☆地下都市ルナストン(後編)
ブラッシュアップしての再投稿です。内容もボリュームアップする予定。1話ずつ、ゆっくり投稿していきます。
「」人のセリフ
()心の声
『』通信などの機械音、ほかの人が言った言葉をそのまま入れるとき。
※私の小説のルールです。
地下とは思えないほど高い天井。
いや――天井というより、空。
橙から紫へと溶けるグラデーション。
雲のようなものが、ゆっくりと流れている。
「地下……だよな?」
サイモンが確認する。
カイトが歩きながら説明し、アストラが訳す。
『到着です。ここが地下都市ルナストンです』
『空で驚いていますね。地表で暮らしていた頃の概念を、精神安定のため再現しています。今は夕日なので、もうすぐ夜になります』
『本物の空は見えません。ですが、“空がある”という感覚は必要だったそうです』
その夕焼けの下に、都市が広がっていた。
人々が行き交い、話し、笑い、暮らしている。
目がわずかに光り、肌もうっすら淡い色をしている。
それでも――
(……普通に、人間)
ルビィはそう感じていた。
『敵意も、今のところは感じません』
アストラが補足する。
ダイヤは空と街と、そしてまたモコルを見ていた。
地下都市への第一歩は――
想像よりもずっと穏やかで、そして明るかった。
「地下なのに、空がある……科学とはいえ不思議」
結依がぽつりと呟く。
ダイヤは目を丸くした。
「――普通に、街だ」
その言葉が、何より素直な実感だった。
街並みは立体的だった。
上下左右に広がる建築群。
通路は分岐を重ね、曲がり、折れ、重なり合う。
『蜂の巣型都市です』アストラが通訳する。
『人口が多いため、平面では足りない。上下方向に拡張しています』
「……迷いやすそうだな」
レオが言った、その直後。
「お、あれ何だ?」
サイモンが脇道に目を奪われる。
次の瞬間――
姿が消えた。
「……サイモン?」
返事がない。
「サイモン!?」
振り返った時には、もう遅かった。
『……迷子、第一号ですね』
アストラが淡々と言う。
「早っ!」結依が即座にツッコむ。
通路沿いにはモコルたち。
白、灰、茶、まだら。毛色も個体差も様々だ。
「種類、違う?」
ダイヤがしゃがみ込みそうになるのを、ルビィが止める。
「ダイヤさん、勝手に触らない」
「でも……!」
目は完全に輝いていた。
ぴょん、と跳ねる一匹。
「かわいい」
「仕事中ですよ」
カイトが苦笑する。
『彼らはこの都市のペットです。知能が高く、人と共存しています』
「番兵の子たちも?」
『ええ。優秀な個体が交代で』
『用途は多く、番兵、ボディガード、ペット、友達』
ダイヤは真剣な顔で頷いた。
「――なるほど」
そのとき。
「……あのさ」
レオが少し言いにくそうに結依を見る。
「名前、なんて呼べばいい?」
結依が一瞬きょとんとしてから答える。
「清水、清水結依です」
「清水……さん」
「結依でいいです」
「……じゃあ、清水で」
結依は少しだけ笑った。
一方で、レオはルビィを見る。
「君は?」
一瞬の間。
「……ルビィです」
ほんのわずかに、結依を見る。
「ルビィ・デ……デービス」
ダイヤは、その視線を見逃さなかった。
(今の、何?……何かを隠した?)
ダイヤがそう感じるには十分だった。
少し後ろで、アストラは街を観察していた。
建築、人の流れ、配置。
それに気づいたレオが声をかける。
「……その見方」
『?』
アストラが振り返る。
「街を風景として見てない。システムとして見てる」
一拍。
「俺、元々アンドロイドの研究をしていた」
結依がちらりと見る。
「設計思想とか、行動アルゴリズムとか……癖みたいなものがある」
レオははっきりと言った。
「君の観察の仕方が、俺にそっくりだ」
『合理的な評価ですね』
「否定しないんだ」
『事実ですから』
レオは、わずかに笑った。
「やっぱり、アンドロイドは面白いな」
「ところで」ルビィが言う。
「サイモンさんは?」
沈黙。
遠くで――
「……あれ?ここ、どこ?」
サイモンの声。
「――やっぱり」
結依が額に手を当てる。
「回収に行きましょう……」
ダイヤは名残惜しそうにモコルから視線を外す。
「あとで、絶対もう一回モコル触りたい」
その言葉に、ルビィは嫌な予感しかしなかった。
声を頼りに通路をいくつか曲がって先。
「……いた」
結依が指さす。
そこにサイモンはいた。
だが――
「ちょっと待ってくれ。今、助けるからな」
地下都市の青年と一緒に、巨大な運搬カートの前で困っていた。
車輪が段差に引っかかり、完全に動かなくなっている。積まれているのは、金属製の大型コンテナ。明らかに人間数人で押す想定の重量だった。
青年がカイトに何か話す。
アストラが通訳する。
『運搬用カートが詰まってしまったそうです。重量があり、動かせないと』
レオが眉をひそめる。
「これは……人力じゃ厳しいな」
そのとき、ダイヤがサイモンを見る。
ニヤッと笑った。
「――ゴリにぃの出番だね」
ルビィと結依が同時に振り向く。
「ゴリにぃ?」
「サイモンさんのこと?」
サイモンは苦笑しながら軽く手を振った。
「いやいや、そんな大したもんじゃ――」
ダイヤが腕を組む。
「いいから押してみてよ」
「……まあ、やってみるか」
カートの後ろに回り、両手を添える。
「よいしょ」
――ゴン。
一発で動いた。
カートは段差を越え、そのまま数メートル滑る。
全員、固まる。
数秒の沈黙。
結依が、ゆっくり振り向いた。
「……え?」
カイトも目を丸くする。
『……今のは』
サイモンは頭をかきながら言う。
「いやー、なんか昔からこういうの得意でさ」
ルビィが小声で呟く。
「得意とかいうレベルじゃないですよ……」
カイトが言う。
『地下都市でも、あの重量は……機械を使います』
ダイヤがにやにやしている。
「だから言ったろ。ゴリにぃなんだって」
レオは苦笑する。
「まあ……人類の中にも、たまに規格外がいる」
結依はサイモンを見上げたまま言った。
「……人類?」
サイモンは笑った。
「安心しろ。ちゃんと人間だぞ」
――地下都市の歓迎は、まだ始まったばかりだ。この街が隠し持つ「本当の驚き」を、彼女たちはまだ、何ひとつ知らない。
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