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【第四章】 移住計画始動 ①

惑星移住の準備段階。大事な所もあるので、カットするわけにもいかず…

それでも、コメディを意識して、退屈にならないように。

2026年3月20日に完結します。

おそらく、個人的な理由で、この小説の公開は2026年4月1日から一時的に非公開にします。



☆会合後、そして…


◆会合室を出た廊下。


張り詰めていた空気がほどけ、ルビィは大きく息を吐いた。

「終わった……上手く、いったよね?」


「とりあえずな」

レオが静かに頷く。


結依は、両手を上げて軽く伸びをした。

「はぁ〜正直、途中から心臓の音しか聞こえなかった」


ゼファーは、わずかに口元を緩めて言った。

「歴史的会合だ。成功と言っていい」


その言葉で、ルビィの顔がパッと明るくなる。

「ダイヤおばあちゃんに、報告しないと」

ルビィはすぐに通信機を取り出した。

「こちらルミナール号、会合は――」

……返答がない。


「……え?」 再送信。


沈黙。


「……あれ? 応答がないというか、無線が……?」


アストラが端末を覗き込み、状況を確認する。

『機器の故障ではありません』


「じゃあ、なに?」


『おそらく、太陽の影響でしょう』

淡々とした口調で続ける。

『この惑星の恒星は電磁干渉が強く、広域通信が遮断されやすい』


「異質な太陽、か……」レオが低く呟く。


結依は、ぽんと手を打った。 「じゃあ、帰って直接報告だね」


ルビィは、苦笑する。

「うん、その方が早いかも」


結依

「私さ、会合中ほとんど座ってただけだった気がするんだけど」


「そんなことない」

ルビィは、すぐに首を振った。

「結依が隣にいるだけで、すごく心強かった」


結依は一瞬キョトンとしてから、照れたように視線を逸らす。

「……そ、そう?」


ゼファーが、静かに笑った。

「最後のあの説得――

まるで、ダイヤさんが乗り移ったかのようでした」


ルビィは、少し困ったように頭を掻く。

「言われました。出発前に……」


その時。


「見事だったよ」

振り向くと、ノヴァ連邦大統領が近づいてきていた。

「恐怖と利害が絡む場で、あれほど明確に“道”を示せる人間は、そう多くない」

ゼファーに視線を移す。

「ルナストンの判断は、正しかったようだ」


ゼファーは、軽く頭を下げた。 「感謝する」


そこへ――

足音を荒げて、アーク帝国大統領が近づいてくる。

一瞬、場が緊張したが

「……謝罪する」短く、だがはっきりとした言葉だった。

「我々は、恐怖に飲み込まれていた。地下都市に対する武力行使も、間違いだった」

ゼファーを見て、深く頭を下げる。

そして、ルビィに向き直った。 「あなたの言葉がなければ、この会合は破綻していた。感謝する、船長」


ルビィは、驚きつつも、静かに頭を下げた。

「こちらこそ」


そのやり取りを見届けてから、レオがノヴァ連邦大統領に問いかける。

「1つ聞きたい。この惑星で、科学力が最も進んでいる国は?」


ノヴァ大統領は、即答した。 「ヴェルデ自治共和国だろう」 「自然循環、地下環境、生命工学――

あなたたちが求めている“現実的な科学”は、あそこが一番だ」

「我が連邦の隣国だ。協力体制も取りやすい」


レオは、短く頷いた。

「では、ワープゲートはヴェルデに作る」


一同が、息を呑む。


「時間がない。各国の有能な科学者、博士、技師――

分野を問わず、集めてくれ」

「選別してる暇はない、“使える人材”を、全部だ」


ノヴァ大統領は、力強く頷く。 「手配しよう」


レオは、最後に問いを投げた。 「この惑星圏の代表は、誰が務める?」

視線は、アーク帝国大統領と、ノヴァ連邦大統領へ。


2人は一瞬、顔を見合わせ――

ノヴァ大統領が言った。

「今後は、共同代表制が妥当だろう」

アーク大統領も静かに頷く。

「同意する。過去の失策を繰り返さないためにも」


レオは、淡々と告げた。

「決まりだな」

こうして、惑星を救うための、本当の作業が始まった。



――そのころ


◆地下都市・研究室


テーブルが2つ、距離を空けて向かい合っている。それぞれの中央に、掌ほどの円形フレーム のミニチュア・ワープゲート。


片方が入口、もう片方が出口。


ダイヤは腕を組み、フェザーは額に手を当てて、テーブルの上を睨んでいる。


ダイヤ「……じゃあ、いくよ。赤い球、投入」


フェザー「角度は? さっきより0.2度内側?」


ダイヤ「うん、それでいい」

赤いボールが、入口側のゲートへとコロンと転がり入る。


一瞬、ゲートの縁が淡く光り―― 出口側。ポンっと転がり出てきたのは、 赤い球……ではあるが。


フェザー「……でかくない?」

ダイヤ「でかいね」元の3倍ほどのサイズ。

しかも、表面が微妙にゼリー状だ。


フェザー「前回は青くなったし、その前は分裂したし……」

ダイヤ「最初よりはマシ。爆発しなくなった」

2人、同時にため息。


ダイヤ「空間の接続が、まだ安定してない」

フェザー「数値は合ってる。理論上は通るはずなのに」


ダイヤ「“通る”のと、“無事に通る”は別だからね」

フェザー「それを言われると弱い」

フェザーは長い髪をかき上げ、椅子に腰を落とす。


フェザー「……ねえ、ダイヤ。やっぱりさ、ワープ理論が違うんでしょ?」


ダイヤ「うん。はっきり言うと」 ダイヤは端末を操作し、2つの理論図を空中投影する。


