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31 地竜王エミリアです、ごめんなさい。


「ちょっと待て! そこのいかにも王様っぽい杖を持ったお爺さんでもなく、有能な参謀に見せかけて、実は影で実権を握ってそうな長身ロン毛のイケメンでもなく、そこのひたすら頭を下げ続けながら、言葉の最後に全部『ごめんなさい』をつけてる女の子が、地竜王だって言うのか!? と言うか、見た目全員人間じゃねえかよ!」


 太平は長々とした説明台詞を、舌を噛むこと無く言い終えた。


「地竜王っぽくなくてごめんなさい! 人間の姿でごめんなさい!」


 少女はさっきよりもオーバーな動きで頭を下げた。その時、履いていたスカートの中から尻尾がちらりと顔を出した。


「尻尾が……」


 少女は大慌てで尻尾をスカートの中に隠した。そして、顔を赤らめながら……


「尻尾が見えちゃってごめんなさいィィィ! わたし竜人の姿になる時、ついつい尻尾が出ちゃうんです――ごめんなさいです!」


 最後に『ごめんなさい』をつけるのを忘れかけたようで、付け足すかのように『ごめんなさい』をつけるのだった。

 太平は改めて少女の姿をしげしげと観察した。

 服装はたしかに王族っぽい感じのドレスを身にまとっているが、顔立ちは貴族や王族というよりも、ぷにぷにほっぺが可愛らしい、どこか垢抜けない田舎少女と言う感じだった。髪型は毛先がクルリとカールした赤毛がかったミディアムヘアーで、太平と目が合うと恥ずかしそうにしながら、その赤毛を指先でモジモジといじりまわしていた。

 ルルはその太平の少女に向けた視線に気がついたのか、チョンチョンと太平の肩を突付いては小声で耳打ちをした。

 

「一応説明しとくけど、竜族は人の姿にもなれるのよ。後一応王族なんだから、言葉使いは気をつけといた方が良いわよ? まぁ、わたしはそういうのフランクな感じだけどね」


 ルルもヴァンパイアの真祖であり王族である。太平からしてみれば、真祖と竜王、どちらが偉いのかなどさっぱりわからないのだが、その両方共がニートである自分より遙かに上に地位に居ることだけは理解できた。そう考えだすと、このぷにぷにほっぺも高貴に見えてくるから不思議である。


「は、はぁ〜。無礼な発言を、平に平にご容赦をー!」


 太平は時代ががったセリフを言いながら、土下座をしてみせた。威張るのは苦手だが、平伏するのはどちらかと言えば得意であるので、土下座なんてものは息をするくらいに自然とできてしまうのである。


 ――長いものには巻かれろ、偉いものには頭を下げろ。人生ってそんなもんなのよね……。


 太平は二十一歳にして、世の中をそういうものだと感じてしまうまでに、軽くやさぐれていた。

 

「ほっほっほ、なかなか面白い青年だのぉ〜。そうそう、ある意味わしを地竜王だと呼んだのは、間違いではなかったんだぞい。なんせわしは先代の地竜王じゃからのぉ〜」


 そう言って、先代地竜王と名乗った老人は、嬉しそうに顎に生えた髭をいじってみせた。

 

「こほん、紹介が遅れてしまったのぉ。わしの名前は『ディグルス・ロウ・ガルブレン』そうじゃな、わしのことはガル爺ちゃんとでも呼んでもらおうかのぉ〜。そして、ここにおるいかにも裏で実権を握ってそうな男が……」


 ガルブレンが隣りにいる長身のイケメンに視線を向けると、ヤレヤレといった面持ちで、男が口を開く。

 

「わたしの名は『ドゥル・アン・グラード』地竜王さまにお仕えする従者であります」


 男は氷のように冷酷で無感情な視線を太平に向けた。それはイクが見せる虚ろな視線とはまるで違い、敵意、または差別的な物を含む視線であった。先代地竜王、地竜王を前にして、言葉を謹んではいるが、グラートは許されることならば人間と口を利くことにすら吐き気を感じていた。人とは竜に比べて劣る存在であり、奴隷のようなものであると、グラートは信じていたからだ。しかし、これはグラートの考え方がおかしいのではなく、むしろ竜族にとっては一般的なものである。竜族とはそれだけ高貴なものであり、神に次ぐ位置にあるものだと、一般的な竜族は考えているだ。

