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28 聖剣ドラゴンスレイヤー。



 コーヒーカップを後にした二人はドラゴンの捜索を再開した。

 が、太平の心の中を言えば、ドラゴンなんて見つけたくない! というのが本心で、あきらかにドラゴンが隠れられようのない、ゴミ箱の中や、女子トイレの中などを捜索するという始末だった。


 ――本当にドラゴンと遭遇して戦う羽目になったら、どうすりゃいいんだよ……。


 喧嘩すらまともにした経験のない太平が、いきなりドラゴンを戦ってと言われれば、困惑するのは無理も無いことである。むしろ、脱兎の如く逃げ出していないのが不思議なくらいだった。まぁ逃げ出さない理由のうちの大半が、美人の言うことには逆らえない……と言う情けないものだったのだが……。

 

「しかし、人気のない夜の遊園地ってのは、そこらの幽霊屋敷より雰囲気あって怖いな……」


 月明かりに照らされる巨大な観覧車を目の前にして、太平は今にもこれがこちらに倒れてくるのではないかという、恐怖感にかられて身を縮こまらせた。

 それとは反対に、ルルはまるでピクニックにでも来ているかのように、物珍しそうにしながらあたりを見回しては、楽しげなリアクションをとっていた。

 

「あははは、なにこれ? この背骨みたいなのが、空の上にいっぱいあるやつ」


 ルルが上を見上げてみているのは、ジェットコースターのレールだった。


「ふぅ〜ん、この骨の上を乗り物が走るのね。ちょっと面白そうね、動いていないのが残念だわ」


 太平からジェットコースターの説明を受けたルルは、好奇心のままに軽く跳躍をしてそのレールの上に見事に着地を決めてみせた。

 それをしたから見ている太平は、バランスを崩してルルが落下しないか気がきでならなかった。いや、空をとぶことの出来るルルが落下などするはずもないのだが、外見だけ見ればルルは美しい女性である。そんな女性が高いところにいれば、自然と心配してしまうのは当然と言えよう。


「あ、危ないって! そ、それよりドラゴン探しましょ! ドラゴン!」


 と、上を見上げて声をかけた太平は、思わず目を伏せた。何故ならば、ちょうど真下から見上げたせいで、ルルのドレスの中が見えてしまったからだ。


「く、黒だ……黒のレースだ……」


 美女というものは身に付ける下着すらも、芸術品のように見えるものなのだなぁ、と太平は感心するとともに、鼻血が出そうになるのを必死で抑えるのだった。


「あら、わたしを心配してくれるの? かわいい所あるじゃない」


 夜空を舞う羽のように、ふわりをレールから舞い降りてきたルルはそのまま地面に着地……はせずに、太平の背中に飛び乗って、両手を首に回した。


「ちょっとしたご褒美よ……」


 太平の背中には、柔らかく弾力のあるものが密着している。それがなんであるのか、考えるまでもなかった。


 ――オッパイ!!


 美女にオッパイを密着させられた男の戦闘力は一気に跳ね上がる。これは世間一般の常識である。

 俄然やる気になった太平は、


「どこだ! ドラゴン! この俺様がぶっ倒してやるぜ!」


 と、先頭きって大股で歩きながら大声で怒鳴りつけるのだった。

 

「ホント、男の子って単純よねぇ……。まぁそこがかわいいところでもあるんだけど」


 ルルはまるで水面を跳ねるように、片足で軽やかにスキップをして太平の後を付いて行った。

 


 ※※※※


 遊園地内を捜索し続けて、約一時間ほどが経過した。

 全てのアトラクションを回ったというのに、ドラゴンどころか、野良犬一匹にすら遭遇することは出来きず、二人は見晴らしの良い中央広場のベンチに座り込んでいた。


「ルルさん、本当にここにドラゴン居るんですか?」


 時間の経過とともにオッパイパワーが消え去ってしまった太平は、元の臆病モードへと戻ってしまっていた。


「あれれ、わたしの言うことが信じられないの〜? 居るって言ったら居るのよ!」


「はぁ、そうなんですか……。でも、ほとんどのところは既に探索してしまったわけですけど……」


 ドラゴンが地に潜ったか、姿を消しているかでもしないかぎり、あの巨体が隠れる場所はもうこの遊園地の何処にも存在はしない。それなのに、ドラゴンは見つからない。となれば、ここには居ないのではないかと考えるのは、正しいことだろう。