ダイヤ「ルミナスのワープ理論は旧式。これは“通過”させる発想」

フェザー「空間を押し広げて、引っ張るタイプね」

ダイヤ「そう。でも、この理論は空間を広げる為、たまに時間にズレが生まれるみたい――」


指先が、もう一方の図をなぞる。

ダイヤ「ルミナールの理論。空間そのものを“同一化”する」

「だから、空間を通る物体に影響がでる」


フェザー「……つまり?」


ダイヤ「ルミナス式は不安定、ゲートは作れない」

「でも、ルミナール式の方が、安定しててゲート向き。あとは物体が変形する原因がわかればね」


フェザー「だよねぇ」

フェザーは天井を仰ぐ。

「ルミナール専用技術か……」


そこへ、少し離れた作業台から、サイモンが声をかける。

「なあ、前から思ってたんだけどさ」


ダイヤ「なに?」


サイモン「なんでルミナール号の船体って、ワープ通っても歪まないんだ?」


フェザー「……!」


ダイヤ「……確かに」


フェザー「普通は“削れる”のよ、空間通過って」


サイモン「だろ? でもルミナールは、何回通っても平気らしいし」


フェザー「……船体に、何か秘密があるんじゃない?」

フェザーの視線が、ダイヤに向く。


ダイヤ「設計図は全部見た……」


フェザー「全部?」


ダイヤ 「全部。 構造、素材、エネルギー循環…… 特に変なところはなかった」


サイモンは顎に手をやり、少し考えてから言う。

「でもさ」

「ルミナールの外側のコーティング、覚えてる?」


ダイヤ「ん?コーティング?」


サイモン「こないだ、たまたま触れちゃってさ」


フェザー「触った!? 」


サイモン「うん。なんか妙にザラザラしてた」


ダイヤ「ザラザラ?」


サイモン「でも硬い金属じゃない。少し柔らかい感じもあった」


フェザー「……」

ダイヤ「……」


2人の視線が、同時に空中でぶつかる。

フェザー「……設計図に」

ダイヤ「……コーティングの記載は、無かった」


沈黙。


次の瞬間。

ダイヤ「それだ!」

フェザー「それかも!」

2人ほぼ同時。


フェザー「船体そのものじゃない! 外側が、空間と干渉してる!」


ダイヤ「空間を“滑らせてる”……だから歪まない!」


フェザー「ゲートも同じ処理ができれば――」


ダイヤ「安定する!」

2人は顔を見合わせる。


フェザー「ルミナール号は今は隣の惑星……会合の結果より?」

ダイヤ「正直?」

フェザー「うん」

ダイヤ「コーティングの方が気になる」

フェザー「同感」


後ろで、サイモンが苦笑いをした。

「会合は失敗しないって信じてるんだよな?」


ダイヤ「うん。だからこそ」

フェザー「早く帰ってきてほしい」


そのとき。 研究室のアナウンスが入る


ルナストンステーションより連絡が入った。

【宇宙船を目視しました。おそらく、ルミナール号です】


フェザー「……!」

ダイヤ「来た!」

2人の顔が一気に明るくなる。


フェザー「ねえ、走っていい?」 ダイヤ「もちろん!」

2人は同時に研究室を飛び出す。


少し遅れて、サイモン。

「結局、会合よりコーティングかよ」苦笑しつつ、後を追う。


◆地下都市・ゲートエリア


巨大なモコルが、いつものように入口を陣取っている。


フェザー「ごめん、通る!」

ダイヤ「後で撫でるから!」

巨大モコルの横をすり抜け、

3人は ルミナール号を迎える地表へと、走っていった。


◆ルミナール船の船内


――1時間前


船は静かに惑星圏を離脱した。

窓の向こう、ノヴァ連邦の星が遠ざかっていく。


沈黙を破ったのは、レオだった。 「……で」 操縦席の後ろから、淡々と。

「“ゲート完成80%”ってのは、嘘だよな」

一瞬、空気が止まる。


「やっぱり?」

結依が即座に言う。


「私も、そう感じていた」

ゼファーも、腕を組んで静かに頷いた。


全員の視線が、ルビィに集まる。 ルビィは、観念したように小さく息を吐いた。

「……はい」

そして、少しだけ視線を落とす。


「出発前にダイヤさんに、言われました」


――回想。


薄暗い回廊。

ルミナールの出発直前。


「会合ではね」

ダイヤは、いつもの軽い口調で言った。


「ワープゲートは80%完成してるって、言って」


「えっ?」ルビィが固まる。


「大丈夫、大丈夫」

ダイヤは笑顔だ。

「完成はさ、必ずさせるから」

「でも、“今から作ります”じゃ、誰も賭けてくれない」


そこには、アストラもいた。

ダイヤは、ちらりとアストラを見る。

「で、アストラくん」「君は……嘘、バラしそうだからさ」

『……理解しました』 アストラは、淡々と答えた。


ダイヤは、ニッと笑った。

「要するに、これは覚悟の嘘だよ」


――回想、終わり。



ルビィは、ゆっくり顔を上げる。

「――そういう、ことでした」


レオは、短く息を吐いた。

「やっぱりダイヤのやつの……俺まで移住計画の惑星の事で、嘘をついたんだぞ」


ゼファー「私も嘘をつきました」


結依は、苦笑いする。

「でも、あれもなかったら――

会合はまとまらなかったよね」


ゼファーも、静かに言った。

「結果として、全国家が同じ方向を向いた。判断は正しかった」

「言ったことが嘘にならないように進めていこう」


船内には、少し遅れて安堵の空気が広がる。


それでも――

ルビィの胸は、落ち着かなかった。通信機に目をやる。

(早く…直接、伝えたい。会合は成功したって。移住計画が正式に動き出したって)