 鈍感である太平も、その視線が意味することは薄っすらと察することが出来た。故に、後に二歩ほど下がりかけてしまったのだが、その背中をルルが優しく支えてくれた。


「安心しなさい、取って食べたりなんかはしないわよ。それに、地竜王は人間に対して、好意を抱いている珍しい竜族なんだから」


 その言葉を聞いて、太平は怯えながらも、地竜王である少女に視線を向ける。その視線を受けて、少女は顔を真赤にしながらも口を開いた。


「わ、わたしの名前は『ディグルス・ロウ・エミリア』です! こんなんなのに地竜王やってます、ごめんなさい! グラードはいつもこんな感じですけど、悪い竜じゃないんです、ごめんなさい! それにわたしは人間さんが大好きです。人間さんは弱くてすぐに死んじゃって、頭もあんまり良くないけれど、大好きなんです! ――あ、酷いこと言っちゃった、ごめんなさいです……」


 ガル爺ちゃんが宰相で、グラードと言う男が地竜王、そしてこのエミリアが侍女というならば、太平にもすぐに合点がいったかもしれないが、この落ち着きの欠片もない低姿勢な少女が、地竜王と言われてもまるでピンとこなかった。

 そんなやり取りを、傍観者を気取りながら見ていたルルが、思い出したかようにモン○ターボールを取り出す。

 

「そうそう、忘れてた。これを渡さないとね」


 ルルが手に持っていたモン○ターボールを、ヒョイッとガル爺に向けて投げた。

 ガル爺はそれをキャッチすると、眉間にシワを寄せながら、そのボールの中を覗き込む。その中には仮死状態の赤竜バルカンが封じ込められているのが見えた。


「ふむ、この竜族の面汚し目が……。うむ、確かに受け取らせてもらったぞ。これで炎竜王のやつを少しは懲らしめることが出来るわい」


「後、お礼と言っては何なんだけど、解決してもらいたい問題が二つあるんだけど」


「ん、なんじゃ言ってるがいよい」


「一つは、この世界の遊園地ってところを、この糞馬鹿赤竜バルカンがぶっ壊しちゃってね。それの修復を……」


「うむ、この世界に迷惑をかけたと合っては、竜族の恥じゃからな。グラード、お主が行って修復をするが良い」


「はい」


「あ、後ね、バルカンのやつ、あそこの山にも穴を開けちゃったから、それもついでに直しといてね?」


 ルルはイクの謎の怪光線で大穴の空いた山を指差した。これもバルカンのせいにして、ついでに修復してもらおうという魂胆なのである。

 その山に空いた大穴を見て、グラードはいくらかいぶかしんだが、何も言わずにコクリを頷くと、転移魔法を発動させて、その場から姿を消したのだった。


「……転移?」


 転移魔法を使ったグラードにルルは何かしら引っかかるところがあったのだが、今はもう一つの大きな問題を解決させることが先決だった。


「ケーキ……」


 ジト目で睨みつけてくるのは。この状況などお構いなしに、ただひたすらケーキを求めるイクだった。そう! もう一つの問題とは、下手をするとこの世界の滅亡にも関わる大問題。それはケーキを買ってきてもらえなかった、イクを鎮めることだった。既にイクの指先にはエネルギーが充満されており、このエネルギーが放出された日には、山に穴が開くどころか、山自体が消え去る可能性すらあった。

 

