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40 指先の魔術師。



「こっちだ! こっち!」


 得意気に先頭きって進むシバさんの背を、太平は疑いの眼差しで見つめていた。

 一度は『温泉』というワードに胸をときめかせた太平ではあったが、冷静になって考えてみれば、古代魔法文明の地下迷宮に温泉があるわけがない。

 どうせこの駄犬が、またホラを吹いているか、はたまたついに頭がアレなことになってしまったのか、そのどちらかに違いないのだ。

 とは言え、あまりもテンション高くキャンキャンと喚き散らすので、渋々に太平、イク、マギア、リンデは、温泉があるという場所に着いて行くことになった。

 脇道にそれて細長い道を十分ほど歩いていると、空気の中に湿り気を感じだす。それと同時に怪しげな霧が漂いだし、皆の顔に緊張の糸が張り詰める。


「もしかすると、幻惑の魔法の一種かもしれないわ」


 マギアが聖杖アヴァロンを手に身構える。もしもの場合に備えて、呪文の準備は怠らない。

 が、その心配は徒労に終わった。

 それは霧ではなく……湯気だったのだ。

 湯気が晴れて、その中に浮かび上がった光景に皆は絶句した。


「これは間違いなく温泉……。温泉じゃないという人がいたら連れて来なさい、説教してさしあげます」


 と、突然太平が訳のわからないことを言ってしまうほどに、目の前に広がる光景は異質極まりないものだった。

 地下迷宮の奥深くに、明らかに人の手で作られたであろう、温泉がそこに存在していた。何故人の手で作られたとわかるのか? それは――わざわざ脱衣所までもが存在していたのだ。しかも、男用は青色の、女用はピンク色の、それぞれ脱衣カゴすら用意されているという、至れり尽くせりな状態で。

 さらには……。

 

「これは……」


 太平は自分の頭に触れている安っぽい布切れを見て、自分の目を疑った。


「のれん……?!」


 のれん、それとしか呼びようのない布切れには、見たことのない文字書かれていた。が、それがなんと書かれているのか、太平は異世界人であるはずなのにひと目でわかった。わかってしまったのだ。

 

「男湯……だよな、これ多分」


 反対側の脱衣所にも同じようにのれんがかかっており、そこに書かれている文字は間違いなく『女湯』であろう。


 

 一見、大理石のような石材を用いたローマ式浴場の作りだというのに、脱衣所は何故か日本式。しかして、これを作ったのは異世界の古代魔法文明人……。全くわけがわからない。

 太平は頭が痛くなるのを感じた。

 信じられない状況に一時は戸惑っていたマギアだったが、彼女の中の知的好奇心の塊が、ムクムクと湧き上がってきては、この異常な温泉を調べずにはいられなかった。

 マギアは恐る恐る湯船の中に、白くて細長い指を入れてかき混ぜてみる。指先に絡みつくお湯は、丁度良い湯加減だった。


「人の害になるような、魔力は感じられない。信じられないけれど、これはただの温泉だわ……」


「ふふん。吾輩の言った通りだろ? 吾輩の言葉に嘘偽りなど無いのだっ!」


 ほれ見たことかとばかりに、自慢気に語るシバさんを、まるでそこらに転がっている石ころのように蹴り飛ばすと、他の変わったものはないかと周囲に目を向ける。


「ここに古代文字が書かれているわ……」


 マギアは、湯船の横に作られた石碑のようなものに、文字が刻み込まれているを発見した。


「古代文字といえども、このわたしにかかればチョチョイのチョイよ。だって天才だもの。読んでみるわね。なになに……この温泉の効能は冷え性、肩こり、神経痛、とくに美容に効果があり……」


 マギアは口をあんぐりと開けて絶句した。

 

「いやいやいや、マギアさん、こんな所でボケないでいいんですよ?」


 太平は、まるで彫像のように固まってしまっているマギアの肩をトントンと叩いてみる。

 すると、石化の魔法が溶けたかのようにマギアはくるりと太平の方を向くと、髪をかき乱しながら……。


「ホントに……ホントに……そう書いてるのよぉォォォォ! どうなってるの!? 何なの罠なの?」


 と、半狂乱になりながら叫んだ。

 が、その後に続く言葉に、太平は耳を疑わざるを得なかった。


「罠だとわかっていても《美容》に効果があると書かれていたら、入るしか無いじゃないの! そうでしょ!!」


 太平は見た。見てしまった。マギアの瞳の中に《本気マジ》と書かれた文字が浮かび上がっているのを……。

 女子の美容にかける恐ろしさを太平は見せつけられた気がした。




 ※※※※


「元から美しいわたしが、温泉の力を借りてさらなる美しさを手に入れるわけね……。うふふふふ……」


 更に美しなった自分の姿を脳裏に思い浮かべては、欲にまみれた笑みを浮かべるマギア。

 そして、その横で……。


「胸が……胸が大きくなる……」


 と、呪文のようにブツブツと呟き続けるリンデがいた。

 最初は、温泉にはいろうとするマギアを止めようとしていたリンデだったが、《美容》の中に胸を大きくする効果が含まれていることがわかった途端、手のひらをくるっと返してしまったのだ。


