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【第五章】 ジュラシックアース ③

2026年3月20日に完結します。

おそらく、個人的な理由で、この小説の公開は2026年4月1日から一時的に非公開にします。


☆フェザーの薬


珍しく、恐竜は4時間襲ってこなかった。ルミナールのクルーは久しぶりに仮眠や休憩、次の戦いへの準備を進めた。


しかし――


いつもより重く、低い足音が大地を打った。

明らかにいつもと違う足音。

振動が靴底を通して骨まで響く。


アンデルが叫ぶ。

「大型恐竜の群れ……その数、およそ12…いや、15だ!」


視界いっぱいに、巨影が現れる。

地面が波打ち、空気が唸り、肺の奥が震えた。


「来るぞ!」

結依の叫びを合図に、注射ライフルが一斉に。


だが、大型恐竜の分厚い皮膚は、想定以上に薬剤を弾いた。


1本、また1本。

撃ち込むたび、確かに動きは鈍る。だが、倒れない。


薬剤を打ち尽くした頃、地面に伏した恐竜は9匹。


しかし──


まだ、6匹が立っていた。

注射ライフルはすべて空。


弾薬も、体力も、限界に近い。

息をつく間もなく、恐竜たちが距離を詰めてくる。


ルビィは無意識に胸元を押さえた。

ここにある、小さなケース。

フェザーから預かった3錠の薬。超身体能力解放……。

(このままじゃ、削られて死ぬ)

恐竜は待ってくれない。


誰かが倒れれば、連鎖的に全滅する。

(皆の命は……私が預かってる)

ルビィは歯を食いしばりケースを開け1錠を取り出す。そして、ためらいなく口に放り込む。


──瞬間。


身体の奥で、何かが弾けた。

視界が研ぎ澄まされ、音が引き伸ばされる。


筋肉と骨が意志に応じて組み替わる感覚。


「……っ」

言葉になる前に、ルビィは1匹目の大型恐竜へ踏み込んだ。


重い衝撃。

致命打にはならない。

だが、確実に押し返せる。


一歩、また一歩。


恐竜の巨体が、じりじりと後退する。吠え声を上げた恐竜は、やがて耐えきれず方向を変え、退散した。


──まず1匹目。


息を整える間もなく、連続して2匹目、3匹目を押し返す。


結依とシロッコが前衛に出た。

他のクルーも続き、4匹目を足止めする。

しかし、強くなったルビィに、誰もが驚きを隠せない。


だが、状況は楽にならなかった。


ルビィが5匹目へ向かう。


結依たちは弾薬を撃ち尽くし、光線銃を振り絞るように使いながら4匹目に応戦するが、明らかに劣勢。


そして──


6匹目の大型恐竜が、突然方向を変えた。

狙いは後方。

学者たちが乗る、ルミナール号。


「……ヤバイ」「船まで距離がある」

ルビィの声が、かすれた。


その時だった。


──スーッと、静かにハッチが開く音。

そこから現れたのは、2つの影だった。

エアロが、肩を貸している。

支えられるようにして、1人の男性が一歩、外へ出た。


カイトだった。


眠っていたはずの男だが、その目ははっきり開いている。

エアロは必死に彼を支えながら、前へ進む。


カイトは彼女の肩に体重を預けつつ、前に立った。


その瞬間、カイトの胸の奥に、違和感が走る。(……何だ?)

