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Motor Racing World  作者: ジャミー
20/23

真夏決戦

和貴のレースキャリアは順調に進んでいた。

F1のテストの経験は、大きな成長の糧になった。

スーパーフォーミュラ第3戦は予選3位、決勝2位。

そして先週行われた第4戦。

真夏の開催で体力面で不安だったが、ポールトゥウィンを成し遂げた。

現在ランキング1位を独走中。

これは和貴のドライバーとしての成長だけでなく、理奈のスキルアップも大きかった。

理奈はピットウォールでレース全体を見ることが出来る。

それで和貴に的確な指示を送り、それが結果に結びついていた。

この活躍を受けて、インパルが動いた。

スーパーGT第6戦の鈴鹿1000キロ。

この重要レースに和貴を第3ドライバーとしてエントリーした。

それに先立って合同テストでドライブしたが、そこでトップタイムを記録した。

もちろんルーキーテストも通過。

F1テストで目立った走りを見せ、スーパーフォーミュラでは首位独走の16歳ルーキードライバーのデビュー。

土曜日から多くの観客が集まった。

だが今年のスーパーGTはもうひとりのヒロインの登場で沸き立っている。

理奈である。

理奈はスーパーフォーミュラで和貴のエンジニアを担当しているが、本職はスーパーGTのニスモのレースエンジニアである。

ニスモは今期絶好調。

開幕2連勝を成し遂げ、ハンデウェイトが重い第3戦でも4位に入った。

ポイントでも独走首位。

第4戦にして、トップハンデの100キロのウェイトを積むことになった。

スーパーGTはレースクイーン目当ての観客も多い。

艶やかな色香を放つ彼女らとは異なり、理奈は童顔で愛らしい。

理奈目当ての新たな層も集まり出している。

ただ、理奈はあくまで裏方。

セッション中はピットウォールに貼り付き、ドライバーやチームクルーに的確な指示を出すのが仕事。

厳しい表情で叱咤する場面も見られる。

だがファンにとっては、そんなギャップも魅力になっていた。

そんな状況のスーパーGTに和貴がデビュー。

インパルは鈴鹿1000キロというビッグレースに強い。

今期のインパルは不運が多く、現在ランキング5位。

ここで勝って巻き返しを図りたいと考えていた。

そのための和貴投入である。

だが金曜日のピット設置の時点で、雰囲気が暗いことを感じていた。

スーパーフォーミュラでは一緒に戦っているスタッフ達だが、明らかに空気が違う。

こんな雰囲気では監督が怒りそうだが、その監督の表情も冴えない。

和貴は監督に思わず直訴した。

「どうしたんです?いつもと空気違いますよ?」

「スーパーGTだとこんな感じだ。これでもいつもよりは気合い入っているぞ」

「でも、とても勝ちに行く感じじゃないですよ?」

「敵が強いんだよ。なにせ理奈がいないんだからな」

その監督の言葉でハッと気付いた。

スーパーフォーミュラでは理奈が戦略を立てている。

理奈を中心にチームが動いている。

まだ16歳の女の子だが、その実力はチームスタッフ全員が認めている。

その理奈が今回は敵になる。

理奈の不在は大きな戦力低下になり、敵になるニスモのアドバンテージは大きい。

「だがまあ、今回のチャンスは大きい。いくらニスモでも、100キロのハンデウェイトは大きな足枷だ。普通ならどうにかなるものじゃない。いつもの300キロレースなら侮れないが、今回は1000キロだ。たぶん脅威にはならないだろう。逆にウチはウェイトが軽いから有利だ。ここは勝ちに行く。だから頼むぞ」

「分かりました」

理奈が敵になる。

和貴にとっても、初のレースになった。

土曜日。

朝のフリー走行から戦いが始まる。

まずはレギュラードライバーがセッティングを出す。

このセッティングが非常に難しい。

スーパーフォーミュラにもF1にも存在しないタイヤ戦争。

インパルが履くのはブリジストン。

持ち込まれるタイヤは毎レース異なる。

タイヤが変わればセッティングも変わる。

この柔軟性がスーパーGTには求められる。

和貴もブリジストンのエンジニアとのミーティングに参加したが、歯痒い思いを抱いていた。

「ウチに合わせたタイヤが用意される訳じゃないんですね」

「ブリジストンだって勝ちたい。そこでランキング2位のトムス、あとハンデウェイトが軽めのセルモに合わせたタイヤが持ち込まれた。レクサスに合わせたタイヤだからウチは使えん。まあタイヤ屋もその辺りを踏まえてウチ用のタイヤを用意してくれてる。それで戦うしかない」

「でもニスモは、ミシュランがニスモに特化したタイヤを用意してるんですよね?」

「だからってニスモが有利な訳じゃない。なにせミシュランは2台しかいない。それに対しブリジストンは10台だ。集まるデータの質も量も違う」

「でもミシュラン強いですよね」

「ブリジストンの連中はそれが悔しくてたまらんのだ。日本のレースでフランスのタイヤ屋が勝ってるんだからな。連中もこの過酷なレースで限界まで攻め込んでる。だからタイヤトラブルも最近多い。だが勝ちたいのは俺らも同じだ。だからギリギリまで攻め込むぞ」