やがて、自然衛星ルナスが見えてきた。


巨大な岩盤に穿たれた、ルナストン市の入口の前には巨大モコル。


ルビィは、反射的に通信を入れる。

「こちら、ルミナール号――」


……沈黙。


「やっぱり、使えない」


結依が眉をひそめる。

「この距離でも? さすがに、それは……」


アストラが、冷静に答える。

『恒星活動の影響範囲が、予測以上に広がっている可能性があります』


ルビィの胸が、キュッと締まる。 (間に合って……)


その時。地下都市入口の向こうに、人影が見えた。

黒髪。見慣れた、飄々とした立ち姿。

「……おばあちゃん?」

その隣に、フェザー。

少し遅れて、サイモンの姿もある。


ゼファーが、ホッと息を吐いた。

「結果を知りたくて、出迎えに来たのだろう」


「だよね」

ルビィも、思わず微笑む。


だが――


レオだけは、苦笑する。

(……ダイヤって、“出迎える”タイプだったか?)


その時、地表では入口の扉の内側で、フェザーが壁際に手を伸ばした。そこに設置されているのは緊急用注射器。


フェザー「……よし」


フェザーは、迷いなくそれを手に取り、ほどなくして――

入口を塞いでいた、巨大な影が、急速に縮み始めた。


もふ、と音を立てるように。 巨大だったモコルが、いつものサイズへ。


「やっぱり、モコル目当てか?」

レオが呆れたように言う。


地表が、完全に開く。

『着陸、可能です』

アストラが告げた。


ルミナール号は、静かに降下し無事着陸した。


ルビィは、胸の奥で小さく呟く。 (直接、伝えられる、全部…)


そして、扉の向こうで待つ、あの無邪気な黒髪の天才の顔を思い浮かべた。



☆コーティング解析


ルミナール号の船体に、太陽の光が反射している。


フェザーは迷いなく、船体に手を伸ばし、指先でゆっくり撫でる。

「……やっぱり」 指を離し、少しだけ眉をひそめる。

「見た目は金属。でも、金属じゃない」


ダイヤも隣で、同じように触れる。指に残る、かすかなザラつき。

「硬いのに、逃げる感じがするね」

無邪気な声だが、目は完全に研究者だ。


ハッチが開き、ルビィたちが地表へ降りる。


だが、さっきまで船のそばにいたはずのダイヤとフェザーの姿がない。


「え?」


ルビィが周囲を見回す。

するとサイモンが、場の悪そうな顔をして船の下を指差した。



ルビィは船の下に目をやり、

「……何してるんですか?」



フェザーはルビィに振り返り、「ねぇ、船長。この辺の外装パーツ、外してもいい?」


そのとき。


「その必要はない」

割って入った声はダイヤだった。

「アストラ、船体のコーティングをスキャンして」


『はい』

アストラは即座に指示に従った。


フェザーは一瞬キョトンとし、すぐに笑う。

「ああ、そっか。便利な子を持ったわね」


研究室へ向かいながら 地下都市の通路を歩く。


「会合は?」

ダイヤが前を向いたまま聞く。


ルビィが苦笑いしながら答える

「やっと聞いてくれましたね」

「地下都市を含めた7カ国、全会一致です。移住計画、正式承認されました」

 

