✮夜の回収者
――B班。
◆廃墟ビル・夜
夜の闇が街を覆っていた。
崩れた窓の前。
アストラが外を監視している。
そのときだった。
『反応を探知しました』
静かな声。
休憩していた全員が顔を上げる。
アイダが聞いた。
「敵か?」
『判別中です』
一拍。
『人型反応一〇』
ロックが立ち上がる。
「接近方向は」
『北西』
『約八〇〇メートル』
ヘルムズが欠伸をした。
「夜勤のお客様か」
テリオスが笑う。
「歓迎する気満々だな」
『武装は確認できません』
アストラの言葉に、全員が少しだけ顔を見合わせた。
武装していない。
ネメシスでは珍しい。
アストラが続ける。
『移動速度一定』
『進路予測』
『赤いレヴロスト撃破地点』
アイダが眉をひそめた。
「撃破地点?」
メリーが窓へ近づく。
「見える?」
『あと二分で視認可能です』
全員が窓際へ集まった。
やがて。
闇の中に影が現れる。
一〇体。
人間によく似た輪郭。
だが動きは機械的だった。
隊列も乱れない。
まるで工場の生産ラインがそのまま歩いているようだった。
ルビィが小さく呟く。
「人型……」
結依も目を細める。
「アンドロイド?」
『解析中』
『はい、アンドロイドの可能性八九パーセント』
アストラが答えた。
影たちは戦闘地点へ到着した。
そして。
赤いレヴロストの残骸へ近づく。
何の躊躇もなく作業を開始した。
腕部を取り外す。
脚部を切断する。
装甲を分解する。
全てが無駄なく正確だった。
ディックが感心する。
「働き者だな」
テリオスが吹き出す。
「感想それかよ」
ダイヤも窓の外を眺める。
「へぇ……回収専門みたいだね」
ロックが頷く。
「戦闘用には見えんな」
アストラが答える。
『ネメシス製である可能性が高いです』
『回収専用アンドロイドと思われます』
メリーが腕を組む。
「なるほどね」
「壊れた兵器や残骸を回収する係か」
アイダが鼻を鳴らした。
「ネメシスらしい話だ」
ルビィが首を傾げる。
「壊れたものも回収するんですね」
アストラは頷く。
『資源再利用の可能性があります』
『さらに頭部記録媒体も回収対象と思われます』
ロックの目が細くなる。
「戦闘データか」
『可能性は高いです』
その場の空気が少しだけ重くなった。
テリオスが苦笑いする。
「せっかく倒しても、向こうの経験値になるわけか」
ディックが低く唸る。
「厄介だな」
アイダも顔をしかめた。
「学習され続けるってことだからな」
窓際にもたれていたヘルムズが口を開く。
「じゃあ今のうちに撃つか?」
一拍。
「命令くれりゃ、あいつらごと吹っ飛ばすぞ」
メリーが呆れた顔を向ける。
「本当に物騒ね」
ヘルムズは笑う。
「褒めるなって」
「褒めてないわ」
メリーは即答だった。
結依がくすりと笑う。
「ヘルムズさんって、自分に都合のいいように聞こえるんですね」
ヘルムズは真顔で頷く。
「俺の長所だ」
「短所です」
ルビィが即座に訂正した。
その瞬間、周囲から小さな笑いが漏れた。
そのとき。
アストラの瞳が僅かに光る。
『追加反応』
全員が振り向いた。
ロックが聞く。
「数は」
『四』
アイダの表情が変わる。
「どこだ」
『高速接近中』
次の瞬間。
黒い影が瓦礫の上へ音もなく降り立った。
気配も薄い。
まるで闇そのものだった。
結依が息を呑む。
「何……あれ」
黒い装甲。
黒いヘルメット。
漆黒の機体。
四体。
赤いレヴロストとは対照的だった。
アストラが即座に解析する。
『アイオーン製レヴロストを確認』
『識別名』
『レヴロスト・レイス』
ロックが目を細めた。
「アイオーンか」
ディックが低く唸る。
「あれ、レイスだよな?」
ヘルムズが窓の外を見つめる。
「ああ」
「レイスだが――」
その直後だった。
レイスが動く。
消えたように見えた。
そして。
――ガシュッ!
