☆最狂の化学者のもとへ
一度完結しましたが、ブラッシュアップしての1話目、【第零章】から再投稿です。内容もボリュームアップする予定。1話ずつ、ゆっくり投稿していきます。
完結してる作品なので、完結は必ずします。
「」人のセリフ
()心の声
『』通信などの機械音、ほかの人が言った言葉をそのまま入れるとき。
※私の小説のルールです。
◆地下都市・行政区 上層通路
重厚な隔壁が、鈍い音を残して静かに閉じた。
大統領執務区の最奥――張り詰めていた空気が、わずかに沈む。
大統領ゼファーは、ゆっくりと息を吐いた。胸の奥に溜まっていた重圧を、吐き出すように。
視線が、六人を順に見渡す。
低く、しかしはっきりとした声が落ちた。
「正直に言いましょう」
わずかな間。
「このルナストンで、“空間と物質の境界”を扱える化学者は、ワシの知る限り……一人しかおりません」
その言葉が落ちた瞬間、空気が変わる。
ダイヤの目が、一気に輝いた。
「いた!」
身を乗り出すようにして、思わず声が弾む。
「やはり」
レオも、短く呟いた。その瞳には、すでに確信が宿っている。
ゼファーは小さく頷き、少しだけ声のトーンを落とした。
「彼女は、政府直属ではあるが……扱いにくい人物でな」
ほんの一瞬の沈黙。
「だが――天才だ。そして……狂人とも呼ばれておる」
ダイヤは、まるでご褒美でも聞いたかのように笑った。
「最高じゃん!」
サイモンは苦笑いした。
「狂人ね……」
ルビィと結依は二人して、オリオン博士を思い出していた。
――三〇分後。
◆移動用リフト前
無機質な通路の先。
すでにそこには、カイトの姿があった。
もはや案内役というより、影のように常に付き従う存在。
軽く息を吐きながら、苦笑を浮かべる。
「……また私です」
結依が、少しだけ肩の力を抜いたように微笑む。
「専属ですね」
「ええ、どうやら」
カイトは自嘲気味に言いながら、リフトの扉へ手を向ける。
静かに扉が開く。
「その化学者は――地下都市の最深層にいます」
「最深層……?」
ルビィが、わずかに眉を寄せる。
「ええ。都市を支えるエネルギー炉の……さらに下です」
カイトのその言葉に、わずかな緊張が走る。
ダイヤは、小さく笑った。
「いいね。“ヤバいやつ”は、だいたいそういう場所にいる」
リフトが、音もなく下降を始める。光が遠ざかり、重力だけが静かに主張する。
◆地下化学研究区画
巨大な扉が、空気を切り裂くように開いた。
中に広がるのは、白でも黒でもない、淡い金属光沢の空間。無機質でありながら、どこか生き物のような気配すら漂っている。
配管はむき出しで、壁には明らかに爆発の痕跡。整然とした狂気。
「ここが、地下都市化学区画・最深部です」
カイトの声が、やや小さくなる。
その視線の先――
一人の女性が、背を向けて立っていた。
「こちらが、フェザー博士です」
ゆっくりと振り返る。
薄いピンク色の肌。
白く長い髪が揺れ、黒く染まった白目の中に、赤い瞳が浮かぶ。
露出の多いアラビアン調の衣装が、その異質さを際立たせていた。
フェザーは、軽く口角を上げる。
「はーい。 ……なに?」
視線がカイトへ向く。
「あら、久しぶりね、カイト」
カイトは、わずかに目を逸らした。
「で、今回は観光? それとも実験台?」
一瞬――反応が遅れた。
その空白を破ったのは、ダイヤだった。
目を輝かせたまま、一歩前に出る。
「わぁ……綺麗。ねえねえ、あなたがフェザーさん?」
フェザーは六人を順に見る。
「そ。で、あんたたちが“宇宙から落ちてきたガキども”ね」
空気がピキッと軋む。
「……ガキ?」
結依のこめかみがわずかに引きつる。
「見た目も脳みそも若そうだもの。あ、安心して」