「ふーん」ダイヤの反応はあっさりだ。


結依が思わず突っ込む。

「それ、もっと喜ぶところじゃないですか?」


「後でね」

ダイヤは即答する。

「今は、こっちのほうが面白そう」


フェザーが笑った。


研究室に入ると同時に、アストラがデータを展開する。


空中に浮かぶ、複雑すぎるホログラム。分子構造とも、生体情報とも取れる異様なデータ。


『コーティングの主成分を解析しました』

アストラは淡々と続ける。

『植物由来の液体と推定されますが、遺伝子改変が過剰で分類不能です』


「なにこれ!?」

ダイヤが思わず悲鳴を上げる。

「ぐちゃぐちゃじゃん!設計思想が見えない!」


フェザーが腕を組む。

「文字、ルナストン語にできる?」


『可能です』

一瞬で表示が切り替わる。


フェザーの表情が、固まった。

「……嘘でしょ」


ダイヤも察する。「これ、わかるの?」


アストラが静かに答える。

『オリオン博士の手法と、高い一致率があります』


「やってくれたな、あいつ…」

ダイヤは頭を抱える。

「また未発表かよ…。しかも、生体素材寄り……」


しばらくホログラムを見つめていたフェザーが、ぽつりと言う。

「98%くらい似てる素材、知ってる」


「え?」ダイヤが顔を上げる。


「ルナストン市でね」

フェザーは続ける。

「最近、自然発生した虫がいるの」


ダイヤの嫌な予感が、的中する。 「……虫?」


「ええ」

フェザーは即答する。

「気持ち悪いやつ……」

空中に、新しいホログラムが映し出される。


黒光りする体。

10〜15センチ。

足がやたら多い。


「うわっ」

ダイヤが即座に視線を逸らす。「ムリムリムリ!」


「安心して」

フェザーが笑う。

「私も虫大嫌い」


サイモンが後ろから覗き込む。

「……これは、確かに無理だな」


フェザーは説明を続ける。

「その虫、不定期にね、ネバネバの液体で全身を覆って、眠りに入るの」


「その液体が――」ダイヤが続きを察する。


「そう」

フェザーが頷く。

「少し柔らかめに固まると、無敵なの。外的干渉、ゼロ」

「熱、衝撃、切断、いずれも内部へ影響なし」


「それを人工で作ろうとした?」 ダイヤが聞く。


フェザーは笑いながら答える。 「売れるし、面白いでしょ?」


「……で?」

ダイヤは嫌な予感しかしない。


「無理だった」

フェザーは即答。

「1匹から100ml程度しか取れないし、再現不可…虫も気持ち悪いしね」


ダイヤがぼそっと言う。

「ねぇ、その虫、今ある?」


「今はない」

フェザーは端末を操作しながら言う。

「でも、草木の多い公園なら――

1時間で2〜3匹は捕まえられる」


ダイヤは一瞬だけ迷い、すぐに振り返る。

「ゴリにぃ!」入口付近にいたモコルが、ぴくっと反応する。

「1人で公園行って」

「この虫、捕まえてきて!」


サイモンが苦笑いしながら立ち上がる。

「俺、行くよ。虫はグロいけど、爆発よりマシだ」


フェザーは満足そうに笑った。 「話が早くて助かるわ」


ダイヤはホログラムの虫を見ないようにしながら呟く。

「……絶対、触らない」


そして1 人、サイモンは研究室を飛び出していった。


1時間後…


研究室のドアが、音もなく開いた。

「……ただいま」

入ってきたサイモンは、服が半分ボロボロ…… 腕に謎の緑色の痕、髪に小枝。


無言で、透明ケースをテーブルに置く。中で 黒光りする“それ”が、4匹がモゾモゾと動いていた。


「……」ダイヤが一歩下がる。

「……大変だった?」フェザーが聞く。


サイモンは、遠い目で言った。

「3回、木から落ちた」

「2回、追いかけられた」

「1回……食われかけた」


「食われかけた!?」ダイヤが叫ぶ。

「虫に?」


「噛まれたと言うべきか…」

サイモンは疲れた顔で言った。


フェザーが吹き出す。

「想像以上ね」


アストラが淡々と補足する。

『捕獲対象の防御反応と推測します。極めて危険です』



☆ネバネバ実験


ケースに入った虫から慎重に抽出された液体。少し黒みがかった、鈍く光るネバネバ。

「これをボールに――」

ダイヤが赤いミニボールを見る。「そして、ゲートに」


「ええ」フェザーが頷く。


そして、ネバネバをまとった赤いボールが、 ゆっくりとミニゲートへ。


次の瞬間。


ポンッもう一方のゲートから、同じネバネバをまとったままの赤いボールが、完全な形で転がり出た。


「……」 「……」 「……」


ダイヤが、静かに言う。

「成功、だね」


フェザーは深く息を吐いた。

「ええ。ゲート空間、完全安定」


サイモンが小さくガッツポーズ。 「よし」


しかし、アストラがすぐに数値を出す。

『1匹あたりの抽出量、約100ml』『人体1人分に必要な最低量、約1000ml』

『21億人分――単純計算で、約210億匹が必要です』


「……」全員が黙る。


ダイヤ「無理だね」


ルビィが、静かに口を開く。

「薄めることは?」


フェザーが即答する。

「試す価値はある」


希釈実験


ネバネバ:水 9:1 → 成功 8:2 → 成功 7:3 → 成功 6:4―― 赤いボールが、 途中で歪んだ。

「アウト」 フェザーが言う。


アストラが記録する。

『安全域、7:3までです』


ルビィは、呼吸を一拍遅らせた。 「それでも、数が足りない」



アストラが補足する。

『地下都市に存在する個体数は、推定ですが15000〜20000程度です』研究室に、重い沈黙が落ちる。


行き詰まり。


ダイヤは、モコルを抱き上げ、 現実から逃げるように、もふ、と顔をうずめる。


フェザーは、頭を抱える。

「人工生成は無理」

「自然個体も足りない」


「詰み?」 サイモンが呟く。


そのとき。


「待て……」

レオの声だ。

ダイヤの腕の中を見ていた。

「そのモコル」


「ん?」ダイヤが顔を上げる。


「大きくする薬、あるだろ」


一瞬、静止。フェザーが首を傾げる。

「あれはモコル専用よ?」

「他の生命体には――」


その言葉を、 ダイヤの笑顔が遮った。

「ネバネバを人工で作るよりさ」 「その薬を、虫に効くように調整する方が――簡単じゃない?」


フェザーが、ゆっくり顔を上げる。


「……あ」

2人は、同時に―― 巨大化した黒光りの虫を想像した。


「……」 「……」


「やだ」 2人同時。


サイモンが一歩下がる。

「……俺、その実験、参加しなくていい?」


研究室に、笑いと嫌な予感が同時に広がった。


☆巨大化実験


――翌日

◆ルナス地表実験区画


地表は、薄い雲に覆われた灰白色の大地。遠くには巨大な入口が見える。


「じゃあ……始めるわよ」

フェザーが端末を操作する。


透明ケースの中で、例の黒光りする甲虫がじっとしている。


ダイヤはバイクにまたがり、後部座席にルビィ。

ルビィは、軽量ライフルを肩にかけていた。


「……やっぱり参加しなくて正解だよな」

少し離れた岩陰でサイモンが腕を組んでぼやく。


アストラはレオと並び、静かに観測している。

アストラ

『数値、来ます』


注射器が甲虫に打ち込まれた瞬間――


ズン…… 地面が揺れた。

「……え?」


次の瞬間、黒い影が、爆発するように膨張した。


「ちょ、ちょっと!?」

フェザーが叫ぶ。


甲虫は異様なほど巨大化していた。


外殻がきしみ、脚が地面を削る。

『想定サイズ、超えています!』 アストラが即座に警告する。


「制御、来てない!」

フェザーが歯噛みする。


甲虫が――動いた。

ガシャァァン!!

