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【第三章】 七カ国会合 ②

お気に入りのフェザー登場。ますますルビィが陰に隠れてしまうかも…。なんとかしないと。

フェザー主役のスピンオフ作品作りたい。まぁ、完結させてからだね。


2026年3月20日に完結します。

おそらく、個人的な理由で、この小説の公開は2026年4月1日から一時的に非公開にします。



☆最狂の化学者のもとへ


◆地下都市・行政区 上層通路


重厚な隔壁が静かに閉じる音。大統領執務区の奥。


大統領ゼファーは、ゆっくりと息を吐く。

ゼファー「正直に言いましょう」 視線が、6人を順に見渡す。



ゼファー

「このルナストンで、“空間と物質の境界”を扱える化学者は、1人しかいません」


その言葉に、ダイヤの目が輝く。 「いた!」


レオ「やはり」


ゼファー

「彼女は、政府直属ではありますが……扱いにくい人物です」

少し間を置いて、低い声で付け加える。


ゼファー

「しかし、天才です。そして、狂人とも呼ばれています」


ダイヤ「最高じゃん!」


そして30分後…


◆移動用リフト前


すでに待っていたのは、カイトだった。


もはや“案内役”というより、6人の影のように常にそばにいる。


「……また私です」

疲れた笑いのカイト。


結依「専属ですね」


「ええ、どうやら」

リフトの扉が開く。

「その化学者は―― 地下都市の最深層にいます」


ルビィ「最深層……?」


「ええ。都市を支えるエネルギー炉の、さらに下です」


ダイヤが小さく笑った。

「いいね。“ヤバいやつ”は、だいたいそういう場所にいる」


リフトは、音もなく下降を始めた。


◆地下化学研究区画


巨大な扉が音もなく開く。

中は、白でも黒でもない、淡い金属光沢の空間。


配管がむき出しで、ところどころに明らかに爆発の痕跡。


カイト「ここが、地下都市化学区画・最深部です」

そこには女性が背を向けて立っていた。

「こちらが、フェザー博士です」


振り返った女性は、薄いピンクの半透明の肌に、白い長髪。

黒く染まった白目に、赤い瞳が浮かび、アラビアン調の露出の多い衣装が、その異質さを際立たせていた。


フェザーはニコリと笑って

「はーい。 ……なに? 」

「あら、久しぶりね、カイト」

カイトは視線を逸らした。


「で、今回は観光? それとも実験台?」


一瞬……反応が遅れた。


ダイヤは目を輝かせた。

「わぁ……綺麗。 ねえねえ、あなたがフェザーさん?」


フェザーは即答した。

「そ。で、あんたたちが“宇宙から落ちてきたガキども”ね」


結依ピキッ

「……ガキ?」


フェザー「見た目も脳みそも若そうだもの。あ、安心して。私、年下でも遠慮なく爆発させるから、皆平等よ」


サイモン 「安心要素どこ!?」


ダイヤは笑う。 完全に悪意を感じていない。

「いいね、その感じ。ねえフェザーさん、ワープゲート作りたいんだけど」


一瞬、全員が固まる。


フェザー 「……は?」


カイトは慌てた口調で言った。

「だ、だから急ぎで——」


フェザー 「待って待って。 “作りたい”って、パン焼くみたいに言う話じゃないのよ?」


ダイヤ、首を傾げる。

「うん? でも、作るよ? 21億人分」


フェザー

「………」


次の瞬間。


フェザー

「っはははは!! 何それ最高!! 久しぶりに会ったわ、正気じゃない人!」


ルビィは小声で言った。

「……この人、大丈夫?」


アストラは静かに答えた。

『……危険ですが、理論思考は極めて合理的です』


フェザーがアストラを見る。

「へえ。アンドロイド? しかも目が……いいわね、それ」


一瞬、アストラの思考がノイズる。(この感覚……)


