表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
没落令嬢の雇われ悪女な日々 〜訳有りな公爵令息に「俺をダメ男にしてくれ!」と花束を差し出されました〜  作者: 藍野ナナカ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/18

11 新しい噂


「ロレーダン君、君は何か、とんでもないことに巻き込まれたんじゃないかね?」


 いつものお仕事として、大学へ翻訳文を渡しに行った途端、ハロルド教授から心配そうに言われてしまった。


「研究室に引きこもっている私のところまで、君の噂が聞こえてきたんだよ。困ったことはないかね? 相談くらいなら乗るよ」

「……一応伺いますが、その噂とは?」


 聞きたくないと思いつつも、確認してしまうところが私の性格。教授は本棚の向こうで何か作業をしている秘書さんをちらっと見てから、声をひそめた。


「さる名門貴族のご令嬢と、トラブルを起こしたそうじゃないか」

「えっと、トラブルと言えばその通りなんですが」

「それから、あのオディーランス公爵家の御曹司が君に熱をあげているとか、君がたぶらかしたとか、その他にも大勢の男子学生や教職員を下僕にしているとか、そういう話も聞いたよ。本当なのかね?」

「本当というか、その教職員の一人がハロルド教授だと思います」

「えっ、私も含まれているのか! この歳で若いお嬢さんと噂になるとは光栄だが……つまり、根も葉もない噂なんだね?」


 教授はほっとした顔をしている。

 ハロルド教授は父オリバー・エルバンスと親交があった人だ。私を幼い頃から知っているし、本物の悪女がどんな存在かも知っている。だから私が外見ほど悪女ではないことも、実は地味な性格をしていることも知っている数少ない人なのだ。


 今回の新しい噂とやらには、胸を張って「根も葉もない話だ」と断言したい。でも事実も少し混じっている。私を信じてくれる人に黙っているのは気が咎めるから、正直に言うことにした。


「すべては事実無根、と言いたいところですが、事実も含まれています」

「ほう、それは?」

「……オディーランスさんは、私に熱をあげているようです」


 巨大な花束を贈ろうとしたり、家に上がり込んでいたり、危険手当が必要な状況を作り上げたり……ゴミを見るような目で見られたいと言っているから、「熱をあげている」でいいと思う。感情的なものが伴っていないだけで。


 思わずため息をついた時、バサバサと何かが落ちる音がした。

 振り返ると少し離れたところに秘書さんが立っていて、足元に書類が散らばっている。金額やら日付やらが並んでいるから、事務的な書類のようだ。

 拾うのを手伝おうと立ち上がりかけた時、秘書さんがぎりりと私を睨んで指差した。


「おい、お前! 教授から離れろ! オディーランス家の坊ちゃんは手遅れでも、うちの教授は守り抜くからな!」

「あー、君? これはただ話をしているだけで……」

「教授! 私も噂は聞いているんですよ! 王立学園で歴代有数の優秀な学生であるレイノルド・オディーランス卿が、この女に貢いでいるそうじゃないですか!」


 うん、まあ、そういう仕事を持ちかけられてはいますが、まだ貢がれていませんよ?!

 動揺しつつ、私は表向きは平静を保って誤解を解こうとした。


「あなたが言っていることは誤解です」

「何が誤解なものか! お前が大きな宝石がついた高価そうな指輪を見ていたという話も聞いたぞ!」

「……指輪?」


 まさか、それは分厚い手紙の人から押し付けられた指輪のこと?

 心当たりがあるせいで反応が遅れてしまって、秘書さんは目尻を吊り上げた。


「やはり、あの噂は本当だったようだな! 残念だったな。うちの教授はあの坊ちゃんほど金持ちじゃないから、金品を貢がせようとしても無駄だぞ! そんな金があったら外国から本を取り寄せる!」

「おーい、君ー? その通りだが、もう少し言葉を考えようかー」


 教授が困ったような顔をしつつも、目を逸らしている。

 お金がないのも、外国の本にお金をかけているのも本当らしい。学者ならそんなものだと思う。私より金持ちだろうし……ってそういう話じゃない。


 指輪は押し付けられて困っているけれど、それはあのバカ御曹司からではないから、まだ貢がれていない! バラの花束と学食券は健全な学生の範囲のはず!

 ……危険手当は、昨日受け取ってしまったけれど!


 持ちなれない大金で、落ち着くために翻訳の仕事を始めたら予定より早く終わったなんて、話しても秘書さんは信じてくれそうもない。

 こんな庶民感覚が染み付いた私が、なぜ「貢がせる悪女」に見えるんだろう。


 なおも、ぎゃあぎゃあと糾弾する秘書さんの言葉を流し聞き、申し訳なさそうな教授が淹れてくれたお茶を飲み、新しい仕事用の外国語の本を受け取って退室した。

 その間も秘書さんは自分の世界に浸りながら、私に関する噂だけでなく、バカ御曹司に関わる噂まで語り続けてくれた。


 おかげで私もすっかり情報通である。

 ……私が悪女って、本当に意味がわからない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