セッションも折り返しを過ぎた辺りで、和貴が乗り込んだ。

レギュラードライバーが出したセッティングに慣れるのが目的。

スーパーGTは走り出しが難しい。

過度なタイヤ戦争が原因で、とてもピーキーなタイヤになっている。

タイヤウォーマー禁止にも関わらず、なかなかタイヤが温まらない。

なので冷えたタイヤでも速く走れるドライバーが求められる。

和貴はMRWで冷えたタイヤの走り方のシミュレーションを重ねた。

タイヤにしっかり熱を入れつつ、過度な負荷は掛けない。

テストの時のタイヤとは完全に異なっていた。

それでも特性を掴み、ペースを上げる。

「佐伯、無理しなくていい。まずは車に慣れるんだ」

無線でエンジニアからの指示が飛ぶ。

「無理してません。探りながら走っています。まだタイヤの限界が掴み切れてません」

「分かった。とにかく無理をするな。300の処理を覚えながらペースを上げろ。だが限界まで攻めるな。とにかく車を壊すな」

スーパーGTの難しさの代表格が、クラス違いの混走。

GT500とGT300では、ラップタイムが8秒ほど違う。

500のドライバーは300の車を抜きながら、ペースを落とさない走りが求められる。

和貴はそれもMRWで学習した。

ストレートスピードはラップタイムほどの差はない。

だからと言ってコーナーで無理に仕掛けるのはリスクが高い。

和貴はコーナースピードを若干抑え気味にして、立ち上がりのトラクションを活かして処理を重ねた。

そしてクリアラップになったらペースアップ。

12周でピットに戻った。

「どうだ?」

「テストのタイヤとはかなり違ったので戸惑いましたが、悪くないと思います。このペースなら走れます」

エンジニアの質問に冷静に答える。

そこに監督が来て、エンジニアが示したデータを見る。

「やっぱりお前は本物だ。ラストの500占有時間で予選シミュレーション走れ」

「えっ?」

ここでエンジニアがタイムシートを見せた。

「ウチの3人の中ではお前が最速だ」

「ホントですか?まだ限界まで攻めてないですよ」

「だったらラストで少しリスクを冒して攻めろ。このタイムならポールが見える」

エンジニアは笑顔を見せた。

そしてフリー走行最後の占有時間で予選シミュレーション。

ここで総合トップタイムを叩き出した。

これでピットが活気付いた。

優奈も飛び上がって笑顔を見せた。

予選前にチーム首脳陣とドライバーが集まってミーティング。

ここで監督が予選Q2のアタッカーに和貴を指名した。

第三ドライバーが予選アタックをする前例をほぼ皆無。

だがふたりのレギュラードライバーも和貴のタイムを認めて同意した。

認められて嬉しくもあったが、プレッシャーも感じた。

監督にそう伝えた。

「お前らしくないな。いつも通り自信持って走ればポール確実だろうが」

「そんなに甘くないですよ。4位にニスモがいます」

「いやあ、決勝はともかく予選は無視していいだろう。100キロ積んでんだぞ。あれが一杯だ。これ以上は詰まらねえよ」

「理奈ちゃんはそんなに甘くないです。この前の富士から、ニスモの予選のやり方が変わったのは気付いてますよね?」

「ああ。Q1とQ2の間に忙しくバタバタやってるな。あんなのニスモらしくない。この前だけの例外だろ?」

「違います。あれを指示しているのが理奈ちゃんなんです」

「なに?」

「Q1のタイムとデータを元に、細かく微調整して追い込むんです。それでコンマ3秒は稼いでいます。ニスモにそれだけ詰められたらポールは危ないです」

「そんなことやってんのか?俺は次男とロニーの差が大きいと思ってたが」

「それだけであのタイム差はあり得ません。理奈ちゃんは膨大なデータを見ながらアタックを分析します」

「ニスモのテントはデカくて立派で、理奈の周りは完全に要塞になってるが、そんなことが出来るのか?」

「理奈ちゃんならやります」

和貴は監督に、予選中のニスモの無線傍受を頼んだ。

スーパーGTの無線はオープンになっているので、関係者だけでなく観客も機材を用意すれば無線が聞ける。

「理奈ちゃんはQ1のタイムとデータからQ2のタイムを読んでそれをQ1終了時に伝えます。それでニスモのターゲットタイムは分かります。ウチもそのタイムをターゲットにして詰められるのなら、やる必要があります」

