✮海に消えた二人
◆海岸港・夜
港は半壊していた。
砕けたコンクリート。潰れたコンテナ。飛び散った瓦礫。
激戦の跡がそこかしこに残っている。
A班も満身創痍だった。
アリスベルとサイモンは吹き飛ばされ。ケイトとテストも地面を転がった。
レオのバトルスーツはショートし、胸部から黒煙を上げている。
それでも。
誰一人として戦意は失っていなかった。
だが相手が悪すぎる。
一五メートル級アビスモウ。
小型とは比較にならない圧倒的な怪物。
銃弾は効かない。
レーザーガンも通らない。
アリスベルとサイモンの攻撃ですら決定打にならない。
港に重苦しい空気が流れていた。
そんな中。
テストが叫ぶ。
「アシュリー!! 早く撃て!!」
「奴の顔面だ!!」
全員の視線が集まる。
アシュリーが震える手で発光弾ランチャーを構えた。
狙う先は単眼の大型アビスモウ。
アシュリーは深く息を吐く。
「外したら文句言わないでくださいね」
そして。
引き金を引いた。
――パンッ!!
発光弾がアビスモウの顔に直撃。
次の瞬間。
――バァァァァァァァッ!!
港一帯が白く染まった。
まるで昼。
一瞬だけ夜が消える。
強烈な光が海を照らし、コンテナを照らし、アビスモウの巨体を照らした。
すると。
超大型アビスモウが大きく身を震わせた。
――ギュオォォォォォォォッ!!
不快そうな咆哮。
巨大な単眼が細くなる。
そして。
ゆっくりと後退を始めた。
「下がってる!」
アシュリーが叫ぶ。
全員が海を見る。
超大型アビスモウは触手を引きずりながら海へ戻っていく。
さらに。
残っていた小型アビスモウも後退を始めた。
――ザバァァァァァン!!
海面が大きく揺れる。
二体とも闇の海へ姿を消した。
静寂。
波の音だけが残る。
誰もすぐには喋らなかった。
激戦だった。
全員が息を切らしている。
やがて。
ケイトが腰へ手を当てた。
「……助かったのか?」
サンチェスがライフルを下ろす。
「らしいな」
テストも海を見つめたまま言った。
「効果はあったみたいだ」
レオが壊れかけたバトルスーツを見下ろす。胸部装甲から煙が上がっていた。
「発光弾で撤退したのか」
アシュリーが頷く。
「みたいですね」
サイモンは海を見る。
「光が苦手なのか?」
アリスベルが腕を組む。
「分からない」
一拍。
「だが偶然ではないだろう」
テストも頷いた。
「アイダの話と一致する」
サンチェスが苦笑する。
「まさか発光弾が切り札とはな」
ケイトが笑った。
「だから備品も馬鹿にできねぇんだよ」
その言葉に少しだけ空気が緩む。
アシュリーが近付く。
「お姉ちゃん」
「ん?」
「肩、怪我してる」
ケイトが見る。
服が裂け、肩から血が流れていた。
「大したことないよ」
「大したことあります」
アシュリーは小さくため息を吐いた。
「本当に無茶するんですから」
ケイトが笑う。
「誰かさんを守るためにな」
「もう……」
アシュリーも少しだけ笑った。
その時だった。
海。
港の端。
誰も見ていなかった場所。
そこから。
一本の触手が音もなく伸びていた。
次の瞬間。
――ガシィィッ!!
「え?」
アシュリーの身体が浮いた。
腰へ触手が巻き付いている。
一瞬だった。
「アシュリー!!」
ケイトの顔色が変わった。
触手はそのままアシュリーを海へ引きずり込もうとする。
ケイトは迷わない。
即座に飛び出した。
「離せぇぇぇぇっ!!」
アシュリーの腕を掴む。
だが。
次の瞬間。
別の触手が海から飛び出した。
――ガシィィッ!!
「なっ!?」
今度はケイトの身体へ巻き付く。
そのまま。
二人まとめて引きずられた。
「ケイト!!」
「アシュリー!!」
サンチェスが叫ぶ。
アリスベルが駆け出す。
だが。
触手が速い。
あまりにも速い。
二人の身体が港の端へ引きずられる。
海面が迫る。
そして。
――ザバァァァァァァン!!
二人は海の中へ消えた。
誰も間に合わない。
一瞬の出来事だった。
「くそっ!!」
サイモンが駆け出す。
その横を。
アリスベルが追い越した。
躊躇などない。
そのまま海へ飛び込む。
――ザバァァァァァン!!
白い飛沫が上がった。
テストの表情が険しくなる。
「まずい」
レオが振り返る。
「何がだ?」
「アビスモウは海の中の方が強い」
テストが言った。
「陸で戦うのとは話が違う」
サイモンが拳を握る。
「俺も行く!」
「待て」
レオだった。
レオはポケットへ手を入れた。
小さなケース。
ルビィから渡されたものだった。
サイモンが振り返る。
「レオ?」
レオはケースを開く。
中には薬が入っている。
超身体能力解放薬。
「おい!」
サイモンが目を見開く。
「まさか、それを使うのか?」
「ああ」
レオは即答した。
「水中戦なら分が悪い」
一拍。
「少しでも勝率を上げる」
レオは迷わなかった。
薬を取り出す。
そして。
そのまま口へ放り込んだ。
薬のケースを閉じる。
そして。
サイモンへ放り投げた。
サイモンが受け取る。
「レオ……」
数秒。
何も起きない。
だが。
五秒後。
レオの身体が熱を帯び始めた。
血液が沸騰するような感覚。
筋肉が軋む。
感覚が鋭くなる。
レオはゆっくりと両手を見る。
握る。
開く。
力が満ちていく。
レオは海を見る。
夜の海。
その下に。
アリスベル。
ケイト。
アシュリー。
そしてアビスモウ。
レオは静かに言った。
「助けに行ってくる」
そして。
躊躇なく海へ飛び込んだ。
――ザバァァァァァァン!!
大きな飛沫。
夜の海がその姿を飲み込む。
その先にいるのはアリスベル。
そして――海に消えた二人だった。
夜の海は静かだった。
まるで何事もなかったかのように――。