ダイヤ

「ねえ、フェザーさん」

「危険なのは知ってる。でも、できるでしょ?」


フェザー

「できるか、じゃない。 “生き残る確率”の話でしょ?」


ダイヤ「うん。それでいいよ」


フェザー、赤い瞳を細める。

「……あんた、何者?」


ダイヤは無邪気に答えた。

「ただの科学バカ。昔から“無理”って言われると、燃えるタイプ」


フェザー、ゆっくり笑う。

「最悪ね。私と同じ匂いがする」


サイモン

「ちょっと!うちの船長を、“同類”認定しないで!」


フェザー

「あなたたち、 “壊れない方法”ばっか探してるでしょ」


一拍。


「化学はね、壊れながら“続ける方法”を扱うの」


その時。 レオは壁にもたれながら声を出した。

「…理論式、見せて」 全員、一斉に振り向く。


フェザー

「…寝てたんじゃないの?」


レオ

「5分だけ。 で、その間に考えた。ワープゲートは固定座標型だろ」


フェザー、目を見開く。

「……へえ」


ダイヤ「起きた起きた。この人も科学オタクだから」


サイモン「“オタク”で済ませていい存在じゃない」


フェザーは一歩近づき、全員を見回す。

「面白いチームね。正直、成功率は低い。死者も出る」


一拍置いて、笑顔。


「でも—— “世界ごと引っ越す”なんて話、断る化学者はいないわ」


ダイヤはニコッと笑った。

「じゃあ、一緒にやろ?」


「ええ。その代わり——」

フェザーの赤い瞳が光る。

「途中で怖くなっても、私を止めないで」


アストラが一歩前に出る。

『必要であれば、私が止めます』


フェザー、フッと微笑む。

「いいわ」


アストラ、わずかに視線を逸らす。(その目、この感覚……懐かしい)


カイト小声で言った。

「大統領の人選、間違ってないよな?」

サイモン「多分、もう手遅れ」


ダイヤが手を叩く。

「よーし! じゃあ、地獄みたいな共同研究、始めよっか!」


フェザーが笑う。

「最高。今日は何を爆発させるかな?」


——こうして、 史上最大のワープ計画は、最も危険な化学者と共に動き出した。


ダイヤが、研究施設の提供をゼファー大統領に依頼し、要請は即座に正式決定として通った。


ルナストン市の中でも最大級の研究施設が、合同研究用として提供された。


天井は高く、都市中枢のエネルギーラインに直結。

本来は国家級プロジェクト専用の施設。

「今は国家どころの話ではない」という大統領の判断だった。


同時に連絡が入る。惑星側7カ国との会合は5日後。

場所は惑星アークス。

向こうの文明と政治体制を直接見たい、という意図も含まれていた。


会合の参加者は以下に決定された。

ルビィ(ルミナール号船長)

