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41 告白は突然に。


「これは一体……」


 何が起こっているのか、何が起こったのか、ひと目には太平は理解できなかった。

 いやさ、この状況を一目見て、イクの指先に二人がメロメロになったのだとわかったとしたら、それは察しが良いを通り越してエスパーでしか無い。

 さて、太平が悲鳴を耳にして、女湯にやってくるのには、二つの勇気が必要だった。

 一つは、女性を襲っているであろう危機に対して、無力な一般人である自分が立ち向かわなければならないという勇気。

 もう一つは、神聖不可侵な乙女の園である『女湯エルドラド』に、足を踏み入れなければならないという勇気、

 だが、太平の決断に時間はかからなかった。

 要求される二つの勇気の量よりも、遥かに己の淫らな欲望のほうが優っていたからだ!

 

 ――大丈夫ですか! 等と、当り障りのない台詞を言いつつ、出来る限りこの眼福を味わう時間を引き延ばす。それが今の俺に与えられたミッション!


 今の太平にとっては、女湯を覗いたことにより下がるであろう好感度よりも、一生見ることがないであろう異世界の美女の裸体を目に焼き付けることが何よりも優先されるべき事柄だった。

 しかし、残念なことに、マギアとリンデは湯船に肩まで浸かっており、透明度の低い温泉のお湯の中では、輪郭すら見ることは出来なかった。

 太平は心の中で神を恨んだ。

 それと同時に、リンデと視線が交わる。


 ――エッチ! 痴漢! 死ね! と、お決まりの三連続コンボで罵倒される! 桶やら石鹸やら投げつけられてしまう! ああ……何一つ見ていないのに、好感度だけ下がってしまうぅぅぅ!


 よくあるパターンで、投げつけられるであろう桶に、太平は自分の頭を守ろうと手でガードする。だが、太平はわかっているようで理解できていなかった。リンデが天使のような優しい心の持ち主であることを……。


「あのぉ〜……今のは声は何でもないので、気にしないでくださだいね。心配してくださって、有り難うございます」


 投げられたのは労りの言葉だった。

 

「いや、何でもなかったんだったら……あの、その、いいんです。はい、ホントに……はい」


 二人はお互い照れながら、あどけなく笑いあった。

 だが、この時悲劇は加速を付けて向かっていた。

 ジョーズの背びれのように、可愛らしいお尻をプカリと浮かび上がらせながら、イクがリンデの背後に音もなく忍び寄っていたのだ。

 そして、イクは獲物に容赦なく牙をむく。

 正確に言うならば、リンデのなだらかな胸の山頂部分に、高速バイブレーションの指先を押し当てたというのが正しいだろう。


「ひゃん!」


 驚きと甘い声のミックスされた声を上げる――と同時に、リンデは立ち上がってしまった。


「え……」


 そして太平は見た。一糸まとわぬリンデの裸体を……。

 

「ひゃっ……」


 そしてリンデは見られた。一糸まとわぬ裸体を太平に……。

 そのまま数秒の間、時間が凍りついたかのように二人は固まってしまった。

 その凍った時間を溶かしたのは。


「アンタたち何やってるの?」


 と、ようやく快楽の園から帰還を果たしたマギアの一言だった。


「何を……ナニを!? いや、それはあの……」


「は、はわぁぁぁぁぁっ」


 正気に戻ったリンデは、激しい水しぶきを立たせながら湯船の中に、頭の先まで潜ってしまった。湯船の中で、恥ずかしさのあまりマグマよりも熱くなるリンデは、今までにない混乱の渦に陥っていた。

 

 ――見られた……。見られた……。男の人に全部見られた……。どうしよう……。どうしたらいいの……。パパ……ママ……。どうしたらいいの……。


 リンデの脳裏に両親の姿が浮かび上がる。


『リンデ、そんな時は、パパとママがそうであったように、こうすればいいんだよ』


 リンデの頭の中の両親は、優しく微笑みながら、リンデの耳殿でアドバイスを囁いた。


『いいの? 本当にそれでいいの? ねぇ、パパ! ママ!』


 パパとママが、親指を突き立ててバッチグーのポーズを決める。そしてそのまま二人は、手を繋いでお花畑の中を駆け抜けていくのだった。


『わかった、パパ、ママ』


 決心のついたリンデは顔の半分だけを湯船から出すと、ぷくぷくぷくっと口から空気を吐き出しながら、ジーっと太平を見つめる。顔を見ただけで、羞恥心に負けて全力疾走で逃げ出したくなる。

 見つめられた太平も、同じく逃げ出したい思いを必死で押さえ込みながら、言い訳の言葉を頭の中で検索し続けていた。


「えっと、これは不可抗力でしてね……。あの……その……あっと……」


 しかし、完全に混沌カオスのただ中にいる太平は、しどろもどろになりまともな言葉すら口にすることは出来ないでいた。

 

「ぶく……お……ぶくぶく……つき……ぶく……あ……ぶくぶくぶく……」


 リンデのぷくぷくと言う口から言葉が漏れた。ブクブクブクと空気を全部吐き出した後、さらに大きく深呼吸、またもブクブクと言葉として聞き取れない声を発する。


「リンデさん……どうしたんですか?」


 リンデはうつむき加減で自分の顔を両手のひらで隠し、指の隙間から太平の様子をうかがう。そして、ゆっくりとゆっくりと、手を下げていき顔を出すと、太平を上目遣いで見つめた。十秒間、そのままリンデの動きが止まる。一度はした決意ではあったが、この水面に漂う木の葉のように揺れているのだ。リンデの心が静まった湖面のように落ち着くのに、さらに十秒を要した。


 ――言うよ? 言うよ? 本当に言うよ? わたし言うよ? ねぇパパ、ママ! 言うよ!!


 リンデの瞳が見開かれる。水中で両腕を一、二の、三!! と振って勢いをつけると、その勢いを利用して口から言葉を吐き出す。

 

「わたしと、結婚を前提にしてお付き合いしてください!!」


 リンデ愛の告白、インザ温泉であった。



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