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第25話 気が付かないものなのか――

 玉座の間の巨大な扉が音もなくゆっくりと開いて、その隙間から流れ込む冷たい空気が、俺の背筋をぞくりと震わせた。


 兵士に促され、俺は俯いたまま歩を進める。


 処刑を待つ罪人が王の前に立つ――それがどういう意味か、考えるまでもない。爺さんの「悪いようにはならん」という言葉を信じていた自分が、今はただ情けない。


 然るべき処遇――そんなもの、処刑以外にあるわけがない。


 震える膝をなんとか支えながら、玉座の間の中央へと進むと、兵士たちは俺から数歩下がった場所で一列に並び立ち止まった。


 俺は国王の面前に、たった一人で立たされた。


「面を上げよ。」


 低く、よく通る声は王の声だとすぐに分かった。


 だが俺は、恐ろしさでなかなか顔を上げることが出来なかった。顔をあげた瞬間、王に死刑宣告されるような気がして、どうしてもその顔が見られないのだ。


「そなたが、ノエル=マイヤーで相違ないな。」


「……はい。」


 静まり返った玉座の間に俺の声が吸い込まれていった。


「まず一つ問おう――」


 運命の時がついに訪れた。俺は緊張のあまりごくりと生唾を呑む。


「騎士団長セバスト=マイヤーを殺害したのは、そなたで間違いはないか?」


「……はい。間違いありません。」


 そう答えた瞬間――これで処刑が確定した――そう思った。


 だが、その直後――国王は事件とは直接的に関係の無い話題を俺に尋ねてきたのである。


「では次だ。蓬莱金時とはいかなる食べ物か。」


「……え?」


 処刑の話じゃないのか? 俺は思わず顔を上げそうになったが、慌てて俯き直した。


「芋で御座います……」


「芋か。ふむ。では、その味は甘く、この世のものとは思えぬほど美味と聞いたが、本当か?」


「た、多少大げさで御座いますが……かなりの美味で御座います。」


「そうか。では、その芋は何処で手に入るのだ?」


「わ、私も……たまたま街の物売りの少女から買ったものですから……入手方法までは……」


「ふむ。ではその少女は王都の物売りなのか?」


「は、はい……おそらくは……」


「分かった。後ほど部下に探させるとしよう。」


 いや、何の話だよ――


 俺は混乱していた。処刑の話をされると思っていたのに、蓬莱金時の味や入手方法だなんて。


 しかし、王は満足そうに頷き、さらに続けた。


「では次だ。人を転ばせる方法について、そなたは何か知っているか?」


 今度は ロウ爺さんの魔法についての質問である。


「い、いえ……別に……」


「そうか。では、そなたはどうやって旧王城に入った? あの抜け道は使わなかったのか?」


 旧王城――ワイズと一緒に入口に立ったあの場所だ。

 

 扉が開かなければ抜け道を使おうと話した、あの時のことが頭をよぎった。


 まさか……


 不意に俺の胸が締め付けられる。


 おそらく、ワイズが色々と聞かれ喋らされたに違いない。なぜなら 抜け穴のことを知っているのは彼しかいないのだ。


「……すみません。俺は……その……」


 言葉が出ない。

 王は俺の返答を待つように、静かに言った。


「正直に言え。知っているのだろう? 秘密の抜け穴を?」


「……はい……」


「お前は過去に友とその抜け穴を使ったのだろう? 外の世界を知るために。そしてそのあと、友に危機が迫った時、身を呈してその命を救ったのではなかったか?」


 友――? そんな昔話を、どうして王様が……?


 俺は混乱し、言葉を失った。あの時のことは俺とあいつしか知らないはずなのに……まさか国王がそんなことまで知っているとは思えなかった。


 だがその時、俺はふと懐かしい声が聞こえた様な気がした。


「まさか、ここまで言っても気が付かないものなのか……」


 その声はまるであの時の――

 

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