力を使おうとした、その感覚の先に、どこか自分と似た、しかし…“何か”がある。


それが、エアロから伝わってきている気がした。


迷いのない視線で、大型恐竜を見据え、カイトは、エアロに支えられたまま、あの力を解放した。


見えない衝撃が空間ごと叩きつけられる。

船を襲おうとした恐竜の巨体が宙を舞い、地面を転がって吹き飛んだ。

カイトは荒く息をつきながら、向きを変える。

エアロの肩にしがみつくように、両手を前へ。


再び、衝撃!間髪入れずもう1度。

大気が歪み、残っていた2匹恐竜は抵抗する間もなく吹き飛ばされ、視界の外へ消えた。


……静寂。


次の瞬間、カイトの身体から力が抜ける。

「っ……!」

エアロが抱きとめようとするも、間に合わず…

カイトは膝をつき、そのまま地面に倒れ込んだ。


「おじいちゃん!」

エアロの叫びが響く。


ルビィとカイトの活躍で大型恐竜の襲撃に耐えた。


戦いは、終わった。

だが、その場に残ったのは勝利ではなく。


エアロの不安に揺れる声だった。



☆マッドサイエンティスト


◆ルミナール号・医療区画前


戦闘後、艦内は静まり返っている。


カイトはすぐに意識を取り戻した。そして静かに話し始めた。

「……まず、謝らせてくれ」

その場の全員を見る。


アンデル「え?いきなり!?どした爺さん!」


結依「アンデル、静かに。話を聞こう」


カイト「私の力のことです。黙っていた事……それと」

「長く使うと、体力の消耗が激しいし、たまに気を失ってしまいます」


ルビィ「……それ、分かってて使ってたの?」


カイト「はい。若い頃と違って……年を取ってからは、特に。」


ガスト「つまり、命削りながらやってたってこと?」


カイト「はい…」


バルン「それは……言ってくれないと」


「すまなかった」

カイトはエアロを見て。

「それと……エアロ」


エアロ「……なに」


カイト「退職してから5年。あまり会えなかったこと――本当に、すまない」


エアロ「……」


カイト「エアロがSWATの訓練校に行っているのは知っていた。だが、大統領から指示があってな」


結依「指示?」


カイト「エアロと“距離を取れ”と。私は大統領の側で、知りすぎた」「だから孫が表に出る以上、私が近くにいるのは危険と判断されまして」

「エアロには……私と共鳴する何かがある。エアロが成長して、もし能力が覚醒し…それを国家に見せるわけにはいかないと、私自身も考えていた」


エアロ「だから、連絡も来なかったんだ」

カイト「理由を話せば、余計に巻き込む。そう判断した」


アンデル「それでも……寂しかったですよね?」


エアロ「……うん。でも」

エアロはカイトを見る。

「大好きだったおじいちゃんは、今も変わらないよ」


カイト「……ありがとう」


ガスト「ちょ、空気が良すぎて俺の居場所が!」


その時、アストラの左手首が淡く光る。空中にホログラム文字が流れ始めた。


ルビィ「……フェザーさんからのデータね。読みます」


ルビィは、ホログラムを読み上げ始めた。

「『エアロの能力については、以前から把握していた』」


アンデル「えっ、知ってたのかよ!」


ルビィ「『だが、あえて共有しなかった。カイトにも伝えていない。知っているのは私とゼファーのみ』」


カイト「……」


ルビィが読み続けた。

「『過去に、同系統の能力者が存在した。ルナストン市入口・番兵設置以前の話』」

「『当時、この宙域は軍が管理し、惑星アークス側と戦争状態にあった』」


シロッコ「15年くらい前の話だな」


ルビィ「『その能力者は、他者の体力を補填し、能力使用を継続させた』」


ガスト「……無理やり戦わせ続けた、ってことか」


ルビィ「『結果として、能力の限界を超えさせた』」


グリム「……それで?……」


ルビィ「『最終的に、双方とも死亡』」


沈黙。