結依

アストラ

レオ

大統領ゼファー

大統領補佐官2名


ダイヤの名前は、そこになかった……ダイヤが残る理由は明確だった。


理由は1つ。


ワープ理論を“机上”ではなく、“壊しながら”詰める必要がある。


地下都市の研究施設には、フェザーが持ち込んだ危険極まりない化学設備と、ダイヤの頭の中にしか存在しない理論を形にするための空間があった。


サイモンも研究側の同行を申し出る。

理由は――なんか面白そうだから。


こうしてダイヤは、サイモンとフェザーと共に、 ミニチュアによる模擬ワープ実験を開始する。


研究施設での準備中に…


ダイヤはふと思い出したように。

「ルビィ、いくつ?」

「19歳」と答えた。


瞬間…ダイヤは少し目を丸くしてから、クスっと笑った。

「へえ。私17歳なんだけど。おばあちゃんなのに、年下だね」

冗談とも本気ともつかないその言い方に、ルビィは一瞬、言葉を失う。


その場を取り繕うように ダイヤはすぐに続けた。

「ルミナール号の船長なんだから、ちゃんと会合任務、まっとうしてね」

その言葉に、 ルビィは胸の奥がザワつくのを感じながらも、うなずいた。


大統領も同様だった。

ダイヤほどの存在が会合に出ないことに戸惑いを隠せなかったが、 最終的にはルビィの肩書と役割を尊重する判断を下す。


そして、ルビィたちは会合の準備に入った。



☆フェザーとの初実験


初日…


会合までの5日間。

研究施設では、ほぼ休みなく実験が続いた。

そして、当然のように初日は事故で始まった。


フェザー

「これ、たぶん不安定かも」

と言った数秒後、ミニチュアゲートの試作機は、小さく光ったかと思うと——爆発。


衝撃波で壁が歪み、実験台が吹き飛び、サイモンは天井に叩きつけられ、アストラの腕は反対側の壁、脚は実験槽の中、胴体は床に転がる。


フェザーは煙の中から姿を現し、 無傷で、満面の笑み。

「ほら見て。やっぱり不安定だったでしょ?」

サイモンは瓦礫の中から這い出し。

「なら、やるなよ!!」と叫び、 アストラは冷静に自分の腕を拾い集めていた。

フェザー

「失敗じゃないわ。反応が起きた。それだけで前進よ」


ダイヤはというと、爆心地の真横で目を輝かせていた。

「うん。今の爆発、すごくヒント多い」

フェザーはそこで確信する。

この少女は、自分と同類だと。


会合が近づく中で、実験は止まらなかった。ミニチュアゲートは何度も壊れ、何度も作り直された。


アストラは何度か分解され、サイモンは何度か壁に埋まった。

それでも、理論は少しずつ形になっていく。


2日目…


フェザーはダイヤにふと尋ねた。 「向こうの会合、ルビィって子がリーダーなんでしょ?」


賢さも理解力も十分。

それはフェザーにも分かっていた。

「でも、あの子で大丈夫?」


ダイヤは即答した。

「大丈夫。私の孫だし」


フェザーは一瞬、思考が止まる。 「……孫?」 念のため確認する。 ダイヤの年齢とルビィの年齢。


数秒後、フェザーは不思議そうな顔をし笑った。

「祖母が歳下って…… 変わった種族ね」


ダイヤは笑いながら答えた。

「ま〜ね〜」


その笑顔は、この無茶な計画を本気で成功させるつもりの顔だった。



3日目…


仮設の机、浮かぶホログラム、転がる工具。ダイヤは床に座り込んで、ミニチュアの惑星モデルをくるくる回している。


フェザーは腕を組み、赤い瞳でそれを見下ろしていた。

「ねぇ、ちょっといい?」ニヤッと笑った。

「21億人、引っ越すって言ってたけどさ…… “どこに”行くの?」


一瞬、空気が止まる。


レオ「……あ」

結依「……そういえば」

サイモン「聞いてねぇな、それ」

ルビィ「え、目的地……聞いてません……」


全員の視線が、ゆっくりダイヤに集まる。

ダイヤはきょとんとして、瞬きを1つ。

「え? 言ってなかったっけ?」


一同 「「「言ってない」」」


フェザーが吹き出す。

「あははは! さすが救世主候補、説明省略が大胆すぎるわ」


ダイヤは悪びれもせず、立ち上がる。

「じゃ、今から話すね」


そして、ホログラムが展開する。 そこに映し出されたのは――巨大な惑星。


ダイヤは移住先候補惑星の話を始める

「この惑星、実はルミナス号が最初に行った探索惑星なんだ」


