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27 竜族。

 空を飛びだして約五分ほどが経過した頃、太平はようやくこの浮遊感に慣れ始めてきていた。


「とは言え、まだこええけどなぁ……」


 普段大地に二本の足が着いていることが、どれだけ幸せなのかを、いま心の底から太平は噛み締めと同時に、人間という生き物は空を飛ぶようには作られていないということを思い知るのだった。

 それに引き換え、ヴァンパイアのなんと華麗なことか、ルル自身の美貌も相まって、夜の空をマウス型は、そのまま美術品として飾ってもおかしくないほどの、美しさを備えていた。

 その生きた美術品ルルが、太平の方を振り返り、ポツリと呟いた。

 

「遊園地って……どっちだっけ?」


「え?」


 太平は言葉に詰まった。この華麗なるヴァンパイアは方向もわからずに飛んでいたのだ。


「何その目は? わたしはこの世界に来たばかりなのよ、わからないのは当たり前でしょ? むしろ、デートの場所までエスコートするのは殿方の仕事よ」


「あ、はい。そう言われればそうかもしれませんけど……。俺も空をとぶのは初めてなんで、飛行中のナビなんてやったこと無くて……」


「口ごたえ禁止!! さっさと方向を示しなさいな!!」


 ルルの口調にはあきらかに苛立ちが見えていた。そしてそれと同時に、ルルの中に内包された闇のオーラが荒ぶるのを太平は感じ取れた。


「イ、イエッサー!」


 太平は大慌てで軍人のように敬礼をすると、周囲の風景から自分たちが何処らへんに居るのかを判別した。


「えっと、あのビルがあれだから……するってぇと、こっちにほうにあるのが……」


「まだわからないの? 使えない下僕ね」


 空中で静止ホバリングをし直立姿勢で、ルルはこめかみをリズミカルに人差し指で叩いていた。それがさらなる苛立ちを表していることは、太平にもすぐわかった。


「わ、わかりました! こっちです!」


 この時、太平が方向を指し示すことが出来たのは、ヴァンパイア能力による視力の強化によるものだった。普通であれば、街明かりがあるとはいえ、夜中に遠くまで見渡すことなど出来はしなかっただろう。


「時間を食った分、急ぐわよ」


 この後、太平の絶叫が夜空にこだましたのは言うまでもない……。



 ※※※※


「ふふ〜ん。ここが遊園地?」


 二人は遊園地の中央広場に舞い降りていた。勿論、正面ゲートなど通っていないので、入場料など未払いだ。それ以前に、すでに遊園地は閉園時間をとっくに過ぎており、街灯を以外の明かりは殆ど消えており、人影一つ見えずにすっかり静まり返っていた。

 ルルからしてみれば、遊園地などというものは産まれてから初めて見るものであり、すべてが珍しく面白く見えるのか、無感情にに見せた言葉とは裏腹に、子供のようにあちこちをしげしげと見て回っていた。

 それに対して太平はというと……


「うえぇぇ……」


 猛スピードでの飛行に、三半規管をやられて酔ってしまったようで、近くの茂みにうずくまってゲロを吐きそうになっている始末だった。

 太平は近くの自販機で水を飲んでなんとか気分を癒やした。

 そして思考と身体がある程度復活した頃合いを見計らって、メリーゴーランドを不思議そうに眺めているルルに言葉を投げかけた。


「そろそろ、ここに来た理由を話してくれませんかねぇ……」


「あら、デートって言ったじゃない」


 ルルはメリーゴーランドの馬車に乗り込んで、太平に投げキッスをしてみせた。

 

「そ、そう言う冗談は良いんで!!」


 デートが誘い出すための方便であることは、女性との付き合いがほぼ皆無の太平でもわかっていた。とは言え、投げキッスには赤面せずにはいられなかったのだけれども。

 

「仕方ないわね。教えてあげるわ。ドラゴン退治よ」


「なるほど、ドラゴン退治……。はァァァ!? ド、ドラゴン!?」


「そうよ。ドラゴン知ってるかしら? 大きな火を噴くトカゲみたいなもんよ」


 確かにイメージを簡潔に表すならばそうなるかもしれないが、戦闘力ときたらトカゲどころか、ライオンよりも天と地ほどの差が存在する。

 

