☆夜市の騒動と才能の輪郭
ブラッシュアップしての再投稿です。内容もボリュームアップする予定。1話ずつ、ゆっくり投稿していきます。
「」人のセリフ
()心の声
『』通信などの機械音、ほかの人が言った言葉をそのまま入れるとき。
※私の小説のルールです。
ホテルの外に出ると、ルナストン市の夜は思った以上に賑やかだった。
人工の空はすでに濃紺に染まり、建物や街路そのものが柔らかく光っている。
結依は周囲を見回しながら、小さく息を吐いた。
「地下って、もっと静かなのかと思ってた」
その横で、レオが軽く笑う。
「俺もだ。軍の基地みたいなのを想像してた」
その会話を置き去りにするように、ダイヤはすでに数メートル先にいた。
露店を覗き込み、モコルを見つけては目を輝かせている。
ダイヤは指をさして、楽しそうに声を上げた。
「見て! あのモコル、耳が四つある!」
結依は額に手を当て、呆れたように言う。
「だから触らないでくださよ……」
レオはその様子を見ながら、静かに息を吐いた。
「清水、うちの船長は落ち着きないだろ」
結依は苦笑しながら頷く。
「はい……見ててちょっと不安になります」
レオは小さく笑った。
「でも楽しそうだろ」
結依は一瞬だけ考え、素直に答える。
「……それは、わかります」
レオは視線を前に向けたまま、穏やかに言葉を続けた。
「それが、あいつの凄さだよ」
結依が横目でレオを見る。
「どういう意味ですか?」
レオは少しだけ目を細める。
「ダイヤは、生まれつき色々“外れてる”」
「知能だけじゃない。反応速度や感覚も、訓練じゃ届かない領域だ」
一拍おいて、低い声で続ける。
「でも本質はそこじゃない」
結依は黙って聞く。
レオはゆっくりと言葉を紡いだ。
「あいつはな――怖がらないんだよ」
「未知でも、危険でも、まず一歩踏み込む」
「好奇心で動いて、自分を信じて、そのまま突き進む」
レオはわずかに笑う。
「だから周りは振り回される」
視線の先では、ダイヤがモコルを追いかけている。
「でもな――その先で、ちゃんと道を見つけてくる」
結依はその背中を見つめながら、小さく呟いた。
「……だから、船長なんですね」
レオは静かに頷く。
「そういうやつだよ、あいつは」
歩きながら、レオは淡々と続けた。
「星間探索士官学校でも、ダイヤは常にトップだった」
結依は少し驚いた表情を見せる。
「レオさんは?」
レオは苦笑する。
「俺とサイモンでいつも二位争いだ」
結依は自分とルビィのことを思い浮かべる。
「悔しかったですか?」
レオは即答した。
「そりゃな」
「俺は全部、努力で積み上げてきた側だ。正直、最初はあまり好きじゃなかった。才能だけで上にいるやつが」
少し間が空く。
レオは視線を前に向けたまま、静かに続ける。
「……でも」
「怖かったんだと思う。どれだけやっても届かない相手がいるって認めるのが」
結依は何も言わずに聞いている。
レオは少しだけ苦笑した。
「それで余計に、サイモンのことも誤解してた」
結依が首をかしげる。
「サイモンさん?」
レオは軽く息を吐く。
「あいつ、ボーッとして見えるだろ」
結依は少しだけ間を置いて答えた。
「……まあ」
レオは頷く。
「でもな、サイモンは本当はかなり優秀だ。処理速度が遅いだけだ」
結依は眉を上げる。
「遅い?」
レオは淡々と説明する。
「正確には――俺とダイヤが速すぎる」
「だから、反対しなければ同意見っていうのが暗黙の関係になってる」
少しだけ笑いながら続ける。
「考える時間を与えれば、あいつはちゃんと同じ場所に辿り着く」
結依は静かに頷いた。
レオは小さく息を吐く。
「あいつも知力と力のリミッターが外れてる。人間じゃないよ、あれは」
「……さっきも見ただろ、あの力」
結依は小さく呟く。
「……化け物側、ですか」
レオは否定しなかった。
そのときだった。
ダイヤが露店で何かを手に取り、楽しそうに振り向く。
「ねぇレオ、これ試食だって!」
レオの表情が一瞬で変わる。
「ダイヤ、食べるな!!」
しかし、もう遅かった。
ダイヤは迷いなく口に放り込む。
「……あれ? 味は普通」
数秒後。
結依が足を止め、違和感に気づく。
「ダイヤさん、髪……」
金色だった髪が、ゆっくりと闇色に染まっていく。
ダイヤは自分の髪をつまみ、むしろ楽しそうに笑う。
「え、なにこれ! かっこよくない?」
レオが額を押さえる。
「副作用だ!!」
その直後だった。
ダイヤは興味本位で、近くにいたモコルに手を伸ばす。
「ちょっとだけ――」
結依が即座に声を張る。
「だから触らないで――」
その瞬間。
モコルが高い音を発した。
ピィィィ――ン!
空気が一変する。
周囲の視線が一斉に集まり、装甲服の警備員が動き出す。
結依が顔を引きつらせる。
「……やば」
レオが低く言う。
「ダイヤ、動くな」
包囲されかけた、そのとき。
人混みをかき分けて、カイトが現れた。
少し苛立った表情で、強引に間に入る。
カイトは手際よくIDを提示しながら、落ち着いた声で説明する。
「この者たちは私の案内中です。問題ありません」
さらに軽く手を振る。
「その警告音は誤作動です」
警備員たちは互いに視線を交わし、やがて渋々引き下がった。
ダイヤはほっとした様子で、地下都市語で礼を言う。
「助かったよ」
カイトはダイヤの黒く変わった髪を見て、深くため息をついた。
「副作用ですね……髪の変化は長く残ります」
ホテルへ戻る道すがら。
ダイヤは満足そうに笑っていた。
「ね、楽しいね、地下都市!」
レオは疲れた顔で即答する。
「……今日はもう外出禁止」
ダイヤは不満そうに声を上げる。
「えー」
レオは小さく息を吐き、結依にだけ聞こえる声で言った。
「……な? 清水。ああ見えて、とんでもないクルーだろ」
結依は静かに頷いた。
ホテルに到着すると、カイトが一礼する。
「では、今度こそ明日の朝に」
――その背中を見送りながら、結依は小さく息を吐いた。
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