ルビィ「最初、ですか?」


ダイヤはニヤッと笑う。

「うん。着いた瞬間、思ったよ」

「――あ、ここ、地球の“ジュラ紀”だって」


ホログラムに映るのは、巨大な恐竜の影。

結依 「……恐竜?」


サイモン「あの惑星か。恐竜……大量にいたな」


レオ「しかも、総じて気性が荒い」


ダイヤが指を3本立てる。


ダイヤ「ちなみに私は3回、食べられかけた」


フェザー 「……は?」


サイモン 「マジで飲み込まれる寸前だった」


レオ「毎回、引きずり戻した」


結依「……それ普通に死にかけてるよね?」


フェザーが腹を抱えて笑う

「最高ね、あんた!」


ダイヤはホログラムを拡大する。 「惑星サイズは惑星アークスの約1.5倍。海が6割。季節はほぼ無いけど、天候はある」


ルビィ「気温は?」

ダイヤ 「だいたい30℃前後。  ずーっと夏」


結依 「夜は?」


ダイヤ、満面の笑み。

「無い」


フェザー「……無い?」


ダイヤ

「小さい太陽みたいなのが、3つあるんだよね」

3連星がホログラムに映る。


レオ「常に昼だ」


結依「それ、睡眠どうするの?」


サイモン「俺は余裕だったな」


ルビィ「私は、遮光必須ですね」


フェザーはフッと真顔になり、核心ツッコミを入れる。

「で? その惑星に――」


一拍。


「“人類”は、住めるの?」


ダイヤは即答する。

「住める」


レオ「大気組成、重力、放射線、全部問題なし」


結依「問題は……」


サイモン「恐竜だな」


ダイヤ「うん。超いるっ」


フェザー「つまり?」


ダイヤ 「人が住む前に、生態系を“調整”する必要がある」


一瞬、沈黙。


ルビィ「それって」

フェザー「えげつないわね」

ダイヤ「でしょ?」

でも、ダイヤは楽しそうだ。


ダイヤ「惑星は少し遠いから、ワープゲートが必要だし、一気にじゃなく、段階的に移住させる」


レオ「都市ごと、生活圏ごと運ぶ前提だな」


結依「21億人分」

サイモン「気が遠くなるな」


フェザーはダイヤをじっと見てから、ニヤリ。

「恐竜惑星に人類移住。太陽が3つで夜無し」

「正気じゃない」


間。


フェザー

「最高じゃない」


ダイヤ、満足げに笑う。

「でしょ?」


レオ

「やっと本題に入れそうだな」


アストラ『ワープゲート理論の修正案を提示します』


サイモン「よし、俺は後で聞く」


ルビィは少し圧倒されながらも。「でも」 前を見る。

「行き先が“ある”のは、希望ですね」


ダイヤは一瞬、真剣な目になる。

「うん。だから助ける」

そして、いつもの調子に戻る。

「さぁ、フェザー。恐竜より危険な実験、始めよっか」


「望むところよ!」


――研究室に、笑いと不穏な未来が同時に満ちていった。



4日目…


アストラが、小さいリング状の装置をいくつも持って研究室に入ってきた。


アストラ『7カ国との会合に向けて、新しい翻訳デバイスを3つ構築しました』

アストラの手が動くと、リングがふわりと宙を舞う。


アストラ『首にかけるタイプです。同時自動翻訳、遅延はほぼゼロ』


ルビィが目を輝かせる。

「ほぼ、って?」

『思考の切り替え速度と同等です。会話のストレスは発生しません』


結依

「……つまり、向こうが話し終わる前に理解できるってこと?」


『はい』


フェザーが口笛を吹く。

「はぁ…… 相変わらず気軽に狂ったこと言うわね」


アストラは気にせず続ける。

『このデバイスは、私と常時リンクしています。なので私が習得した言語は、即座に反映されます』


ルビィ

「アストラが言語解析すれば、みんな使えるってことだね」


レオ「便利すぎだろ」


結依はリングを3つ受け取り、 結依が1つをルビィに差し出す。


結依「ルビィ、これ首にかけて」 ルビィ「うん」


結依 「うわぁ凄い、相手の言葉を“音”じゃなくて、意味のまま受け取る感じになるみたい」


ルビィが装着すると、少し驚いた顔をする。


フェザーとダイヤのルナス語の会話が自分たちの言語で聞こえてきた。


ルビィ「…なんだか、もう理解できる前提で聞いてる感じ」


結依「でしょ。思考が先に来る」


ルビィ「…会合、少し怖くなってきたよ」


