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【書籍化】没落令嬢の雇われ悪女な日々  作者: 藍野ナナカ
第1部

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48 狙いすまして


 悲鳴が聞こえてすぐに騎士さんたちが反応した。

 鋭い目をそちらに向けて、私を守るように立ち位置を変える。

 私もそちらを見た。

 祭り特有の人混みの中、何人もの子供が突き飛ばされたのが見えた。


「きゃあ!」

「おい、何してるんだ!」


 押された人は他にもいるようで、悲鳴や怒声が聞こえる。

 突然起こった混乱の中で、一人の男が通行人を突き飛ばしながら走り出てきた。


「ひ、ひったくりだ……!」


 最初に悲鳴が上がった辺りで、妻らしい老婦人に支えられた老紳士が額から血を流しながら手を伸ばしている。

 私はもう一度、今まさに目の前を通り過ぎようとする男を見た。

 片腕で高級そうなバッグを抱えている。男自身の服装と極端に釣り合っていないし、走りながらまた子供を乱暴に押し除けた。


 幼い子供が転び、母親らしき女性が慌てて助け起こそうと手を伸ばして……そこまで認識した私は、靴を脱いだ。

 そして狙いすまして――投げる!


「うわっ!?」


 まさに地面を蹴ろうとした足に、硬い踵の部分が勢いよく命中した。

 痛みでバランスを崩した男はそのまま転び、石畳の上でごろんごろんと二回転する。


「よしっ!」


 小さく拳を握ってから、もう一方の靴も脱ごうとした私の肩に、がしっと手が乗った。


「ちょっと待った! 君は何をしているのかな!?」

「ひったくりに逃げられてしまいますっ!」

「……ヴィオラ嬢。君は誰と一緒に行動しているか、忘れているよね?」

「え?」


 私は足へと伸ばしていた手を止めて、顔を上げた。

 肩に手を置いているのは、バカ御曹司。軽やかな私服のために腹が立つほど顔が良く見える。

 いつもより真剣な顔になっているから、さらに二割増しかもしれない。


「誰とって、テレンスとリリアナは猿と犬を見に行ったから、御曹司さんと……」


 そこまで言った時、誰かが悲鳴とも罵声ともつかない声を上げた。


「いてててっ! は、離せよっ!」

「腕を折られたくなければ、おとなしくしような?」


 ひったくり男がうつ伏してうめいている。

 ひったくり男の腕を捻り上げている大柄な男の人は、背中に膝を乗せて動けないようにしていた。

 手慣れているなと思った時、こちらを見た背の高いその人は苦笑を浮かべた。


「……あ、そうか」


 そうだった。今は騎士さんたちも一緒だった。

 きびきびと動いている体格のいい人は他にもいて、落ちていたバッグを拾ったり、周囲に集まった人々を慣れた様子で誘導したりしている。どの人も私服姿だけれど、職業的には王国軍の騎士のようだ。


 驚いていると、さらに別の騎士風の男の人がひったくり男を連行していった。その手際の良さも、やっぱり本職の騎士のようだ。

 いつもの騎士さん――アレンさんが私のところに戻ってくる。

 少し汚れていたけれど、パッパッと砂を払うと元のすっきりした服装の爽やかなお兄さんになった。


「参ったね。王国軍騎士の俺たちが、お嬢さんより出遅れるとは。まさか、そのきれいな格好で靴を投げるなんて思わなかったよ!」

「えっと……どうやら出過ぎたことをしたようで……? この辺りは騎士さんたちに人気の場所なんですか?」

「騎士をやってる連中が、酒場以外に集まっていると思う方がおかしいよ」


 でも、デートとか家族サービスとか、そういう可能性もあるのでは……と思ったけれど、本当に縁がないのかもしれないので、そこには触れないようにした。


「……では、なぜこんなに騎士の皆さんがいるんでしょう?」

「増員したって言っただろう? 王宮での任務が終わる連中に声をかけていたんだ」


 そう言って苦笑する姿に、ひったくり犯を一瞬で制圧した腕利らしい威圧感はない。

 女性たちの熱い視線を受ける、ただの爽やかな騎士様だ。


「……私たちの警護は、何人いるんですか?」

「表向きは俺も含めて四人。増員が五人か六人……と思うんだが、もっといるかもしれないな。君は俺たちの中では有名人だから、希望者が殺到したらしくてね。俺も驚いたよ」

「有名人!?」

「……お嬢さん、ダーツ大会で何回優勝したか、覚えているか?」


 真顔になった騎士さんに、私は返事ができない。

 忘れていたわけではないけれど、あれはもう過去の話で……中間試験があったから頭から抜けていた。

 でも、そうだった。

 現役の騎士さんたちを押さえて三回も連続優勝すれば、有名人と言えるかもしれない。

 そのうち一回は、王国騎士団内の大会だったはずだけれど。

 ……ん?

 よく考えたら、あの大会が一番接戦だったような……?


「うちの連中は、どこの大会でもだいたい決勝に残るんだよ。君にはあっさり負けたけれどね」

「そ、そうだったんですか」

「そういうことで、お嬢さんたちの警護役を募集したら、こうなることは理解してもらえたかな?」

「……はい。理解しました」


 素直にうなずくと、騎士さんはほっとした顔になった。

 一人で反省していると、今度はなんだか妙にわざとらしい咳払いが聞こえた。


 御曹司だ。

 嫌みなほど整った顔に笑みを浮かべている。そこまではさっきまでと変わらない。

 でも目をさっと周囲へと動かしたのは……何か企んでいる?


 私の警戒心が息を吹き返す。

 密かに身構えた途端に、御曹司が唐突に片膝をついた。

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