それで迎えた公式予選。

まずはQ1。

ここで15台からQ2に進める8台が決まる。

本来なら1発アタックがやや苦手なドライバーが担当するが、インパルは本来Q2担当のオリベイラを起用。

速さはピカイチなので、1分47秒975のコースレコードを記録してトップ通過。

これでインパルは他の全チームのターゲットにされた。

だが和貴はニスモの動向を見ていた。

Q1終了と同時に、ニスモのピットが騒がしくなった。

まだ車は戻って来ていない。

理奈がウォールを離れ、ピットに駆け出す。

その様子をレース中継のピットリポーターが捉えた。

それと同時に、無線を傍受していたクルーがターゲットタイムを伝えてきた。

「監督、ニスモは47秒35だそうです」

「バカな?いくらなんでも無理だ!」

ニスモのQ1は48秒193で4位。

100キロをウェイトハンデを考えればこれでも驚異的なタイム。

ここからさらにコンマ8秒詰めるのは常識的にあり得ない。

それでも和貴はこのタイムを信じた。

「理奈ちゃんのターゲットタイムは外しません。絶対に出してきます」

「だがウチは47秒3は出せん」

「出すしかないです。47秒2を狙います」

「おい、データ持って来い!」

監督の怒号が飛び、インパルのピットも緊迫感に包まれた。

そしてニスモのピットに車が戻ると、多くのクルーが作業に取り掛かった。

「またニスモが大突貫作業です。理奈ちゃんの指示です。ライドハイトまで変えるそうです」

ピットリポーターがニスモの動向を伝えた。

理奈の真剣な表情と鋭い指示の声が届く。

それに釣られてインパルも作業に取り掛かった。

ブリジストンのエンジニアを呼び、細かく微調整を詰める。

Q2で使ったタイヤが決勝のスタートタイヤになるので、大きな無茶は出来ない。

新品のハードタイヤでアタック。

「このタイヤで47秒2を出すなら1発アタックだ。かなりナーバスなセットだぞ」

「もうやるしかないです」

GT500の予選はQ1、Q2ともに15分だが、タイヤのウォームアップとアタックラップから逆算すると、残り7分辺りからコースに入る。

ウォームアップに3周、アタック2周が定石。

その定石を外すのが最近のニスモ。

残り9分30秒でコースイン。

「またニスモが真っ先に出ます。作業が終わってすぐです」

「ニスモらしくないと言うか、慌ただしいです」

「タイヤをじっくり温めるんですよね。ウェイト重いので、それも加味してだと思います」

残り8分を切ったところで、各車コースイン。

和貴はラストで入った。

「さあ、インパルはまさかの大抜擢、佐伯和貴がアタックです」

「まだ16歳の高校生ですが、フォーミュラでの実績は充分です。頭脳派のドライバーなのでGT500でも大丈夫だと思います」

ゆっくりとペースを上げて行き、タイヤを美味しい状態に持っていく。

各車がペースを上げる中で、ニスモがアタック開始。

「ロニーが恐ろしいタイムを出しています。セクター2でオリベイラのタイムをコンマ4秒刻んでいます」

「100キロ積んでこんなタイムが出るんですか?あり得ないですね」

「これが理奈ちゃんの追い込みの成果でしょうか?」

「あんな短時間のインターバルでここまで速くなるとは考えにくいですが」

ニスモはさらにタイムを詰め、最終コーナーを立ち上がる。

「さあロニーが帰ってきました。とんでもないタイムが出そうですが、うわっ、47秒389!」

「異様に速いですね。しかも100キロ積んでいます。恐ろしい」

このタイムは他チームに大きな衝撃を与えた。

ポールタイムは47秒台後半だと考えられていたので、一気にハードルが上がった。

「さあ各車アタックに入っていますが、ちょっと苦しいです」

「トムスもダメ、セルモも届きません。ロニーのタイムは異常ですよ」

「これはニスモのポール確実・・・いや待ってください、インパルがいいです」

カメラが和貴を捉える。

「佐伯くんのアタック、気合い入っています」

「彼らしいコンパクトなライン取りですね。フォーミュラの走りがGTでも活きるかな?」

「さあセクター3で、コンマ05マイナス!」

「いい動きです。あとはシケイン」

「佐伯、ポールを賭けて懸命のアタック。おおっ、縁石を大胆にカット!」

「この辺りは星野監督を彷彿とさせますね」

「さあ最終コーナーを立ち上がる佐伯、チェッカーが振られます。タイムは、47秒281!逆転!」

「さすが佐伯くん、これは見事!」

インパルのピットも湧き上がった。

監督が大きな喜びを全身で表す。

「佐伯よくやった。ポールだ」

「なんとか纏まりました。ギリギリでしたね」

ピットに戻るとクルーから祝福を受け、インタビューが始まった。

「佐伯くん、スーパーGTデビューレースで見事な走りでした。まさかの大逆転です」

「いえ、ニスモのターゲットタイムが47秒3だと分かったんで、それに合わせて突貫で詰めました。まあ大体狙い通りのタイムが出ました」

