24 次なる戦い
ダーツには、いくつかの流派がある。
それぞれの流派によってルールは少しずつ異なっている。私が参加したダーツ大会は広く参加を呼びかけているので、ルールはわかりやすく簡略化されていた。
・チームは二人一組。
・投げ矢は一回につき三投、各チームが交互に投げる。
・的の配点は一点から十点まで、各点のごく狭いエリアは二倍となる。
・規定点(301点)に最も早く達したチームが勝ち。
・ぴったり終わらならなければ、その回の点数は無効とする。
ダーツの試合は、投げる端から足すなり引くなりしなければならないから、計算力が必要だ。算術が苦手な庶民にとっては盛り上がるタイミングが難しいという面もある。
今日のダーツ大会は、観客から見やすい場所に大きな掲示板を設置して、双六形式でコマを動かしていた。
あと何マスで上がり、と遠くからでも分かるから盛り上がりやすい。特に最後の二十マスは鮮やかに色分けされていて、対戦者たちと共に観客が手に汗を握る。
私が残り十七点を二投で決めると、観客たちは立ち上がって歓声を上げた。
「また『仮面チーム』は最短で上がったぞ!」
「小さい方は全くミスがないな!」
「だが大きい方も悪くない。小さなミスはあっても、次投で取り返している」
「対戦相手も強いのにな。前の試合の『青帽子チーム』は、王国軍のロックラー隊だろう?」
「こらこら、素性を伏せていることになっているんだから、名前を出してやるなよ!」
麦酒を飲みながらの観戦だから、集まっている人たちはご機嫌で好き勝手なことを言っている。
ちなみに『仮面チーム』というのが私と御曹司のチーム名だ。二人とも目元だけの仮面をつけている。さらにいうと『小さい方』というのが私で、『大きい方』が御曹司である。
「ヴィー、お疲れ様。相変わらず正確だったな」
「そういう御曹司――じゃなくてレイさんも、人並みなんてものじゃないですよね」
つまらないことに、御曹司はダーツにおいてもエリートだった。
チーム仲間としては頼もしいとは思う。完璧ではないけれど、崩れそうで崩れない安定感はさすが学年首席だ。
それに、仮面で隠していてもにじみ出るものがあるのか、女性たちが黄色い声援を送っているのも腹が立つ。
(まあ、女性の歓声を受けているのは、私もなんだけど)
今日の私は、トラブル防止のために変装をしている。
目立つ赤い髪は一つに束ねて服の内側に入れ込んで、ぼさっとした藁のような色のウィッグをかぶっている。服はテレンスの服を借りている。胸周りに布をぎゅっと巻いてしまうと、意外に少年らしい姿になった。
おかげで、周囲の目がほとんど気にならなくて楽だ。女性からの視線は学園で慣れている。
この調子なら決勝戦に行けそうだ。優勝賞品の麻のストールが無理でも、準優勝用のフルーツ詰め合わせは手に入りそうで浮かれてしまう。
だから、御曹司のことを「レイさん」なんて呼ばなければいけないことも、たいしたことではない。我慢しよう。
「ヴィー。向こうの女性たちの歓声が変化していることに気がついたか? 俺の正体に気付いたようだ」
「……レイさんって、やっぱり女性にモテたい人だったんですね」
「そこは、どうでもいいと思っているかな。ただね、俺に関して『いい噂』が流れているようなんだよ。今日の俺は、噂の『仮面のレディ』に気に入られたくて、必死でダーツに取り込んでいるそうだ!」
「嬉しそうですね。でも、それのどこが『いい噂』なんでしょう?」
「恋でダメになっていく男っぽくて、いいだろう?」
そうだった。この御曹司は、ダメ男に見られれば見られるほど嬉しいんだった。
性癖ではなく、「後継者として失格になりたい」的な意味で。
「……水を飲んできます」
「一緒に行こうか?」
「この格好なら、面倒なことになりにくいので大丈夫です」
「うーん、それもそうか。もう少し年上に見えたら、別の意味で危険だったけどね。でも、女性たちには気を付けて。それから、酒を間違えて飲まないように!」
……どうやらこの御曹司、意外に口うるさいらしい。
まるで、私たちの身の回りの世話をしてくれるメイドのデラのようだ。とはいえ、まだ試合が残っている今、お酒は危険だ。
念のため注意しておこう。
◇
ダーツ大会は、大集会場を借り切って行われている。
詰めかけた観衆は、娯楽を求めて集まった庶民がほとんどだ。
参加選手は、表向きは「匿名」となっているから本名は伏せられている。
でも王国軍の騎士たちが多数参加していることは知られているし、それぞれのダーツ流派から多く参加している大会だから、娯楽好きの貴族もお忍びとして見に来ているらしい。
そういう雑多な人々の中をすり抜け、軽食コーナーへと急ぐ。
美味しくて安全な水が目的だったけれど、今日の軽食コーナーはちゃんと飲み物と軽食が置かれた優雅な空間で、体育祭会場にはなっていなかった。
それが普通なのだけれど。
さっそく水を頼むと、給仕さんはレモンを軽く絞って入れてくれた。さっぱりして美味しい。
ついでに御曹司にも持っていこうと、もう一つ頼む。
給仕さんが用意してくれるのを待っていると、軽食コーナーの外がなんだか騒がしくなった。




