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【書籍化】没落令嬢の雇われ悪女な日々  作者: 藍野ナナカ
第1部

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47 帰り道


 花を飾った山車のパレードが終わった。

 パフデール侯爵一家は桟敷席から広場を眺めながら食事を楽しむそうだ。私たちも誘われたけれど、その魅力的なお誘いは辞退した。


 遅くなるとリリアナが疲れてしまうし、夜が更ける前の夕方の時間は子供たちに人気の大道芸をあちこちで見ることができる。

 せっかくだから、それを見せてあげたい。

 そう伝えると、侯爵夫人は「では、来年の予約はしていいかしら」と言ってくれた。

 社交辞令かもしれないけれど、心が温まる。リリアナとテレンスだけでもお願いできれば、きっといい思い出になるから。


 こうして、私たちは帰宅までの道のりを楽しんでいる。

 少し遠回りをしているけれど、リリアナが疲れてきたら私かテレンスがおんぶすればいい。


「お姉様! あの人、あんなにたくさんの投げ輪を扱っているのに、一回も落としていないわ! 今度は二人で投げ合うみたいっ!」


 大道芸人の見事な演技に、リリアナが興奮したように私の手をぎゅっと握る。水色の目をキラキラさせて、頬も紅潮して、色鮮やかな輪が高く投げ上げられると、周囲の人たちと一緒に息を飲んでは手を叩いている。


 パフデール侯爵家の桟敷席でゆっくり過ごさせてもらったからか、リリアナはまた元気になった。

 とても楽しそうだ。

 それに、ピンク寄りの赤い髪がふわふわ広がっているのも最高にかわいい。

 リリアナを見ていると、ついつい口元が緩んでしまう。

 それを必死にこらえ、敢えて違う方向に目を向ける。そこにも別の人だかりができていて、私は思わず目を見張った。


「あら、珍しい。向こうには猿がいるわね。犬と一緒に芸をしているみたいよ」

「猿と犬!」


 リリアナはそちらも気になるようだ。

 ちょうど輪投げの大道芸が終わったから、そわそわと猿と犬のところへと視線が動く。

 でも、他の子たちのように走っていくことはしない。人だかりに気後れしているのだろう。遠慮もしているかもしれない。


 今日は同行者が多いから、走ったり人ごみの中に入って疲れてしまっても問題ないし、騎士さんたちがいるから、悪い人を警戒する必要もほとんどないはず。

 御曹司とテレンスに囮になって貰えば、人混み対策もきっと大丈夫!

 私がそう言おうとした時、テレンスがさっとリリアナと手を繋いだ。


「僕が連れて行くよ。あとはよろしく」


 テレンスはさらっとそう言うと、リリアナの手を引いて猿と犬のところへ行ってしまった。

 騎士さんたちがまた一緒に行ってくれたけれど……でも。


「……私も、リリアナと一緒に行きたかったのに」


 また、テレンスにその役を奪われてしまった。

 思わずため息をつくと、隣にいた御曹司が堪えきれなくなったように笑った。


「ごめん。何というか……残念だったね! でもヴィオラ嬢は人目を惹きつける囮としては最高だから、仕方がないんじゃないかなぁ」

「テレンスだって、十分すぎるくらいに人目を引くと思います」


 弟の美貌の威力は実証済みだ。背がもっと伸びれば、御曹司並みに女性に騒がれるはず。

 来年は絶対にテレンスに囮役を押し付けてしまおう。

 心の中で不貞腐れていると、顔馴染みの騎士さんが行きと同様の厳しい顔つきで周囲に目を配っていることに気が付いた。


 周囲の人は昼間より増えているし、お酒を飲む人も増えてきた。騎士さんたちの負担を考えると、二手に分かれるのはよくなかったかな?

 でも騎士さんは私の視線に気付くと、意外に余裕のある表情で笑った。


「大丈夫だよ、お嬢さん。護衛は増員したから、だいたいのことに対応できるさ!」

「……護衛役の人、増えたんですか?」

「君たちはとても目立つからね! ただ……お嬢さんの場合は、俺たちがいても気にせずに声をかけてくる男がいるから、ヒヤヒヤするんだよなぁ」

「そこは任せてください。俺がしっかりヴィオラ嬢のエスコートと番犬をしますよ!」


 騎士さんの言葉に、バカ御曹司が乗ってきた。

 まあ、私以上に目立っている御曹司が背後にぴったりいてくれるから、私は呑気に通行人たちの服を見ていられるんだけれど。


 今日は祭りの日だから、庶民もいつも以上の華やかな服を着ている。テレンスとリリアナに似合いそうな服もあちこちで見かける。

 囮作戦のために、来年はテレンスを目立たせる服を用意しよう。

 あるいは、敢えて王立学園の制服と言うのも、逆に目立っていいかもしれない!


(…………あれ? もしかして、私、浮かれている?)


 こんなに人が多い中で、呑気に来年の計画を密かに立てるなんて。私は囮役になるくらいに目立っていて、老若問わずに私を見ている男の人がいると言うのに。

 護衛役の騎士さんたちがいるからと言って、気が緩んでいるのかもしれない。



 もう一度緊張感を思い出そうとした、その時。

 通りの向こうで、悲鳴が上がった。

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