結依「……だから、フェザーさんは黙っていた。知っていれば、使わずに済む判断もできなくなるから」


ルビィ「『同じ結末を回避するため、ゼファーとの話合いでカイトとエアロを離し経過観察のみとした……以上』」


ホログラムが消えた。


アンデル「重すぎだろ……」


ガスト「でも……今回、生きてる」


結依「2回目の能力使用時。カイトさん、エアロにもたれてたよね」


エアロ「……あ」

カイト「……確かに。あの時、不思議と楽だった」


ルビィ「無意識に、体力が補填されていた可能性が高い」


バルン「つまり今度は、ちゃんと気をつければ……」


シロッコ「ええ。“知った上で、制御できる”可能性がある」


エアロ「おじいちゃん。これからは、1人でやらないで」


カイト「ああ……」

カイトは不安気な顔をしていた。


また、左手首に投影されたホログラムが淡く揺れ、フェザーからの指示が表示された。

内容は、拍子抜けするほど単純だった。


エアロの能力は「回復系」に近い可能性が高い。

発動方法は簡単、体力を回復させたい相手に、直接触れること。あとは、本人が「回復させたい」と強く意識すればいい。


細かな理論や数式はなかった。


フェザー自身も続けてこう付け加えている。


――私は超能力者じゃないから、コツはカイトに聞いて。


その指示を受け、カイトとエアロは無理をせず、休憩を挟みながら練習を重ねた。


最初は何も起こらず、次第にわずかな変化が現れ、触れられた側の呼吸が整い、疲労が和らいでいく。


確かな手応えを得るまで、そんなに時間はかかった――



◆ルミナール号・ブリーフィングルーム


能力者の話が一段落し、空気が少し重くなっていた。


そのとき、ルビィが一歩前に出た。

「ひとつ、私からも謝罪があります」

全員、少し身構える


アンデル

「え、まだ重い話続く!?」


ガスト

「ちょっと水飲ませて?」


ルビィがはっきりとした口調で説明を始めた。

「私が強くなった件です」

「あれはフェザーさんが調合した薬を服用して……」


全員、ピクリと反応


結依

「薬?」


ルビィ

「はい。出航前、私だけが事前に受け取っていました」


グリム

「……え?」


ルビィ

「結果的に、私の身体能力が、急激に上昇しました」


アンデル

「急激どころじゃねぇよ!!さっき完全に別キャラだったぞ!!」


ルビィ

「それを……黙っていて、申し訳ありませんでした」

深く頭を下げる。


バルン

「え、いや……」


シロッコ

「そこまで謝ることじゃ……」


ルビィ

「いえ。戦闘に影響する情報を共有しなかったのは、私の判断ミスです」

さらに真剣に謝罪した。

「本当に、申し訳ありません」


数秒、沈黙。


ガスト「……で?」

ルビィ「……?」

ガスト「次はいつ飲むの?」

ルビィ「え?」


ガストが少し茶化すように言う。

「いやいやいや!俺も飲めるやつ!? あれ!?」


結依が続けざまに聞く。

「ちょっと待って、量産できるの?」


ルビィは苦笑いしつつ答える。

「……そちらの話ではなく」


アンデル「いや重要だろ!さっきのルビィ、ほぼ最終形態だったぞ!」


グリム「わ、私……一瞬、敵かと思って……」


ルビィ「それはさすがに言い過ぎです」


バルンは納得顔で言う。

「でも、正直……。“あ、これがフェザーさんの薬か”ってマッドサイエンティスト」


ルビィ「どういう意味ですか」


バルン「だって、説明なしで使わせるの、あの人らしいというか…」


カイトが頷きながら言う。

「ええ。昔からフェザーさんは知っていますが、“あとで気づくだろう”というタイプですからね」


ルビィ「否定できません」


アンデル「つまり?」


ガスト「ルビィが黙ってたんじゃなくて、フェザーさんに黙らされたんだな」


ルビィ「半分は、私の判断です」


結依「半分?」


ルビィ「効果が……想定以上だったので」