「一発逆転ではなく、計算ずくのアタックですか?」

「ホントにギリギリでした。このタイヤが明日のスタートタイヤになるんで無茶は出来ません。けどちょっとタイヤを使い過ぎたかなと反省してます」

ここで監督が、

「そんな小さなことは気にするな。いくら1000キロの長丁場でもポールは有利だ。しかも1ポイント獲れたからな」

監督は上機嫌だった。

「監督、明日のレースはどう戦いますか?」

「ニスモが思ったより手強そうなんで厳しいレースになると思うが、全力で行く。佐伯にも頑張ってもらう」

結果的には16歳ルーキーのポール獲得になった。

だが実際はそれが霞んだ。

2位のニスモは僅差。

しかも100キロのウェイトハンデを積んでいる。

常識的にあり得ない。

関係者はニスモに疑惑の目を向けた。

それを受け、ニスモは土曜の午後7時から会見を開いた。

Q1からQ2の短いインターバルでニスモが何をしているのか?

その概要を発表するとの声明。

プレスだけでなく、他チームの関係者も集まった。

定時になると、ニスモの監督とチーフエンジニア、そして理奈が姿を見せた。

そして集まった報道陣たちのタブレットに、膨大な資料が配布された。

その情報量に圧倒される。

「えー、当然チームの機密があるので全てを公表出来ませんが、それがQ1を走った後に得られるデータです。その全てに理奈が目を通し、Q2に向けてセッティング変更の指示を出しています。全て彼女の力です」

その監督の説明を受けて、全体に騒めきが走った。

「ちょ、ちょっと待って下さい、このデータ量を、あの短時間で分析ですか?」

「ただ目を通すだけでもインターバル終わっちゃいますよ。普通のエンジニアではあり得ない」

そんな質問を受けると、監督は悟ったような表情で説明を続けた。

「確かに普通のエンジニアでは無理です。でも分析するのは理奈なんです。この娘が普通ですか?まだ16歳ですが、F1のレッドブルの第一線で通用するレベルなんです。向こうからはさっさと理奈を寄越せとのプレッシャーが日に日に増していますよ」

「レクサスやホンダの方々なら気付いたかもしれませんが、それはポストリグを動かすのに必要なデータだそうです。ウチは持っていないので詳細は分かりませんが、そうだよね?」

チーフエンジニアが理奈に同意を求めると、理奈は小さく頷いた。

さらに動揺が走る。

「ってことは、理奈ちゃんの頭の中でポストリグ動かしてるの?」

「ポストリグなんて日本に何台もありはしない。理奈ちゃんどこで知ったの?」

理奈に質問が集まった。

「もちろんレッドブルです。あそこでポストリグをどう使っているのか教えて貰って、これは使えると思ったんです。あたしは空力に重きを置いていますが、それはきちんとしたシャーシがあっての話です。それに今年のスーパーGTは空力が凍結なので、あまり出来ません。まあ出来る範囲内でやれることはやってますが」

と苦笑いを浮かべた。

「でもポストリグ使用はレギュレーション違反では?」

そんな質問に対して、監督は笑顔で答えた。

「だからウチはポストリグは持っていません。理奈の脳内で仮想ポストリグを動かしているだけです。いわゆる脳内セッティングですよ」

「の、脳内セッティング?」

「ちょっと、そんないい加減なことをして結果出してるんですか?」

脳内セッティングとは、エンジニア等の技術者が実走データを参考にせず、理論のみで組み上げたセッティング。

大体は使えない。

そんなあやふやなものに、ニスモというチームが頼っているなどあり得ない。

「いや、だから発表は避けてたんです。でも今シーズンから理奈ちゃんが来て、それで彼女の脳内セッティングがホントに当たるんです。チーフエンジニアとしては、彼女に頼り切りなのは情けないですが、それが実情なので。ホントに助かってます」

チーフエンジニアも苦笑いを浮かべた。

その後、理奈にいくつかの質問があったが、詳しいことは明日直接レクチャーするとなって、会見は終了した。

和貴もインパルのエンジニアと共に同席し、渡された資料をチェックしていた。

そして、ブリジストンの担当エンジニアを呼ぶように頼んだ。

「どうしたんだ?」

「ここ見て下さい。ミシュランが持ち込んだタイヤの詳細データがあります」

「おい、嘘だろ?」

エンジニアが慌ててタブレットをチェックする。

「おいおい、こんなの公表するのか?」

「まあ、今更どうにもならないですからね。でもこれで明日のニスモ対策が出来ます」

その後、ブリジストンのエンジニアを呼んで緊急ミーティング。

ニスモから渡された資料には、ミシュランのタイヤデータが記されていた。

それを見たブリジストンのエンジニアは驚いていた。

「こんなタイヤであんなタイムが出るなんて、信じられません。ウチも上手く合わせ込みました。でもミシュランはそれ以上です。それにこのタイヤを使われるとなると、決勝では強いです」