フェザーはにこやかな笑顔のまま、さらりと言う。
「私、年下でも遠慮なく爆発させるから、皆平等よ」
「安心要素どこ!?」
サイモンが思わず叫んだ。
だが――
ダイヤは笑っていた。
まるで危険を一切感じていないかのように。
「いいね、その感じ。ねえフェザーさん、ワープゲート作りたいんだけど」
一瞬、全員が固まる。
「……は?」
フェザーの目が細くなる。
カイトが慌てて一歩前に出る。
「だ、だから急ぎで――」
「待って待って」
フェザーは手をひらひらと振りながら、呆れたように言う。
「“作りたい”って、パン焼くみたいに言うわね」
ダイヤは、首をかしげる。
「うん? でも、作るよ? ニ一億人分」
完全な沈黙。
次の瞬間――
「っはははは!!」
フェザーが腹を抱えて笑い出した。
「何それ最高!! 久しぶりに会ったわ、正気じゃない人!」
「……この人、大丈夫?」
ルビィが小声で呟く。
『……危険ですが、理論思考は極めて合理的です』
アストラが静かに答えた。
フェザーの視線が、アストラへ向く。
「へえ。アンドロイド? しかもその目……いいわね、それ」
一瞬、アストラの思考にノイズが走る。
(この感覚……)
ダイヤが一歩踏み出す。
「ねえ、フェザーさん。危険なのは知ってる。でも、できるでしょ?」
赤い瞳が、じっとダイヤを見据える。
「できるか、じゃない。“生き残る確率”の話でしょ?」
「うん。それでいいよ」
迷いのない返答。
フェザー、赤い瞳を細める。
「……あんた、何者?」
ダイヤは無邪気に答えた。
「ただの科学バカ。昔から“無理”って言われると、燃えるタイプ」
フェザーの口元がゆっくり歪む。
「最悪ね。私と同じ匂いがする」
「ちょっと!うちの船長を、“同類”認定しないで!」
サイモンが慌てて割って入る。
フェザーは気にも留めず、続けた。
「あなたたち、“壊れない方法”ばっか探してるでしょ」
一拍。
「化学はね、壊れながら“続ける方法”を扱うの」
その言葉に、空気がわずかに重く沈む。
そのとき――
壁にもたれていたレオが、低く声を出した。
「……理論式、見せて」
一斉に視線が集まる。
「…寝てたんじゃないの?」
フェザーが眉を上げる。
「五分だけ」
ゆっくりと体を起こしながら続ける。
「で、その間に考えた。ワープゲートは固定座標型だろ」
フェザーの目が見開かれる。
「……へえ」
「起きた起きた。この人も科学オタクだから」
ダイヤが楽しそうに言う。
「“オタク”で済ませていい存在じゃない」
サイモンが小さく呟いた。
フェザーは一歩近づき、全員を見回す。
「面白いチームね。正直、成功率は低い。死者も出るかも」
一拍置いて、笑顔。
「でも――“世界ごと引っ越す”なんて話、断る化学者はいないわ」
ダイヤは、迷いなく笑い返す。
「じゃあ、一緒にやろ?」
「ええ。その代わり――」
赤い瞳が、妖しく光る。
「途中で怖くなっても、私を止めないで」
アストラが一歩前に出る。
『必要であれば、私が止めます』
フェザーは、わずかに目を細めた。
「いいわ」
アストラの視線が、ほんの一瞬だけ揺れる。
(その目、この感覚……懐かしい)
少し離れた場所で、カイトが小声で呟く。
「大統領の人選、間違ってないですよね?」
「多分、もう手遅れ」
サイモンが即答した。
ダイヤが、パンッと手を打つ。
「よーし! じゃあ、地獄みたいな共同研究、始めよっか!」
フェザーが、愉しげに笑う。
「最高。今日は何を爆発させるかな?」
――こうして。
史上最大のワープ計画は、
最も危険な化学者と共に、動き出した。
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