アンデル「ほら出た!“様子見で使ったら世界変わった”やつ!」


グリム「で、でも……強くて、かっこよかったです」


ルビィ「……ありがとう」


ガスト「はい出た、照れ顔」


ルビィ「照れていません」


アンデル「いや今、0.5秒だけ口角上がった!」


結依「証拠映像、あとで確認するから」


ルビィ「それはやめてください」


シロッコ「ふふ……でも、無事で何よりです」


バルン「次はちゃんと教えてくださいね」


ルビィ「はい。次からは必ず共有します」


アンデル「よし!じゃあ次は“強化ルビィ仕様書”作ろうぜ!」


ルビィ「それは必要ありません!」


少し笑いが起きる。

笑いが少し落ち着いたところ


ルビィ「……それと、もう一点」

全員、嫌な予感。


アンデル「はい来た!“もう一点”は大体ロクでもない!」


ルビィ「薬は、あと2錠残っています」


ガスト「2錠?」


バルン「副作用のデータは?」


ルビィ「まだ、確認できていません」


空気が一瞬冷えた。


グリム「え……」


ルビィ「ただし――」

ルビィは、テーブルの上の金属カップを手に取ろうとする。

――バキッ

カップが、ひしゃげた。


ルビィ「……っ」「すみません!!」

慌ててカップを机に戻す。

――ゴキッ

机が粉砕した。


アンデル「ちょ、今の見た!?」


ガスト「それカップじゃなくてアルミ缶みたいに潰れたぞ!」


結依「……まだ戻ってないね」


ルビィ「はい。どうやら…私の“超身体能力解放”は、まだ継続中のようです」


シロッコ「つまり……」


ルビィ「“いつ元に戻るかは、分かりません”」


グリム「ひぃ……」


アンデル「え、待って!?じゃあさっきの戦闘、まだ“途中形態”だったってこと!?」


ガスト「今がこれなら、完全形態どうなるんだよ……」


結依「下手に肩叩いたら骨折れるね」


ルビィ「それはさすがに――」

無意識に椅子の背もたれを掴む

――ミシッ


ルビィ「……」

全員「…………」


ルビィ「……何も触らないでいます」


アンデル「いやもう動かないで!!存在が凶器!!」


カイト「フェザーさん…やっぱり、説明不足ですね…」


バルン「でも……“効くかどうか分からないより、効き過ぎてしまう”のは、あの人らしいですね」


ガスト「とりあえずさ」

「今のルビィ、“優しく触る”の練習から始めようぜ」


ルビィ「……善処します」

少しだけ、困ったように笑った。


船内が笑いに包まれた。


そのとき。

アストラの手首がホログラムで文字を流す。それはフェザーからの追伸。内容は短く、しかし重かった。


《超身体能力解放薬》

《効果持続時間、最低64時間。途中解除不可。個人差あり。副作用未確定》


ルビィは、それを読んだあと、頭を抱えた…64時間…。



結依が、静かに首を振った。

「……私は飲まない」

「でも、この力を後方で眠らせておく余裕はない」


周囲の視線が集まる。


「64時間、不眠不休で働くなんてごめんだし」


一拍置いて


結依はルビィを見る。

「それに、もう強くなってるルビィが前線に立つ事になるなら、指揮を取るのは副長の私の役目でしょ」

淡々とした口調だったが、薬の服用から避けたいのは誰の目にも明らかだった。


アンデル「じゃあ、あと2錠誰にする?」


シロッコ「さっきガストが飲みたいって言ってました」


ガスト「え?えぇ?えぇぇえ?」


結依「じゃあ、ガストは決まり。もう1人は…グリムが適任。脚技華麗だし、戦闘向き。」

「副長命令です」と結依がほっとした顔で言った。


グリム「あ、はい…」


その後、グリムとガストも薬を飲んだ。

グリムは短く息を整える。

ガストは震えながらも。

「……やるしかないっすよね」と苦笑した。


こうして――


3人の“超人”が前線に立った。

グリム、ガスト、そしてルビィ。


そして


2人の“超能力者”