「ど、ドラゴンを退治する……。えっと、一体どこの勇者様がドラゴンを退治するんでしょうか……」


 太平は嫌な予感がした。いや、嫌な予感しかしなかった。

 ルルはにこやかな表情で、ゆつくりと右手の人差し指で太平を指したのだった。


「無理!」


 太平は光の速さで即答した。

 ドラゴンを退治どころか、ドラゴンと対峙することすら、太平には無理だった。何故ならば、ドラゴンを一目見ただけで、腰を抜かしてオシッコを漏らす自信があったからだ。

 

「確かに、人間のアナタなら無理でしょうね。でも、今のアナタは……」


「ヴァンパイア……」


 驚異的な再生能力、さらに腕力、視力、聴力とアップしているのは、太平にも実感があった。


「そう。まだ力の使い方に離れていないようだけれど、この真祖であるわたしみずから血を吸って眷属にしたのよ。それはもうドラゴンなんて一発の力を秘めているはずよ……多分」


「……あの、最後に多分ってつけてますよね? 完全に憶測で話してますよね?」


「細かいことを期にする男はモテないわよ?」


「いやいや! 今はモテるモテないよりも、生きるか死ぬかのほうが大事なんで! それより、どうしてドラゴンと戦わなきゃいけないのか教えて下さいよ!」


「はぁ……。説明とか面倒くさくって嫌いなんだけど、そこまで言うなら仕方ないからしてあげるわ」


 二人は誰も居ない真っ暗な遊園地のコーヒーカップに、向かい合う形で座った。勿論電源は落ちているので、コーヒーカップは回ったりはしない。

 ルルは何処から話せばいいものかと、話の起点を考えて少しばなり眉間にしわを寄せていた。そんな表情でも、絵画にして発表すれば入賞できるほどの美しさを誇っていた。


「えっとさ、魔王いるじゃない? わたしと魔王は仕事仲間? まぁぶっちゃけて言えば友達みたいなものなのよ。魔王のやつ最近こっちの世界に帰ってきてないでしょ?」


 その問いかけに太平はコクリと頷いた。


「ちょっと、わたしたちの世界でトラブルがあっちゃってね。それの後始末に追われているのよ。そのトラブルの原因ってやつが、竜族とのいさかいでね……」


 ルルの話はこうだった。

 魔王の勢力と真っ向から拮抗しているのが竜族が存在し、それらを率いるのは、五大老と呼ばれる五匹の神殺しの竜、エンシェント・ドラゴン・ロード。その中でもっとも好戦的な炎龍王の配下の一人が、魔王の弱みを握るべく、こちらの世界へとゲートを使用してやってきているというのだ。

 ルルは責務に追われて魔界を動けない魔王の手助けをするために、こちらの世界へとやってきた。そういうわけなのである。

 

「ちょっと待って! それなら、別に俺が倒さなくても、ルルさんが倒せばいいんじゃ……」


「それは無理なのよ」


「え? もしかして、そいつルルさんでも勝てないくらいに強いんですか……。それなら余計に俺じゃ無理でしょ!」


「いいえ? 配下の下っ端ドラゴンなんて、わたしにかかればチョチョイのチョイよ?」


 そう言いながらルルはデコピンで夜の闇を弾いてみせた。


「なら自分で倒せば……」


「ダメって言われてるのよ」


「え?」


「魔王にね、こっちの世界では大きな力を使わないように言われているのよ。だから、わざわざアンタをヴァンパイアにしたわけ。意味わかる?」


「え?」


「異世界の存在が、こちらの世界で大きな力を使うと、バランスが崩れちゃうのよ。そうそう、あなたの世界に昔話ってあるじゃない。それの桃太郎の話で、いきなり浦島太郎があらわれて鬼を倒したりしたらおかしいでしょ? そんな感じなの」


 そんな感じと言われても、どんな感じなのか、太平にはさっぱりだった。


「まぁ少しくらいは手助けしてあげるから……。男らしくてカッコイイところをわたしに見せなさいよね」


 美女にそんな言葉を言われれば、世の男ならば奮い立つというものだ。しかし、相手はドラゴン。RPGの世界では、最強の種族としてあげられる存在。それに立ち向かうのは、いくらヴァンパイア化しているとはいえ、ただのニート。

 

「全力で手助けおねがいしますぜ!」


 太平は情けない台詞を、何故かカッコつけて言ってのけるのだった。


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