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Motor Racing World  作者: ジャミー
19/23

輝く16歳の才能

7月。

F1イギリスGPを終えたシルバーストーンサーキットの月曜日。

F1では数少ないシーズンインテストを迎えた。

このテストはマシン開発だけでなく、新人ドライバー育成の目的がある。

シーズンインテストはシーズン中に4日間。

そのうち2日はF1でのレース経験がない新人ドライバーを走らせるという規定がある。

その貴重な1日のドライバーに和貴が抜擢された。

しかもチームはレッドブル。

和貴の実績及び経験であれば、ジュニアチームのトロロッソが妥当だが、レッドブルのシートが与えられた。

きっかけは去年の12月。

和貴と理奈がレッドブル首脳陣の目に留まった。

MRWで結果を出し、日本のレース界で強烈なデビューを果たし、ニスモと契約を交わした16歳の少年と少女。

その際、理奈はニスモにエイドリアン・ニューエイとの面会を希望した。

ニスモが間に入って希望が実現したが、それでは終わらなかった。

レッドブルは和貴に2年落ちのF1マシンをドライブする期間を与え、和貴はレースペースでレースディスタンスを走り切った。

その際に理奈がサポートを担当し、その力を存分に発揮した。

この結果を受け、和貴はレッドブルの育成ドライバー枠を勝ち取った。

理奈はニスモの仕事をしつつ、F1の開発に携わるという離れ業を受け持つことになった。

春に日本のモータースポーツが開幕。

和貴は若干16歳にして日本最高峰のスーパーフォーミュラにインパルからデビューし、理奈はレースストラテジストの大役を担った。

デビューレースは3番グリッドから逆転してデビューウィン。

それだけでも偉業だが、より鮮烈だったのは第2戦。

トラブルによりピットスタートになったが、セッティング変更と理奈の戦略が見事にハマって3位表彰台に上がった。

現在ランキング1位。

日本のレース界は余りにも若すぎる才能の誕生に盛り上がっている。

それでも和貴自身は冷静だった。

「最速のクルマを与えられ、優れたエンジニアが最高の戦略を教えてくれるから出来ているんです。僕はただその通りに走っているだけですよ」

という言葉を繰り返していた。

それを受け、レッドブルがシーズンインテストに和貴を抜擢。

そこに理奈も加わった。

『16歳のドライバーが、16歳のデザイナーが生み出した革新的なパーツをテストする』

というプレスリリースを出した。

若手ドライバーの抜擢には定評のあるレッドブルだが、それでも16歳は若すぎる。

和貴の抜擢だけでも偉業だが、それ以上に異例なのが理奈。

16歳の女性デザイナーなど前例がない。

ヘッドセットを付けてピットウォールに座る小柄な女の子は大きな注目を浴びた。

朝から走行開始。

まずはミディアムタイヤでコースに出る。

インスタレーションラップを終え、チェックの後に本格走行開始。

理奈が和貴の担当になり、無線で指示を送る。

基本は英語だが、日本語での通信も許されている。

「カズ、ペースが速すぎるってみんな驚いてるよ」

「そんなに無理してないって。そもそもタイヤが新しい序盤でタイムが出るのは自然だよ」

「フィーリングどう?」

「今のところ問題ない。けど思ったより動きがソフトな感じ」

「ちょっと扱いやすいセットになってるから。まずは車に慣れて」

タイヤはミディアム。

燃料は半分ほど。

それでいきなり1分35秒台のラップを刻んだ。

レギュラードライバーと遜色ないタイムレベル。

ピットウォールの首脳陣も驚きを表す。

「ちょっとセッティングを変えたい。パワーが逃げてて前に進まない。コーナーでの動きも重い」

「OK、やれることをやっていこう。まずはデフ設定から。ダイヤルを・・・」

理奈が指示を送り、和貴が対応する。

走りがどんどん良くなり、タイムが次第に詰まっていく。

本来ならタイヤのデグラデーションが進んでタイムは悪くなるのだが、周回を重ねるごとに学習し、その効果のほうが大きかった。

連続15周でピットイン。

最終的には34秒978まで詰めた。

ガレージインして、一旦降りる。

そこに理奈と、チームトップのクリスチャン・ホーナーが寄ってきた。

「カズ、ファンタスティック。いきなりレギュラーと互角のタイムだ」

ホーナーの顔がほころぶ。

「いや、でもまだ限界まで攻めてません。

それに車の動きが重くて柔らかいから高速コーナーで不安感があります」

「このタイムレベルならレギュラードライバーと同じセッティングにしたほうがいいだろう。予定よりかなり早いが新しいウィングのテストに入る。前後ウィングをアップデートして、サスセッティングも詰める。少し待っててくれ」