「イクちゃんも一緒に入る?」


 リンデの言葉に、イクは少しの間うつむいて考え込んでいたが、凹凸の全くない自分の胸を撫でると、小さく頷くのだった。


 こうして、女湯へと向かう三人を見送った太平は、何か起こったら知らせる係りとして、脱衣所の前で見張りをする事になった。


「こんな事になるとはな……」

 

 そして、シバさんはというと……。


「吾輩の世紀の大発見を勇者のやつにも教えてやらないとな! 呼んでくる!」


 と、勇者の元へと駆け出していった。

 こうして一人取り残された太平は、脱衣所の壁にもたれかかると、時たま温泉の中から聞こえる女子の声に聞き耳を立たせては、妄想にふけるにだった。


 ※※※※


「うーん、気持ちいいわね〜。まさか、こんな所でお風呂に入れるとは思っても見なかったわ」


 マギアは長い髪を後ろで結わえてまとめると、足先からゆっくりと湯船に浸かっていく。そして肩まで浸かると、満足そうに目を細めては、天井を見上げながら湯気の中にふぅ〜っとゆっくりと息を吐きだした。

 リンデは女性らしいマギアの仕草や身体つきを目にして、切なく深い溜息をついた。

 自分はといえば、髪は短く、胸は小さく、そして……。


――ううん。頑張ろう。


 ネガティブな気持ちを吹き飛ばすように首を大きく振ると、自分を励ますように心の中でガッツポーズを取る。そして、当初の目的を遂行すべく、湯船に浸かるのだった。

 

「やっぱり温泉の中でマッサージするのいいのかな……」


 血行を良くさせ刺激を与えることで、胸の成長を促す!!

 リンデは胸に手を当てて揉みしだこうとしては……恥ずかしさのあまり躊躇してしまう。


「む、胸のためなんだから……」


 顔を真赤にしながら、リンデは意を決して自分の胸に手を当てると、ゆっくりともみほぐし始める。 それを見たイクが、横に並んで真似をしてみるのだが、なにか合点がいかないようで、首を傾げる。

 

「……そうだ」


 何かを閃いたイクは、リンデの真後ろに立つと、いきなり後ろから抱きついた。


「え? どうしたのイクちゃん?」


 不思議がるリンデだったが、その次の瞬間ビクッと身体を仰け反らせる。


「い、イクちゃん……そ、それは……だ、だめぇ……」


 後ろから抱きついたイクは、リンデの胸を上に下に、右に左へと、縦横無尽に揉みしだきだしたのだ。リンデはもがきながら、なんとかイクの腕を振りほどこうとした。しかしその刹那、今までにない強烈な快楽がリンデの身体の中を走る。そう、なんとイクが、リンデの胸の先端部分の突起物を中心的にこねくり回しだしたではないか!!


「あん……いやぁ……」


 敏感な部分を刺激される度に、リンデは身体をよじらせては甘い声が出そうになるのを、必死で堪える。だが、イクがテクニシャンなのか、それに抗うことが出来ずに淫らな声が漏れでてしまう。


「……興味深い。とてもとても興味深い」


 イクの中に何かが芽生えた瞬間だった。イクの小さな胸が踊った。

 ペロペロに続く、新しい感動を覚えたイクは、ブレーキの壊れた特急電車のように暴走した。まさぐる指先は、まるで一本一本の指が、別の生き物であるかのように、フレキシブルに動いては、絶妙なポイントを抑える。更には緩急をつけることで、予想のできないアタックを仕掛けることに成功した。

 哀れにもイクの餌食になってしまったリンデは、ただただ快楽に中に落ちていくだけで……。


「ら、らめぇぇぇぇぇぇぇぇっ……」


 と、最後に一際大きく身体をのけぞらせると、ビクッビクッと身体を小刻みに痙攣させながら、湯船の中へと沈んでいくのだった……。


「次……」


 もはや獲物を狙う猛禽類と化したイクが、次にロックオンしたのは、我関せずとばかりに鼻歌交じりでノンビリと湯船を楽しんでいたマギアだった。

 ニヤリと不敵に笑うイクの目に気がついた時には、時既に遅く……。

 獲物を狙うピラニアへと化したイクは、湯船の中をジェットボートの様に超高速で突っ切り、マギアの背後に回り込むと、躊躇なく先程よりも大物の獲物へと指を這わせる。


「ら、らめぇぇぇぇぇっぇぇぇ」


 こうして、指先の魔術師とかしたイクの手によって、新たなる犠牲者が誕生したのだった。

 

 そして、この二人の悲鳴にも似た声は、脱衣所で見張りをしている太平にも、当然のように届いているわけで……。


「大丈夫ですかリンデさん!!」


 大急ぎで湯船へと駆けつけた太平が、湯気の中に見たものは……。

 頬を赤く染めてグッタリとしている、マギアとリンデ。

 そして、満足そうに湯船の中をプカプカと泳いでいるイクの姿だった。


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