地表の岩盤を粉砕し、12本ある脚が無差別に振り下ろされる。


「来るよ!」ルビィが叫ぶ。


「了解!」ダイヤがアクセルを踏み込む。

バイクが弾丸のように走り、ルビィが後ろから発砲。

バン!バン! 外殻に火花が散るが、ほとんど効いていない。


「硬っ!?」ルビィが歯を食いしばる。


「甲虫だもん!」

ダイヤが叫ぶ。

「そりゃ硬いって!」


巨大甲虫が、脚を振り上げ――

ドォン! 衝撃波。


バイクが弾き飛ばされそうになる。「くっ……!」ダイヤが体勢を立て直す。


少し離れた高台。

伏せた姿勢の結依が、ガン型注射器を構えていた。


照準は、甲虫の関節と外殻の“隙間”。

雑音を捨てるように、呼吸をひとつ。


「――当たれ」結依の一射


シュッ 小さな音。


注射針は、巨大甲虫の脚の付け根へ――正確に突き刺さった。


一拍。


ズズズズ……


巨体が、崩れるように縮み始める。

「効いた!」

フェザーが叫ぶ。


数秒後。

そこにいたのは、元のサイズに戻った、黒光りの虫だった。


沈黙。

誰も、すぐには言葉を発せなかった。


レオが、ゆっくり結依を見る。 「今の射撃」

「距離、風、振動込みで、完璧だ」


結依が、ハっとして顔を上げる。

「えっ…」


「すごい」レオは本気で言った。


結依は、頬を赤くする。

「そ、そんな……」


ルビィが苦笑する。

「ほんと、頼もしいよ」


ダイヤは、虫を見下ろして苦笑いをした。

「制御不能は想定内……だけど」 「うん、これは派手すぎたね」


フェザーが、指を鳴らす。

「……あ」

「そういえば」


全員が振り向く。


「生き物を静かにさせる薬あるわ」

「昆虫に効くかは知らないけど」


「効かなかったら?」

ダイヤが聞く。

フェザーが答える前に――

ダイヤが、ニコっと笑い続ける。

「効くようにすればいいじゃん」



岩盤には深い亀裂、焦げ跡、削れた大地。

巨大化実験は――成功しすぎて、失敗した。


正確には、失敗する前に強制的に終わらせた。


フェザーは、小さく戻った甲虫を隔離ケースに収めて、深く息を吐いた。


ルビィ「制御不能、だったね」

結依 「“巨大化”って言葉が、軽く感じるレベルだったよ」


少し離れた岩陰。

サイモンは腕を組んでただ実験を見ていた。

「だから言っただろ。俺は“見るだけ”にして正解だったな」


レオは地面に残った爪痕を見下ろし、低く言う。

「攻撃性、反応速度、装甲……  あれはもう“生物兵器”だな」


ダイヤはヘルメットを外し、額を押さえた。

「完全に想定外だね。巨大化した瞬間の暴走率が高すぎる」


そのとき、ふっと風が吹いた。

ダイヤの髪が、ゆっくりと―― 黒から金色へ戻っていく。


ルビィ 「……あ」

結依 「……?」


ルビィはダイヤを見て、小さく笑う。

「戻ったね」


ダイヤは自分の髪を掴み、目を瞬かせる。

「あ……ほんとだ。そっか、やっぱり食事の副作用だったんだ」


フェザー「えっ!? 黒髪って副作用だったの!?」


ダイヤ「うん。言ってなかった?」


フェザー「聞いてないわよ!」


今日は珍しく、ルビィは髪を束ねていない。

金色の髪が肩に流れ、 2人が並ぶと、とてもよく似ている。


結依「本当に、そっくり」


ルビィ「でしょ。おばあちゃんの孫って言われるの悪くない」


ダイヤは一瞬言い返そうとして、 否定できない自分に気づき、苦笑した。

ダイヤ「……もう、好きに言ってなさい」


そこへ、ゼファー大統領の部下が現れる。

「ダイヤ船長、ルビィ船長。至急、大統領がお呼びです」


ダイヤは驚いた顔でルビィを見る。

ダイヤ 「え?今?」

ルビィ「みたいですね」


2人は実験エリアを後にし、大統領府へ向かう。


執務室で、ゼファー大統領は2人を見るなり、視線をダイヤの髪に留めた。

ゼファー「ほう?」

ダイヤ「?」

ゼファー「ダイヤさんの髪の色が、変わりましたね」

ルビィ「副作用だったみたいです」


ゼファーは2人を見比べ、静かに頷く。

「並ぶと、やはりよく似ている」

ルビィが楽しそうに笑う。

ダイヤはもう反論しない。


ゼファーは表情を引き締め、本題に入る。

「明日、アーク帝国の艦が迎えに来る」


ダイヤ「ヴェルデ自治共和国へ、だね」


ゼファー

「そうです。ゲート建設のため、君たちの船から3名を派遣する、人選は任せます」


一拍置いて、ゼファーは続けた。

「また問題が1つ」


ダイヤは眉をひそめる。

「何でしょう?」


ゼファー「通信だ」

ダイヤ「……通信?」


ゼファー「太陽の影響で、 惑星間無線が使用不能になっている」


ダイヤは、その言葉を一瞬理解できなかった。

「……え?」


ルビィ

「……あ……」表情が変わる。

「そうだった…惑星アークスからルナストンに戻る時、使えなかった」

「実験に夢中になってて……完全に、そっちに意識がいってた」


ダイヤは息を呑む。

「……私、全然気づいてなかった」


ゼファー「ノヴァ連邦の使者が、直接伝達に来た。状況は深刻だ」


ダイヤは静かに言った。

「離れた惑星間で、連絡が取れないゲート構築は、成功率が落ちます」


ゼファー「その通りだ」



☆分岐する役割


2人は研究室に戻る途中、ダイヤは小さく呟く。

「次から次へと問題が出てくるな」

戻るなり、ダイヤは研究室のみんなに言った。

「まず、チーム分けを決める。いい? ルビィ」


ルビィ「いいよ、おばあちゃん」


ダイヤ 「……」一瞬止まり。

笑顔で返す。

「……はいはい」


チーム分けが告げられた。


「巨大甲虫のネバネバとゲート通過実験は、私とフェザー。ルナストン市で」


「惑星側アークスでのゲート構築はレオ、サイモン、アストラ。ヴェルデ自治共和国で」


「引っ越し先の惑星調査は、ルビィ、結依、大統領推薦でカイト、数名ルナストン市とアーク帝国から派遣。ルミナール号で向かって」


チーム分けが終わったところで、ダイヤは一呼吸おいて言った。

「それから、もう1つ問題が……」

「無線が、使えない」


フェザー

「……え?」「それ、ゲート成功率……下がるわよ」


結依

「恐竜調査、居住可否の再確認、ゲート設置場所の選定…… 連絡が取れないのは、致命的です」


レオ「情報は、生死を分けるぞ」


サイモンは何も言わず、肩を落とす。


重い沈黙。


その中で、アストラが口を開いた。

『それは、簡単に解決できます』


全員が顔を上げる。

全員 「え?」


『私の体は、分離可能です』

『私の左手を、ルミナール号に持っていってください』


静まり返る研究室。


『私は、オリオン博士の未発表の科学で、分離した体を操作しています』

『恒星の影響で無線が使えないのに、私が活動できているという事は――』

『この技術は、ここの恒星の影響を受けていません』


『私の各部位には聴覚機能があります。話せるのは頭部だけですが、すべて頭部の思考回路と連結しています。左手でホログラムを出し、文字による最低限の連絡が可能です』


沈黙のあと。


ダイヤが静かに笑った。

「それは、発想が人間じゃないね」


ルビィ「でも、現実的」


フェザー

「通信が切れても、情報は生きる」


アストラは淡々と告げる。

『問題は、解決可能です』


ダイヤは頷いた。

「それでいこう」


結依はルミナール出航時を思い出した。

(オリオンさんの言う通り、本当にバラバラが役に立ってる…)