結依は小さく笑う。


結依が、最後の1つをレオに差し出す。

結依「はい、レオさんも」


レオは一瞬、視線を逸らす。

レオ 「……いや、いい」


全員が一斉に見る。


レオ「日常会話程度なら、もう直接理解できる」

ダイヤがニヤッとする。

「さすが」


サイモン「天才発言出たな」


一拍。


レオは、軽く息を吐く。

「……ただ」


間を置いて。


「大事な会合だ。誤解が1つでも出るのはまずい」

結依の手から、リングを取る。

「つけとく」


ダイヤが楽しそうに笑う。

「素直でよろしい」

レオ「合理的なだけだ」


その様子をフェザーは腕を組んで眺めて言った。

「ねぇ」


全員が見る。


「このアンドロイド、“作られた思考”のくせに、仕事の切り出し方が完全に自律型」


アストラが首を傾げる。

『問題がありますか?』


フェザーは笑う。

「問題? 最高よ」


そしてフェザーはレオを見る。

「で、あんたは… 自分の能力を過信しつつ、ちゃんと安全策も取る」

「嫌いじゃないわ」


レオは一瞬だけ、目を細める。

「光栄だな」


サイモン「珍しくレオが素直だな」


ダイヤ「レオくん素直記念日だね」


フェザーはニヤリと笑う


アストラは最後に言った。

『これで、言葉の壁は存在しません』


ルビィ

「うん。あとは人類を、どうやって無事に移住させるかだね」


――静かに、危険な歯車は噛み合い始めていた。

こうして、会合へ向かう者と、研究室で未来を壊し続ける者に分かれ、 運命の会合の日が明日と迫っていた。


☆会合


◆惑星アークス


ルミナールの船は、静かな減速音とともに軌道を外れ、惑星アークスへ降下していった。

船内には、7カ国との会合に向かう顔ぶれが揃っている。


中央席に座るのは、ルナストン大統領ゼファー。表情は穏やかだが、視線は常に前方を見据えている。その後方に、大統領補佐官が2名。


操縦席には船長ルビィ。

その後ろにはアストラ。

レオと結依は窓際に立っている。


「あれが、ノヴァ連邦か」

前方スクリーンに映る惑星を見て、レオが小さく息を吐く。


大気圏を抜けた先に広がっていたのは、幾何学的に配置された都市群だった。

無駄な装飾はないが、すべてが整っている。秩序と効率の国だった。


『無機質だけど、嫌な感じはしないです』アストラが淡々と分析する。

「生き残るために、感情を切り捨てた国って感じだな」レオが静かに呟いた。


結依は窓越しに都市を見つめながら、短く言った。

「……生きる人を選別する国、か」


ルビィは操縦桿から目を離さず、低く呟く。

「油断しないで。ここは敵じゃないけど、味方でもない」


船は指定された着陸区画に滑り込むように降りた。

会合が行われる建物は、行政区の中心にあった。高さは抑えられているが、厚みのある構造で要塞のようにも見える。


内部へ案内され、長い通路を抜けた先――

円形の会合室には、すでに各国の代表が揃っていた。


最初に目に入ったのは、5つの小国の大統領たちだ。


【リベルタ共和国大統領 】

中年の女性。市民国家らしく、服装は簡素。軍事力は弱いが、民意を重んじる国。


【カイロス王国大統領 】

若い男性。視線が鋭く、落ち着きがない。異銀河研究に傾倒する、時間と予言の国。


【ヴェルデ自治共和国大統領】

穏やかな初老の男性。科学力は高いが、自然循環を重んじる。地下都市との共存を掲げる国。


【オルビス連合国大統領 】

中性的な雰囲気の人物。複数都市国家の代表として、常に周囲を観察している。


【セレス神聖国大統領 】

厳格な表情の男性。信仰と政治が強く結びついた国。


それぞれの背後には、ボディガードが2名ずつ。だが、全員一歩引いた位置に立ち、視線も動かさない。


そして、円卓の一角に、ルナストン大統領ゼファーが座った。 表情は変わらない。ただ、その存在だけで、空気がわずかに張り詰める。


ルビィたちも指示された席に着く。


「……全員、癖が強そうだな」レオが小声で言う。


『国家が小さいほど、必死です』 アストラが返す。


結依は、ゼファーの背中を一瞬だけ見てから視線を落とした。


少し遅れて、扉が開く。

入ってきたのは、アーク帝国大統領。高身長の男性で、軍服に近い正装。一切の愛想もなく、席に着く。会合室の空気が、目に見えて冷えた。