「そこまでか?」

「はい。100キロのウェイトを想定したタイヤです。普通なら構造が強過ぎて使えませんが、それをサスで上手く使っているのだと思います。このタイヤをきっちり使われると、ウチは苦しいです。一発の速さはありませんが、ライフが長いです。レースペースが悪くなければ、苦しい戦いになります」

「じゃあ明日の朝、レースに向けてきっちり車を詰めよう。明日は絶対に勝つぞ」

監督が気合いを入れた。

そして決勝朝のフリー走行。

燃料満タンで、レースを想定したペースで走る。

時間に限りがあるが、ここでも和貴が走った。

コンスタントに1分52秒台のペースを刻んだ。

フリー走行もトップ。

ただニスモとは僅差だった。

このタイムを見て、監督が決断を下した。

「佐伯、お前がスタートドライバーだ」

「ええ?ちょっとそれはさすがに自信無いです。300の処理をしながらバトルの経験皆無ですよ!」

「大丈夫だ。フリー走行みたいに走ればいい。お前は全体が見えてる。だから300の処理でもタイムがさほど落ちない。自信持って行け」

「あと、スタートタイヤはお前がポールタイムを出したタイヤだ。責任持って使い切れ」

監督に加えてチーフエンジニアまでそう言いだしたので、何も言えなかった。

そしてレースが始まる。

グリッドに全車並べられ、雰囲気が華やぐ。

ポールポジションからのスタート。

しかもスーパーGTデビューレースでスタートドライバー。

ピットリポーターのインタビューにも対応する。

そこで後ろから見守っていた優奈も呼ばれた。

「優奈ちゃん、緊張してる?」

「もちろんですよ。スタンドがギッシリ埋まってるじゃないですか。逆に和貴がいつも落ち着いてるのが不思議だよ」

「んなこと言っても、今更どうにもならないだろ。とにかくレースをきちんと走る。それだけだ」

「佐伯くんはいつも冷静だよね。レースへの不安はないんですか?」

「やっぱり300の処理が不安です。でもそこはゲーマーなので、ゲームでしっかり走り込みました。やはりスーパーGTに参加されているドライバーの方々は素晴らしいので、ゲームより安心して走れますので、さほど不安はないです」

「デビューレース、期待しています」

インタビューが終わり、オープニングセレモニーが進む。

車に乗り込み、集中力を高める。

定刻になり、フォーメーションラップスタート。

スーパーGTは2周走る。

各部のコンディションをチェックして、タイヤを温める。

MRWでローリングスタートは散々経験している。

スタートに不安はなかった。

グリーンランプ点灯して、レーススタート。

トップで1コーナーに飛び込んだ。

和貴はここでスパートをかけた。

2位は100キロ積んでいるニスモ。

いくらタイヤを合わせていても、不利は否めない。

300に追いつくまで、思いっ切り攻める。

オープニングラップで3秒のマージンを築いた。

そこからハイペースを続ける。

300の集団に追い付いた頃には、11秒のマージンを築いていた。

ここからは慎重に走る。

タイムを落とさないためには積極的に処理しなければならないが、抜かれる300の車もレースをしている。

常に数台前を見ながら、タイムを落とさないラインを探る。

MRWのCPU車両はいやらしい動きをしたが、実際のレーシングドライバーはマナーを守った走りをしてくれた。

さほどリスクを冒さず、300を処理していく。

当初は28周を過ぎた辺りから最初のピットストップの予定だったが、タイヤの状態も悪くなく、ペースも良かったのでスティントを伸ばした。

燃費がギリギリの33周まで走り、34周目にピットイン。

車を降り、オリベイラに交代。

最初の仕事を終え、ピットの中に入った。

「よくやってくれた。2位に19秒のマージンを築いたぞ」

「そんなにですか?普通にリスクを冒さずに走っただけですが?」

「300の処理が安定していた。ペースがさほど落ちなかったんだ。皆感心してたぞ。体力的にはどうだ?」

「暑いですがエアコンありますし、Gもフォーミュラと比べたら少ないので思ったよりラクでした。とにかくタイヤの持たせることに気を遣ったこともあって限界までは攻めていません」

