表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】没落令嬢の雇われ悪女な日々  作者: 藍野ナナカ
第1部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/53

46 祭りのパレード


 私が必死で笑顔で間を持たせようとしていると、今までニコニコするだけで黙っていた御曹司が会話の中に入ってきた。


「ところで、パフデール侯爵はヴィオラ嬢のことを『ヴィーちゃん』と呼ぶんですね」

「昔からヴィーちゃんは『ヴィーちゃん』だったからね! 今ではあまり使わないのかな?」

「今でも、テレンス君が『ヴィー』と呼んでいますよ。リリアナちゃんも『ヴィーお姉様』ですね」

「うんうん、あの子たちはかわいいねぇ! ――で、君は?」

「俺は、今の美しいヴィオラ嬢に恋をしていますので」


 バカ御曹司がにっこりと笑って意味不明なことを言い始めた。またお芝居が始まったようだ。

 下手に口を挟むと、余計なお芝居に付き合わされる。何も聞こえていないふりをしてお茶を飲んでいると、くるりとバカ御曹司がこちらを見た。


「でもお許しをもらえるなら、俺も『ヴィーちゃん』と呼びたいな!」

「……パフデール侯爵様だけの特権なので、許可できません」

「ほう、私だけの特権か! それは悪くないね!」


 侯爵様はご機嫌だ。バカ御曹司もやっぱりご機嫌に見える。……何がそんなに楽しいんだか。

 その時、遠くから音楽が聞こえ始めた。御曹司はすぐに立ち上がり、窓から身を乗り出して通りの向こうを確認した。


「パレードが始まったようだ。リリアナちゃん、こちらへおいで。でも、落ちないように気をつけるんだよ」


 そんなことを言って、リリアナが危なくないように気を配ってくれる。

 ……そうだった。御曹司は王立学園の宝とも言われるエリートで、好感度ランキング最上位グループの人だった。

 またうっかり忘れていたなと密かに反省していると、御曹司が「あ」とつぶやいた。

 どうしたのかとリリアナから御曹司に視線を移す。ちょうど目の前を通っている華やかな山車を見ているようだった。


 花祭りの昼のパレードは、凱旋パレードを模したものだ。

 かつては騎士や兵士に扮した人々が練り歩くだけだったパレードは、今は花を飾った大きな山車が連なる華やかなものになっている。


 ちょうど今、私たちがいる桟敷席の前を通ってる山車もたくさんの花で飾られていた。

 とてもきれいだけれど、御曹司が凝視するほど特別には思えない。

 花の中で色鮮やかな像が学者のように本を手に持っているのは、少し珍しいかもしれないけれど、それ以外は特別変わったところはない。

 でも、まるで何かを見つけたような反応だったなと首を傾げて、私はやっと気がついた。

 これは王立学園の山車だ。


「……あっ!」


 私も声をあげてしまった。

 だって、その山車に乗って花を撒きながら手を振っている若いお嬢さんたちは、見慣れた制服を着ていたから。


 女子学生たちは侯爵一家に丁寧な礼をして、テレンスの美少年ぶりに歓声をあげる。直後にリリアナのかわいらしさに顔を綻ばせ、バカ御曹司に瞬間的に頬を赤らめて……最後に何かを見つけたように目を丸くして黙り込んでいく。


 周囲に手を振りながら笑顔を作っているけれど、全員が瞬きもせずにこちらを見ている。何を見ているのだろう。

 首を傾げかけた時、通り過ぎた女子学生たちがぎりりと歯軋りした。


「あの悪女、パフデール侯爵様にまで取り入っているなんて!」

「あんなに一途に想っていらっしゃるのに、レイノルド様が可哀想だわ!」

「ねえ、あの桟敷席の奥にいるのは王国軍の騎士様たちよ!」

「まあっ! あんなに男の人を侍らせているなんて!」


 風に乗って女子学生たちの声が聞こえる。

 呆然と見送った私は、次の山車がやってきてから、やっと我に返った。


「…………え、ちょっと待って。侍らせるって何? それに取り入るって、なぜそんな話に……ああっ、もしかして?!」


 そうだった。

 私はパフデール侯爵様と話をしていた。小さなテーブルで向かい合って。

 でもこれは納得できない。直前まで隣にバカ御曹司がいたし、主に父オリバー・エルバンスの話をしていただけだから。


 肝心な時に、なぜそばにいないのよ!

 ……と憤りたいけれど、リリアナにパレードを見せてくれるためだから仕方がない。仕方がないけれど……なぜ!?

 八つ当たりで睨んだら、御曹司がちょっと眉尻を下げつつも爽やかな笑みを浮かべた。


「えっと、なんだかごめんね? 来週、俺と君の噂が盛り上がるように計画を立てておくから」

「それはいらない、訳でもないような……!」

「学食の昼食コースを予約しておくよ。俺が必死に貢いでいる姿を見せつけよう!」

「コースの予約……」


 つまり、またガラス越しの見せ物をするのか。

 噂の上書きをするには、思いっきり目立つべきだと思うけれど……!


「デザートは何がいい? 蒸しプリンと持ち帰り可能なケーキがあるよ」

「――持ち帰り用でお願いします」

「了解。ということで、今日は一旦忘れて、花祭りを楽しもう!」


 フォローしてくれるのは嬉しい。

 嬉しいけれど、助かるけれど、そのウインクはいらない!


「……ヴィー、顔が怖い。リリアナが気付く前になんとかしてよ」


 テレンスの呆れたような小声が聞こえてしまったから、私はあらゆるものをぐっと呑み込むことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