理奈がタブレットを手にして、データを見せる。

「まだタイヤを使い切れてないね。高速コーナーの通過スピードが少し低いけど、このサスセッティングなら仕方ないかな」

「どの辺りで詰められそう?」

「そうだね・・・」

ロスしている箇所を適確に伝えてくれる。

この理奈の助言があるから、和貴は速く走れる。

他のエンジニアにも問題点を英語で伝えて、セッティングの微調整に組み入れる。

「和貴、大丈夫?」

今度は優奈がスポーツドリンクを渡しに来た。

優奈はどんな時でも和貴の側を離れない。

陰で支え、励まされたり、癒されたりしている。

「俺は大丈夫だ。逆にお前のほうこそ大丈夫か?F1の雰囲気に飲まれてないか?」

「だっていろいろ凄いんだもん。ホントに絢爛豪華な別世界って感じ。もうセレブの場所で強烈な場違い感があるよ」

「確かにそうだな。スーパーフォーミュラでも金掛かってると思うけど、F1は次元が違う。けどどこでも快適だから歓迎だ」

「無理しないでね。冬みたいなクラッシュは嫌だから」

「ああ、気を付けるよ」

冬の最初のF1テストの時、終盤に和貴は大クラッシュをしてした。

高速コーナーでリアサスペンションが突然壊れてどうにもならなかった。

F1の圧倒的な安全性に救われてほぼ無傷で済み、チーム側のミスだと謝罪があったので問題はなかったが、ピットで待っていた優奈は顔面蒼白で倒れる一歩手前だったと聞き、それ以来和貴は無理をしないようにしようと心がけている。