「分かった。とにかく今は休んでくれ。ここからはレギュラードライバーの仕事だが、状況によってはまた乗ってもらうかもしれない。気は抜かないでくれよ」

「了解です」

着替えてピットの中から状況を見守る。

オリベイラも安定して走っていたのでピットの雰囲気も良かった。

優奈と談笑する余裕もあった。

レースは進み、トップを走行。

だがマージンは広がらず、20秒弱で推移していた。

後続で動きがあり、レクサス勢が2位と3位を走っている。

そして58周目。

オリベイラの前で300の2台がバトルをしていた。

ヘアピンを立ち上がり、スプーンに向かう。そこに接近するオリベイラ。

和貴は危ないと思った。

「ええ?オリベイラが300と当たりました!」

「これはバトルに巻き込まれましたね!オリベイラはエスケープに逃げましたが、ダメージありそうです」

左リアが壊れ、スローパンクチャーを起こしていた。

ピットが一気に慌しくなる。

ルーティーンが近かったので、次のドライバーの準備は出来ていた。

緊急ピットイン。

ルーティーンの作業と共に、慌しく補修が進む。

リアのボディの一部が壊れ、それがタイヤに当たってパンクを起こしていた。

ガレージには入れず、ピットレーンでクルーがガムテープを使って手早く直す。

思ったより時間が掛からずピットアウト。

500勢のルーティーンが終わり、順位が落ち着くと、8位まで下がっていた。

トップとは90秒以上の差。

ピットの雰囲気が暗くなる。

ここでエンジニアが声をかけてきた。

「大丈夫だ。まだレースは長い。この差もセイフティカーが入ればなくなる。ラップダウンにならなかった分だけ運がいい」

「そんなもんですか?」

「1000キロレースは何が起きてもおかしくない。まだチャンスがある」

エンジニアの励ましには、虚勢があるようには見えなかった。

そして、その通りになる。

74周目。

S字で500のNSXがタイヤバーストを起こしてストップ。コースが塞がれた。

セイフティカー導入。

順位は変わらないが、差は詰まった。

「佐伯、次のスティント頼む。バトルなら速いお前が有利だ」

「分かりました」

和貴は準備を始めた。

79周目にレース再開。

接近戦のバトルが始まった。

85周目に3度目のピットイン。

和貴が乗り込む。

「クラッシュの影響で左コーナーの挙動に違和感があるが、慣れれば問題ない」

「分かりました」

ルーティーンを終えて、ピットアウト。

「最初のスティントのタイヤはまだ余裕があた。もっと攻めていいからな」

ブリジストンのエンジニアからのアドバイスを思い出す。

アウトラップから攻めた。

「おおっ、佐伯くんドリフトしてます」

「やっぱり冷えたタイヤは彼でも難しいですね。後ろからコバライネン来てるけどこれは抜かれるでしょう。あれ、またドリフトしてるぞ?」

「とても綺麗なドリフトに見えます。コバライネン来ましたが、ちょっと仕掛けられません」

「鈴鹿は狭いですから、こんな走りをされたらちょっと怖いですね。でも佐伯くん、ひょっとしてわざと滑らせてる?」

「ダンロップを立ち上がりデグナーには向かいますが、佐伯まだコバライネンの前です」

「やっぱりそうだ。もうペースいいです。タイヤ温めるためにわざとドリフトしてたんだ。いや凄い!」

「これでインパル7位に浮上。前のルマンを追います」

本来なら抜かれるアウトラップで1台抑えた。

フレッシュタイヤでペースを上げる。

「さあ佐伯、前のカルダレッリを追います」

「彼のラインは明らかに違います。コーナー小さく回っているんですね。フォーミュラならではと思ってましたが、GTでも通用するようです」

「さらに佐伯ですが、アウトラップのセクター2のタイムが飛び抜けてます。2位の立川より2秒も速いです」

「これは信じられないです。立川くんはGTでは間違いなくトップドライバーです。彼より速いとは、恐ろしい16歳です」

