☆八つの国家、揺らぐ覚悟
一度完結しましたが、ブラッシュアップしての1話目、【第零章】から再投稿です。内容もボリュームアップする予定。1話ずつ、ゆっくり投稿していきます。
完結してる作品なので、完結は必ずします。
「」人のセリフ
()心の声
『』通信などの機械音、ほかの人が言った言葉をそのまま入れるとき。
※私の小説のルールです。
◆惑星アークス
ルミナールの船は、静かな減速音とともに軌道を外れ、惑星アークスへ降下していった。船体はわずかに震え、窓の外には大気圏の光が流れていく。
船内には、七カ国との会合に向かう顔ぶれが揃っている。
中央席に座るルナストン大統領ゼファーは、背筋を伸ばしたまま微動だにしない。穏やかな表情を保ちながらも、その視線は鋭く前方を見据えていた。その後方には補佐官が二名、静かに控えている。
操縦席にはルビィ。両手で操縦桿を握り、集中した眼差しで降下操作を続けている。
そのすぐ後ろにはアストラが立ち、淡々とデータを処理していた。
レオと結依は窓際に立ち、眼下に広がる惑星を見つめている。
レオはスクリーンに映る光景を見ながら、わずかに息を吐き、低く呟いた。
「あれが、ノヴァ連邦か」
その視線の先――大気圏を抜けた先に広がっていたのは、幾何学的に配置された都市群だった。
無駄な装飾は一切なく、すべてが合理的に整えられている。秩序と効率を極限まで追求した国家。
アストラはわずかに視線を動かし、淡々と分析する。
『無機質ですが、嫌な感じはしないです』
レオは腕を組み直しながら、静かに呟いた。
「生き残るために、感情を切り捨てた国って感じだな」
結依は窓越しに都市を見つめ、短く言葉を落とす。
「……生きる人を選別する国、か」
その声には、微かな重さが滲んでいた。
ルビィは操縦桿から目を離さず、低く言う。
「油断しないで。ここは敵じゃないけど、味方でもない」
短い言葉だが、その中には船長としての判断が込められている。
船は指定された着陸区画に滑り込むように降りた。わずかな衝撃とともに、機体が静止する。
会合が行われる建物は、行政区の中心にあった。高さは抑えられているが、厚みのある構造で要塞のようにも見える。
内部へ案内され、長い通路を抜けた先――
円形の会合室には、すでに各国の代表が揃っていた。
最初に目に入ったのは、五つの小国の大統領たちだ。
【リベルタ共和国大統領 】
中年の女性。市民国家らしく、服装は簡素。軍事力は弱いが、民意を重んじる国。
【カイロス王国大統領 】
若い男性。視線が鋭く、落ち着きがない。異銀河研究に傾倒する、時間と予言の国。
【ヴェルデ自治共和国大統領】
穏やかな初老の男性。科学力は高いが、自然循環を重んじる。地下都市との共存を掲げる国。
【オルビス連合国大統領 】
中性的な雰囲気の人物。複数都市国家の代表として、常に周囲を観察している。
【セレス神聖国大統領 】
厳格な表情の男性。信仰と政治が強く結びついた国。
それぞれが異なる思想と背景を背負いながら、この場に座っている。
それぞれの背後には、ボディガードが二名ずつ。だが、全員一歩引いた位置に立ち、視線すら動かさない。
やがて、円卓の一角にルナストン大統領ゼファーが静かに腰を下ろした。
表情は変わらない。ただ、その存在だけで、空気がわずかに張り詰める。
ルビィたちも指示された席に着く。
レオは周囲を見回し、わずかに眉をひそめながら小声で言う。
「……全員、癖が強そうだな」
その言葉に、アストラが即座に返す。
『国家が小さいほど、必死です』
結依は一瞬だけゼファーの背中を見つめ、そのまま静かに視線を落とした。
少し遅れて、扉が開く。
入ってきたのは、アーク帝国大統領。高身長の男で、軍服に近い正装を纏っている。
無言のまま席に着くと、会合室の空気が目に見えて冷えた。
さらに数拍遅れて、最後に姿を現したのがノヴァ連邦大統領だった。
落ち着いた中年の女性。無駄のない動作で中央席へ向かい、静かに着席する。
全員が揃ったのを確認し、彼女はゆっくりと口を開いた。
「本日は、お集まりいただきありがとうございます」