☆ヴェルデ自治共和国へ


◆自然衛星の地表


―出発前―


ルナストン市の入口、いつもなら巨大モコルが居るはずの所に、低く重い振動音と共にアーク帝国の宇宙軍艦が、静かに浮かび上がっている。


ルミナール号とは対照的な船だ。

曲線よりも直線、装飾よりも装甲。

それは、“生き残るために戦う船”だった。


その足元で、人の流れが2つに分かれていた。


惑星アークスから派遣された軍人2名と科学者2名はここで降りる。

代わりに、サイモン、アストラの本体、そしてレオが、軍艦へ向かう。


艦の前には、ゼファーとアーク帝国大統領が並んで立っていた。


ゼファーは、軍艦を見上げてから言った。

「ヴェルデ自治共和国は、すでに準備を始めている。科学者、技術者、施設――すべてだ」


アーク大統領は頷く。

「我々の報告では、すでに各国の優秀な人材が集められている。到着次第、ワープゲート建設に着手できるだろう」


レオが一歩前に出る。

「現地で、技術水準と運用体制を確認する。使えるなら、すぐに組み込む」短い言葉だったが、覚悟は十分に伝わった。


アーク大統領は、レオをまっすぐ見た。

「頼んだ。我々の未来がそこにかかっている」


レオは、小さく頷いただけだった。


少し離れたところで、サイモンが言った。

「しかし、大統領同乗の軍艦って、緊張するなぁ」


「不満か?」アーク大統領が低く問う。


「いえいえ」

サイモンは笑って手を振る。

「ただ、落ちたら歴史に残るなって思っただけです」


一瞬、場が凍りつきかけ―― だが、アーク大統領はわずかに口元を緩めた。


その様子を見て、ルビィがレオの前出る。少し背筋を伸ばし、丁寧に頭を下げた。

「ヴェルデとの共同作業、よろしくお願いします。私たちも、出口側の惑星で与えられた仕事を終わらせてきます」


「あぁ、お前たちも気をつけろよ、恐竜は気性が荒い」

レオは心配そうに言った。


サイモンがルビィの側に寄る。

「……ルビィちゃん」

「なに? サイモンさん」


サイモンは、ルビィの肩にかかったライフルのストラップが少し食い込んでいるのに気づき、無言でそれを直しながら言う。

「あんまり無理すんなよ。ルビィちゃん、責任感強すぎて時々顔が引きつってんだわ。……あっちに行ったら、少しは結依ちゃんに甘えろよ。分かった?」


ルビィ「……うん。ありがと」


ぶっきらぼうだけど、いつもの“仲間”としての言葉より一段低いトーン。

ルビィが少し意外そうに彼を見上げると、サイモンは照れ隠しにニヤリと笑う。そして続けた。

「そういえば、そっちは例の“通信担当”がいるから大丈夫かな?」


その視線の先。

小さなケースの中で、アストラの左手首が、ちょこんと収まっている。ケースの横にはフェザーとカイトが立っている。


手首がゆっくりと親指を立てた。

それを見てルビィが思わず笑う。

手首は気にせず、今度はピースサイン。


フェザーは、その様子を見てため息をついた。

「本体はヴェルデ、手首はルミナール号。相変わらず、落ち着きのない存在ね」


アストラの本体は、静かに答える。

『任務に最適化した結果です』


「向こうで体の分解しないでよ?」


『努力します』


ケースの中で、手首がホログラムを出し、

《保証なし》と文字を流す。


「表示するな」

フェザーが即座に切り返す。

カイトは苦笑いしていた。


少し後ろで、ダイヤが腕を組んで見ていた。やがて、レオに向かって口を開く。

「入口と出口のゲート作りよろしくね、ワープ空間研究が終わり次第、私たちもヴェルデ自治共和国へ向かうから」


「わかった。任せておけ」

レオは即答した。


次にダイヤは、サイモンを見る。 「死なないでね」


「軽っ!それだけ?」

サイモンが目を見開く。


「死んだら、研究が止まるでしょ」


「そっちの理由!?」


搭乗の合図が鳴る。軍艦の影が、ゆっくりと大きくなる。


見送りの列には、ゼファー、フェザー、ルビィ、ダイヤ、結依、カイト、そしてケースに入ったアストラの左手首が並んだ。


結依が、艦を見上げて呟く。

「ほんと、大きいね」

「戦艦って感じですね」カイトが低く言う。

ゼファーは、静かに言った。

「この出発が、移住計画の要になる」

ルビィは拳を握りしめ、前を向いた。

「必ず合流しましょう」


ケースの中で、手首がホログラムで文字を出す。

《合流予定:生存前提》

「だから縁起でもない!」

結依が言う。


やがて、エンジン音が高まり―― 軍艦は、ヴェルデ自治共和国へ向けて発進した。


残された地表にはルミナール号1隻のみ、静けさが戻る。


フェザーが、ふっと息を吐く。 

「分かれたわね」


「役割が違うだけ」

ダイヤが言った。


ルビィは、遠ざかる艦影を見つめながら、心の中で呟く。

(次に会う時は――世界が動いてる)


