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宝石(星)の系譜 〜50年前に遭難した伝説の探査船を救助したら、17歳の祖母が船長として居座っていた件。未知の惑星を巡る異世界航海録~【御礼14万PV達成】【平日月曜と金曜の朝6時更新】  作者: 準
【間章伍】ゼロとの交渉と奪われた光/宝石の系譜

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✮届かなかった手

◆海中・夜

 暗い海。

しかし、海中は青黒く光ってある。

 アリスベルは全力で泳ぐ。

 視線の先。

 触手に捕らえられたケイト。


 そして、そのさらに奥。

 別の触手に絡め取られたアシュリーが、暗い海の底へ引きずられていた。


 アリスベルはケイトの元へ辿り着く。

 迷わず、彼女を締め上げる触手を掴んだ。


 だが――。

 二人を同時に助けることはできない。

 ケイトも理解していた。

 触手に全身を締め付けられ、苦しそうに顔を歪める。

 息も限界に近い。

 それでも。

 ケイトはアリスベルを見た。

 そして、ゆっくりと首を横に振る。

(違う)

(私じゃない)

 その視線は、海の奥へ消えかけているアシュリーへ向けられていた。

 さらに腕を伸ばす。

 指差す先。

 アシュリー。

 暗い海の中を引きずられていく妹だった。


 ケイトは必死に手を動かした。

 アリスベルへ送る合図。

(アシュリーを助けろ)

(私は後でいい)

 その意思だけは、はっきりと伝わった。


 アリスベルは一瞬だけ迷う。

 だが。

 すぐに頷いた。

 進路を変える。

 アシュリーの方へ加速した。


 ケイトはそれを見届ける。

 そして力尽きるように目を閉じた。

 意識が遠のいていく。


 その頃。

 海へ飛び込んだレオも追いついていた。

 視界の先。

 触手に捕らえられたケイト。


 さらに遠く。

 アリスベルがアシュリーを追っている。


 レオは状況を理解した。

(アリスベルがアシュリーを追う)

(なら俺は――)

 ケイトだ。


 レオは一気に加速する。

 薬の効果が全身を巡っていた。

 水の抵抗が小さい。

 体が異様に軽い。

 触手へ迫る。


 そして。

 蹴る。

 ――ドガァッ!!

 衝撃。

 触手が大きく裂けた。

 半分以上が千切れかける。


 レオ自身も驚いた。

(なんだ、この力……)

 だが止まらない。


 もう一撃。

 ――バギィッ!!

 触手が完全に切断された。


 ケイトの体が触手から解放される。

 レオはすぐにケイトを抱きかかえた。

 そして、海面へ上がる。

 ――ザバァァァァッ!!

 二人が海面へ飛び出す。


 ケイトが激しく咳き込んだ。

「げほっ……!」


 空気を求めるように呼吸する。

 意識は朦朧としていた。

 それでも。

 真っ先に聞く。

「……アシュリー……は……?」


 レオは答えた。

「アリスベルが向かった」

「助けに行ってる」


 ケイトは微かに頷く。

 安心したように。


 そして。

 意識を失った。


「ケイト!」


 反応はない。

 レオは周囲を見る。

 少し離れた場所に岩場が見えた。

 そちらへ泳ぐ。

 レオは岩場にケイトを寝かせた。

 呼吸はある。

 生きている。


 それを確認すると。

 再び海を見る。

 迷いはなかった。

 そのまま海へ飛び込む。

 ――ザバァァァァッ!!


◆海中

 アリスベルはアビスモウを追っていた。

 ひたすら前へ。

 触手をかわし。

 海流を切り裂く。

 距離は縮まっている。


 アシュリーの姿が見える。

 もう少し。

 あと少しで届く。


 そのときだった。

 横から巨大な影。

 ――ドゴォォォォッ!!

 小型アビスモウ。

 体当たり。

 アリスベルの体が弾き飛ばされた。

 海中を転がる。


 だが。

 アリスベルはすぐに体勢を立て直した。

(邪魔をするな!)

 再び加速。


 アシュリーへ向かう。

 だが。

 大型アビスモウが触手を動かし、アシュリーの体を小型アビスモウへ受け渡した。

 まるで荷物を渡すように。

 自然に。

 迷いなく。


 アリスベルの瞳が見開かれる。

(連携……?)


 小型アビスモウは反転する。

 そのままアシュリーを連れ去り、深海へ逃走。


 アリスベルは追う。

 だが。

 目の前へ巨大な影が現れた。

 一五メートル級。

 大型アビスモウ。


 海の悪魔が立ちはだかる。

 巨大な単眼。

 潰れた片目。


 残された瞳がアリスベルを見ていた。

 まるで。

 絶対に通さないと言うように。


 触手が襲いかかる。

 ――ブォォォォン!!

 速い。

 陸上とは比べものにならない。

 アリスベルは回避する。


 だが。

 わずかに遅れる。

 肩を掠めた。

 さらに次。

 さらに次。

 連続攻撃。


 アリスベルはレーザー剣を展開する。

 ――ブォン!!

 青白い刃。


 だが。

 水中では出力が落ちる。

 一閃。

 触手を斬る。

 しかし。

 浅い。

 切断できない。


 アリスベルが歯を食いしばった。

(まずい……)


 そのときだった。

 背後から影が飛び込む。

 レオ。

 覚醒したレオだった。


 レオの蹴りが炸裂する。

 ――ドゴォォォォッ!!

 触手が裂ける。


 さらに。

 もう一撃。

 ――バギィィィッ!!

 完全切断。

 触手が海中を舞った。


 アリスベルの瞳が揺れる。

(なんだ……その力は)


 レオは止まらない。

 次々と蹴りを放つ。

 触手が切れる。

 裂ける。

 吹き飛ぶ。

 レオはまるで別人だった。


 だが。

 大型アビスモウも動いた。

 巨大な口が開く。

 次の瞬間。

 ――ブワァァァァァッ!!


 黒い液体。

 大量の墨。

 海中へ拡散する。

 一瞬で視界が消えた。

 真っ黒。

 何も見えない。


 アリスベルも。

 レオも。

 完全に見失う。

(どこだ!?)

(アシュリー!!)

 必死に周囲を探す。

 だが。

 見えない。

 何も。


 やがて。

 黒い墨がゆっくり薄れていく。

 視界が戻る。


 だが。

 そこには何もなかった。

 大型アビスモウ。

 小型アビスモウ。

 そして――アシュリー。

 全て消えていた。


 アリスベルは周囲を見渡す。

 レオも探す。

 だが見つからない。

 静かな海だけが広がっていた。


 アリスベルは拳を握る。

 強く。

 強く。

 握り締める。


 だが。

 届かなかった。

 あと少しだった。

 その手は――届かなかった。


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