6.叶う
一方、浜田と由香里は、あれから非番が合う日はまず笹尾神社へ参拝するのがデートコースになっていた。やはり連絡先を聞いておくべきだったと思うこと2回。3回目の参拝で、ようやくおばあさんに会うことができた。
由香里はその姿を見つけた瞬間、浜田に負けないぐらいの大きな声をあげておばあさんに駆け寄る。
「お久しぶりです。以前にこちらで奈穂子さんの宝物のお話を伺った者です」
「お久しぶり。あの後私も気になってね(笑)、よくここに来てたよ。連絡先聞いてたらよかったね」
「今の時代はむやみに話したらダメですよ。私たちも今は非番なんですから(笑)」
「おばあさん、例の宝物ってこれで間違いないですか?」
由香里は続けて尋ねる。
おばあさんの顔に笑みが浮かんだ。「これだわ。懐かしい。奈穂子ねーちゃんに見せてもらったのとおんなじ!」
4つの宝物には、同じ模様が2個ずつ入っている。四角が2個、十字が2個。
これを組み合わせてそっとベンチに置く。
2つの「叶う」が確かに見える。
おばあさんは黙ってそれを見つめる。どのぐらい時間がたっただろう。「ありがとう」と鼻声交じりに一言。
そして「奈穂子ねーちゃんは人見知りだった私に本当に優しくしてくれてね。きれいなお姉さんで憧れだった。今もこの街にいるのか、それともどこか遠くへ行ってしまったのか私は何もわからない」
「お礼の一つも言えてない。元気で過ごしてくれていたらそれで十分だけどね」
「この宝物は願いが叶うという言い伝えになっているんですよ。これは皆さんが快く譲ってくれたものですから、すべておばあさんにお譲りします。この笹尾神社でもしかしたら奈穂子さんに会える日が来るかもしれませんよ」
そうして話した後、三人は互いに礼を交わし、神社を後にした。
時は過ぎ、うだるような夏。高校野球では、またもや我が楓市の学校は2回戦までに姿を消した。甲子園は夢のまた夢である。幸運の石を送りつけようかと考える人がいてもおかしくない。球児たちが一生懸命、泥だらけになって練習する姿を見ると、一度ぐらいはと思うのが人情というものだ。
やがて夏休みも終わり、楓市の学校も2学期が始まる。街のあちこちで、友達と話しながら登校する子供たちを見かけるようになった。元気な声を聞いていると、普段のつまらない悩みも吹き飛ぶ。と同時に、少しの間でもあのころに戻ってみたいと考えてしまう。
子供のころは、毎日精一杯遊ぶことがすべてだった気がする。公園で日が暮れるまで遊んだこと。帰り道にもなかなか友達との話が終わらなかったこと。楽しかった思い出はたくさんある。
大人になるということは、できることが増える半面、失ったものも多いと思わずにはいられない。
やり残したことを思い出すと、今でもふと悔いが押し寄せてくる。あのころの誰かに、今なら言えることもあるのかもしれない。




