていると仮定して、だな」僕は呟いた。
「間違っていたら、後で調整すればいい」
白いニット帽を深く被り、尖った耳が完全に隠れていることを確認した。
これは重要なことだ。この世界の住人がエルフに対してどんな感情を抱いているのか、僕には分からない。多くのファンタジー作品において、エルフはその容姿ゆえに奴隷狩りの標的になることが多い。中世のような服装をした子供が森の真ん中で一人でいたことを考えれば、彼がそうした狩りの被害者であるか、あるいは逃亡者である可能性は極めて高い。素性を隠すことは、最も安全な選択だ。
服を着終え、荷物を整理する。濡れてカビ臭い元の服は、先ほどの商品の包装に使われていたビニール袋に入れ、新しいバックパックの一番上に押し込んだ。へこんだゴブリンの鍋と、食べ残しのカップ麺もそこに入れた。バックパックの底からレインカバーを引き出し、全体を覆って霧雨から守る。
次は武器だ。
グロック17からマガジンを抜き取る。
チャキッ。
残弾は10発。昨夜、ゴブリンたちに7発プレゼントしてやったからだ。
ポケットから弾薬箱を取り出し、金色に輝く真新しい弾丸を7発取り出し、一発ずつマガジンに押し込んでいく。
カチッ。カチッ。カチッ。再び満杯になった。
マガジンを銃に戻すが、スライドは引かない。安全装置もかけたままにしておく。安全第一だ。残りの弾薬箱は、新しいジャケットの深いポケットにしまった。
バックパックを背負い、その上から再び黒いポンチョをすっぽりと被った。体が随分と大きく、そして重くなったように感じるが、同時にとても暖かく、安心感があった。
「よし、そろそろ降りるか」
右手に拳銃を持ち、左手で濡れて滑りやすい木の幹を掴む。足を伸ばし、幹の足場を探りながら降り始めた。
ズリッ!
「しまった!」
新しい靴が濡れた苔で滑り、手が幹から離れてしまった。
ドサッ!
地面に激突し、硬い木の根に思いきり尻を打ち付けた。
「痛っ……」可哀想なお尻をさすりながら呻き声を上げた。
「枝があんまり高くなくて助かった。じゃなきゃ、腰の骨を折ってここで僕の冒険は終了するところだったぞ」
ゆっくりと立ち上がり、黒いポンチョについた泥を払い落とす。
「鋭い岩の上に落ちなくて本当に良かった」
大きく深呼吸をして、驚きで激しく打つ心臓を落ち着かせた。深刻な怪我がないことを確認してから、歩き始める。目標は、川に戻って下流へ向かうことだ。
だがその前に、ゴブリンの野営地へと戻った。
「まだここにいたか」泥だらけの地面に硬直して転がっている三つの緑色の死体を見つめながら呟く。
ハエが集まり始めていたが、死体自体は手つかずのままだった。
「この辺りに魔物がいないのか、それともゴブリンの肉は見た目通り不味いのか、どっちかだな」僕は結論づけた。
「まあいい。とにかく、早くここから離れよう」
腐敗していく死体を放置し、再び川岸に沿って歩き始めた。
新しいトレッキングシューズのおかげで、足取りは格段に軽くなった。慎重に歩を進めながら、常に周囲に視線を巡らせ、どんな小さな物音にも耳を澄ませる。この森は……地球の熱帯雨林にとてもよく似ている。巨大なシダ植物、絡みつく蔓、そして高い湿度。僕は今、この世界の赤道付近にいるのだろうか?