ケースの中の手首が、最後に文字を出した。

《忙しくなりそう》


カイトが苦笑した。



☆いざジュラシックアースへ



ルナストン市の一角、簡易的に整えられた会議室には、今回のミッションに参加する顔ぶれが集まっていた。


重たい扉が閉まると、空気が少しだけ張りつめる。


もっとも、その張りつめた空気を最初に壊したのは、部屋の中央に置かれた透明ケースだった…。


中には――左手首だけ。


「……え?」 ルナストンの化学者が、思わず声を漏らす。


隣に立つSWATの1人は、言葉も出ないまま一歩下がった。

「う、動いた?」 手首が、ひょい、と軽く指を振った。


「うわっ!?」

「いや無理無理無理無理!」 SWATの3人は一斉に距離を取る。


惑星から来たアーク帝国軍の軍人2名も、反射的に姿勢を正した。 「生体兵器か?」「いや、違う。あれは――」


そこへ、慣れた様子で声が入る。

「アストラですよ」ルビィは平然と言った。


隣の結依も、ケースの前で軽く手を振る。

「アストラ、手首だけでも元気だね」


手首は親指を立てた。


それを見た軍人が言った。

「え、会話?」


「いや、してないよ。ジェスチャー」

結依が補足すると、周囲はさらに混乱する。


その様子を見て、ゼファー大統領が小さく咳払いをした。


「では、始めよう」 空気が少しだけ引き締まる。

「今回のミッションは、ルミナール号による惑星調査と先行準備だ。

アーク帝国およびルナストン市から選抜された諸君は、この作戦限りのクルーになる」


続いてダイヤが前に出る。

「私から1つお願いがあります」


いつもの軽い口調で手を叩いた。

「私たちの都合で、その星の半分をもらう。先住民の恐竜さんには迷惑な話です」


「だから恐竜さんは殺さない。怪我はごめん、ちょっと我慢してもらうけど」


「もちろん、君たちも必ず生きて帰って。恐竜さんも、私たちも、命はみんな1つなんだから」

「命を大事にしない作戦、私は認めません、以上」

「ま、あとの細かいことはルビィ船長に任せるとして」


そしてルビィが一歩前に出る。

「行き先は、新たに移住候補として浮上した惑星。環境調査、危険生物の確認、居住可能エリアの選定と拡大が主な任務です」


真面目な説明の最中、手首がケースの中でコツコツと内壁を叩いた。

「……今のは?」

「退屈、って言ってる」

結依が即答する。


説明が終わると、ダイヤが満足そうにうなずいた。

「というわけで、みんな。行き先は――」



一拍置いて、ニコッと笑う。


「ジュラシックアースに、いってらっしゃーい」


「……え?」 「ジュラ……何ですか?」 ざわつく室内。


「だってさ」 ダイヤはニコッとしながら、

「危険生物いっぱいだし、巨大だし。ぴったりじゃん?」


ルビィは一瞬考えてから、ため息混じりに笑った。

「公式名称じゃないけど、まあ、通称としてはわかりやすいかも」


「じゃあ決まりね!」ダイヤは満足そうだ。


その後、誰もが半ば諦めたように、その惑星を「ジュラシックアース」と呼び始めていた。


一段落したところで、フェザーとダイヤがアストラの手首ケースの前に立っていた。


フェザー

「ねえ、前から気になってたんだけどさ」ダイヤを見る。

「たまに名前が出てくる、オリオンって何者?」


ダイヤはあっさり答えた。

「レオの息子」


「……息子?」

フェザーは瞬きを繰り返す。

「レオって、見た感じ20代後半くらいでしょ?」

「天才が天才少年を産んだ系?」


「レオは31歳かな」ダイヤは指折り数えてから言った。

「で、息子は60歳って言ってたよ」


一瞬の沈黙。


「……」

フェザーは口元を押さえた。

「やっぱり変わった種族ね」

笑いを含んだ声だった。


「ま〜ね〜」

ダイヤも軽く返す。


そのやり取りを、手首が満足そうにパチンと指を鳴らした。


その頃、少し離れた場所でカイトが頭を抱えていた。

「なぜ私が……」「どうして毎回……」

困った顔のまま、ゼファーに視線を向けるが、ゼファーは知らん顔だ。

「今回は君も同行だ」「命令だからね」


カイトは深いため息をついた。

やがて全員が地表に停泊しているルミナール号へ移動する。