さらに数拍遅れて、 最後に姿を現したのが、ノヴァ連邦大統領だった。

落ち着いた中年の女性。無駄のない動作で中央席へ向かう。全員が揃ったのを確認し、彼女は静かに口を開いた。


「本日は、お集まりいただきありがとうございます」


その一言で、世界の行方を左右する会合が、静かに始まった。



☆会合の議題


円卓を囲む8人の大統領、すべて埋まった。重厚な会合室に微かな緊張が漂う。

互いに探る視線。


誰も、まだ口を開こうとはしない。その沈黙を破ったのは、ルナストン大統領ゼファーだった。


彼は静かに立ち上がり、卓上端末を操作する。

壁面に、太陽の観測データが映し出された。


ゼファー

「本日の会合は、通常の外交協議ではない」低く抑えた声。

それだけで、場の空気が引き締まる。

「我々の太陽に、致命的な異変が起きている」

映像が切り替わる。

不安定なエネルギー分布、急激な核反応の乱れ。


「寿命が近い、という表現では正確ではない」ゼファーは淡々と言葉を選ぶ。


「予測不能な段階に入った。このまま進めば…急激な崩壊、あるいは消失。最悪の場合、爆発も否定できない」


小国側に、ざわりと空気が動いた。


「影響は、すでに始まっている」

次に映ったのは、惑星アークスのデータ。

地殻活動の増加。磁場の歪み。 地下深層の異常熱。


「地表国家だけではない。地下都市ルナストンも、例外ではない」


一瞬、間を置く。


「この惑星に、長期的な生存可能性はない」はっきりと言い切った。


その中で、アーク帝国大統領が腕を組んだ。筋骨隆々の体躯。軍服を思わせる威圧感。

「随分と急な終末論だな」低く、皮肉を含んだ声。

「科学的根拠はあるのか?それとも、地下都市特有の誇張か?」


ゼファーは感情を動かさず続ける。

「根拠は、複数ある」「だが、本日の議題は“危機の証明”ではない」

視線を、会合室の一角へ向けた。

「そこには、異銀河からの訪問者、ルミナール号の乗員たちが座っています」


誰1人、口を開かない。ただ、静かに状況を見つめていた。


ゼファーは続ける。 

「彼らは、高度な科学力を持つ異銀河文明だ」

「我々に対し、別惑星への移住計画を提示している」


会合室に、明確な動揺が走った。


「移住……?」

「国家単位で、か?」

小国側がざわめく。


ノヴァ連邦大統領は、表情1つ変えずに言った。冷たく、計算高い眼差し。

「確認させて」

「彼らは、我々を“救う”と?」言葉にわずかな含み。


ゼファーは頷く。

「正確には、移住を“引き受ける”と申し出た」


一拍。


「ただし、1つ条件がある」

空気が、わずかに張り詰めた。


「惑星アークス各国の、科学技術・研究データ・軍事転用可能技術を含む、科学力の全面開示」


小さく、ざわめき。


アーク帝国大統領が、即座に反応した。

「…我々の切り札を差し出せと?」


ノヴァ連邦大統領の視線も鋭くなる。


ゼファーはゆっくりと首を振った。

「支配や管理のためではない」 「移住計画は、1つの誤算があれば崩壊する」

「各国の技術水準を把握せずに、安全な移住計画も、移住後の文明維持も不可能だと、彼らは言っている」


アーク帝国大統領が、鼻で笑った。

「随分と親切な異星人だ」

「見返りなしに、そこまでやる理由があるとは思えん」


「彼らの目的は、航行と観測だ」 ゼファーは即答した。

「我々の文明干渉は最小限」

「ただし、失敗させないための情報は、すべて必要だと」


ノヴァ連邦大統領は、顎に手を当てる。

「信じるかどうかは別として」

「我々は今、“この星を捨てるかどうか”だけでなく」

「“どこまで自国を開示する覚悟があるか”も、問われているわけね」


ゼファーは、静かに肯定した。 「本日の会合の目的は3つ」 指を立てる。


「1、太陽崩壊までの猶予」


「2、移動手段の現実性」


「3、移住先の安全性」


そして、少し間を置いて。

「それらを成立させるための、我々自身の覚悟だ」


沈黙が落ちる。



☆移住計画と嘘


――数秒後


最初に口を開いたのが、小国の1つだった。

「正直に言わせてもらう」痩せた中年の女性大統領が、指先を組んだまま言う。