「はぁ……。まさか本当にモグラみたいに地面に潜ってるとか……。って、ルルさん何処見てるんですか?」


 ルルは太平の方を見もせずに、遠くを見つめていた。その少し憂いた横顔を見ているだけで、思わず抱きしめたくなるほどだった。

 

「地面には潜らなくても……別の所に潜ることは出来そうよねぇ……」


「え?」


 ルルの視線の先にあるのは、ヴァイキング船が停泊してる大きな湖だった。



 ※※※※


「こ、ここに潜っているっていうんですか?」


 太平は湖の周りに張り巡らされているフェンスから身体を乗り出して水面を見つめた。真っ黒な水面というものは、不気味というより他に呼びようがなかった。


「うおっ!?」

 

 太平はバランスを崩して危うく湖に落ちかけたが、ルルに子猫のように首根っこを掴んでもらって難を逃れた。


「何やってるのよ。まだ湖だから良いけれど、これが川だったりしたら大変よ?」


「ああ、そう言えば、ヴァンパイアって流れる水を渡れないんでしたっけ……」


「それ以前に、わたしは濡れるのなんて真っ平ごめんだけどね。そう考えると、ここに隠れてるってのは頭の良い奴かもしれないわね」


「いやいや、ここに隠れてるって決まったわけじゃ……」


「試しにこれを投げ込んでみましょう」


 ルルが片手で軽々と持ち上げていたのは……ゴーカートの車だった。

 

「そぉーれ」


 ヒョイヒョイっと、まるでミニカーでも投げるかのように、ルルは次々にゴーカートの車を湖に投げ込んでいく。太平はそれを唖然としながら見守るしか無かった。

 水面の中からは、ゴツンゴツンという何かがぶつかった音が響いてきたが、それが湖面に当たったものなのか、またまたドラゴンに当たったものなのかは判別がつくはずもなかった。


「やっぱ、こんなんじゃ物足りないわよね。よし!」


 そう言うと、ルルは太平を残して何処かに消えていってしまった。


「嫌な予感しかしない……」


 太平の予感はその一分後に的中することになる。


「うふふふ、これくらい大きくないとダメよねぇ〜」


 ルルが片手で持ち上げてきたのは……大型トラックだった。どうやら駐車場まで行ってきて、このトラックを持ってきたらしい。太平は大慌てでトラックの運転席を覗き込んだ。そして、誰も居ないのを確認すると安堵の息をついた。

 

「んじゃ、行くわよ〜。そぉ〜れっと」


 大型トラックは投げられた勢いで半壊しながら、水面へと消えていった。

 そして数秒後……

 大きく湖面がゆらぎ、津波のような波が押し寄せると同時に、周囲の空気が振動し始める。


「ビンゴね」


 ルルはピースサインをしてみせた。

 未だ揺れの収まらぬ水面下から顔をだしたのは……十メートル余りの巨体、ヌラリと伸びた長い首、金属のような重厚な輝きを放つ鱗、そして背中に羽を生やした真っ赤なドラゴンだった。

 ドラゴンの目は身体と同じく真っ赤に血走っていた。そして、よく見ると頭には大きなたんこぶができていた。どうやら、見事に大型トラックが頭に命中したらしい。


「グォォォ!!」


 ドラゴンの咆哮は、大きな衝撃波となって周囲の木々や建物を大きく揺らした。太平も二本の足で立っていられなくなり、その場に膝をついて吹き飛ばされないように身体を支えた。

 

