↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
都市伝説と楓市のふつうの人たち ―華は何処へ―  作者: 野乃 隆之


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/7

4.蓮華の記憶

 やがて冬も終わり、笹尾川の桜が咲き始めた。笹尾神社は紅葉の名所として知られるが、春は近くの桜並木も見事なものだ。

 4月初旬、浜田と由香里が笹尾神社に参拝した。由香里が近くの桜を見たいと言って聞かないので、一緒についてきたついでというわけだ。

 普通はこんな時ぐらい「由香里と幸せになれますように」と手を合わせそうなものだが、大漁祈願である。

 境内を少し散策していると、70歳ぐらいだろうか、こちらに背を向けてうずくまっているおばあさんを見かけた。

 体調が悪いのだろうか?二人はすぐさま駆け寄り声をかける。

「大丈夫ですか?どこか具合でも?」

「ありがとう、大丈夫」

「それならよかったですけどびっくりしました」

 二人は安堵した。

「でも疲れたならあそこで少し休憩なさっては?」

 由香里が近くのベンチを指さしながら促す。

 おばあさんは「ありがとう」と言ってヨロヨロと移動した。

「あのあたりにあったと聞いたんだけどねぇ」

 歩きながら誰に語るともなく独り言を漏らす。

「なにかお探し物でも?」

「うん、孫がね」

「はい」

「石の話を教えてくれたの」

「何の石です?」ほとんど二人同時に聞き返した。

「ほら、幸運をもたらすとか噂になっているとかいう石のことで」

「孫の話を聞いていると、なんだか心当たりがあるような気がして確かめにね」

「でもそれらしいものはないなと思って」

 浜田はもしやその噂というのは自分も持っている石のことでは?と思いながら、話の先を促した。

 話を聞くほどに、あの石に間違いなさそうだと思えた。

 特徴があまりにも似ている。

 おばあさんは、先ほど探していた場所に目をやった。

「でも、どうしてその石を探しているんですか?」

「あれは石じゃないんだけどね。なにか樹脂みたいなものを固めたようなものだと思う」

「そうだったんですね。おばあちゃんが作ったとかどこかで拾ったとか?」

「ううん、そんなんじゃない。私が小さいころに見た記憶が一気によみがえったの。あれは私より少しお姉さんの奈穂子ねーちゃんの宝物だった」

 浜田はこの石の由来が気になった。由香里も浜田に負けずお人好しなところがあり、二人でベンチに腰かけて話を聞くことにした。

「その奈穂子さんは、どんな方だったんですか?」由香里の問いかけに、おばあさんは話を続けた。

「奈穂子ねーちゃんは私がまだ小学生のころ、近くに住んでいたからよく遊んでもらってたの。お父さんは何かを作っている町工場の社長さん」

「奈穂子ねーちゃんは体が丈夫じゃなかったみたいでね、よく休んだりもしてたけど体調のいい日は遊んでもらったりして、それは楽しかった思い出」


 境内からは笹尾川の桜並木が見える。神社の木々の向こうに淡い花が広がり、何とも言えない風情があった。

 足を止めて桜を愛でる人も多く、いつもより参拝客の姿が目立つ。

「おばあさん、寒くはないですか?ここは日陰になってしまって」

 由香里の一言で、珍しく浜田は機転を利かせた。近くの自販機で温かいお茶を買って戻り、おばあさんに差し出した。

「ありがとう。さすがにちょっと寒いね」と、おばあさんは笑った。

「それでね、奈穂子ねーちゃんが、この石みたいなものを見せてくれたことがあって。お父さんが仕事の合間に作ってくれたんだって。私も2個もらったから覚えている」

「奈穂子ねーちゃんは蓮華の花が大好きでね。よく二人で摘みにいって冠作ったりしてね。懐かしいな」

「お父さんはいつも忙しそうにしていた人だったから、遊んでやれる時間もなかったんだと思う。だからというわけじゃないだろうけど、体の弱い娘を気にして、仕事の合間に作ったみたい。奈穂子ねーちゃんの大好きな蓮華の花弁を中に入れてね」

「ひとつは四角に、もう一つは十字に模様を入れてね」

「合わせて正面から見ると『叶う』と読めるんだよって教えてくれた」


 浜田は泣いている。わかりやすい人間だ。由香里は泣いてはいないが、なぜあそこにしゃがんでいたのかが気になり、尋ねてみた。

「あのあたりの写真だったよって孫が教えてくれたから、もしかしてまだあるのかなって。でももうなかった」

「そういう事情だったんですね。もうあのニュースが出てからはかなり時間もたったし、誰かが持って帰ったのかもしれないですね」

「うん、まぁあの宝物にそんなご利益があるのか知らないけど、誰かの役に立ってるのならいいけどね」

 おばあさんは、お茶の容器を両の手で包み込んだ。

「少し温まりましたか?」

「うん、ちょっと手が冷たくなってたから気持ちいい」

「それで奈穂子ねーちゃんも、私が中学生になるころにはどこかへ行っちゃったから、それっきり。今はどこでどうしてるのかもわからない。もらった宝物も、いつの間にかどこへしまったのかわからなくなって、もう手元にはないの。だから、もう一度だけでも見たいと思ってね」

「あの宝物が見つかればひょっとして奈穂子ねーちゃんに会えるのかな?とか考えたりしたらいてもたってもいられなくなってね」

 浜田は自分が警察官であることを名乗り、実はそれらしきものを一つ持っていると伝えた。もしかしたら何かのきっかけでもう少し見つかるかもしれない。その時はまた、笹尾神社のこの場所でと約束し、おばあさんに別れを告げた。


 この季節は蓮華が咲き誇っている。派手ではないが可憐で、それでいて何か存在感のある、そんな華である。


 おばあさんと別れた二人は、思いの詰まった宝物を何とか集められないかと思案した。今は浜田の分しかない。中には四角に並べたらしき花弁が入っている。少なくとも、十字のものが一つあればそろうのに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。