「太陽が消える、という話自体が信じ難い。それに我々は移住など経験したことがない」


別の小国の男性大統領が、かぶせるように続ける。

「国土も文化も、すべて捨てろと言われているようなものだ。それが“救済”だとはとても思えない」


会合室の空気が、わずかに冷える。


「ましてや――」別の国の代表が、視線を逸らしながら言った。

「地下都市の話…… あの、番兵とかいうモンスターの存在。あれと同じ船に乗れと言われて、平気な国があると思うか?」 小さく、同意のざわめき。


その瞬間だった。

「話が逸れているな」低く、鋭い声。アーク帝国大統領が、椅子に深く腰掛けたまま口を開いた。

「地下都市の番兵?あんなものは、軍事的に見れば制御不能な生体兵器 だ」


ゼファーが、静かに目を細める。

「それを危険視するなら、先にアーク帝国の軌道兵器を問題にすべきでは?」


「ふん」

アーク大統領は鼻で笑った。

「話をすり替えるな。我々は“実在する脅威”の話をしている」


場の温度が、一段階下がる。


その時、ノヴァ連邦の大統領が、軽く手を上げた。

「――そこまでだ」

声は穏やかだが、明確な制止だった。

「感情論や非難では、何も進まない」 彼女は視線を巡らせ、要点だけを拾い上げる。


「我々が知るべきは3つ。  


1、移住のタイムリミット


2、移動手段


3、移住先の惑星


それだけだ」


静寂。


「まず、期限について」

ノヴァ大統領はアストラを見る。


アストラが、淡く光る瞳で前に出た。

『太陽の消滅予測は、最短で5年。ただし、臨界点を越えると加速します』

『惑星への影響を考えると長くても1〜3年程度』


小国側に、ざわめきが走る。

「……思ったより、短いな」誰かが呟く。


「次に、移動方法だ」ノヴァ大統領が言う。


ルビィ

「移動方法について説明をいたします」一度、深く息を吸った。 声の震えを抑えるように、言葉を選ぶ。


「ルミナール船には、恒星間ワープ航行用の基幹技術があります。

それを“移動”ではなく、固定転送に転用します」


会合室が、静まり返る。


「具体的には、2つの惑星間に空間位相を安定させた連結点を設け、 大量の物質」

「――つまり、人間を連続して通過させることが可能なゲートを構築します」


小国側の大統領たちが、息を呑む。


「一時的なジャンプではありません。開放時間を制御できる、半恒久型の転送ゲートです」


アーク帝国大統領が、眉をひそめる。

「そんなもの、理論上の話だろう」


「理論では終わっていません」 ルビィは、少しだけ声を強くした。


「ルナストン市での試験と、小規模生体通過実験はすでに成功しています」


「そして――」


一瞬、間が空く。


「現在の完成度は、およそ80%です」


その瞬間。

レオの指がわずかに止まった。

結依が視線を横に滑らす。

ゼファーの目が一瞬だけ細くなる。


――嘘だ。3人とも、同時に察した。だが、誰も口を挟まない。


「残り20%は、出力安定と長時間稼働の調整です」

「理論的な障壁はすでに突破しています」

ルビィは、拳を軽く握りしめたまま続ける。

「この方法なら、国家単位、都市単位での移住が可能です」


「――命を賭ける賭博ではありません」そう言い切った声は、少しだけ震えていた。


その時。

「引っ越し先の話をしよう」

レオが、初めて口を開いた。

声は低く、冷静だった。

「候補の惑星は1つ。この惑星アークスの約1.5倍の大きさ」


全員の視線が集まる。


「季節はないが天候はある。気温は常に30℃前後で安定している」

「惑星の60%は海。小さな衛星のような太陽が3つあるため、夜は存在しない」


小国側が、戸惑い混じりに顔を見合わせる。


「植物、微生物、昆虫は豊富だ。大型の爬虫類も多い」


一瞬、緊張。


「ただし」 レオは続ける。

「知性は高くない。完全な野生で、弱肉強食の世界だ」


アーク帝国大統領が口元を歪めた。

「ほらな。危険だ」


「問題ない」

レオは即座に言い切る。


「大型爬虫類の対処は、我々と地下都市で引き受ける」


ゼファーが静かに頷く。

「生態系の管理と都市防衛は、すでに試算済みだ」


ルビィと結依の視線が少し泳いだ。

(レオもゼファーも、また嘘をついた……)


