☆適正試験
――プロローグから、五〇年後。
時はL.C.(ロスト・センチュリー)四七七年。
星間探索士官学校――それは、宇宙軍よりも、国家研究機関よりも厳しい“異銀河探索専門”の超エリート育成機関である。
未知の惑星、未知の生命体、未知の文明。
最初にそれらと接触するのは軍ではなく、探索士官たちだ。
ゆえに求められるのは、常人を遥かに超えた知性と、極限環境で生き残るための戦闘能力。
この時代、人類は優れた遺伝子を選び残す文化を持ち、士官学校の候補生はその中でもさらに選び抜かれた者たち。
卒業できるのはわずか数%。
彼らは“宇宙に送り出しても死なない人材”として国家に扱われる。
◆星間探索士官学校・第一訓練場
巨大なホログラムスクリーンに、数値が流れ続けていた。
速度、判断精度、空間認識、耐圧ストレス――あらゆる項目がリアルタイムで更新される。
そこは、未来の宇宙飛行士たちがふるいにかけられる場所だった。
訓練場の壁には、五〇年前の“ルミナス号三名”の肖像が飾られている。
「……すご」
誰かが呟いた。
視線の先、スクリーンの上位に並ぶ名前。
一位――清水結依
二位――ルビィ・デービス
そして、そのスコア。
他を大きく引き離していた。
「この二人、別格すぎるだろ……」
「てか、またあの二人かよ」
ざわめきが広がる中、当の本人たちは冷静だった。
訓練用ポッドのハッチが開く。
先に出てきたのは結依(二〇)だった。額の汗を拭いながら、軽く息を整える。
「ふぅ……今回ちょっとミスったかも。……まぁ、一位だけどね!」
その直後、隣のポッドが開く。
ルビィ(一九)は訓練用ポッドから出る前、癖のように自分の訓練ログを確認した。
連続記録は一〇〇〇日を超えている。
ルビィが静かに外へ出た。
「ミスって、それで一位?」
少しだけ悔しそうに言う。
結依は肩を揺らして笑う。
「そっちこそ。あと少しで抜けたでしょ?」
ルビィは答えず、スクリーンを見上げる。
二位。
ほんのわずかな差。
それでも、ルビィには“負け”だった。胸の奥が、じわりと熱くなる。
二人は、何百回もこうして競い合ってきた。
そのとき、教官の声が響いた。
「次は複合シミュレーションだ。ペアで行う」
ざわめきが広がる。
内容は、宇宙船のトラブル対応。
制限時間内に、複数の異常を同時に処理しなければならない。
「ペアは――清水結依、ルビィ・デービス」
周囲がどよめく。
「最強コンビじゃねえか……」
「他のペア、かわいそうだろ……」
ルビィと結依は顔を見合わせる。
「……手、抜かないよ?」
結依が笑う。
ルビィは小さく頷いた。
「当然」
シミュレーション開始。
警告音が鳴り響く。
酸素漏れ、電力低下、通信障害。
同時に三つのトラブルが発生する。
「私、電力回す!」
「じゃあ通信は任せて!」
ほぼ同時に動く。
指示も確認も、最小限。
なのに――噛み合う。
「残り四〇秒!」
教官の声。
通常なら不可能な状況。
だが――
「終わり」
ルビィがスイッチを叩く。
すべての警告が消えた。
静寂。
そして――
「……今シーズン最高記録だ」
教官が呟いた。
周囲が一斉にざわつく。
「またかよ……」
「化け物だろ……」
ルビィは何も言わず、ただスクリーンを見つめていた。
その中に表示される――過去最高記録。
その名前。
ダイヤ・デズモンド&レオ・ミラノ
(……まだ、届かない)
それでも、いつか必ず追いつくと決めていた。
ルビィは拳を、強く握りしめた。