搭乗口の前で、ゼファー、ダイヤ、フェザーが並び、見送る側に立った。

「気をつけてな」

ゼファーが静かに言う。


「無茶しすぎないようにね」

ダイヤが手を振る。


フェザーは手首に向かって言った。

「ちゃんとみんなを守るのよ」

手首は、敬礼のように指を揃えた。


ルビィ、結依、カイト、そして新たなクルーたちが乗り込む。

ハッチが閉まり、ルミナールが低い音を立てて浮上する。


ダイヤは大きく手を振り笑顔で言う。

「行ってらっしゃ〜い」


ルビィも笑顔で返す。

「おばあちゃん、ジュラシックアースで待ってるよ〜!」


軽い冗談とともに、船は空へと上がっていった。


いつものように、少し騒がしく、少し不安で、だいぶ奇妙な調査の旅が始まった。


――こうして2つの船は別々の未来へ向かった。だが、その先にある目的は同じだった。



☆レオ達のミッション


◆ヴェルデ自治共和国の中枢施設。


白を基調とした広いホールに、レオ、サイモン、アストラが足を踏み入れると、すでに1人の男が待っていた。


「久しぶりですね、レオ殿、アストラ殿」

ヴェルデ自治共和国大統領は、柔らかい笑みを浮かべて歩み寄る。


「変わってないですね」

レオは軽く片手を挙げながら言う。


「相変わらず、仕事が顔に出ない方ですね」

ヴェルデ大統領


レオは微笑みながら言う。

「それは褒め言葉と受け取っておきます」


短い握手。


形式ばらないが、互いの立場を理解した者同士の挨拶だった。


「君たちが来ると聞いてね」

ヴェルデ大統領は言う。

「各国から、今出せる最高の技術者と科学者を集めた。準備は整っている」


「それは助かります」

レオはアストラとサイモンに視線を送った。


「では、早速」

一行は別室へと移動する。

ミーティングルームには、所狭しと人が集まっていた。


各国から招集された科学者、技術者、理論屋、現場屋――分野も立場も違うが、全員が“ワープゲート”という言葉に引き寄せられている。


説明は淡々と進んだ。

現在想定されているゲート理論 ・エネルギー供給の問題 ・安全係数 ・失敗例と、その回避策議論は活発で、質問も鋭い。


1時間ほどが過ぎた頃、レオは内心で評価を下していた。

(思ってたより、使える)

少なくとも、基礎理解は高い。

応用力もある。指示を出せば、形にはなる。

ミーティングが終わり、人がはけていく。


廊下に出たところで、チーム分けの話になった。

「我々は3つに分かれた」

レオが言う。

「そしてうちのチームは、俺とサイモン、それから…78だ」


サイモンが眉をひそめる。

「なぜ、アストラを俺たちに?」


それを待っていたかのように、レオは小さく笑った。

「ダイヤの伝言だ」

サイモンを見る。

「『いい?よく聞いてね〜』って前置き付きだった」


嫌な予感しかしない


レオは気にせず続ける。

「俺たち3人は、ルミナールクルーより――」


一拍置く。


「50年、遅れてる」


サイモンは黙ったまま聞いている。

「技術も、医療も、政治も、歴史も」

「その50年分のデータを、全部78が持ってる」


アストラが、首を傾けた。


「ゲートを作りながら、空いた時間で勉強しなさい、だとさ」

「『追いつけとは言わないけど、せめて同じ地平には立ちなさい』」

「『じゃないと、話にならないでしょ?』って」

ダイヤの声が、そのまま聞こえてくるようだった。


サイモンは小さく息を吐いた。

「つまり、教育係か」  


「そう」

レオは即答する。

「しかも、50年分まとめて」


アストラは静かに言った。

『必要であれば、優先順位を整理します』


サイモンは苦笑する。

「逃げ場はないな」


「最初からない」

レオは前を向いた。

「だから俺たちは、このチームだ」

そして、3人は歩き出す。


――ヴェルデ自治共和国の大きな研究所では、ワープゲート計画という、厄介で、しかし避けられない仕事が待っていた。





次回、新キャラ出します。続きのアップは、

今週末13日か14日の夜の予定です。

よろしくお願いします。

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