「け、ケーキはこのお爺ちゃんが買ってくれるって! ねぇ、そうなのよね?」


 イクの矛先を変えようと、ルルは大慌てでガル爺に言葉を振った。


「うむ、ケーキでも何でも買ってあげるぞい、お嬢ちゃん」


 その言葉だけを聞くと、元地竜王であるというのに、なんとも胡散臭いさ爺さんに思えてしまうから不思議である。


「ところで、一つ問題なんじゃが……ケーキってなんじゃね?」


「ダメだ、このジジイ……」


 ルルはガックリと肩を落とした。

 どうやら竜族にはケーキという食文化が存在しないようで、つまりこのジジイは知りもしないで買ってあげると、無責任なことを言っていたのだった。


「わ、わたしは知ってますケーキ! あ、知っててごめんなさい……」


 勢いよく手を上げて発言したエミリアは、その後すぐに恥ずかしくなって小さくなってしまった、


「わ、わたし人間の文化とかも研究しているから、ケーキ知ってるんです。ああ、つまらないこと知っていてごめんなさい……」


 ケーキの言葉にイクの目がキラリと光る。


「ケーキ、とっても美味しい。ペロペロすると嬉しい気分になれる」


 ズイッと、エミリアの前に歩み出ては、目を輝かせながらケーキに対する熱い思いを語り出すのだった。


「そ、そうですよね、ケーキは美味しいですよね。ペロペロは……ちょっとよくわからなくて、ごめんなさい」


 エミリアはイクよりも一回りほど身長が高かった。イクを小学一年生だとするならば、エミリアは小学六年生といったところだろうか。


「ペロペロはこういうの……」


 イクはつま先立ちになって、エミリアの頬の高さまで顔を持ち上げると、おもむろにエミリアのぷにぷにほっぺをペロペロしだした。


「ひゃん! ペロペロ、わたしペロペロされちゃってますぅ〜。ごめんなさいですぅ〜」


 一体何に謝っているのか、すでに意味不明だった。実際当の本人も何に謝っているのかわかっていないに違いない。

 イクの舌先がエミリアの頬をベトベトに濡らす。イクが一舐めするごとに、エミリアが身体をビクンと震わせる。小学一年生と六年生の美少女のレズプレイ。この光景に興奮を覚えかけた太平だったが、『ロリコンさんなんですよねぇ〜』との魔王の言葉を思い出しては『違う! 違う! 俺はそういうんじゃない!』と、強く心に自制を訴えかけるのだった。

 そんな太平の心の中など露も知らずに、ペロペロタイムを満喫し終えたイクは、ロボであるというのに恍惚にも似た表情を浮かべた。


「うん。エミリアはなんだか新しいお味がする。それにぷにゅぷにゅとして、舌触りがとても良い。とても堪能した!」


 イクはペロペロソムリエタイムが終えると、満足そうに口元を拭いた。


「ひぃぃ、満足してくれて、ありがとうですぅ……」


 地面に倒れこんで頬を抑えながら、ビクンビクンと身体と尻尾を震わせ続けているエミリアは、初めてごめんなさいを語尾に付けないで喋るのだった。


「うん。次はケーキ、ケーキを買いに行く!」


 イクがガッツポーズを取る。

 ようやく体制を立て直したエミリアは、近くにある木に身体をもたれかけながら、すまなさそうに口を開いた。

 

「あ、あのぉ〜、実はわたしケーキのことは知っていても、この世界の何処に行けば、それが買えるのかはしらないんですけどぉ〜、無知でごめんなさい」


「そ、そうだなぁ、この時間だとコンビニくらいしかケーキが買える店はないかもしれないな……」


 すでに時間は零時を過ぎていたので、普通の洋菓子店はしまっている時間だった。


「コンビニですかぁ? わからないですぅ……。知らなくてごめんなさい……」


 エミリアは深々と頭を下げようとして、勢い良く木に頭をぶつけた。


「ひゃうん!」


 エミリアは目から火花を出しては、フラフラとよろめく。


「だ、大丈夫?」


 太平は慌てて駆け寄っては、エミリアの身体を支えた。ふらついたエミリアは、太平の腕の中に抱きかかえられる形になる。


「へ、平気です〜。心配してもらってごめんなさいですぅ〜」


 腕の中にいる地竜王エミリアは、普通の人間の女の子のように軽かった。爬虫類のような匂いがするかと思ったが、香水だろうか? 甘いクリームのような匂いがした。


「兎も角、俺が今からコンビニに行って、ケーキを買ってくるよ」


 その言葉を耳にして、イクは文字通り飛びついた、飛びついて太平の腕にしがみついた。


「うん! コンビニ行く! イクもコンビニに行く!」


 その様子を太平の腕の中で見ていたエミリアは、ギュッと腕を掴むと、


「あのぉ〜、もしよろしければ、わたしもそのコンビニ? と言うところに連れて行ってくださいませ。どんなところか興味がありますです〜。あ、図々しいこと言ってごめんなさいです」


 少し涙目になりながら、すがるような表情で太平を見つめるのだった。

 可愛らしい女の子二人に懇願された太平は、この状況をニヤニヤと楽しそうに見ていたルルに助けを求める。


「行って来なさいな」


 ルルは太平に素っ気なく言葉を返した。


「わたしはこの爺さんと、まだ色々話があるから、ここに残ってるわね」


「ほほほほ、美女と二人っきりとは、嬉しい限りよのぉ〜」


 ガル爺は、鼻の下のばしてニヤニヤとエロジジイの顔をしてみせた。


「うぅぅ、うちのお爺様がエッチなことを言ってごめんなさいですぅ」


「早く、行くの! コンビニに行くの!」


「はいはい、わかったから腕を引っ張らないでくれ、冗談抜きで腕が引っこ抜ける……」


 傍目から見れば、幼女がかわいくお兄ちゃんの腕を引っ張っている微笑ましいシーンなのだが、実際は強力無比なパワーで引っ張っているために、太平の腕の骨は軋むような音を立てていたのだった。もしこの時、太平がヴァンパイアの能力を得ていなければ、冗談抜きで腕が引っこ抜かれていたかもしれない。


「それでは、お祖父様行ってまいりますね〜」


 エミリアのスカートの中から、またしても尻尾が顔を出しては、ピコピコと上機嫌そうに動いてみせる。

 片腕にイク、その反対側にエミリア、二人の少女を同行させて、太平は深夜のコンビニへと向かうのだった。

 


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