沈黙。


説明が一通り終わった、その時。


小国の代表の1人が、恐る恐る口を開いた。

「惑星までの距離は?船では行かないのか?」


視線が、ルビィに集まる。


ノヴァ連邦大統領が問う。

「移住予定の惑星まで、どれほど離れている?」


ルビィは、少しだけ頷いた。

「正直に言います」


一拍。


「惑星アークスから、自然衛星ルナスまで、ここの惑星戦艦でおよそ2日。大型戦艦なら1日半です」

会合室に小さなどよめき。


「そして、そこから移住予定先の惑星までは――

同一銀河内ですが、かなり距離があります」


アーク帝国大統領が、すかさず言う。

「では、戦艦で行ける距離ではないな」


「ええ」ルビィは頷いた。


「惑星アークスの戦艦技術では、 ルナス近辺までが限界です。それ以上は―― 物理移動では時間と燃料がかかりすぎる」


そこで、アストラが補足した。

声は、感情のない均一な調子。

『ルミナール号は、ワープを使用せず、アークス〜ルナス間を約2時間弱で移動可能です』


ざわめき。


『ただし、小型船です』


『ルミナール号は15名、までしか搭乗できません』


『さらに』

視線をホログラムに向ける。

『ワープ航行は、連続使用が不可能です。エネルギーの自然回復に、相応の時間を必要とします』


ノヴァ連邦大統領が、静かに言った。「……つまり?」


ルビィが、言葉を引き取る。

「私たちの船は、人を運ぶ船ではありません」


一拍。


「ゲートを作り、つなぐための“鍵”です」

「だからこそ」

ルビィは、はっきりと言った。

「この計画は、惑星アークスの資源、地下都市ルナストンの技術、そして私たちのゲート技術――  すべてが揃わなければ成立しない」


その言葉が、重く、しかし確実に落ちる。



☆会合―終幕


やがて――

小国側から、ぽつりと声が上がる。

「太陽が消えるなら」

「住める場所があるだけで……」

賛同が、少しずつ増えていく。


だが。ノヴァ連邦の大統領だけは、黙ったままだった。顎に手を当て、深く考え込んでいる。


「話がうますぎる」アーク帝国大統領が、苛立ちを隠さず言う。 「すべてハッタリだ。脅して従わせるつもりだろう」


その言葉が、会合室に重く落ちた。会合の空気が張り詰めたまま、止まり、重たい沈黙に包まれていた。


ノヴァ連邦の大統領が、ゆっくりと口を開く。

「……実は、我が国の科学班からも報告が上がっている」


視線が、一同を巡る。


「太陽活動の変調により、この惑星が受けるダメージは、これまでの想定を大きく上回る可能性がある、と」


小国側が、ざわめいた。


そのうちの2つの小国が、顔を見合わせ、意を決したように頷く。

「我々も…同様の警告を受けています」


空気が、はっきりと変わった。


ノヴァ連邦大統領は、静かに息を吐く。

「……腹を割って話そう」


一瞬の間。


「我がノヴァ連邦と――そこの2つの小国は」


そして彼女は、地下都市大統領を見た。

「ゼファー、あなたに直接連絡を取り、3カ国、総勢4000万人のみを移住させる計画を、すでに水面下で進めていた」


小国側から、動揺が走る。

「人選も……進めていた?」


完全な沈黙。


「そんな取引をしていたのか!」 アーク帝国大統領が、机を叩いた。

「選ばれる命と、切り捨てられる命を、勝手に決めていたと!?」


ゼファーは、アーク大統領を真っ直ぐに見据えた。

「では、聞こう」低く、しかしはっきりとした声。

「なぜ、あなた方は、我々の地下都市を武力で奪おうとした?」


アーク大統領は、言葉に詰まる。 視線を逸らし、歯を食いしばり――

やがて、吐き出すように言った。

「……奪い取り、我が帝国民を移住させるためだ」


会合室が、凍りつく。


「我々は……この惑星が、早くて5年以内に大規模な自然災害に見舞われる可能性があると、学者達から報告を受けていた」

さらに、続ける。

「だから…手段を選ばなかった」


ノヴァ連邦大統領が、低く呟く。 「……自然災害や異常気象どころではない」


視線が、ルビィたちに向く。

「太陽消滅が事実なら――」

「我々は、異銀河人に従わざるを得ない、ということだな」


その瞬間。椅子が、音を立てて引かれた。


ルビィが、立ち上がった。

緊張で固かったはずの表情は、いつの間にか――

ダイヤそっくりの鋭さを帯びていた。

「従う、じゃない」

静かだが、よく通る声。

「生き延びるために、選択するんです」

全員の視線を、一身に集める。


「確かに、我々は異銀河から来た。でも、あなた方を支配しに来たわけじゃない」

一歩、前へ。


「見捨てる計画も、選別も、武力による強奪も――

どれも“恐怖”が生んだ案です」

拳を、胸に当てる。


「私たちは、全員で移る道を提示した」

「困難だろうが、時間がなかろうが、それでも―― “やる”と決めた」


一瞬、視線がゼファー大統領に向く。


「ルナストンも、私たちも、そしてあなた方も、生きたいなら、背中を押し合うしかない」


沈黙。


次第に――

小国の大統領たちが、頷き始める。


ノヴァ大統領が、静かに口を開いた。

「移住計画を、全国家共同事業として進めましょう」


会合室にいる各国の代表たちを、ゆっくりと見渡す。


「これを最終判断とします」

わずかな間を置き、続けた。

「異論がある国はいますか?」


重い沈黙が、会合室を包む。


その沈黙の中で――


アーク帝国の大統領は、歯を噛みしめたまま俯いていた。

だが、言葉は出ない。


誰も、口を開かなかった。


ノヴァ大統領は静かに頷いた。

「……異論は無いようですね」


「それでは、この会合をここで終了します」


椅子がわずかに動く音だけが、会合室に響いた。


こうして――

惑星史上最大の決断は、

1人の船長の言葉によって、動き出した。

会合は、成功という形で幕を閉じた。





惑星アークスの話は、長くなりそうです。頭の中では、この話は完結してますが、どうやって面白く、そしてわかりやすく表現するか、頭を悩ましてます

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