「はぁい、ドラゴン族の下っ端さん、こんばんは〜」


 ルルは嘲け笑う様に、ドラゴンに向けて挨拶をした。


「誰が下っ端だ! 我は炎竜王の配下、赤竜バルカンである! 恐れよ! そして敬え!」


 言葉を聞いた太平は、まるで操り人形のように、身体の自由を奪われその場に平伏してしまった。


「何やってんのよ。それくらい抵抗レジストしなさいよ。アンタも半端とはいえヴァンパイアなんだからね」


 ルルの叱咤の言葉が、太平を赤竜バルカンの呪縛から開放させた。


「ふん。ヴァンパイア風情が、竜族に叶うとでも思って……。き、貴様……まさか!」


 先程まで威勢を放っていたバルカンが、ルルの姿を見た途端に大きな巨体を萎縮させた。


「ルゥ・リラ・レルルゥ! 別名、《闇夜の非常識女》この女ヴァンパイアに関わった男は、みなトラウマを背負い込んで、引きこもるという……」


 ドラゴンの巨体が小刻みに震えていた……。心なしか巨体すらも小さく見えてしまっているではないか。


「うふふふ、誰がそんな二つ名をつけたのか教えてもらいたいわね。後でピーをピーしてあげるから」


 ピーの部分には放送禁止用語が当てはまる。


「わたしは至って普通の淑女よ。ねぇ、太平」


 そう言って太平に向けてニッコリと微笑みかける。普通の淑女は、大型トラックを片手でぶん投げないだろうと思いながらも、その美しい微笑みを受けては、太平が否定的な言葉を返せるはずもなかった。

 それに、すこしばかり非常識であると言っても、今のところはそこまでひどいものではないと思えた。何故ならば、太平は普段があまりに非常識的な日常であるが故に、幾らか耐性がついてしまっていたのだ。

 

「さて、こんな暴言を吐いたドラゴンのオチンチンは、引っこ抜いてやるべきだと思うんだけれども……。今回はわたしが手を出す訳にはいかないのよねぇ。太平まかしたわよ〜」


 そう言って、ルルは太平を赤竜バルカンの前に押しやる。


「え? え?」


 必死で抵抗するも、ルルの怪力には叶わず、ズルズルと引きずりながらも、赤竜バルカンと真正面から対峙するはめになってしまった。

 

「な、なんだと? 貴様は戦いに参加しないというのか?」


「そうよ。こっちの世界で大きな力を使うのはご法度だからね。出来ることならば、アンタが自主的に負けを認めて、元の世界に戻ってくれるのが一番いいんだけど。それが無理なときは、この屈強なヴァンパイアの戦士、太平が相手になるわよ!」


「なるほど、あの軟弱な魔王が言いそうなことだ……。力があるのにそれを行使しようとせず、口先だけで統治を行おうとする。我ら竜族はそんなやり方に耐えられぬのだ! 力こそが正義! 力こそがこの世の規律であるべきなのだ!」


 その言葉を聞いてルルは、呆れるように大きなため息を一つ付いた。


「これだから脳筋は……。まぁいいわ。アンタが素直に帰らないことはよくわかったから。さぁ太平、あなたの力を思う存分見せつけてやりなさい!」


 ルルはドンと太平の背中を押した。

 

「ならばこいつを殺して、我はこの場から去らしてもらうとする。そして、魔王の弱みを握り、竜族が魔界の頂点へと立つのだ!」


 魔王の弱み。それはこの世界での生活。

 この世界での安らかな暮らしを壊すことで、魔王の精神的な拠り所を破壊しようと言うのだ。そして、その安らかな暮らしの一部分に、この太平が含まれていることを、赤竜バルカンは知りはしない。

 

「よくわからんが、こいつのせいで魔王さんが迷惑してるわけなんだよな……。いつも朝ご飯作ってもらって、イクの面倒も見てもらって……。色々お世話になってる魔王さんに、恩返しをするチャンス……。って、こんな命がけの恩返しはちょっとォォォォ!」


 と涙目になっている太平を他所に、赤竜バルカンはその巨体を湖から飛翔させると、太平に向かい大きな口を開いて突進してきた。

 

「うぉぉぉ!」


 太平は全力で地面を踏み込んで、その場からジャンプした。


「え? え?」


 太平の身体は、赤竜バルカンの突進を避けるだけでなく、上空数十メートルの高さまで達していた。空中で戸惑う太平に向け、休む間もなく赤竜バルカンの次の攻撃が放たれる。赤竜バルカンは大きく息を吸い込み口を膨らませる。そしてソレを一気に吐き出した。ソレとは、火炎弾である。戦艦の主砲並みの燃え盛る火炎が、宙空の太平に向かって襲いかかる。

 空を自由に飛びたいな〜♪ そんな何処ぞのアニメの歌詞が太平の頭をよぎった。しかし、今の太平にはルルのように空を飛ぶ能力を持ちあわせては居ない。つまり、宙空で回避するのことは不可能。