回収アンドロイドの首が宙を舞う。
ガシャン。
機械の身体が崩れ落ちた。
さらに。
――ガガガッ!
二体。
三体。
四体。
回収アンドロイドたちは反応する暇すらない。
テリオスが目を見開く。
「速っ!」
メリーも驚いていた。
「今の見えた?」
ディックが首を振る。
「いや」
ヘルムズが苦笑する。
「俺も見失った」
ロックが静かに言う。
「通常のレイスではないな」
レイスは止まらない。
まるで嵐だった。
一〇体いた回収アンドロイドは、わずか数十秒で全滅した。
しばらくして。
レイスは血振りでもするように、青白く光るレーザー剣を払った。
そして何事もなかったかのように立っていた。
結依が息を吐く。
「強い……」
アストラが続けた。
『私が以前観測したレヴロスト・レイスと比較した場合』
『総合性能がおよそ五〇パーセント向上しています』
一瞬、その場が静かになる。
結依が聞き返した。
「五〇パーセント?」
『はい』
『速度、反応速度、出力ともに向上を確認』
ルビィも驚く。
「改良?」
アストラは淡々と答えた。
『可能性が高いです』
『現在の性能は赤いレヴロストと、ほぼ同等と思われます』
その言葉に空気が変わる。
メリーが顔をしかめた。
「量産型じゃなくなってきてるわね」
ディックも腕を組む。
「厄介だな」
アイダが鼻を鳴らした。
「ネメシスだけじゃねぇ」
全員の視線が向く。
アイダは窓の外のレイスを見ながら続けた。
「アイオーンも進化を続けてるってことだ」
一拍。
「この星は、どいつもこいつも強くなりやがる」
ヘルムズが苦笑する。
「勘弁してほしい話だな」
テリオスも頭を抱える。
「休んでる間に敵だけレベルアップしてるじゃねぇか」
結依が小さく笑う。
「ゲームなら最悪の展開ですね」
ロックは静かに窓の外を見つめていた。
静寂。
そして。
レイスたちは赤いレヴロストの残骸へ近づいた。
赤いレヴロストの残骸を持ち上げる。
そして回収作業が始まった。
さらに、破壊された回収アンドロイドの残骸まで運び始めた。
ルビィが呟く。
「アンドロイドまで……」
『推測』
アストラが言う。
『ネメシス技術の解析が目的と思われます』
アイダが頷いた。
「アイオーンも調べてるってことか」
ダイヤが静かに言う。
「三勢力とも忙しいねぇ」
ディックが苦笑した。
「休む暇がないな」
ヘルムズが窓枠に肘を乗せる。
「なぁ」
一拍。
「あいつら放っといていいのか?」
アイダは首を振った。
「追うな」
ロックも同意する。
「今は休息だ」
「停戦交渉も控えている」
「今回は手を出さないほうがいい」
ヘルムズが天井を見る。
「真面目だなぁ」
ロックは即答した。
「真面目だから生きている」
数秒の沈黙。
そして。
テリオスが吹き出した。
「また言った」
ディックも笑う。
メリーも苦笑した。
アイダは呆れた顔になる。
ヘルムズは大げさに頭を抱えた。
「隊長の口癖、そろそろ本にして売れそうだな」
ロックは真顔だった。
「売れない」
ヘルムズがロックの頭を軽く叩く。
「そこは否定するんだな」
ロックが真顔で言う。
「頭を叩くな」
「俺は隊長だぞ」
テリオスが吹き出した。
「気にするところ、そこかよ」
再び笑いが起こる。
だが。
窓の外では。
レヴロスト・レイスが赤いレヴロストと回収アンドロイドを運び去っていた。
ネメシス。
アイオーン。
そしてラストライト。
三つの勢力は、それぞれの思惑で動き続けている。
静かな夜は続く。
だが、その裏側では――新たな戦いが確実に近づいていた。