「そして佐伯のペースは明らかにカルダレッリより速いです。最終コーナーを立ち上がり、スリップに入った!」

「これは1コーナー勝負ですね。カルダレッリはインを塞いだ」

「さあ1コーナー、佐伯は、おおっ、アウトから行った!これで6位!」

「佐伯くん絶好調ですね。3秒前の小暮くんを追います」

和貴のペースがよく、5周でテールを捉えた。

「さあ今度は5位争い。小暮対佐伯」

「小暮くんやりにくいだろうなあ。佐伯くんのラインが特殊だからイン側のミラーに映るんです。嫌でも意識しますよ」

「シケインを抜けて最終コーナー、佐伯はここの立ち上がりが速い。小暮のスリップに入った!」

「これたぶん小暮くんはイン側を、あ、やっぱり塞ぎました」

「さあまた1コーナーだ。佐伯はアウトから仕掛けて、行きました!」

「これ佐伯くんは1コーナーで狙ってましたね。イン側ブロックされるのを計算してアウトから仕掛けています」

「これで5位浮上。今度はSロードの、本山が相手です」

「それだけじゃないですよ。本山くんの前には立川くんがいて3位争い中です。5秒差がありますが、佐伯くん追いつくでしょう」

「16歳デビューレースの佐伯和貴が、GTで百戦錬磨の立川と本山に挑みます!」

「今の佐伯くんのペースは最速です。トップのトムスより速いです。本山くんには簡単に追いついちゃいますね」

和貴は300を処理しながら、7周で3位争いに加わった。

「凄いバトルが始まりました。立川と本山というスーパーGTを代表するトップドライバーに、16歳の佐伯が挑みます!3台がシケインに来ました」

「佐伯くんはここの立ち上がりが速いんです。本山くんのテールを、捉えましたね」

「さあホームストレート。また佐伯はアウトから仕掛けるのか?」

「いや本山くんには佐伯くんのやり方がピットから伝わってるはずです。だから同じやり方は使えないはずです」

「佐伯今度は、インだ!だが本山もブロック!」

「これは本山くん厳しい!でも佐伯くんも引かない!何とか入った!」

「佐伯今度はインだ!さあどうだ?1コーナーで、行ったか?おおっ、行きました!」

「まだですよ。立川くんがすぐ前です。300の集団に捕まってます」

「佐伯ビッグチャンスだ!立川まで仕留めるのか?」

「でもS字では抜けないよなあ。立川くんもミスはしませんでしょう」

「300が絡みながらの接近戦です。佐伯には未知の戦いだ。立川にもベテランの意地がある。おおっ?」

「逆バンク!立川くん詰まった!」

「佐伯上手い!300を利用して仕掛けた!鮮やかに抜きました!これで3位浮上!」

「ベテランをあっさり攻略しました。完全に全体が見えてますね」

「恐ろしい16歳です。今度は9秒前方のニスモを追います」

「でも松田くんもペースを上げました。追いつくかな?」

「佐伯が魅せてくれます。アクシデントから不死鳥のように蘇りました」

和貴は更なる追い上げに入ったが、バトルが続いたのでタイヤが厳しくなっていた。

それでもペースを落とさないように懸命に走る。

ニスモまで3秒のところまで追い上げた。

116周目にピットインしてオリベイラに交代。

ルーティーンを済ませてピットアウト。

「佐伯よくやってくれた。凄えなお前は」

監督が直接褒め称える。

「バトルでタイヤを使ったので後半きつかったです」

「このペースで走れたなら満点だ。で、悪いが最終スティントも頼む」

「マジですか?」

さすがに驚いた。

「身体がキツいか?」

「いや、フォーミュラより全然ラクで快適なんで大丈夫ですが、俺がレギュラー差し置いてそこまで出しゃばっていいんですか?」

「お前がウチで最速だ。それだけ出しゃばって充分な理由だ。それにJPには無理して仕掛けるなと言ってある。最近かなり落ち着いたが、あいつは速くてもやらかす癖がある。お前のほうがバトル向きだ」

