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☆左手首が……

一度完結しましたが、ブラッシュアップしての1話目、【第零章】から再投稿です。内容もボリュームアップする予定。1話ずつ、ゆっくり投稿していきます。

完結してる作品なので、完結は必ずします。


「」人のセリフ

()心の声

『』通信などの機械音、ほかの人が言った言葉をそのまま入れるとき。


※私の小説のルールです。


楽しんでもらえると嬉しいです。

 ルミナール号は、すでに出航しているとは思えないほど賑やかだった。


 もっとも、その原因の半分以上は――アストラの左手首である。


 地下都市から同行することになった化学者は、通路の壁に背中を張りつけたまま、震える声で言った。

「……動くな、動くな」

 その視線の先。

 手首はケースからスルリと抜け出し、床を這い、壁を登り、天井の梁にぶら下がっていた。まるでホラー映画のワンシーンだ。


 SWATの一人が、思わず声を上げる。

「うわっ! 今、逆さでこっち見た!」

 隣の隊員が慌てて否定する。

「見てない、見てない! あれは“手”だ、目はない!」


 別の隊員が、思わず銃に手をかけかける。

「いや、でも――」

 その腕を、すぐ隣が必死に押さえた。

「撃つな! 絶対撃つな!」


 一方。

 操縦席から振り返ったルビィは、あくび混じりに言う。

「……あ、また天井行った」


 結依も平然と続ける。

「今日はアストラ元気だね」


 ルビィは軽く頷く。

「昨日は床ばっかりだったのに」


 その温度差に、化学者は呆然と呟いた。

「……慣れてるのか……?」


 手首はそのまま通路を移動し、アーク帝国から来た軍人二名の前でぴたりと止まる。

「……」

「……」

 無言で固まる二人。

 手首は、ゆっくりと親指を立てた。

 軍人の一人が、低く呟く。

「……親指、立てたぞ」

 もう一人が困惑する。

「肯定なのか? 挑発なのか?」


 結依が笑顔で説明する。

「多分、挨拶です」

 ルビィも続ける。

「フレンドリーなんですよ」


 軍人は小さく息を吐いた。

「フレンドリーの概念が違いすぎる……」


 そこへ、カイトが通りかかった。

 立ち止まり、無言で天井を見上げる。

 ――手首がいる。

 カイトは短く呟いた。

「……あぁ」

 そして、ゆっくりと膝をつく。


 化学者が慌てて駆け寄る。

「大丈夫ですか!?」


 カイトは虚ろな目で答える。

「……いや」

 小さく息を吐く。

「わかっていたんだ……今回も、何かあるとは……」


 ルビィが近づき、肩を軽く叩く。

「大丈夫、大丈夫。手首は噛まないですから」


 カイトは首を横に振る。

「問題はそこじゃない……」


 結依もしゃがみ込み、優しく言う。

「カイトさん、深呼吸しましょ」

「ほら、吸ってー、吐いてー」

 カイトは無言のまま従った。


 その様子を見ていた手首は、ぺたりと床に降りる。

 そしてカイトの前まで移動し――

 ちょん、と人差し指で床を叩いた。


 化学者が小声で言う。

「……慰めてる?」


 ルビィが吹き出す。

「ほらね、優しいでしょ」

 結依も笑いながら言う。

「アストラ、気遣いできるんだよ」


 少し落ち着いたカイトが、ゆっくり立ち上がる。

「……だろうな」

 そしてため息をついた。

「私はデスクワーク向きの人間なんだ」

 遠くを見るように続ける。

「大統領の下で働いていたのは、五年前の話だ」

「定年も迎えた。それなのに、どうして今さら私がこの船に……」


 ルビィと結依が、同時に顔を見合わせる。

 ルビィが言う。

「それはね」

 結依が続ける。

「多分――」


 二人は声を揃えた。

「運命」

「もしくは」

「ゼファー大統領の気まぐれ」


 そして、もう一度。

「どっちも、逆らえないやつ」


 カイトは乾いた笑いを漏らす。

「……君たち、本当に仲がいいな」


 結依が即答する。

「親友ですから」

 ルビィも続ける。

「ライバルでもあるし」

 二人は同時に言った。

「でも、結局は同じ船」

 その瞬間。

 パチン、と手首が指を鳴らした。

 結依が振り向く。

「今の、同意?」

 手首は、静かにうなずいた。

 ルビィがニヤリと笑う。

「ほら」


 カイトは天井を見上げ、小さく呟いた。

「……無事に帰れるかな」


 結依がすぐに言う。

「帰れますよ」

 ルビィが少し間を置いて付け足す。

「多分」


 手首は、親指を立てたまま操縦席の方へ移動していく。


 ――ルミナール号は、いつも通りの、少しおかしな空気をまといながら、ジュラシックアースへと向かっていた。


私からのお願いです。

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