歩いている途中、奇妙な生き物を何度か見かけた。ニワトリほどの大きさの羽の生えたトカゲが木々の間を飛び交い、巨大な昆虫の群れが腐った倒木を這い回っている。時折、頭上を巨大な生物が横切っていくのも見えた。その中にはワイバーンやグリフォンのように僕の知識で判別できるものもあったが、残りはまったく見たこともない異形の生き物だった。
幸いなことに、それらの生物は僕の存在に気づいていないようだった。あるいは、木々の間を動く奇妙な黒い影には興味がないのかもしれない。風に揺れるポンチョの姿は、奴らの目には巨大な虫か何かに映っているのかもしれない。
「くそっ、僕は馬鹿か」森の緑と対照的な黒いポンチョを見て、自分を呪った。
「緑色か迷彩柄を買うべきだったんだ」
川のせせらぎが大きくなり、そこに別の聞き慣れない音が混ざり始めた。
「グゴォ……グゴォ……」
豚のいびきのような音だが、もっと重く、しゃがれている。
僕は立ち止まり、背の高いシダの茂みの後ろに身を隠した。そっと葉をかき分け、前方を覗き込む。
そこには、川のほとりに立つ巨大な人型の生物がいた。身長は二メートル近くあり、太鼓腹が前に突き出ている。頭部は完全にイノシシのそれだ。長い鼻先、下顎から突き出た牙、そして小さく黒い瞳。皮膚は濃い茶色で、毛はほとんど生えていない。
その姿は、『西遊記』に出てくる豚の妖怪そのものだった。
『オークだ』
奴は革のズボンを履き、厚い革で作られた肩当てのような防具を身につけている。手には、無骨で重そうな大剣を握っていた。
「ここを通るわけにはいかない」とパニックになりながら考える。オークは僕の進路の真上に立ち塞がっていた。
「駄目だ……もし森の中へ迂回したら、迷子になるか、もっと凶悪な魔物に遭遇するかもしれない。それに、迂回すれば時間もロスする」
唾を飲み込む。手はポケットを探り、グロック17のグリップを握りしめた。
『殺すしかない』
決断は早かった。冷酷なほどに。奴らは人間じゃない。魔物だ。殺したところで悪夢にうなされることはない。
深呼吸をし、心拍数を落ち着かせる。音を立てないようにゆっくりとスライドを引き、安全装置を外し、狙いを定めた。
距離は約二十メートル。標的は、あの巨大な豚の頭。
――プスッ!
手の中で反動が弾けた。
遠くで、オークの頭が後ろに跳ね上がった。こめかみに赤い穴が開いている。奴は悲鳴を上げる暇も、何が起きたのか理解する暇もなかった。その巨体はドスンという鈍い音を立てて泥を跳ね上げ、地面に倒れ伏した。
新鮮な赤い血が流れ出し、澄んだ川の水と混ざり合っていく。
僕は数秒間待ち、奴が確実に死んだことを確認してから隠れ場所を出た。
「ペッ、なんて醜いツラだ」豚の顔に向かって唾を吐き捨てる。ゴブリンよりもさらに酷い悪臭がした。
しゃがみ込み、死体を調べる。
「システム、『売却』」
大剣に触れる。
『オークの大剣』
『説明:粗削りな力任せの重兵器。鉄の品質は低い』
『売却価格:15ポイント』
悪くない。売却する。大剣が消え失せた。
革の服と肩当てを見下ろす。汚れ、臭く、シラミだらけだ。
「いや、触りたくもない。昨日のゴブリンの身ぐるみを剥ぐだけでも、一晩中吐き気がしたんだからな」
立ち上がり、立ち去ろうとしたが、ふと気づいた。川岸にこんな巨大な死体があれば、嫌でも目立つ。もし近くに他のオークがいれば、侵入者の存在に気づかれてしまう。
「隠さなきゃ」
僕はオークの剛毛が生えた太い両手首を掴み、小道から引きずり出そうとした。
「んんぐぐっ……!」
ありったけの力で引っ張ったが、足が泥に滑る。死体は微動だにしない。
「くそっ、重すぎる!」息を切らしながら文句を言う。
「二百キロは軽くあるぞ!」
もう一度挑戦し、数センチずつ引きずろうとする。背中に冷や汗が伝い落ちた。
「クソッ、諦めた」オークの手を離した。疲労で手が震えている。
「このガリガリの子供の体じゃ、こんなバカげた重さは動かせない」
周囲を見回す。茂みがある。
僕は狩猟ナイフを取り出し、生い茂る茂みの枝を切り落とし始めた。それをオークの死体の上に重ねていき、何層にもして覆い隠す。その後、川の泥と砂を一つかみ取り、葉っぱの山の上に振りかけて血の匂いを誤魔化した。
「ファンタジー小説のオークは、本物のイノシシ並みに鼻が利く設定だからな」川の水で手を洗いながら呟く。
「これで奴らの目を欺けるか、少なくとも時間稼ぎにはなってくれるといいんだが」
作業を終えると、再び立ち上がり、拳銃の確認をしてから川沿いの旅を再開した。目の前に広がる森は依然として暗く謎に満ちており、霧雨が僕の足跡を濡らし続けていた。
『警戒を怠るな』
『必ず、他にもいるはずだ』