「分かりました」

インターバルで休憩したいが、最終スティントを走るならコンセントレーションを切らしてはならない。

レーシングスーツのままピットウォールに張り付き、レースを見守る。

オリベイラも果敢な走りを見せるが、ニスモ攻略は難しい。

「やっぱりロニーは速くて上手いな。仕掛ける隙がない」

「このペースで付いて行けませんか?ラストのピットでオーバーカット出来れば理想です。それにニスモのタイヤはウォームアップしにくいです」

「まあそれが無難だろう。JPは嫌がるだろうがな」

「このレースの主役はスポットのお前だ。JPにもレギュラーの意地があるんだが、ここは確実に行くべきだろう」

レースエンジニアが無線を通して英語で指示を出した。

トップはトムスの36号車。

2位のニスモはほぼ同じペースで13秒後方。

その後ろに付けている。

最終ピットでニスモを抜き、最終スティントでトムスを攻略。

和貴に重責が任された。

ニスモは143周目に最終ピットイン。

この間にオリベイラがハードプッシュしてマージンを稼ぐ。

オリベイラは145周目にピットイン。

和貴が乗り込んだ。

ニスモより1秒短い作業時間でピットアウト。

和貴はまたドリフトを使い、素早く温める。

このピットストップでしたニスモの2秒前方に出ることに成功した。

残り25周でトップのトムスを追う。

気温と路面温度が下がり、ペースが上がる。

「このレース主役の佐伯、1分51秒089のファステストを記録。トップのキャシディを追います」

「このペースなら残り5周くらいで追いつきますね。レースの終盤でも魅せてくれます」

和貴はハイペースで追い上げ、残り6周でトップを捉えた。

「さあ残り6周、佐伯がキャシディのスリップに入った!」

「インかな?それともアウト?おっ!」

「アウトに振った!だがキャシディもブロック、うわっ!」

キャシディが厳しい幅寄せブロック。

和貴のスペースが完全に潰され、アウト側のダートにはみ出した。

「これはキャシディ厳しいですね」

「でも完全にスペース潰してました。これはやり過ぎでしょう。でも佐伯くんも冷静でしたね」

和貴はコーナーごとに揺さぶりを掛けるが、キャシディは鋭く反応した。

「トップ2台がホームストレートに帰って来ました。残り5周!」

「佐伯くん今度は、インだ!ああっ!」

「キャシディまた厳しいブロック!」

「これ完全にやり過ぎです。佐伯くんウォールに当たりましたよ!」

「佐伯、大丈夫か?」

「ちょっと壁に当たっただけです。問題ありません」

「落ち着いて行け。まだ5周ある。無理するな」

「さすがトップ争いとなるとブロック厳しいですね」

「あれはやり過ぎだ。今監督が抗議に行った」

監督がトムスのピットウォールに怒鳴り込む様子をカメラが捉えていた。

和貴は無理に仕掛けず、タイヤを労わりながら揺さぶりを掛け続ける。

「残り4周です。あ、キャシディに黒白旗が提示です」

「さすがにあのブロックはやり過ぎですから。ピットからも指示が出てるはずです」

「でも佐伯くん、仕掛けません」

「ホームストレートは完全にマークされているので危険と判断したのでしょう。キャシディとは対称的に冷静ですね」

「佐伯なら300を利用することも出来ます」

インパルのピットの様子が映し出される。

「優奈ちゃん、心配顔です」

「危ない場面が続きましたから。でもあの子がいるから頑張れると佐伯くんは言ってますね」

和貴はひたすら揺さぶり続け、チャンスを待った。

そして残り3周のシケイン立ち上がり。

「キャシディミス!リアが滑った!」

「佐伯くん仕掛ける!アウトから!」

完全に並走して最終コーナーを立ち上がる。

「佐伯が行きます!残り2周!」

「キャシディもこれは無理!ブロック出来ない!」

「佐伯がジリジリ前に出る!やはりここが速い!」

「佐伯くんが前だ!1コーナー!ああっ!キャシディスピン!」

「当たった!けど佐伯くん、何とか避けたかな?」

1コーナー進入でイン側のキャシディがスピン。

和貴の右リアに軽く当たった。

和貴も挙動を乱してコースアウトしたが、エスケープに少し出てコースに戻った。

「大丈夫か?」

「軽く当てられただけです。問題ないと思います」

「あと2周だ。無理するな」

「後ろとの差はどうなってます?」

「キャシディはコースアウトして止まった。8秒後方にニスモだ。セイフティリードはある」

「分かりました。無理せず行きます」

これで遂にトップ浮上。

ペースを保ち、ゴールを目指す。

「佐伯和貴、本当に素晴らしいドライバーです。オリベイラのミスを見事にリカバー。8番手からトップに返り咲きました」

「本当に凄い。デビューレースとは思えない圧倒的な速さと強さです」

もう何も問題なかった。

危なげなくチェッカーを受けた。

マーシャルの指示に従い、ピットを逆走して、指定場所に止めた。

とりあえず仕事を終えた達成感があった。

車から降りると、スーパーフォーミュラではあり得ないほどの眩いフラッシュを受けた。

そして、チームクルーとふたりのレギュラードライバーから手荒い祝福を受けた。

皆、喜びを爆発させていた。

ヘルメットを脱ぎ、ブリジストンのキャップを被り、監督も来てインタビューが始まる前に、優奈が泣きながら飛び込んできた。

「和貴のバカ!無理しないでよ!ホントに心配したんだからね!」

「分かった分かったゴメンゴメン、後で相手してやるからちょっと待ってろ」

それでも優奈は離れない。

結局そのままインタビューが始まった。

「まさに佐伯和貴劇場でした。デビューレースでスタートドライバー、しかも3スティント担当して見事な追い上げ、終盤の鮮やかな逆転劇。素晴らしいです」

「ありがとうございます。でもこんな走りが出来たのは、ブリジストンさんが素晴らしいタイヤを用意してくれて、レギュラードライバーの方々がセッティングをきちんと出して頂いたからです。クルーの方々にも助けられました。それに監督がチャンスを与えてくれたからです。チーム一丸の勝利です。あ、あとこいつも一応支えてくれました」

と、胸に掴まってる優奈にもフォローを入れた。

「ちょっと和貴、コレ扱いは酷い!」

「こんな状況でグズるな!」

そんなふたりのやりとりは、周りを爆笑に包んだ。

「もう、優奈、気持ちは分からないでもないけど空気読んで。佐伯くんもみんなも困ってるよ」

ここで理奈が呆れ顔で姿を見せた。

「あ、理奈ちゃんも来ました。理奈ちゃん、佐伯くんのデビューレースの感想を一言」

「嬉しさ半分、悔しさ半分ですね。本音はウチが勝ちたかったし、チャンスもありました。でもクラッシュからあそこまでリカバーするとは思いませんでした。それに日産としては表彰台独占になったのはいい結果だと思います」

「え、表彰台独占?」

「うん、トムスが自滅したから」

理奈が笑顔を見せる。

「けど最後のバトルは佐伯くんでも厳しかったのでは?」

「ちょっと怖かったですね。でもあれくらいのラフプレイはゲームでは当たり前なので何とかなるかとは思ってました。でもその前にタイヤ使い切ったのか、ミスしてくれたので助かりました」

「当てられてコースアウトしましたが」

「まああれくらいは海外相手のゲームでは日常茶飯事です」

和貴が当たり前のように語ったこの言葉は大きなインパクトを与えた。

何はともあれ、激闘の1日は最高の結果で幕を閉じた。











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