 咄嗟に両腕で迫り来る火炎弾から身を守るも、まさに焼け石に水である。火炎弾はその両腕ごと太平を吹き飛ばし、月夜に破裂した。

 

「他愛もない……」


 赤竜バルカンは戦いの終わりを確信した。あれの直撃を受けては、全身は消し炭になっているに違いないからだ。

 しかし、太平は消し炭になってはいなかった。いや、消し炭になりはしたが、再生を遂げていたのだ。

 とは言え、地面に強烈にたたきつけられ足腰の骨は全て砕け、火炎弾によって両腕は燃え尽きていた。

この状態でも、攻撃を食らった直後に比べれば、恐るべき回復を遂げた状態なのだ。つまり攻撃を食らった直後の太平の上半身は、頭を残して燃えカスのみになっていた。ヴァンパイアは灰からも復活できるというが、まさにそれを実演してみせたのだ。

 

「不思議、不思議……。俺なんだか知らないけど生きてる……」


 太平は自分の生を実感して感涙していた。

 

「なるほど、真祖の直系の眷属の再生能力を甘く見ていたようだな……。とは言え、どうともで殺しようはあるわ」


 赤竜バルカンに何の不安もなかった。火炎弾で葬ることが出来なくとも、いくらでも殺すための方法を持ち合わせていたからである。唯一の不安は、今楽しそうにこの戦いを見物しているルルが、加勢に入らないかということだけである。もしものことを想定して、絶えずルルに気を配って戦わなければならない、それが赤竜バルカンの弱みでもあった。

 そうこうしているうちに、太平の身体は完全な再生を果たしていた。

 

「よし、こうなったらマインドコントロールだ! 俺は強い! 俺は最強! 俺は負けない! 俺は不死身!!」


 言霊のように太平は何度も同じ言葉を繰り返した。自分で自分を騙そうと言うのだ。


「行っけぇぇェェェ!!」


 陸上のクラウチングスタートのスタイルから、アスファルトを削り取るほどに強く地面を蹴りだして、太平は走りだした。その速度は短距離走の世界記録など遙かに上回っていた。

 一直線上に向かってくる太平に向かって、赤竜バルカンは鋭い爪を振るう。が、敏捷性においては小回りの聞く太平が圧倒的に上回っていた。その爪を軽々と避けると、赤竜バルカンの頭に向けて、弾丸のように加速したまま飛び込んでいく。


「なに!?」


 太平を舐めきっていた赤竜バルカンは完全に不意をつかれ、気がついた時には、まさに目の前に太平がぶつかる瞬間だった。太平はそのまま全身を赤竜バルカンの目玉に飛び込ませたのだ。

 太平の腕は肘の辺りまで、赤竜バルカンの眼球の中に埋もれてしまった。


「ウギャァァァァァ!!」


 断末魔のような叫び声が、太平の鼓膜を引き裂いたが、今はそんなことを気にしている暇はない。腕を眼球から引き抜くと、続いて脳天に向けていくども拳を振り下ろす。が、強固な鱗に覆われた龍の身体に、いくら筋力をアップさせたとはいえ、生身の体での攻撃では傷一つつけることは出来なかった。

 太平は、痛みのあまり身をよじらせて暴れる赤竜バルカンの身体から、振り落とされてしまい、地面を転がり回った。


「へぇ〜、やるじゃないあの子。でも、このままじゃ……」


 ルルの言葉は的中した。

 いくら太平が素早さで上回り、無数の攻撃を当てたとしても、相手にはほとんどダメージを与えることが出来ないのである。それと反対に……。


「砕け散れ! 竜炎爆裂波ドラゴニック・バースト


 赤竜バルカンは相手に距離を詰められぬように、遠距離からの竜言語ドラゴンロゴス魔法による攻撃に切り替えていた。

 赤竜バルカンから放たれた魔力は、地面から火柱を吹き出させ、周囲の物を焼きつくした。その物の中に太平も含まれていた。

 焼きつくされ、再生され、焼きつくされ、再生され、その繰り返し。まるで千日手のように思えたが……。


「さ、再生が遅くなってる……」


 最初ならば、即座に治っていたレベルの損傷を治すのに、時間を要するようになっていたのだ。


「体力とともに再生能力も衰える……。持久戦となっては、完全に太平が不利ね……。でも、比喩表現なしに、まさに燃える展開ね!!」


 ルルは太平の生死の掛かった状況下でありながらも、その状況を楽しんでいた。それは、太平に信頼を寄せているからなのか、ただのドSなのか……。

 