確かに結果は出したいが、大切な女の子の心に大きな負荷は掛けたくなかった。

セッティング変更が完了し、次のランに入る。

燃料は半分、ミディアムタイヤで20周のロングラン。

車の動きが大幅に改善され、思い通りに動いて気持ちいい。

だが前後ウィングが変わったことで、バランスが少し狂っていた。

「よく曲がるようになったけど、ちょっとバランス悪い。リアが軽い感じがする」

「どこで?」

「セクター1のターン3からターン7。中速コーナーの立ち上がりで踏むタイミングが少し遅れる」

「他は?」

「高速コーナーは大丈夫。安心して攻められる。中速コーナーが不満」

「こっちでもデータ確認した。ダウンフォース減ってて荷重が少ない。これでは踏めないかな」

「トルクマップ変更で対応出来ない?」

「とりあえずそうしよう。トルクマップとデフ、あとブレーキバランスでつじつま合わせる。これで我慢して走って」

F1はステアリングで様々な調整が出来る。

その微調整で安定して走れるようになった。

それで20周のロングランをこなし、また微調整のショートランを繰り返す。

それでミディアムタイヤで33秒915までタイムを詰めた。

これで午前中のプログラムは完了したが、まだ時間が残っていた。

「カズタカ、予選シミュレーションをやってみよう。現状の限界を知りたい」

ホーナーが笑顔で持ち掛けた。

予定外の予選シミュレーション。

断る理由はない。

笑顔で快諾して、コックピットに収まる。

新品のソフトタイヤが装着された。

ピットアウト。

アウトラップで慎重にタイヤを温める。

「予選時より路面温度高いから、普通に走れば大丈夫。けどフロントは強めに温めて」

理奈のアドバイスに従い、1周で温めた。

アタックラップ開始。

セクター1は中低速コーナーが続く。

リズミカルに走り抜ける。

ウォームアップが上手く行ったので、充分に曲がる。

セクター2は名物高速コーナーが続く。

もともとダウンフォースが大きいレッドブル。

さらに新型ウィングで安定感が増している。

強大なGに耐えながら、ラインに乗せる。

最終セクターは名物中速コーナーが待っている。

もうタイヤのピークは過ぎていた。

その中で攻めつつも、限界を超えないようにする。

最終コーナーを立ち上がり、コントロールライン通過。

ステアリングにタイムが表示される。

29秒851。

週末にレギュラードライバーが出したタイムを更新した。

「カズタカ、グッジョブ。ピットに戻ってくれ」

無線のホーナーの声も弾んでいた。

ピットに戻り、ガレージインして車から降りた。

チームスタッフ皆が笑顔だった。

握手を交わし、皆が褒め称えた。

「カズタカ、ピット裏にプレスが集まっている。着替えて対応したらランチブレークだ。午後からも頼むぞ」

モーターホームで着替え、プレスに囲まれた。

若干16歳の新人が、同じタイヤでレギュラードライバーのタイムを更新。

注目が集まるのも当たり前。

「土曜よりラバーが乗っているからコンディションが良かった。しかもアップデートしたウィングもあった。タイム更新は当然ですよ」

「午後からはさらにタイムを詰める自信はありますか?」

「いや、午後は予選シミュレーションの予定はありません。新しいエアロとハロのテストです。僕じゃなく車に注目して下さい」

昼休みは優奈、理奈の3人でホンダのホスピタリティブースに向かった。

ここなら日本食が味わえる。

日本人スタッフやプレスも多い。

和貴のタイムは午前中トップ。

皆が笑顔で声を掛けてくれた。

「佐伯くん、完全に有名人だね」

理奈が茶化す。

「でも午後からが理奈ちゃんの出番だろ?プレスリリースにも出てるんだから」

午後からは理奈がデザインしたレッドブル製ハロのテストから始まる。

和貴は既にファクトリーで目にしていたが、開いた口が塞がらなかった。

チーフデザイナーのエイドリアン・ニューエイも笑っていた。

現在ピットでは、そのハロの取り付け作業が進められている。

「お前もここだと落ち着いているな」

優奈はjdずっとテンパっていたが、日本人が多いここでは落ち着いている。

「うん、やっぱりレッドブルのピットって外国のイメージ強いもん。英会話が出来ない訳じゃないけど、ひとりだとちょっと不安。だからって和貴にベッタリだとさすがに迷惑だろうし」