カイトとエアロ


2人は超能力の練習をし、“超人”3人に1日遅れて前線に加わった。


超身体能力解放と超能力ペア。


2つの異質な力が噛み合い、戦場は一変する。


恐竜は殺さない。

ただ、押し返す。


吹き飛ばし、絡め取り、進路を変え、縄張りをずらす。

人が踏み込める地面だけを、少しずつ、確実に増やしていく。


そして、陣地は広がった。

血ではなく、消耗と知恵によって。


それでも――

このやり方が、永遠に続くはずがないことを、ルビィは誰よりも分かっていた。


しかし、64時間は、あまりにも長い…。



☆2人の超能力


ルビィが服用した薬は、ルビィだけでなく、パワー型のガストと蹴り技に長けたグリムも服用した。

フェザーの報告によれば、薬の効果は最低でも64時間持続するはずだったが。


実際には個人差が現れた。


ガストは62時間

グリムは68時間

そして――

ルビィは78時間…も効果が続いたのだ。


3人はほぼ不眠不休で前線に立ち続けた。


「……まだ、薬の効果、切れないの〜?」ルビィはため息交じりにつぶやく。


カイトとエアロも休み休みながら、安定して力を発揮し続けた。まさにこの超能力ペアは、作戦に欠かせない存在となっていた。


陣地制圧が一段落し、船内に戻った直後。


カイトは壁に背を預け、深く息を吐いた。額に汗。だが、表情はまだ戦場のままだ。


そのすぐ隣。

エアロが、ほとんど付き添うように立っている。


ガストが腕を組みながら話し始めた。

「……いやぁ、今日のカイトさん、化け物だったな」


「本当に」

シロッコが素直に頷く。

「正面突破、何回やったんですか?」


グリムが真顔で言う。

「数えるのをやめた頃から、もう怖かった」


エアロは小さく身をすくめる。

「……おじいちゃん、無茶しすぎです」

「必要だった」

カイトは短く低い声で言う。


「でもさ」

ガストがニヤっとする。

「途中から、ずーっとエアロのそば離れなかったよな?」


沈黙。


「……気のせいだ」カイト。


「気のせいじゃない」

結依、即答。

「3メートル以上、離れてない」


「ほぼケーブル接続」ガスト。


「回復力、上がってない?」ルビィ。


エアロが慌てる。

「ち、違います! 私はそこまでは回復できてないかと……」


「してるだろ」

アンデルが叫ぶ。

「回復してなきゃ、あんな連打できるか!」


バルンが頷きながら言う。

「理論上、回復してないと無理です」


カイトは観念したように、息を吐いた。

「……確かに、楽だった」


「認めた!」結依。

「つまり」ガスト。

「エアロがいないと、今の戦力は出ない」アンデル。


エアロが言葉を探す。

「そ、そんな……」


カイトはゆっくり、エアロを見る。

「……助かってる」


一瞬、空気が止まる。


「はい、ストップ!」

ガストが割って入る。

「感動路線に入るな!」


「羨ましいだけだろ」

シロッコが笑った。


「超能力ジジイが、孫バッテリー搭載とか」アンデル。


「最強だけど、条件付き」結依。


エアロは少し困った顔で、でも笑った。

「……ずっと隣にってことですか?」


「無理は言わん」「だが、頼りにしてる」カイト。


一瞬、静寂。


「はい、出たぁぁぁ!」

ガストが両手を広げた。

「重い!急に重い!孫に向ける台詞の重さじゃない!」


「温度差で風邪ひくわ」結依。

「さっきまで戦場、今これ?」


「ちなみに今の距離」

シロッコが真顔で言う。

「30センチです」


「近っ!」

「密着!」

「もう回復装置じゃん!」


エアロが真っ赤になる。

「ち、違います!たまたまです!」


「たまたまで数時間もその位置?」アンデル。


「それもう配置ミスじゃない」ガスト。


「いや、最適配置だろ!」

アンデルが叫ぶ。

「“孫型サポートユニット”だ!」


「やめろ」カイト。


「私はそんな――」

エアロが言いかける。


「名前も決まったな」ガスト。

「《エアロ・バッテリー式カイト》」


「却下だ」

「即却下!」

「でも強そう!」


ルビィが眠そうに一言。

「……次の作戦、それで行く?」


「行くわけないだろ!」


笑いが船内に広がる中、

エアロは結局、一歩も離れなかった。



☆動かすという戦い


ジュラシックアース到着直後の1日目から3日目までは、戦闘の連続で陣地を広げる余裕はほとんどなかった。


しかし、ここにきて


超能力と超人たちの活躍で、状況は一変した。


わずか3日間で、目標の3割にあたる陣地を確保したのだ。


だが、到着から7日目を迎えようとする今も…


まだ目標の半分には遠く及ばない。理由は明白だ――

恐竜の数の多さと凶暴性である。