「このままじわじわと、なぶり殺してくれるわ!」


 もはや太平の周りは全て炎に包まれていて、逃げ場一つ存在していなかった。炎に触れていなくても、灼熱の空気が太平の肺を焼き、呼吸困難に陥らせていた。

 

「おかしい……。こんなバトルとか……絶対おかしい……。非常識な日常とはいえ、ギャグの世界にいたはずなのに、なんでこんなシリアスっぽいバトルなんぞしなきゃならないんだ……。コレも全部あのルルのせい……」


 太平の眼球からは水分が蒸発し、既に泣くことすら出来なくなっていた。出来ることは、かすれた声で泣き言を言うだけ……。

 そんな折。


「なに人のせいにしちゃってくれてんのよ? 情けない男ね!」


 燃え盛る炎のど真ん中を、顔色一つ変えずに歩いてくる女性が一人。

 勿論ルルだった。ルルの身体は灼熱の炎に晒されているのに、身体が燃えるどころか、その衣服にすら焦げ跡一つつくことはなかった。

 そして太平の側まで歩み寄ると……。


「でもまぁ、頑張ったほうかな? だから、ご褒美をあげちゃう」


 ルルが両手を胸の前で合わせると、そこにキラキラと光り輝く宝玉のようなものが現れた。そして、その宝玉がパリンと音を立てて砕け散った。

 

「……これは」


 砕け散った宝玉の中から現れいでたもの……。

 それは身の丈ほどもある巨大な一振りの大剣だった。


「はい、聖剣ドラゴンスレイヤー。これならアイツにとどめを刺せるわよ。ただひとつ気を付けなきゃいけないことが……」


 と、ルルが言い終わらないうちに、太平は大急ぎでその大剣を両手で掴み取っていた。猫にマタタビ、ゴキブリに殺虫剤、ドラゴンにドラゴンスレイヤーである。その聖なる力はドラゴンの屈強なら鱗を安易に貫き、死に至らしめる!

 しかし、そこが問題だったのだ。

 太平はドラゴンスレイヤーを手に取った瞬間に、自分の手の肉が焼けただれていくのを感じた。


「なんじゃこりゃァァァ!」


 あまりの痛みに、太平はドラゴンスレイヤーを地面へと投げ出してしまった。


「だから、話は最後まで聞きなさいって……。これは聖剣ドラゴンスレイヤー。わかる? 聖剣なのよ? アンタは今、ヴァンパイアになってるわけ、闇の眷属なわけ。つまり、聖なる力ってのは天敵なわけなのよ?」


「なん……だと……」


「だからわたしも、手で持たないで宝玉に封印して運んできたんじゃない。こんなの持ったら手のひらただれちゃうわよ。でも安心して、わたしはアンタの血を吸う時に加減しておいたの。つまり、完全なヴァンパイアにはなってないのよ。だから、その聖剣も使いこなせるはず……多分」


「使いこなせるはずも何も、火に焼かれるよりも痛いんですけどおおお」


「それはねぇ、聖なる力だから……。でも、男の子なら我慢我慢。きっと耐えられるわよ! ……多分」


「あ、アンタはァァあ、いつも言葉の最後に多分つけてんじゃねえよぉぉぉぉ!」


「仕方ないわねぇ、それじゃ……」


 ルルは太平の真横に立つと、少しの間顔を見つめる。

 そして……ゆっくりと自分の顔を太平の顔に近づいていく。

 この世のものとは思えない甘美な感覚が、太平の唇を覆った。それと同時に痛みも何も瞬時にして消え去っていった。


「ほら、これで頑張れるでしょ? 女の子のキスで、頑張れない男の子は居ないわよね?」


「は、はい」


 頑張れる。今なら月までジャンプしろと言われても問題無く出来る! これが真祖たるヴァンパイアの力なのか、それともただの男の子の血潮が燃えたぎっているのか、はたまたその両方なのか。

 そんなことわかりもしないままに、太平は手の肉を焼き焦がしながら、聖剣ドラゴンスレイヤーを構えた。





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