「その心がけを日本のレースでも持ってくれ。レース中のお前の相手は気が引けるんだよ」

「日本じゃあたしたちの関係はもう誰も知ってるでしょ。だから日本はいいの!」

「ハイハイ分かった。優奈、今日はピットで大人しくしてなさい。佐伯くんもアタックラップの予定はないからよっぽど大丈夫だから」

理奈も理奈なりに妹を気遣っていた。

ランチタイムを終えてピットに戻ると、レッドブルのピット前にカメラマンが並んでいた。

それだけでなく、他のチームの関係者も苦笑いを浮かべていた。

来シーズンから導入されるコックピット保護デバイスのハロ。

レッドブルはエアロスクリーンというデバイスを開発していたが、FIAはシンプルなハロを採用した。

それを受けてレッドブルもハロの開発を始めていたが、それに先立って理奈がデザインを進めていた。

それがレッドブルに採用され、これから日の目を見ることになるのだが、

「やっぱりやり過ぎだよなあ」

和貴も苦笑いしか出ない。

ハロはコックピット前部を1本のバーが通り、それがヘルメットの少し手前で2分割されてコックピットサイドに繋がっている。

ドライバーの視界を遮る形になるのでよりシンプルに、より空力の影響を少なくするように開発が進められているのだが、

「どんな形であれ、ドライバーの前に出来る構造物なんだから、嫌でも空力の影響は出るもん」

という理奈の考えの元に編み出されたレッドブル製ハロ。

どう見ても空力に影響を及ぼすデザインになっている。

形が醜いと不評のハロだが、理奈デザインはそれに輪をかけている。

理奈がレッドブルの広報に呼ばれ、プレスが集まった。

和貴はそれを見届けると、午後の走行の準備に入った。

視界の中央にハロの細いフレームが通っている。

ただそれだけではなく、フレームに細かなフィンが付いている。

さらにモノコック側にも構造物が付いている。

これらの相乗効果で、ヘルメットに当たる空気流を限りなく減らし、バイザーへの付着物を減らすのが目的になっている。

これは捨てバイザー問題を減らすという大義名分がある。

さらにその上部は限りなくフラットに仕上げられたプレートとフィンが備わっている。

これも剛性を確保する構造物という名目だが、どう見ても整流目的に見える。

グリーンランプと同時にコースイン。

明らかに感じが変わった。

「視界どう?」

「慣れれば問題ないと思う。コーナー攻める分にはなんの問題もない。けど明らかにヘルメットに当たる風が減った」

「なら狙い通りだね。そのまま周回重ねて」

普通に走る分には問題はなかった。

むしろヘルメットに当たる空気が明らかに減って快適だった。

ペースを上げる。

すると新たな違いに気づいた。

「アンダー気味になった。あとストレートが明らかに伸びてる気がする」

「了解。それもデータに出てる。狙い通りだね」

「これだけでここまで変わるの?」

「ヘルメット周辺の整流が出来るんだから効果は大きいよ。ドラッグは明らかに減って、リアウィングに綺麗な空気が大量に流れるから効率がぐんと上がる。あとインダクションボックスに入る空気も明らかに増えてるから、パワーも上がるはず」