その一言で、世界の行方を左右する会合が、静かに始まった。
円卓を囲む八人の大統領、すべて埋まった。
重厚な会合室に、微かな緊張が漂う。
互いに探る視線。
誰も、まだ口を開こうとはしない。
その沈黙を破ったのは、ゼファー大統領だった。
彼は静かに立ち上がり、卓上端末を操作する。
壁面に、太陽の観測データが映し出された。
低く抑えた声で、はっきりと告げる。
「本日の会合は、通常の外交協議ではない」
それだけで、場の空気が一気に引き締まる。
「我々の太陽に、致命的な異変が起きている」
映像が切り替わる。
不安定なエネルギー分布、急激な核反応の乱れ。
ゼファーは一切の迷いなく言葉を続ける。
「寿命が近い、という表現では正確ではない」
一拍。
「予測不能な段階に入った。このまま進めば…急激な崩壊、あるいは消失。最悪の場合、爆発も否定できない」
小国側に、ざわりと空気が動いた。
誰かが息を呑み、誰かが目を見開く。
ゼファーはその反応を気に留めることなく続ける。
「影響は、すでに始まっている」
次に映し出されたのは、惑星アークスのデータ。
地殻活動の増加。磁場の歪み。地下深層の異常熱。
「地表国家だけではない。地下都市ルナストンも、例外ではない」
一瞬、間を置く。
そして、断言する。
「この惑星に、長期的な生存可能性はない」
その言葉が、重く沈んだ。
アーク帝国大統領が腕を組み、低く口を開く。
「随分と急な終末論だな」
皮肉を含んだ声。
「科学的根拠はあるのか?それとも、地下都市特有の誇張か?」
ゼファーは一切表情を変えずに答える。
「根拠は、複数ある」
わずかに間を置き、続ける。
「だが、本日の議題は“危機の証明”ではない」
その視線が、会合室の一角へ向けられる。
「そこには、異銀河からの訪問者、ルミナール号の乗員たちが座っています」
視線が一斉にルビィたちへ向く。
誰一人、口を開かない。ただ静かに状況を見つめていた。
ゼファーは続ける。
「彼らは、高度な科学力を持つ異銀河文明だ」
「我々に対し、別惑星への移住計画を提示している」
その瞬間、会合室に明確な動揺が走った。
「移住……?」
「国家単位で、か?」
小国側がざわめく。
ノヴァ連邦大統領は表情一つ変えず、冷静に問いかける。
「確認させて」
鋭い視線をゼファーに向ける。
「彼らは、我々を“救う”と?」
言葉にわずかな含みがある。
ゼファーは静かに頷いた。
「正確には、移住を“引き受ける”と申し出た」
一拍。
「ただし、一つ条件がある」
空気が、わずかに張り詰める。
「惑星アークス各国の、科学技術・研究データ・軍事転用可能技術を含む、科学力の全面開示」
小さく、ざわめきが広がる。
アーク帝国大統領が即座に反応する。
「…我々の切り札を差し出せと?」
ノヴァ連邦大統領の視線も鋭くなる。
ゼファーはゆっくりと首を振る。
「支配や管理のためではない」
「移住計画は、一つの誤算があれば崩壊する」
「各国の技術水準を把握せずに、安全な移住計画も、移住後の文明維持も不可能だと、彼らは言っている」
アーク帝国大統領は鼻で笑う。
「随分と親切な異星人だ」
「見返りなしに、そこまでやる理由があるとは思えん」
ゼファーは間髪入れずに答える。
「彼らの目的は、航行と観測だ」
「我々の文明干渉は最小限」
「ただし、失敗させないための情報は、すべて必要だと」
ノヴァ連邦大統領は顎に手を当て、思案するように目を細める。
「信じるかどうかは別として」
「我々は今、“この星を捨てるかどうか”だけでなく」
「“どこまで自国を開示する覚悟があるか”も、問われているわけね」
ゼファーは静かに肯定する。
「本日の会合の目的は三つ」
指を立てる。
「1、太陽崩壊までの猶予」
「2、移動手段の現実性」
「3、移住先の安全性」
そして、わずかに間を置き、最後に言い切る。
「それらを成立させるための、我々自身の覚悟だ」
会合室に、重い沈黙が落ちた
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