✮夜の休息
――B班。
◆廃墟ビル群の街中・夜
サイレンが鳴り終わる頃には、周囲はすっかり闇に包まれていた。
B班と第一部隊は廃墟が多い街中へと避難していた。
崩れかけたビル。
だが壁は残っている。
風も防げる。
ロックは窓の外を確認しながら言った。
「ここで夜を越す」
テリオスが眉を上げる。
「えー」
「この人数なら進めるんじゃね?」
ヘルムズも壁にもたれながら言う。
「俺もそう思うぜ」
「第一部隊にアイダまでいる」 「ネメシスの連中が出ても返り討ちだろ」
ルビィたちも耳を傾ける。
だが。
ロックは即答した。
「疲労は敵だ」
一拍。
「連続戦闘を続ければ判断が鈍る」
アイダも頷いた。
「その通りだ」
壁際へ腰を下ろす。
「強い奴ほど休む」
「無理する奴から死ぬ」
ヘルムズが吹き出した。
「真面目だなぁお前ら」
ロックが見る。
「真面目だから生きている」
ヘルムズは笑う。
「ほら出た」
「昔からその台詞好きだよな」
テリオスも笑った。
ディックは荷物を下ろしながら頷く。
「ロックは昔から変わらん」
「変わらないのが長所だ」
ロックは真顔だった。
ヘルムズが呟く。
「変わらねぇのも大変だな」
◆廃墟ビル内部
しばらくして。
全員が思い思いに休憩していた。
結依は興味深そうにヘルムズを見る。
「そういえば」
「ヘルムズさんって本当に射撃苦手なんですか?」
ヘルムズは即答した。
「ああ」
「下手だ」
結依が笑う。
「胸張って言うことですか?」
ヘルムズは真顔で答える。
「一〇〇メートル先の缶を撃てと言われたら外す」
一拍。
「でも一〇メートル先なら缶ごと蹴り飛ばせる」
結依が吹き出した。
ディックも笑う。
「それ何回聞いても馬鹿だな」
ヘルムズは指を立てる。
「だが解決はしている」
「してねぇよ」
アイダが即座に突っ込んだ。
◆別の一角
フェザーが床を歩いている。
テリオスがしゃがみ込んだ。
「お前さ」
「戦えるのか?」
フェザーが胸を張る。
「きゅっ!」
「本当か?」
「きゅう!」
テリオスは頷く。
「嘘だな」
フェザーが抗議する。
「きゅううう!!」
その様子を見ていたディックが笑った。
「元気だな」
ダイヤも微笑む。
「この子は元気だけが取り柄だからね」
フェザーが固まる。
「きゅ?」
ディックが大笑いした。
「否定しろよ!」
フェザーは慌てて飛び跳ねた。
「きゅっ!きゅっ!」
ヘルムズが見ながら呟く。
「今の顔、人間だったら泣いてるな」
◆窓際
ルビィはライフルの手入れをしていた。
そこへメリーがやって来て、隣に腰を下ろす。
「船長さん、綺麗な撃ち方するわね」
ルビィは顔を上げた。
「そうですか?」
「ええ」
メリーは頷く。
「無駄がないのよ。見ていて気持ちいいくらい」
ルビィは少し照れたように笑った。
「ありがとうございます」
「誰に習ったの?」
ルビィは少し考える。
「表向きは士官学校の訓練教官です」
「表向き?」
メリーが吹き出した。
「なんか怪しい話になってきたわね」
ルビィも小さく笑う。
「実際は母です」
「お母さん?」
「母が作ってくれたシミュレーションルームで訓練していました」
メリーが目を丸くする。
「作った?」
「はい」
「シミュレーションルームを?」
「はい」
数秒の沈黙。
メリーが額を押さえた。
「ちょっと待って」
「あなたのお母さん何者なの?」
ルビィは平然と答える。
「科学者です」
「それだけじゃ済まない気がするんだけど」
ルビィは苦笑した。
「私もそう思います」
メリーが楽しそうに笑う。
「で、その訓練は厳しかった?」
「すごく」
ルビィは即答した。
「いつも毎日やめたいと思ってました」
「あら」
「何回も泣きました」
「へぇ」
「逃げたこともあります」
メリーが声を上げて笑う。
「意外!」
「でも捕まりました」
「お母さんに?」
「はい、母にです」
「逃げ場ないじゃない」
二人とも思わず笑った。
しばらくして。
メリーは優しく微笑む。
「それは良かったわ」
ルビィが首を傾げる。
「良かった?」
「ええ」
メリーは窓の外を見ながら言った。
「あなたのお母さん」
「ちゃんと愛情を込めて育ててたのね」
その言葉に。
ルビィは少しだけ目を伏せ、苦笑した。
「……そうですね」
◆廃墟ビル中央
ディックが壁にもたれている。
その隣にダイヤが座った。
「大きいねぇ」
「よく言われる」
ディックは笑った。
「何センチあるの?」
「二一二」
「それは大きい」
ダイヤは感心した。
一拍。
「私の孫二人分じゃん」
ルビィが遠くから言う。
「比較対象がおかしいよ!」
ヘルムズが吹き出す。
「婆ちゃん面白ぇな」
「ありがとう」
ダイヤは普通に返した。
「褒めてないぞ」
「そうなの?」
ヘルムズが笑い出した。
◆廃墟ビル内奥側
休憩の準備が終わる。
ロックが立ち上がった。
「見張りを決める」
そのとき。
アストラが前へ出た。
『決める必要はありません』
全員が見る。
『私はアンドロイドです』
『休憩も睡眠も必要ありません』
『夜間の警戒任務を引き受けます』
沈黙。
テリオスが呟いた。
「便利だな」
ディックも頷く。
「便利だな」
ヘルムズは真顔で言う。
「うちの部隊に欲しい」
『却下します』
即答だった。
結依が吹き出した。
ヘルムズも笑う。
「即答かよ」
アストラはいつもの調子で淡々と答える。
『ヘルムズさんと一緒だと、仕事が増えそうなので』
沈黙。
そして。
大爆笑。
ディックが腹を抱えた。
テリオスは床を叩いて笑う。
アイダも顔を背けている。
ヘルムズだけが不満そうだった。
「初対面でひでぇ評価だな」
『事実を分析した結果です』
ヘルムズが叫ぶ。
「ロック!」
「こいつ敵だぞ!」
ロックは真顔だった。
「正しい分析だ」
「ここにも裏切り者がいる」
再び笑いが起こる。
そんな声が響く中。
アストラは窓際へ移動した。
静かに外を監視する。
闇の荒野。
遠くに見える廃墟群。
窓の外には闇が広がっている。
ネメシス。
アイオーン。
そして停戦交渉。
解決すべき問題は何一つ減っていない。
それでも。
今だけは。
束の間の休息が彼らに与えられていた――。




