5.焼肉ばんざい
それから3週間あまり経った、ゴールデンウィークのことである。田中と中村はこの石を手に入れたからか理由はわからないが、少しばかり勝負運が向上しているようだ。今日もお決まりのコースで「焼肉ばんざい」に繰り出した。テーブル席で勢いよくビールを飲っているところに、田代一家がやってきた。
今日は息子が二人ともに帰省中であり、家族で焼肉でも行こうとなったようだ。
店に入るなり田中と目が合う。互いに驚きながら、田中も洋二郎に「いつもお世話になっています」と挨拶した。何のお世話になっているかはよくわからないが。
「あら、偶然ね〜。またパチンコ勝ったの?」
「そうなんですよ。あれ以来勝率上がってね!こっちは銀玉仲間の中村さん」
「どうも。先に飲ってます。今日は戦勝祝いです」
田代一家は田中たちの席の隣のテーブルに腰を掛けた。
どちらのテーブルも和気あいあいと焼肉を楽しみ、そろそろさなえの好きなデザートを頼もうかというころ、浜田と由香里が食事にやってきた。
二人はカウンターに通され、浜田が相変わらずの大きな声で注文を始める。中村とは財布を落としたときに面識があるのだが、お互い顔までは覚えていないらしい。どこか憎めないところではあるが頼りない。
浜田は声も大きいが、耳もよい。職業病かどうかは知らないが、なかなかの地獄耳だ。
背中越しの会話が聞こえてくる。幸運の石、パワーストーン、何か入ってる、石じゃなくて樹脂みたいだ、など。
これで勝ちだした、私は少し痩せたよ、などなど、これがまた地獄耳でなくともよく聞こえる。
由香里が浜田に確認する。「後ろの人たちの話って例の石のことじゃない?」
「僕もそう思う」珍しく勘が冴えわたった瞬間だ。
おもむろに振り返り、会話に参加する。
「あの〜すみません。先ほどの話の石って、もしかしてこれと同じような石のことですか?」
「そうそう!それそれ!」後ろの三人は一斉に声を上げた。
「いや〜あなたも持っていたとはね〜。ここに4つも集まるってすごくない?」さなえが陽気な声で話しかける。
見せ合うと、それらはどれも、おばあさんが話していた宝物の特徴と一致していた。
しばらくの談笑の後、由香里が「皆さんにお話が」と切り出し、先日おばあさんから聞いたことを説明した。
さなえはすぐにその意図を理解して宝物を由香里に差し出す。
「これおばあさんに渡してあげて。私も少し痩せた気がするしご利益あったよ。今でも十分幸せだし(笑)」
「ありがとうございます。責任をもってお届けします」
話を聞いていた焼肉ばんざいの大将も口を挟んだ。「田中さんも譲りなよ。どうせもともとこの店にあったやつなんだし。ハイボール、サービスするよ!」
この一言であっけなく陥落した。
中村もみんながそうするならと渡しかけたが、なかなか手を離さない。
その未練がましい動きに、しびれを切らした大将が声をかけた。「中村さんもハイボール!あと次に来たときは好きな肉一皿サービスしてあげるから」
これでついに観念したのだった。
浜田と由香里は皆に丁重に礼を述べ、向き直して大将にも頭を下げた。
大将は「内緒で」と声をひそめてささやき、この二人にもドリンクをサービスした。
ついに4つの宝物が浜田と由香里の手に渡った。
これは責任重大だぞと、浜田は何やら緊張している。
そんな浜田を見て由香里は、「また休みの時には笹尾神社に行こうよ。おばあさんも気にして来ているかもしれないよ」
「それまで釣りは我慢だね(笑)」
この一言で浜田は、すぐにおばあさんに会わないと、と意を決するのであった。
田中と中村は相も変わらぬ日々を送っていた。ある日、珍しく二人そろって大勝するという、彼らにとっての一粒万倍日が訪れた。
当然祝杯をあげるために、各々一度家に帰り、改めて東かえで商店街にほど近い、焼肉ばんざい前で待ち合わせとなったのだ。あの日以来の突撃である。
時刻は20時前だろうか。せっかく意気込んで来たまでは良かったが、生憎満席である。
すぐに席が空きそうもないことは、店を見渡しただけでわかった。
仕方なく他の店でもと、近場を歩き回る。
二人とも大勝しているのだが、田中と中村のことである。高級すき焼き店「楓月」を横目に通り過ぎた。こんなときぐらいしか暖簾をくぐれない名店なのだが、お互い気にはなるのか何度も振り返る。しかし、入ったのは5軒ほど離れた「焼鳥こけこっこ」という、これまた庶民的なお店であった。
まずビールで祝杯をあげてから、それぞれ好きな焼鳥を頼んでいく。
突き出しのきのこと菜葉のお浸しを平らげ、串の到着を待ちながら大勝の余韻に浸っていた。
「オレは来たのは遅かったけど、残り福がある気がしたんだよ」
田中はまったくロジカルではない理由を語る。
「僕は朝から来てましたけど、占い的中ですよ」
負けじとアンロジカルである。
そんなくだらない話を遮るように焼鳥の到着だ。
なんでも好きな二人だが、やはりハツとねぎま、それからズリ(砂肝)は特に好物だ。
噛み締める度に旨味が口中に広がる。やはり断然塩派でもある。
こんなところはよく似通っていて、お互いわかってるねと、妙な褒め合いをしながら愉快なひとときを過ごしたのだった。
すっかり焼鳥を堪能した二人だが、お互い勝ったのだからと後腐れなく割り勘にした。
小銭は田中が払うことで年長者の面目は保てたようだ。
幸運の石は手放したものの、こんな日もあるよねと二人して笑う。