「そんなに?」

「パワーユニットのチェックするから、燃費度外視でパワーベストで走って。データ取るから」

当初はアンダー気味のハンドリングに戸惑ったが、ステアリングの調整である程度誤魔化した。

リアが安定しているので積極的に踏める。

確かにパワーアップを感じられた。

ストレートスピードは明らかに向上し、よりハイパワーでストレートが速いウィリアムズをストレートで追い抜いた。

20周こなしてピットイン。

「OK、いいデータ取れた。走行に問題ないよね?」

「現状では問題ない。むしろ快適」

「じゃあ次のテストメニューに入るから」

コックピットから降りて、メカニックの作業を見ながらデータ確認。

これからが今日の本番。

ハロは目立つデバイスだが、それにより得られるゲインも大きかった。

そしてこれから試すデバイスは、そのゲインを打ち消す。

理奈デザインの新たなフロントウィングが装着された。

現在のF1の空力は、フロントウィングで決まってしまう。

年々複雑怪奇な形状になっているが、それでも基本的はコンセプトは各チーム共通である。

だがこのフロントウィングは根本的に異なっている。

他チームのスタッフやプレスがまた集まり出した。

関係者から見れば、これもあり得ない形状をしている。

作業が完了してコックピットに収まると、ピットアウトした。

タイヤはハード。

燃料は70パーセントほど。

「どんな感じ?」

「予想はしてたけど、完全に別物だね。車の特性が変わった」

コーナーごとに挙動が変わり、それを報告。

ショートランを繰り返し、細かな微調整を詰める。

それでとりあえず満足なバランスになった。

「とりあえずこれでロングランに入る」

「現状で35秒台前半が出てるからいいと思う。とりあえず周回を重ねて」

「他チームにはちゃんと話を通して置いてくれよ」

「了解、分かってる」

3周ほどそのまま走る。

「カズ、3秒後方にメルセデスが来てるから前に出して。向こうもロングランの最中だから」

「了解。付いて行けばいいんだよね?」

「バトル仕掛けてもいいってさ」

「は?」

「メルセデスは、16歳の新人が付いて来られる訳がないと思ってるみたい。だからガンガンプレッシャーかけていいから。そっちのほうがいいデータが取れる」

「OK」

メルセデスを前に出した。

向こうも和貴ほどは若くないが、新人育成ドライバーが乗っている。

それを全力で追いかける。

ギャップはコンマ5秒以内を保つ。

「どう?」

「OKだ。高速コーナーでもあまり乱れない。付いて行ける」

「どんどん仕掛けて。接触しなければ抜いていいから」

シルバーストーンの場合、ロングストレートの手間は中高速コーナーになっている。

現状のF1では、前方の車に近付くとフロントウィングにクリーンエアが当たらなくなり、ダウンフォースを失う。

だが理奈が基本デザインを手掛けたこのフロントウィングは、乱気流下でも充分なダウンフォースを発揮する。

高速コーナーでもピタリと後ろを離れない。

ハンガーストレート手前のチャペルでピッタリと貼りつく。

通常ならあり得ない。

スリップを使って抜きにかかる。

だがメルセデスのドライバーも踏ん張る。

和貴もバトルには慎重なので、無理には仕掛けない。

和貴は1コーナー、コプス、ストウの進入で仕掛けるが、紙一重のところでブロックされる。

それが5周ほど続いた。

「なんかメルセデスの挙動が怪しくなって来たぞ」

「向こうはかなりヒートアップしているみたい。しきりにプッシュって言い続けてるよ」

「(日本語)まさか理奈ちゃんもプッシュって言わないよね?」

「(日本語)言ったら優奈に殺されそうだから止めておく。危ないと思ったら間隔開けて」

シルバーストーン名物の高速コーナー、マゴッツ、ベケッツ、チャペルの高速S字。

メルセデスの挙動がどんどん怪しくなり、不安定な動きを見せる。

(ヤバイ!)

和貴の本能がそう感知して、アクセルを緩めた。

前のメルセデスがベケッツの進入で挙動を乱して高速スピン。

後ろに貼り付いていたら確実に巻き込まれていた。

際どいところで避けてコースに留まる。

直ぐにイエローフラッグが提示されたが、10秒もしない間にレッドフラッグが提示された。

セッション中断。

そのままピットに戻った。

ガレージインして、コックピットから降りる。

首脳陣と理奈が集まった。

「上手く避けたな。見事だ」

「直前で危ないと感じたので間隔開けました」

モニターを見ると、クラッシュしたメルセデスの車が映っていた。

完全にバラバラになるほどの大クラッシュ。

しかもドライバーはまだ降りていない。

思わず日本語で本音が溢れた。

「大丈夫か?」

「背中を痛めたみたい。だからドクターカー到着までは降ろさせないよ」

理奈が日本語で状況を説明した。

同時に優奈は首脳陣に、和貴がクラッシュしたドライバーの心配をしていると英語で伝えた。

そしてメルセデスチームの首脳陣までもがレッドブルのピットに訪れた。

それを察知したプレスも集まる。

「クリスチャン、トリックを説明して欲しい。なぜ高速コーナーでもあそこまで接近させた?確かにウチはバトルを認めた。プッシュさせた。だがこんな展開になるとは思わなかった。常識的にあり得ない」

「マジシャンはリナだよ。あのフロントウィングとハロだよ」

ホーナーは理奈に説明するよう促した。

それを受けた理奈が流暢な英語で説明を始めた。

「今のF1ではフロントウィングがとても重要です。でも重要になり過ぎてクリーンエアを失うとダウンフォースが大幅に減るので近付けません。その問題に対するアプローチがこのフロントウィングです」

「このウィングなら先ほどのようなバトルが出来るのか?」

「だが明らかに効率が悪そうだ」

他チームのエンジニアが口々を感想を述べる。

「はい。通常のウィングより効率が2パーセント悪くなります。実戦では使えません。ですが今日はハロとの組み合わせが出来ました。このハロは2パーセント近いゲインが得られるんです」

「あのハロで2パーセントのゲインだと?」

「だがハロはあくまで安全性向上のデバイスだ。空力でゲインを得るのはスタンスが違う」

エンジニア達は否定の言葉を口にするが、それを理奈は笑顔で否定した。

「カメラのステーですら空力の影響を考えてデザインするのがF1です。ハロのような大掛かりなデバイスが導入されれば、空力用途でデザインするのは当たり前ですよ」

ここでホーナーが割って入った。

「まず誤解しないで欲しいのは、レッドブルのスタンスはハロには反対だ。だがもし導入となれば、ハロをこのように使う。リナの頭の中ではハロに無限の可能性を秘めている。我々はそれをフルに使う。確かにこれは醜く、F1には相応しくない。だがこの醜いデバイスで安全性と共にコンマ5秒を得られるとなるなら、反対派のドライバー達がどんな意見を出すのか聞いてみたいと思っている」

このレッドブル製ハロはネットを通じて一気に広まった。

それに対して多くのコメントが寄せられた。

特にハロに対して真っ向から反対しているワールドチャンピオンのコメントには注目が集まった。

「ただでさえ酷いハロがより醜くなったけど、コンマ5秒は無視出来ない。勝つためには付けるしかないのか」

という落胆のコメントをまず残し、

「こんなキュートな女の子があの醜いハロをデザインするような時代が来たのは少し悲しいよ」

と、理奈の顔写真を添付したコメントには多くの閲覧者が集まった。


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