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☆食事と文化のズレ

ブラッシュアップしての再投稿です。内容もボリュームアップする予定。1話ずつ、ゆっくり投稿していきます。


「」人のセリフ

()心の声

『』通信などの機械音、ほかの人が言った言葉をそのまま入れるとき。


※私の小説のルールです。



 通路の照明が、夜用の色調へとゆっくり切り替わり始めた頃だった。

 薄く橙がかった光が、地下都市の通路に静かに広がっていく。

 その中で――

 サイモンが腹を押さえ、少しだけ前かがみになる。

「……なあ」

 ぼそりと漏れた声に、全員の視線が集まった。

「俺、さっきからずっと思ってたんだけどさ」

 嫌な予感が、同時に全員の頭をよぎる。

「腹、減ってない?」


 一瞬の沈黙。

 そして――

「……確かに」 「言われると急に来る」

 同意が、きれいに重なった。

 

「よかった、俺だけじゃなかった」

 サイモンは心底安心したように頷く。


 その様子を見て、カイトが穏やかに口を開いた。

『では、食事にしましょう。地下都市の料理は――』

 そこで、アストラの翻訳が一瞬だけ止まる。


 わずかな間。

 言葉を選んでいるようだった。

『――“経験”です』


「不安になる言い方やめてくれません?」

 間髪入れず、結依が突っ込む。

 軽く笑いが起きた。

 

 案内されたレストランは、広く、賑やかだった。

 地下都市の住民たちの会話が重なり、独特のリズムを作っている。

 聞き慣れない言語なのに、不思議と落ち着く空気だった。

 

 やがて、料理が運ばれてくる。

 見た目は――

 拍子抜けするほど普通だった。色合いも、盛り付けも、しっかり“料理”になっている。

 

「……普通に食べられそう」

 ルビィが慎重に一口、口に運ぶ。

 わずかな間のあと――

 結依が先に口を開いた。

「……うまい」


「普通に美味しい!」

 ダイヤがぱっと笑顔になる。

 

 カイトが説明する。

『化学反応で、味覚刺激を最適化しています』


「科学じゃなくて?」

 レオが首をかしげる。


『ええ。我々は科学より化学が発展しました』


「なるほど……」

 レオは本気で納得した表情で頷いた。

 

 そのときだった。

「……あれ?」

 サイモンが、自分の腕をじっと見つめる。

「なあ、俺、なんか……」


『緑ですね』

 アストラが即答する。

 

 サイモンの皮膚が、うっすらと緑色に変色していた。

 

「は!?」 「ちょ、待て!」 「俺、どういうこと!?」

 騒ぐサイモンに対して――


 カイトはあっさりと言う。

『副作用です。緑は比較的長いです』


「「副作用!?」」

 ルビィと結依の声が揃う。

 

『一時的なものです。数時間で戻ります。我々は副作用を気にしません』

「戻るまでの間、俺どうすんだよ!」

 サイモンが本気で困った顔をする。

 

 ダイヤが楽しそうに言った。

「ゴリにぃ、緑かっこいいじゃん。昔の映画でそんなキャラなかった? それに夜だし目立たないっしょ」


「問題はそこじゃない!」

 

 その横で――

 ルビィが、そっと自分の耳に触れる。

「……私、光ってない?」

 耳の輪郭が、淡く発光していた。

 

「うわ、ほんとだ」

 結依が顔を近づけて確認する。

 

「可愛い!」

 ダイヤが即断する。

 

「副作用を気にしない文化って、こういうことか……」

 レオが遠い目になる。

 

 そのとき――

 コロン……

 軽い音が、テーブルの上で響いた。 

 全員の視線が向く。

 

 アストラの――頭部だった。

 一瞬で、店内が静まり返る。

 

 頭部はコロコロと転がり、近くにいた地下都市人の赤ん坊の前で止まった。

 

『あ〜あ〜』

 電子音混じりの、やけに優しい声。

 

 赤ん坊は一瞬きょとんとし――

 次の瞬間、声を上げて笑った。

 

 周囲の地下都市人たちが、完全に固まる。

 

「何してんのよアンタ!」

 結依が即座にアストラの頭を軽く叩く。

 

『赤ちゃんを安心させる最適行動と判断しました』


「判断基準がおかしい!」 「首、戻せ!」

 

 騒ぎの中心とは別の場所で――

 ダイヤは、完全に別のものに意識を奪われていた。

 

 テーブルの横。

 ふわふわのモコルが、丸くなっている。

 ダイヤの目が輝いた。

 

 モコルが、ぴょん、と跳ねる。

 そして迷いなくダイヤの膝の上へ。

 

「――なついた」


 一拍。

「欲しい」

 即答だった。

 

「早いです!」

 ルビィが鋭く突っ込む。

 

「ダメですよ!」

 結依も即座に否定する。

「それ、明らかに隣の人たちのペットです!」

 

『あとで一匹差し上げますよ』

 カイトが、さらりと言った。

 

『明日の大統領との面会後、放牧区画にご案内します。正式に譲渡可能です』

 

「軽っ!?」

 結依が思わず声を上げる。

 

「連れて帰ったら実験対象になる可能性があります」

 ルビィは真剣だった。

 

「制御できる保証もない」

 レオも続ける。

 

「でも――」

 ダイヤはモコルをぎゅっと抱きしめる。

「可愛い」

 

 サイモンが、緑色の腕で頷いた。

「まあ――ダイヤがそこまで言うなら」

 

「お前は黙ってろ」

 レオが即座に止める。

 

 ダイヤがふと、周囲に視線を向けた。

「今、あの人たち、私たちのこと話してる……」

 全員の視線が、一斉にダイヤへ向く。

 

 ダイヤは少し考えながら、地下都市人の言葉をなぞるように口にする。

 

 アストラが通訳する。

『意味は、だいたい分かる。日常会話程度であれば対応可能と、ダイヤさんは申しております』

 

 さらに補足する。

『理解率は約七〇〜八〇%。文法構造は未習得ですが、適応能力は極めて高い』

 

「――やっぱ天才だな」

 レオが呆れたようにため息をつく。

 

 その視線が、ゆっくりとアストラへ向く。

「君の個体識別は?」

『ORX-七八です』

 

「七八……」

 レオはわずかに間を置き、微笑んだ。

「いい設計思想だ」

 低い声で、少し楽しそうに言う。

「アストラ、これから君を“七八”と呼んでもいいか?」

 

 アストラは、ほんのわずかに首を傾げる。

『わかりました。七八で構いません』

 

 こうして食事は、

 副作用と、

 騒ぎと、

 笑いに満ちたまま終わっていった。

 

 ――夜は深まり

 地下都市での“平和な時間”が、

 静かに、次の局面へと繋がっていく。


私からのお願い。

もしも、気にっていただけたら

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感想などもお待ちしてます。


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