そして、急激に陣地を広げた反動で、前方には大量の恐竜たちが蠢き、ルミナール号のクルーを待ち構えていた。


陣地前線は恐竜の大渋滞で混沌としていた。 小型から大型までが密集し、足踏み一つで地面が震える。


ルビィは薬の効果が切れたばかりで、船内の簡易ベッドに横になって、浅い眠りに落ちていた。


外ではカイトとエアロが見張りを続ける。

そんな最中、左手首のホログラム表示がひとつ点滅し、文字がゆっくり流れ始めた。


《恐竜の行動パターンデータを解析中》


その横には、惑星アークスから来ている兄弟科学者アン博士とゼン博士がいる。


アン博士が腕組みをしながら口を開く。

「作戦を練る時間だすな、ゼン」


ゼン博士は片手を頭にやり、思案顔。

「兄さん、恐竜たちは密度高すぎっす。無理に撃退するより、動かすほうが効率的じゃないっすか?」


アンは一瞬目を細め、弟を見る。

「動かす…とは、誘導作戦のことだすな。なるほど、ゼンも少しは理論が理解できたようだすな」


その会話に割り込むように、バルンが口をはさんだ。

「でも…恐竜を移動させるって、釣りでもするみたいに簡単に行くのか?」


アンが笑いながら答える。

「そう簡単にはいかないだすな。餌や音、光、匂い、地形…全部を使って、進む方向を“誘導”するしかないだすな」


左手首のホログラムに、文字が流れた。

《ここにあるのは理論、実践は君たちの腕次第》


結依が手を挙げ、会話を仕切る。

「なるほど、みんなが安全に陣地を拡張するのが優先です。では、誰がどの役割を担当する?」


ガストは間髪入れず口を挟む。

「俺は恐竜の気を引いて、ちょっと遊んでやろうかな!」


アンデルが大声でツッコミを入れる。

「ガスト、ふざけるな!それより、ちゃんと誘導に集中しろよ!」


グリムは冷静に腕を組む。

「無理に戦わず、進路をコントロール。そうすれば消耗は最小限で済む」


シロッコは恐竜のデータを読みながら言った。

「恐竜の縄張り意識が強いので、大型の群れは他の恐竜を遠ざける。本能を利用すれば、殺さずに動かせるはず」


左手首のホログラムが続けて文字を流す。

《詳細は惑星アークス並びにルナストンの学者と連携中。餌や光、地形などで移動ルートを設計》


ゼンが頷きながら、兄アンに小声で言った。

「ほら、理論も現場も一応そろったっす。あとはクルー次第っす」


アンはやや微笑む。

「ええ、ここからは船長たちが前線で実行する番だすな」


結依が全員に指示を出す。

「わかりました、皆さん。恐竜を殺さず、陣地だけを安全に広げます。進路を誘導するための細かい調整は、科学者チームが後方で指示します」


こうして、議論は理論から実践へと移行した。急激に陣地を拡張した反動で、前方に溜まった大量の恐竜たち。


しかし、アンとゼン、そしてバルンとアストラのデータ解析による指示で、クルーたちは着実に恐竜を移動させ、徐々に安全な陣地を広げていく。



☆超巨大…


砂煙の立ち込める荒野で、ルミナールクルーたちの指示が飛ぶ。


「右列を少し広げろ、ガスト!」

「忌避剤を撒き終えた!次は左側に回る!」

ガストの無邪気な声とアンデルの力強い掛け声が、荒れた地形に響き渡る。


小型の恐竜たちは、光と音、忌避剤の匂いに惑わされ、少しずつ群れの進路が変わっていった。


シロッコは群れの反応を観察しながら、冷静に指示を補足する。


グリムの蹴り一閃も、恐竜たちの動きを抑え、確実に進路を誘導していた。


「よし、このまま行けば、前線の圧力は分散できる…!」

結依の声に安堵が混ざるが、砂煙の向こうでは、恐竜たちの小さな混乱が次第に大きくなり始めていた。


突然。


小型恐竜たちが慌てたように走り回り、渋滞していた群れが一瞬乱れる。


「なんだ、急に…!」アンデルが叫ぶ。


群れの先頭が突然方向を変え、地面を踏み鳴らす。

その隙間から、地響きのような足音が近づいてきた。


視界の先に、影がうごめく。

砂煙の向こうから現れたのは…


想像を絶する、移動する山のような巨体──


超巨大恐竜だった――


厚い鱗が太陽の光を反射し、尾を振るたび大地が震える。


頭を持ち上げ、巨大な牙をむき出しにして前方を睨むその姿は、群れを圧倒する威圧感に満ちていた。


ルビィはまだ眠っている。

カイトとエアロがルミナール号の外で見張り中。


クルー全員の視線がその超巨大恐竜に吸い寄せられた。


「ち…ちょっ…とぉ、大きすぎっ」

結依が叫んだ。


息をひそめ、慌てて準備を整えるルミナールクルーたち。


荒野は一瞬静寂に包まれた。


戦闘直前の張り詰めた空気だけが、灼けつく太陽の下で震えていた。



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